戦域攻勢作戦計画4101号・前編


人は語る。
道が見えた、と。
その翼が、空を切り裂いて、進む道を指し示していた、と。

人は語る。
道が見えた、と。
大空を悠々と舞う、恐るべき死神が、煉獄へと続く道を指し示していた、と。
俺たちが円卓に差し向けられた裏で、極秘に行われていた計画がようやく俺たちの元に知らされることになった。ヴァレー基地の猛者どもが集められるとたちまちむさ苦しくなる、そんなにも広くないブリーフィングルームでその内容が明らかにされたのは、ようやく愛機の点検を終えた次の日のことだった。ウッドラント大佐が、「これで勝った」と言わんばかりの顔で腕組みをしているが、"実際に戦うのは俺たちの方だから何とでも言えるのさ"、とピクシーは苦笑を浮かべて上官を見ている。俺も同感だ。陽動作戦が必要だったとはいえ、よりにもよってたった2機で円卓に行かされた身としては、上官の神経と信用を疑ってみるのが当然であった。それが、膨大な報酬を連れて来るものだとしても、だ。
「集まったな。ではブリーフィングを始める。詳細は後ほど資料を渡すので、熟読しておくように。辞書が必要な奴は言ってくれ。そんな不届き者は直ちにこの基地から追い出してやる」
傭兵たちが、ある者は薄ら笑いを浮かべ、ある者は鼻で笑う。それにしても、ここに来た当時に比べると随分と増えたもんだ。ウスティオが有り余る鉱産資源を元手にいかに荒稼ぎをしていたか分かるというものだ。
「……では、詳細は私から伝えます。まずは画面を見てください」
言葉を継いだイマハマ中佐が、端末を操作する。プロジェクターに映し出された画面に、ここウスティオ南方に位置するサピン、そしてオーレッド湾の地図が現れた。北東方向から引かれる矢印は、俺たちの進撃ルートを示している。そしてもう一方、南方、即ちオーレッド湾から北上する青い矢印が出力される。
「諸君も噂では聞いていたかもしれませんが、先日正式にオーシア・サピン両国との共同軍事機構が設立されることが決定しました。以後、我々は「連合軍」に所属する一方面隊としての任務を課せられることとなります。当面の間はウスティオ解放作戦が中心となるでしょうが、その先の戦いにも派遣されることになる……と事前にお伝えしておきましょう」
青い矢印が突き進むのは、サピン・オーシア・そして南ベルカの間を貫くように北上するフトゥーロ運河だった。艦艇を指し示すアイコンが十数個出力される。そのうちの一つにはデータが付与されていた。細かいデータは見えないが、「KESTREL」のアルファベットだけが読み取れる。
「さて、本題に入りましょう。我々連合軍は、ウスティオ解放に向けた作戦行動の第一弾として、現在ベルカ軍の占領下にあるフトゥーロ運河を確保、ここを海上輸送及び海上戦力侵攻の橋頭堡とする作戦、「4101号」を実施することになります。現在、ベルカ軍はこの運河近辺において強固な防衛陣地と艦隊兵力、そして周辺の航空基地に配備された航空戦力を展開して、鉄壁の防御網を構成しています。が、ウスティオを取り戻すには、敢えてここを抜いてベルカ軍戦力をこの地域から駆逐せしめる必要があります。そこで、我々第6師団の出番です。作戦本部は、「4101号」実施に当たって、大きく分けて3つの局地作戦の実施を決定しています」
フトゥーロ運河に、ベルカ軍アイコンが重ねられていく。南端、運河入口には陸上兵力の侵攻を阻止するための陸上部隊と対空車輌、北端、運河出口には艦隊兵力、そして周辺地から描かれる何本かの矢印は、周辺地域に展開しているベルカ空軍戦力のものだ。なかなかどうして、大した戦力である。ベルカ軍もここの重要性が分かっているからこその部隊配備だ。万一ここを抜かれれば、俺たちが取り戻した171号線に続く重要戦略目標の喪失に繋がるわけだから。
「今作戦より、オーシア、サピン両国の部隊との共同作戦が実施されます。お願いですから、味方同士で内輪もめや同士討ちだけはしないで下さいよ。IFFはしっかりと確認するように。そんなことがあったら、報酬は10回分召し上げさせてもらいますかね」
どっ、と笑い声があがる。このおよそ軍人らしからぬ御仁がジョークを飛ばすことが出来たのか、と俺は軽い驚きを覚えた。……とはいえ、前線での勤務経験が少ないにもかかわらず中佐にまで昇進している実力は正当に評価されるべきであろう。それもこの荒くれ者たち相手に、全く表情を変えずにそれが出来るのだから。
「……冗談はさておき、さて、今回は作戦行動範囲が広範にわたることとなります。この基地としては初めてとなりますが、最低限の防衛要員のみ残し、全力出撃とします。なお、諸君には、攻撃目標の選択権を与えます。それぞれの望む戦域に、臨む装備で出撃してください。そして、ここに帰ってくること。まだウスティオの解放は果たされたわけではありません。今は一機も失えないのがこの基地の懐事情です」
「何か質問があれば聞いておく。どうだ?」
作戦前ブリーフィング シャーウッド少尉が手を挙げる。ウッドラント大佐が少々驚いたような顔を見せるが、その顔には似合わない笑みを浮かべて発言を促す。なるほど、同じ国の若手エースが可愛くて仕方ないらしい。
「その方法ですと、どこか一箇所の戦区に第6師団の部隊が集中し、他の戦区が手薄になりはしませんか?効率的な作戦実行のためには、兵力を配分して臨む方が得策と思いますが……」
「ホゥ、グッドクエスチョンだ、兄弟!よくぞそこに気が付いた。それでこそ、俺の舎弟!!これも俺の一流の指導のおかげだなぁ……」
「おまえは黙っていろ、ガイア!」
確かにいい観点だと俺も思う。作戦を効率的に進めるなら俺たちを方面別に当てる方が得策なのだ。だが、イマハマ中佐は敢えてそうしない。何しろ金目当ての傭兵の集う基地だ。一つ当たりの単価が高い目標が転がる作戦に戦力が集中する可能性ははっきりいって高い。同時に、俺はイマハマの旦那の魂胆にも薄々気が付いた。なるほど、この軍人らしからぬ上官殿は相当に食えない人物のようだ。ウッドラント大佐にしてみればやりにくくて仕方ないだろうに。でも、この人の悪さには何となく親近感を覚えなくも無い。ラリーも気が付いているらしく、"狸オヤジめ"とでも言いたげに苦笑を浮かべている。
「シャーウッド少尉の言い分も勿論です。が、先ほど言ったとおり、当基地の戦力を今失うわけにはいかないのです。……つい先日も、この基地のトップエース2人をよりにもよって円卓にいかせる羽目になりましたからね。だから、今回はその貸しを返していただく番です。それにね、この基地の皆さんが一極に集中した方が、局地作戦の成功率はぐんと高まるでしょうからね」
「ひでぇ司令官もいたもんだなぁ」
「全くだぜ。でも、オーシアの連中に報酬を持っていかれるのだけはご免だな」
イマハマ中佐の魂胆を知って苦笑する傭兵たちとは対照的に、シャーウッドは首を傾げて困惑している。いい加減正規兵の集団ではないこの部隊の雰囲気に染まって……いや、慣れて欲しいところだが、あの生一本の性格では、まだまだ時間がかかりそうな様子である。そこまでしゃべることはないだろうに――と、ウッドラントの旦那が顔をしかめている。
「――まぁ、作戦の概要に関しては以上だ。各員、ウスティオの恥をさらすようなことはしてくれるなよ。特にガイア!マットブル!」
「ヘイ、司令官殿。俺が何で名指しで呼ばれなきゃならんの」
「前途あるウスティオの若者に散々変なことを吹き込んでいたのはどこのどいつだ!!」
「あれ、司令官殿、見てたんですかい?……フッヘッヘッヘッ、そんな趣味がおありとは、司令官殿も隅に置けませんなぁ。……このムッツリ。おい、シャーウッド、お前からも何か言ってくれよ。この誤解しているおやじさんによぅ」
――やれやれ、連合軍発足の力試しとも言える一戦だというのに、気楽な連中ばかりで何よりだ。ガイアと司令官殿の間で交わされる漫才はまだまだ終わりそうではなく、部屋に詰めた傭兵どもがそれをさらに煽る、という構図だ。要は自己責任で適当に戦って来い、というわけだ。それなら、言うまでも無く俺たちの最も得意とすること。生きて戻らないことには明日は迎えられないし、報酬も手に入らないのが俺たちの世界の掟なのだから。それに、連合軍がうまく進撃できるとも限らない。何よりこの短期間のうちに、俺たちの部隊が参加した実戦は、今日共に戦うことになるであろう連中よりも遥かに多い。いざというときに、俺たちの戦力が起死回生の一手となる可能性もある。
「ま、いつもとおりだ、相棒。俺たちは俺たちに出来ることをする。そして帰ってくるだけさ」
そう、その通り。俺が戦う目的は、まだ始まったばかりなのだから。
古くからの海洋貿易の玄関口、オーレッド湾。そこから狭い内海とを結び、内海沿岸の工業地帯へと至る海洋航路が、フトゥーロ運河。南北を貫くようなこの運河は、平時であればタンカーや貨物船が列を成し、内国と外国とを結んでいた。が、ベルカの手に落ちた今は、運河を渡る橋は防衛目的のために全て破壊され、沿岸施設は臨時的な軍事施設へと姿を変えている。そして、俺たちの足元を進むのは民間船舶ではなく、「連合軍」の艦隊兵力だ。
「マッドブル1より、ガルム1。レーダーが良くきかねぇ。敵さん、ご丁寧に電子妨害で俺たちを歓迎みたいだぜ」
俺たちより先行しているマッドブル隊からの通信。確かに、北方、運河入り口附近の画像が乱れている。電子戦機の類がいないとすれば、地上に大層な妨害設備を持っているのだろう。……やれやれ兵員の健康管理は常に後回し、というわけだ。
「イーグルアイより、各機へ。切り取り放題だ。4101号成功のため、奮闘せよ。また、本作戦においては連合の友軍も多数参加している。くれぐれも同士討ちなどしないでくれよ」
「おいおい、ウスティオの連中はそんなに腕が悪いのか?」
「ウィザークックよりオーシアの。今日の稼ぎをゼロにしたくなければ頑張るんだな。こいつら、凄腕だぞ」
「そういうこった。こちらヴァルプス1、吠え面かいて助けを求めないようにするんだな」
今日の空はとにかくにぎやかだ。俺たち傭兵集団の第6師団は若干の基地防衛機を残してほぼ全機が出払っているし、ヴァレー基地以外の解放地区に急遽設置された野戦飛行場を拠点とする他のウスティオ空軍の連中、さらにはオーシア・サピンの連中までいるとなれば、空はあたかもエア・ショーの様な状態である。それも実戦フル装備の戦闘機が低空を飛行しているのだから、航空ファンがこの光景を目撃していたら、狂喜乱舞して写真を撮っている頃だろう。もっと、この戦時にそんな暇人が危険地域にいるわけもないのだが。
レーダー上にも、海路を北上する連合軍艦隊の姿が映し出されている。その中央に位置するのが、オーシアの最新鋭航空母艦「ケストレル」だ。虎の子の新鋭空母を出してくる辺り、好意的に取ればオーシアの誠意の表れだが、あの大国がそんな馬鹿正直なはずもない。得難い実戦経験と新兵器テストの実験場、ということだろう。俺たちが雇われているウスティオとは立場も国力も違う大国だ。好きにはなれんが、この際連中がいなければウスティオなどベルカに蹂躙されるがままの弱小国。……ま、俺たちは俺たちの仕事をするだけのことさ――そう自分に言い聞かせて、操縦に集中する。
「さあ、ウスティオ解放への第一歩だ。行くぞ!」
誰かの叫びが交戦の火蓋を切ったかのように、戦闘機の群れが動き出す。対地攻撃目標に狙いを定めた連中は降下して低空へ。群がってくるであろう敵護衛部隊を相手にする連中は上空へ。レーダー上の光点が慌しく針路を変えて散らばっていく。俺たちヴァレー基地の面々も、それぞれの目標に向けて進む。
「マッドブル1より、ガルム1!地面を全部焼き払ったらご法度だそうだから、向こうにいる艦隊戦力を根こそぎもらってくるぜ。んじゃな、グッドラック!」
マッドブル隊の面々は対艦ミサイルと空中戦闘に備えての短距離AAMを積む。もともと搭載量の多さでは定評のあるF/A-18C。マッドブル隊の3機が、加速して俺たちの左少し下の空間を追い抜いていく。ぐるり、と一回転ロールしてみせたのは、ガイアの挨拶みたいなもんだろう。他にも第6師団とは別の傭兵隊の面々がそれに続いていく。
「ディンゴ1より各機、腕の見せ所だ。民間施設にはくれぐれも当てないように!ディンゴ1、エンゲージ」
「敵機来襲!敵機来襲!対空攻撃部隊は展開急げ!!」
「……来たか。予想よりは早かったが、想定通りだぜ」
運河入り口に設置された砲台が火を吹き、接近する連合軍艦艇に対して手洗い歓迎を浴びせる。水柱が何本も海面から吹き上がり、連合軍艦艇がそれに応射。直撃を被った砲台が大爆発を起こして四散する。砲火が減殺された区域に戦闘機部隊が突入。対空砲火を浴びせようとする地上部隊に対して爆弾を投下。後続機が機銃掃射。地上からも対空砲火の雨。被弾した友軍機が火を吹き、バランスを崩して墜落。地上に盛大な火球を出現させて消滅する。
「くそ、案外敵の反撃が厳しいぞ」
「無理するな、一撃離脱を繰り返せ!」
低空から侵入した戦闘機部隊が、道路に展開しようとした戦車部隊を襲撃。機関砲の雨によって無数の穴を穿たれた戦車が火に包まれ、動きを止める。中から火だるまになった兵士が飛び出すが、すぐに動かなくなって道端に転がる。……嫌なものを見ちまった。対地攻撃を他の面々に任せて、基本的に対空装備を積んできた俺たちには今のところ出番が無い。首を振って先ほどの光景を忘れようと試みつつ、機首を緩やかに挙げて上昇する。ディンゴ隊をはじめとした対地攻撃隊は効果的に敵戦力に打撃を与えつつあった。迎撃体制が完了していたらこうはいかなかっただろうが、電子妨害に頼り、打撃兵器を揃えていなかった敵守備隊は明らかに戦力不足だった。友軍との連携を絶たれ、孤立化した戦車や対空砲車輌が次々と破壊され、地上に即席のキャンプファイアーを量産していく。燃え上がる車輌と施設から逃げ惑う兵士たちが、安全地帯を目指して駆け巡る。さすがに対人攻撃までをする馬鹿はいない。そう、俺たちのやってるのは虐殺ではないのだから。

連合軍艦隊が、運河入り口の防衛陣地の戦力低下を確認して、運河へと突入を開始する。ここまでは、それなりに広いオーレッド湾の上で回避運動をすることも出来たが、今度は南北まっすぐの狭い運河。攻撃を効果的にかわす術は無い。――だから、俺たちが、彼らが無事であるように働かなければならない。
「そろそろ上がってくる頃だぞ、相棒」
「ああ、分かっている。ガルム1より、連合軍艦隊。出来る限りのことはするが、同士討ちと自滅だけは避けてくれよ。俺たちの仕事の意味が無くなる」
「そっちこそ、こっちの攻撃に当たるようなヘマはせんでくれよ。……支援に感謝する!」
「その台詞は、運河を抜けてから頼むぜ。方位020、それに330、敵戦闘機部隊の機影確認。こいつらが艦隊攻撃の要だな」
レーダー上に、俺たちめがけて進行する敵戦闘機の光点、多数。より広範囲の監視をやっているイーグルアイのレーダーには、さらに多くの敵影が移っている頃だろう。
「イーグルアイより、ガルム隊及び各機へ。敵戦闘機部隊、多数接近中。連合軍艦隊を守り抜け!」
「ガルム2、了解だ。行くぞ、相棒!」
ピクシーのF-15CがアフターバーナーON。俺もそれに応じてスロットルMAX、アフターバーナーON。身体がシートに沈み込み、心地よいサウンドと加速に身を委ねて戦域を疾走する。俺たちに続くように、連合軍の戦闘機隊が次々と加速。方位020、そして方位330それぞれへヘッドオン。敵機との彼我高度差なし。運河中央付近を抜け、回り込むようにして敵部隊へと迫る。敵機の進路変わらず。俺たち、というよりも俺たちの護衛すべき艦隊戦力を明らかに狙っている。恐らく、こっち側が対艦攻撃隊だろう。――させるものか。全兵装のセーフティ解除。ガン、ミサイル、いずれも問題なし。燃料十分。何も問題なし。見る見る間に敵機の光点は俺たちに迫っていく。
「ガルム1、エンゲージ!」
「遅ぇんだよ!こちらマッドブル1。こっちはとっくにやってるぜ。敵艦隊の足は止めているから、安心して戦闘機隊を血祭りに挙げてやりな」
「くそ、たったこれだけの戦闘機相手に何をやっている。イージス隊、攻撃はどうした!?」
「イージス艦レッティモンド、レーダー附近に被弾、延焼中!戦闘続行不能!!」
向こうも派手にやっているらしい。負けてはいられない。真正面から接近する一機にこちらの針路を合わせる。遠くに、黒い点が3つ出現すると同時にトリガーを一瞬の間引き、操縦桿を横へ倒す。ラダーを蹴っ飛ばして機体を横へ飛ばしながらローリング。敵機の姿がコマ飛ばしのように肥大化し、やがて轟音と衝撃とがセットになって通り過ぎる。後方を振り返ると、そのうちの2機が炎と黒煙を吹き出しながら、それぞれ明後日の方向へと流れていく。残った1機に対して友軍機が襲いかかり、腹に抱えた対艦ミサイルごと吹き飛ばす。ゆっくりとループを描き反転し、周辺確認。新たな敵機の光点が次々と出現する。
「くっ……次から次へと!」
「イーグルアイよりガルム1。敵を侮るなよ。敵部隊は本気でここを守り抜くつもりだ」
「戦力豊富で羨ましい限りだ」
右方向から横切るように接近してきた敵戦闘機――F-16C編隊に狙いを定める。翼の下には爆弾がぶら下がっている。
「!後方に敵機!!」
「針路を変えるな!俺たちの目標は敵艦隊だ。護衛機など無視しろ!!」
照準レティクルの中に、敵機を捉える。ほんの一瞬、トリガーを引いただけで瞬く間に残弾のカウントが減少し、人間が当たれば胴体が消し飛ぶ威力を持つ死神が敵機に突き刺さる。翼を貫いた一弾がその下にあった爆弾を直撃し、炸裂させた。自らの胴体下で発生した爆発に弾き飛ばされた敵機が、すぐ側を飛行していた僚機を巻き込んで、四散する。悲鳴がブツ切れに途絶え、炎と煙が空を毒々しく彩って消えていく。僚機を失った1機が慌てて回避機動を開始するが、その後方にはピクシーが放ったAAMが突き刺さる。もう一つ、大きな火球を出現させて、一隊が消滅する。
「お見事、ガルム2!」
「それはこっちの台詞だぜ、相棒。で、おまえさんの目で見てどうだ、戦況は?」
「そんなもの分かるか……といいたいが、いいんじゃないか。初めての共同作戦、寄せ集め軍団にしちゃあうまくいっていると思うよ」
再び編隊を組み直し、運河上空を横切る。運河の中央部に架けられていた大橋は、今では中央付近が寸断されて無残な姿をさらしている。その下に、連合軍艦艇がとうとう到達しようとしている。が、ベルカ軍は橋の残された部分に戦車を展開し、艦艇に向けて砲撃を浴びせているのだった。敵さんもなかなか必死だ。海面に砲弾が次々と突き刺さり、水柱を量産する。その水飛沫の中を、ギリギリのラインで回避運動しながら艦隊が進んでいく。砲撃の応射。相手からも攻撃。一発が艦艇を捉え、炎の花が咲く。
「甲板に直撃弾!損害は軽微、ひるむな!」
「こちらディンゴ1、支援する!!」
ディンゴ隊の3機が俺たちの反対方向から低空で運河へと侵入する。艦隊の上空を掠めるように通過した連中から、残されていた爆弾が敵部隊に降り注いだ。たまったものではない。もともと狭い橋の上に身動きとれないくらいに並んでいたのが災いし、戦車部隊は爆弾の炸裂の中に巻き込まれていく。だが、シャーウッドが狙ったのはそれだけではない。もともと過去の攻撃によって破損の進んでいた橋だ。そこに爆弾による衝撃と振動が加われば――どうなるかは素人でも分かる。土台から崩れ始めた大橋が、とうとう全面的に崩壊する。上に乗っていた戦車隊も瓦礫と一緒になって、次々と海中へ没していく。――見事!!心の中で、部隊のチェリーボーイに俺は喝采を送っていた。

戦いはなお続く。

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