蒼天に舞う希望


人は語る。
舞い降りたものは、明日への希望だった、と。

人は語る。
舞い降りたものは、明日への失望だった、と。

フトゥーロ運河を確保し、周辺地域を完全制圧して橋頭堡とした連合軍の大規模陸上部隊が、ついに北上を開始した。先の戦闘で俺たちが奪還した171号線は、まさにウスティオ解放へと続く軍路となり、オーシア陸軍を中心とした機甲師団が進撃中である。これに対してベルカ軍の抵抗は散発的なもので、結果として戦線を不必要に拡大し過ぎていた彼らの内情を露呈する結果となった。先日行われた式典において、オーシア大統領アーセナル・フランクリンが「ベルカに残された兵力は決して多くは無い」と断じたのは、ベルカの内情を見越してのことだったのだろう。放棄された防衛拠点には、連合軍の兵士たちが取って代わって進駐し、ウスティオ国内の軍事的均衡は大きく変動を始めていた。そして、いよいよウスティオの誇る美しき都、デイレクタスへの進撃を視野に入れたところで、俺たちにはトドメの一手と呼ぶべき出撃命令が下される。ディレクタスの喉元に突き付ける刃となる、山間の都市ソーリス・オルトゥス奪還作戦の発動であった。

夜明け前だというのに、出撃を控えてヴァレー基地は毎度の慌しさに全域が包まれている。整備兵たちは出撃する戦闘機たちの最終確認に走り回り、パイロットたちはコクピットの中で、自身の命を預ける分身のチェックに振り回される。こればかりは新人もベテランも無い。ただ、要する時間には大きな差はあるだろうが。先日の戦闘――"赤いツバメ"隊との戦闘は、俺個人にとっては良い舞台だった。新たに手にした、この機体――もともとの乗機のカスタム版とも言えるF-15S/MTDは操縦系・計器周りは何の変化も無いものの、その機動性と運動性は全く別の代物だった。その"別物"に乗ってのドッグファイトは、機体のクセと性能を身体が覚えるのに十分役立った。ある意味、彼らには感謝しなければならない。もっとも、感謝どころか、俺自身の過去の罪と直面させられる羽目にもなったが――。
「サイファー、機体の最終チェック完了です。コンディション、オールグリーン。問題なし。リボンでも付けましょうかね?」
ステップを上がってきたナガハマ曹長が素早くバインダーを差し出す。整備点検項目に問題の無いことを確認して素早くサインを描く。
「リボンだったら、坊やの尾翼にでも付けてやってくれ。毒々しいピンクの、大きな奴を」
「それはオブライエン嬢ちゃんの仕事ですなぁ」
話題の当人がシャーウッドの機体にリボンを付けているのか……と思いきや、シャーウッド機専属班はともかくとして当の本人はガイア機の脇で何事か話し込んでいる。案外真剣な話を2人でしているらしく、サングラスを片手にぶら下げたガイアの話を、ジェーンは何度も頷きながら聞いている。もう見慣れた姿だが、相変わらずこれから出撃するようには見えない。傭兵軍団ならではの光景ではあるが、軍規と士気が乱れる、とウッドラント大佐は大いにガイアのそんな態度を嫌っていた。
「坊やがぼーっとしている間に、不良中年の手が付く方が先だったか」
「ん?ああ、違いますって。ありゃ、人生相談室ってやつですよ」
「人生相談室?」
「早い話が、朴念仁の若者攻略に向けての作戦会議ってところでしょう」
なるほど、シャーウッド坊やの自称教育係2人の談合というわけだ。そして当のシャーウッド坊やはというと、自分の機体の整備主任の姿が見当たらないせいか、眉間の辺りに皺を寄せて金髪の猫娘――いや、ジェーン・オブライエンの姿を探していた。近くで見れば、頭から湯気が出ているのが見えるかもしれない。ガイアのことだ、坊やが"そうなる"ことを十分に理解したうえでジェーン嬢を引き止めているに違いなかった。思わず苦笑が浮かんでしまう。ナガハマ曹長がニヤニヤと笑っているのは、そんな若者たちを見てだけのことではなく、俺の昔のことを皮肉ってのことだ。軽くそんな彼のニット帽を被った頭を小突く。
「確かに、あれじゃあ人生経験だけは豊富な人間に相談したくもなるわな」
「案外、似た者同士かもしれませんぜ。だって、一つ間違えれば父娘でしょう、あれは」
「妙なところでお節介なんだよ、昔からな。この仕事をやめたら保育園を開園すると似合うかもな」
「子供がみんな揃って泣き出しますよ。親御さんの団体からクレームの雨が振るでしょう、きっと」
ナガハマ曹長と油を売っている所に、無線のコール音。おしゃべりはこれまで、とヘルメットを被り直し、シートへと身を沈める。そして回線をオープン。
「こちらガルム1、どうぞ」
「相棒、取り込み中わるいんだがな、コントロールから早く出ろとのお達しだ。今日はガルム隊が一陣だとさ。そろそろ行こうぜ」
「ヴァレーコントロールよりガルム隊、クリアード・フォー・テイクオフ。出撃願います。後ろがつかえていますから、どうかお早めに」
「ガルム1、了解」
今日の担当は、ヴァレー基地のお耳の恋人、セシリー・レクター二曹だった。キャノピーを閉じる前に、後続のラリーへと出撃のサインを送る。ラリーが親指を立てて了解の意を伝えてくる。よし、出陣と行こうか。ナガハマ曹長が機体から離れるのを確認して、キャノピー・クローズ。ブレーキOFF。少しだけスロットルを開けると、機体は緩やかに動き出し、ゴトゴトという振動をコクピットに伝えながら誘導路へと向かっていく。並んだ整備士たちが手を振って俺たちを見送っている。そんな彼らにこっちは慣れない敬礼を返しながら、滑走路へと進む。
「こちらガルム1、出撃する」
離陸を宣言してスロットルON。エンジン音が甲高い咆哮を挙げ、ゴンという衝撃と共に機体を一挙に跳ね飛ばす。大空へ舞い上がるのを待ち遠しそうに、速度計の数値がコマ送りに飛んでいく。100……120……150。離陸速度に達したところで操縦桿を引き、機首上げ。俺とラリーの機体は重力の束縛から解き放たれ、蒼く晴れ渡った空へと上昇していく。今日の行き先は、ソーリス・オルトゥス。ウスティオ解放を確実なものにするためにも、失敗は許されなかった。
キャノピーの向こう側に、朝焼けの光が輝き始める。群青色に塗りこめられていた空が赤みを増し、幻想的なキャンパスを大空に描き出す。その光芒に照らし出される山間部の色は、表現のし難い美しい光景であった。それも、戦闘機のコクピットから眺めるこの風景は絶景中の絶景と言って良いだろう。
「綺麗な空だ。落下傘で降りる奴に、カメラを持っていくように頼みたいところだな、相棒」
「本当にそう思う。折角だから頼んでみるか?」
「こちらオーシア第101空挺師団、聞こえているぞ。そんなに風景写真が欲しかったら、自分の機体のガンカメラでたっぷりと撮影してくれ。こっちは持ってく荷物が多いんだ」
俺たちの前方に、空挺部隊を満載した輸送機の姿が現れる。戦闘機に比べればはるかに足の遅いC-130に、俺たちが追い付くまでにさほど時間はかからなかった。作戦の概要は極めてシンプル。A・B・C隊の3つに分けられた空挺部隊の降下ルート上に展開しているベルカ軍対空防衛網を殲滅し、空挺師団降下の安全を確保すること。敵航空部隊を確認した場合には、輸送機を護衛し戦闘機を撃滅すること。ほぼ同時に進行する今作戦には、俺たちの他にも航空部隊が動員されている。俺たちの受け持ちはA及びB隊。サピン・オーシアからの派遣部隊がB隊及びC隊という受け持ちだ。
「こちらオーシア空軍第10師団第28戦闘飛行隊、ファーヴニル。この間はフトゥーロ運河の活躍、寒気がしたぞ。今日も一緒に飛べることを嬉しく思う。よろしく頼む」
黒くペイントされたSu-33が翼を振ってみせる。その両翼にはSu-37が2機続く。オーシアを示す記章が記されていないところを見ると、彼らも傭兵部隊のようだった。そしてもう一隊、フトゥーロ運河の上で共に戦った奴らが飛んでいる。Mig-31で構成された3機編隊。隊長機の尾翼には、狐の尻尾が描かれている。
「腐れ縁という奴かな。アンタと飛んでいると長生きできそうな気がする。今日もよろしく頼む」
「そっちも生き延びたみたいだな。こちらガルム2、お互い無事で何よりだ」
朝日に輝くは傭兵たちの翼 それにしても、傭兵ばかりだ。作戦本部の考えていることが透けて見えるようだ。ベルカへの反抗作戦を決定したとはいえ、戦力を極力温存したい上層部は、より危険を伴うミッションに対して正規軍を使うつもりが無いのだろう。考えようによっては、ディレクタスを解放する際にこの町が陥落していなければならない――というわけではない。陥落しているに越したことは無いだろうが……。前線から離れている上層部は、未だベルカ軍、それもベルカ空軍の実力を恐れているのだ。恐るべき実力を持つベルカ軍によって、自国の将来を担う優秀なパイロットたちの命を無駄に浪費することを――だから、その代わりとして代替が容易な傭兵が向けられる。
「こちら空中管制機イーグルアイ。当空域における作戦行動に関して、指揮を執らせてもらう。A・B隊護衛隊は、地上に展開するベルカ軍地上部隊を速やかに無力化せよ。C隊は降下までまだ時間がある。護衛隊は上空待機、輸送機の支援に当たれ」
各機が了解を伝え、それぞれの作戦行動を開始する。俺たちガルム隊に限って言えば、護衛対象はB隊。作戦進路上、真ん中、敵の最も集結している地域が受け持ちだ。敵部隊は市街地の中に潜り込むようにして展開しているだけに、山腹に設置されたSAMはともかく、爆弾で家もろとも吹き飛ばす……とはいかないのが辛いところだ。可能な限り民間人への被害を避けつつ、効果的に攻撃を行うしかない。
「じゃあな、ヴァレーで会おうぜ。おら、行くぞ兄弟!」
「誰が兄弟ですか!いい加減、きちんとコールサインで呼んでくださいよ!」
「分かってるよ、チェリーボーイ」
罵りあいながらも、見事な連携を見せてマッドブル隊とディンゴ隊が降下していく。連中の受け持ちはA隊だ。フトゥーロで一緒になったオーシアの連中も、担当のC隊と共に担当空域へと向かっていく。レーダーの策敵範囲を拡大。現在のところ、敵性航空機の反応は無し。市街地に展開している対空砲台とSAM車輌の光点が、「来るなら来てみろ」と控えているだけだ。B隊受け持ちのサピン空軍機が、俺たちの前を取って降下を開始。俺たちはその後に続いて、ゆっくりと高度を下げていった。落下傘部隊が蜂の巣にならないよう、確実に敵部隊を葬らなければならない。
「こちらランディ3、敵車輌からの攻撃を受けている!」
「攻撃開始だ。ひるむな!!」
前方で、火線が空間を走るのが見える。どうやら、始まったらしい。俺たちも遅れるわけにはいかない。
「ガルム1、エンゲージ」
交戦を宣言して、敵部隊の集結する市街地上空へと低空侵入。ピクシーも続いて、俺の左翼から侵入。町の真ん中を走る街道沿いに展開した対空車輌群に狙いを定めて、発射トリガーを引き絞る。大地に穴が穿たれ、土煙が舞う。そしてその先に展開していた車輌群に弾丸が到達する。速度を下げることなく、その上空をフライパス。一瞬レーダーロックされかかるが、捕捉を振り切って一度抜ける。全部の破壊には成功せず。後方から対空砲の火線。ロールしつつ右旋回、山肌を沿うように反転して再び目標へと接近する。途端、耳障りなミサイルアラート。白い煙が、俺たちの前方から迫るのが見えた。当たるものか!左方向へとジンク。一度機体を回して、もう一度攻撃目標へと仕切り直し。高速ですれ違ったミサイルはそのまま目標を見失って後方へと漂流していく。そして、照準レティクルの中には、SAM車輌の姿が完全に収まる。再びガンアタック。戦闘機と異なって、逃げる術の無い対空車輌はほんの一瞬の攻撃で蜂の巣になり、そして燃え上がる。目標破壊。次なる目標を探して旋回した俺たちの上空に、ついに輸送機が差し掛かる。
「よし、護衛隊がやってくれているぞ。今度は俺たちの番だ!行け!行け行け行け行けーっ!!」
「俺たちはナンバー・ワン!怖いものなんて何も無し!!」
大きく開かれたC-130の開口部から、次々と空挺部隊の兵士たちが飛び出していく。続いて軽戦車のパラシュート、兵器・物資を積んだコンテナ。落下傘の花がいくつも開き、火線と砲火の飛び交う空間への舞い降りる。地上からは、対空砲だけでなく、兵士たちの持つ小銃からも攻撃が行われる。
「うおっ!何だよ!まだまだ下には敵がいるじゃねぇか!話が違うぞ!」
「馬鹿者!!飛ばなければお前たちは何だ!?何の役にも立たないクソ虫だ!生きても死んでも同じなら、考える前に行動しろ!!」
「……連中の取柄は、あの勇敢さだけだ。相棒、俺たちが助けてやらないと」
「分かっている!」
地上から銃を撃ちかける兵士たちへの牽制の意味も込めて、低空飛行のまま町の上を通過する。慌てて物陰に隠れる兵士の姿が見える。どちらも必死だ。攻められる者と、守ろうする者と。SAM車輌の発射台が回転し、制圧地区を通過しようとする輸送機の後背を狙う。まだ、あの中には次の地区制圧に向かう連中が乗っている。やらせるわけにはいかない。まだ有効射程範囲外ではあったが、ガンアタック。アスファルトが剥げ、土煙が舞い上がる。斜線上にいた兵員が物陰に飛び込む。SAM車輌からも兵士が飛び出して、近くの建物の影に隠れる。乗り手を失った車輌めがけて、至近距離から再びガンアタック。トリガーを引き絞り、脅威を排除する。燃料に引火した対空車輌が、炎に包まれて爆発、機能を失って沈黙する。反復攻撃を数回繰り返す頃には、この地区に展開していた対空車輌群はほぼ壊滅状態となっていた。そして、俺たちの支援を受けた空挺部隊の兵士たちが、ようやく地上へのランディングを果たす。
「上空の護衛機に感謝!」
「さぁ、行くぞ。敵兵士たちの相手は、ナンバー・ワンの俺たちだ!!」
「ゴーゴーゴーゴーゴー!!」
地上に舞い降りた天使ならぬ猛者たちが、向けられた火戦をものともせず突撃していく。勇敢さだけが取柄とはいえ、恐怖とは無縁に見える姿に感心する。――もちろん、彼らとて恐怖と不安を抱きながら走っているに違いないのだが。だが、そんな素振りも見せず、彼らは見事な連携を保ちながら橋頭堡を築いていく。グレネードが炸裂して黒煙と炎が膨らみ、被害を避けて後退した敵兵の代わりに、こちらの兵士たちが進んでいく。しかも突撃する兵士たちの数は時間が経つにつれて増加していくのだ。全員が無事というわけではないが、大半の兵士たちが無傷のまま、街へと舞い降りていく。時々民家の中に人影が蠢くのは、町に住む人々だろうか。唐突に始まった戦闘に、彼らは怯え隠れている。何とか、民間人の被害は出さずに事を終えたかった。

「イーグルアイより、各隊、状況を伝えよ」
「こちらA隊、作戦は順調に進行中だ。部隊の被害も僅少、でもウスティオの野犬が町の施設を随分と壊しているぞ。だれが弁償するんだ?」
「B隊、南部地区の制圧は目前!引き続き北部地区の制圧へ向かう」
「C隊だ。こっちはこれから降下というところだ。負けていられねぇぜ」
どうやら作戦は全体としても順調に推移しているようだ。輸送機の被害も無く、俺たちはもう一つの攻略地点、町の北部地域へと駒を進めていた。南部地区の制圧は完全に終了し、制圧隊は既に地上を北部地区に向けて侵攻している。各方面において、俺たちは優勢を保ちつつ、進撃を続ける。
「ヴァイスより、ファーヴニル、及び各隊。敵戦闘機隊の接近を確認。来るぞ、結構な数だ!」
「こちらスピア1、こっちも確認したぞ。包囲090、350方向より、急速接近中!……おい、どうでもいいが編隊を崩すなよ、ヴァイスよ」
「まぁそう言うな。編隊飛行は苦手なんだよ」
来たか、厄介なのが。よりベルカ軍の集結地に近い、このソーリス・オルトゥスだ。当然、インターセプターの迎撃範囲内になっている。少々遅きに失した感もしなくもないが、ここで輸送機がやられれば折角うまく進んだ作戦も水泡に帰す。
「ベルカの鳥の相手は俺たちの仕事だ。行くぜ、相棒!」
ピクシーのF-15Cが俺に先行して敵部隊にヘッドオン。包囲350から接近する敵部隊に最も近いのは、俺たちだ。俺も続いてヘッドオン。ピクシーの赤い翼を右前方に眺めながら、虚空を疾走する。
「ガルム1より、B隊。敵戦闘機は俺たちが食い止める。さっさと腹の荷物を下ろして、安全地帯へ退避しろ!」
「言われなくても!作戦が終了したら、基地で一杯やろうぜ。健闘を祈る!」
「荷物で悪かったな、荷物で!下の制圧は任されたから、空の蝿は頼んだぜ、頼りがいのある猟犬さんよぉ!!」
後ろで猛者たちの歓声が挙がる。全く、救いようの無い馬鹿たちばかりだ。マスクの下で、俺は苦笑を浮かべた。こういう気のいい連中を、無下に死なせたくは無い。レーダーに敵戦闘機反応。IFFはもちろんベルカのサイン。俺たちの前方からまっすぐ、真正面から戦域へと突入してくる。兵装を長射程ミサイルに変更。レーダーロック開始。肉眼では確認できない敵機の姿を愛機は追尾し、HUD上をミサイルシーカーが滑り出す。ロックオンは二つ。心地よい電子音を確認し、攻撃開始。
「ガルム1、フォックス3!」
「ガルム2、フォックス2!」
機首を軽く上げて緩上昇。ミサイルの白煙の上を追うように飛ぶ。前方で火球が3つ、明け方の赤い空をさらに赤く染めるかのように膨れ上がる。各方面、戦闘機同士のドッグファイトが始まったようで、レーダー上でも複雑に絡み合う両軍の戦闘機の姿が映し出される。空を見上げる市民たちにしてみれば、何とも不思議な光景だろう。明け方の空に舞う白い落下傘、戦闘機の描く白いループ、そして火線。
「ヴァルプス2より隊長機、後方から接近する敵機2!!」
「報告するくらいなら追い払う努力をしてくれ!!」
ヘッドオンで撃ち漏らした敵機の後背に付くべく、スプリットS。次の降下地点へと向かう輸送機に直進する敵機をHUD上に捉える。捕捉されたことに気が付いた敵機が左旋回。速度を緩めつつ、こちらも左へ急旋回。相手の針路上に先回りして狙いを定める。より少ないRで旋回した俺の照準の中に、敵機の胴体が入り込む。そこだ。F-16Cの小柄な胴体目掛けて、20ミリの雨を降らせる。機体が痙攣し、破片と煙を撒き散らした敵機が、かろうじて射線からブレーク。水平に戻した敵機のキャノピーが飛ぶ。次の獲物からレーダー照射。思い切り引き起こし。一瞬視界がブラックアウトするが、スロットルを押し込んで急上昇。敵の追撃から逃れて距離と高度を稼ぐ。一気に町が見えなくなる高度まで上昇してから、機首下げ、再び降下。敵の上から被って攻撃を仕掛けていく。低空でピクシーの放ったミサイルが敵機を捉え、炸裂する。炎に包まれたF-16Cが一際明るい光を発して粉々に四散する。
「くそっ、空挺の連中、まだ降りてないのか?」
「待たせたな、片羽!降下地点に到達!!これで最後だ。行け行け行け行けーっ!!」
ここから確認することは出来ないが、最後の降下ポイント上空では追撃を逃れた輸送機から無数の落下傘が舞い降りているのだろう。
「こちら北部守備隊!これ以上は支えられない!!」
「弾薬が足りないぞ!!援護は無いのか?空軍の連中は何をやっているんだ!!」
――頼みの空軍は、俺たちが次々と葬り去っている。戦域へと突入してきた敵部隊は多かったが、A隊・C隊ともに撃退に成功したらしい。レーダー上、確認できる敵戦闘機隊は僅か。それも、踵を返して後退していく姿が映し出されている。そして、降下に成功した第101空挺師団は、それぞれの受け持ち地区を制圧、合流してベルカ守備隊を追い詰めつつあった。そして、待望の通信が届けられる。
「イーグルアイより、支援隊各機へ。第101空挺師団より入電、"降下作戦ハ成功セリ"。後は地上に降りた奴らの仕事だ。任務終了、帰投せよ」
「おっしゃあああっ!!」
「やったぜ、見たかベルカめ!!」
傭兵たちの歓声が聞こえてくる。俺も軽く息を吐き出し、そして胸を撫で下ろした。戦争を操っている連中の思惑通りのシナリオとはいえ、気のいい奴らを無駄死にさせずに済んだことに、俺は喜びを感じていた。同時にそれは、ベルカ軍の兵士の犠牲を強いるものではあったが。
「相棒、見てみろよ。こんな日の出を見るのも久しぶりだ。――綺麗なもんだぜ」
山の稜線を越えて、太陽がその姿をようやく現した。まばゆい光が空を、大地を覆い、群青の帳は払われて夜が消えていく。その光に照らし出された山の緑が、一層その色彩を深める。ラリーの台詞ではないが、綺麗なもんだ。キャノピー越しに広がる美しい風景。戦いを終えた戦士たちに送られたささやかなプレゼントに、俺たちは溜飲を下げたのだった。

この日、ソーリス・オルトゥスはベルカ軍の占領下から解放され、地上を侵攻する連合軍陸軍の需要戦略拠点となった。ついに、ウスティオ解放作戦の最重要ミッションが始まる。――首都、ディレクタス解放作戦の発動である。

エトランゼたちの戦旗目次へ戻る

トップページに戻る