Ground Combat 後編


薄暗い空間の中で何とか平衡感覚を取り戻した僕は、手当たり次第に壁を辿って歩き回った。その結果、閉じ込められているのは基地の建物などではなく、どうやら閉めきられた格納庫、或いは貨物室か何かにいるようだ、と気が付いた。となると、ドレヴァンツたちが乗ってきた輸送機ということだろうか。暖房もかかっていない空間がキンキンに冷えてきたので、時間は既に夜になったのだろう。上着でも羽織りたいところだったが、手錠を何とかしないことにはどうにもならなかった。遠くで何か物音がしたようだったが、戦闘機の出撃も無い基地は静寂に包まれていた。とりあえず、先刻は殺されずに済んだが、次に誘いを断ったときにはどうなるか分からない。また、運良く殺されずに済んだとしても、どこかに監禁されるのだろう。そんな屈辱を受けるくらいなら、いっそ自分で自分の命を断とうか、という気になってきて、僕は首を振った。そんなことが許されるわけが無かった。もし9103の面々が事態に気が付けば何かしら行動を起こすだろうし、僕にはまだやらなければならないことが山積みのはずだ。軽々しく命を断ったとしたら、先に逝った人たちにきっと怒鳴られる。諦めるにはまだ早い。再び壁に手を当てて移動を始めた僕は、ようやくドアノブらしきものを見つけ出した。光が漏れてはいない、ということはこの向こうも漆黒の闇か、閉ざされた空間かもしれない。ドアノブを捻って押す。反応なし。引く。びくともしない。予想とおり、施錠されたドアはびくともしない。いらいらしてきて何度も乱暴にドアノブを動かすが、やはり反応なし。ならば、と僕は反動を付けて右腕からドアにぶつかっていった。金属の固い感触に跳ね返され、僕は床に転がった。もう一度立ち上がって体当たり。敢え無く弾き返される。しかし、二回の衝突音は空間の中に響き渡り、恐らくは外でも聞こえているはずだ。痛みをこらえてさらにもう一回。さらにもう一度。

突然連続で何かが弾ける音がして、僕は思わずしゃがみ込んだ。同時に、銃声が聞こえてくる。再び金属音が鳴り響き、空間の外を打っている。やがて銃声ははっきりと聞こえるようになり、遠くに人の叫び声も聞こえるようになった。間違いなく、表では戦闘が始まっている。静まり返っていたはずの空間の中に足音が響き渡り、あれほどまで僕の体当たりを拒んでいたドアが内側に開かれ、前に立っていた僕は直撃を喰らってまたもひっくり返った。銃声は今や目前で聞こえ、打ち込まれた弾丸が天井や床に突き刺さり甲高い音を立てる。痛みで転がる僕の頭を侵入者が掴みあげ、そして固いものが顔に押し当てられた。発砲したばかりのバレルの熱で頬を焼かれて悲鳴をあげそうになるのを何とか堪える。頭を掴みあげていた手が離れ、首を抱え込むようにして僕をひきずりあげる。ドアの外にはいくつもの光――マグライトの光が揺れ、室内を照らし出した。僕の頭のすぐ上で余裕もどこかへ置き忘れたような形相でいるのは、ドレヴァンツだった。
「動くな!動けばアネカワの命はないぞ!!」
「あきらめな。もうお仲間は一人も残っちゃいないぜ、ニセ調査官野郎」
久しぶりに聞いたような、ガイヤ大尉の声だった。危機的状況に変化は無かったが、大尉たちが舞台の裏側に気が付いてくれたことで、ようやく僕の心にも光明が見え始めた。
「銃を捨てろ!!こいつの姿が見えないのか。頭を吹っ飛ばすぞ!!」
「ああそいつは困るぜ。その前におまえの頭を吹っ飛ばしてやるから安心しろ。何、一瞬だ。優しくしてやるよ」
「ガイヤ大尉の言うとおりだ。アネカワ少尉に傷一つ付けてみろ。生まれてきたことを後悔するように殺してやる」
「おいウォーレン、相手を挑発しすぎるな、って言ったのはお前だろ!」
ガイヤ大尉たちは銃口をドレヴァンツに向けたまま、マグライトを照らして入ってきた。久しぶりに見る光に目がくらむ。ドレヴァンツは僕を抱えたまま少しずつ後ろへと下がっていく。
「おいアネカワ、俺たちがここまでしてやっているんだ。そんな臆病者の言うことを聞かせるつもりか?」
ガイヤ大尉がにやり、と笑ってみせる。
「お、おまえたち、これが見えないのか!俺はこいつの命を握っているんだぞ!」
「ああ?脱出に何の努力しないような部下に用はねぇなぁ。アネカワ、残念だったな」
「ふ、ふざけやがって!」
僕に向けられていた銃口が離れた一瞬の好機。ドレヴァンツの腹に押し当てられていた両手で思い切り奴の腹を掴み、右足を僕は両足で払って全体重を乗せて倒れこんだ。耳元で発射された弾丸は天井に当たったまま戻ってこず、僕の全体重を乗せられた奴は一緒に後頭部から床に倒れこんだ。ごん、という鈍い音が響き、ほぼ同時に僕の後頭部がドレヴァンツの鼻頭を直撃した。奴の手から拳銃が弾け飛ぶ。もう一度後頭部を叩きつけた僕は奴の体をクッション代わりにして前へ転がった。ドカドカ、と足音がしてウォーレン大尉とガイヤ大尉が走り出し、立ち上がろうとしたドレヴァンツの顎をウォーレン大尉が蹴り飛ばす。少しじっとしてろ、とガイヤ大尉は僕にかけられた手錠のチェーンを拳銃で弾き飛ばし、ようやく僕の両手は解放された。
「上出来だ。さすがは俺のチームの一番弟子だよ」
ドレヴァンツはウォーレン大尉と他の男たちに完全に押さえ込まれ、身動きも取れなくなっていた。さっきまでの僕と同じように後ろ手に手錠をかけてから、首筋を手刀でウォーレン大尉は打ち据えた。気絶したドレヴァンツの身体から力が抜け、床に突っ伏した。どうやら、助かったらしい。自由になった手で額の汗を拭おうとして、ぬらりとした液体が額と手の甲を濡らすことに僕はようやく気が付いた。ドレヴァンツにやられた傷が、体当たりの際にまた開いていたらしい。ガイヤ大尉はホルスターに銃を収めると、僕を眺めてまた笑った。
「これがお姫さんだったら手放しで喜ぶんだが、血を流した薄汚い男じゃあな。折角助けてやったんだ、きちんと借りは返せよ、アンラッキーボーイ?……おい!そこのクソ野郎を引きずり出して来い。そいつにも聞きたいことは山ほどある。ウォーレン、生きてきたことを後悔するようなヤツで全部吐かせてみようか?」
「人権条約違反に問われるのはご免です。しかし、ま、徹底的に吐かせることには賛成です」
「お堅い奴め。よし、皆、凱旋だ!一段落したらパーティと行くぞ。おら、アネカワ、ぼさっとしてないでお前も歩け!」
僕は安堵のため息を久しぶりに吐き出した。そう、僕はようやく人間の中に戻ったのだ。
額の傷が思った以上に深く、医務室で治療を受けたうえ、点滴を打たれる羽目となった。その間僕は柔らかいベットの上で惰眠を貪ることが出来たのだが、クライスラー大佐やガイヤ大尉たちはその間も忙しかったようである。格納庫から応接室の一角に連れてこられたカスター部長に対してはアルウォール艦長とクライスラー大佐が、僕を人質にしようとしたドレヴァンツ中佐については強い希望によってガイヤ大尉とウォーレン大尉が聴取をすることとなったのだ。拘束された時点で観念していたカスター部長は、大佐たちに問われるまま答えていたらしい。一方のドレヴァンツ中佐は息を吹き返すと、参謀本部に逆らえばどうなるのか、とガイヤ大尉たちを脅迫しようとし、層倍の報復を受けることになったようだ。ようやくブリーフィングルームに戻ってきたガイヤ大尉をして「まさかあんなことをする奴だと思わなかった」と言わせたくらいであるから、ウォーレン大尉が何をやって見せたのか大体想像がついた。全員がほとんど一睡もしていなかったが、ブリーフィングルームに集まった僕らは、クライスラー大佐から聴取の報告を受けることとなった。そして、大佐の報告が一通り終わったとき、僕も含めて一同がやり場の無い怒りを抱いた。
「では、我々がやってきたことは一体……」
ウォーレン大尉の呟きは全員の気持ちを代弁するものだったろう。クライスラー大佐は開口一番、こう言ったのだ。9103飛行隊の任務は、確かに新型戦闘機の運用データを集めることだったが、それを本当に必要としていたのはオーシア空軍ではなくノース・オーシア・グランダー・インダストリーだった、と。そしてグランダー・インダストリーは15年前の大戦で敗北し、消滅したはずの旧ベルカ公国軍残党の隠れ蓑であり、今のユークとの戦いも彼らによって仕組まれたものであること。今のオーシア政府、オーシア軍参謀本部は、「主戦派」の人間達によって牛耳られ、さらにはグランダーとベルカの思うままにされていること。さらにカスター部長……いや、カスター旧ベルカ公国軍技術少佐殿とその部下達は、9103の監視と飛行データをベルカのために取得するために9103に派遣された、と語ったのだという。ただし、マイカルは彼らとは何の関連も無く、グランダーからの純粋な派遣を装う為のカモフラージュとして派遣されたのだった。だから彼はアンテナの存在を知らされていなかったし、逆に彼に存在を知られたことはカスターたちの誤算だったわけだ。
「つまり、我々の機体に装備されていたあのアンテナは、全てグランダー・インダストリーにデータを飛ばしていたというわけですか?」
「そのとおりだ、ウォーレン大尉。そして、あのアンテナにはもう一つ重要な役割があった。ステルス戦闘機であるF/A-22とYF-23Aは、出力の弱いレーダーで察知することは難しい。しかし、それぞれの機体が自分の所在を発していたとすれば話は別だ。9103飛行隊の所在は、GPS信号を経由して全てグランダー、いや、もうベルカと言った方が良いだろう。連中に掴まれていたことになる」
オズワルド曹長の悪い予感が当たっていた。僕らは常に所在を掴まれた状態で飛んでいたのだ。つまり、シグニッジ基地の時も、僕らの接近は察知されていた。何か証拠を掴まれることを恐れたベルカは、だから全てを消滅させようと攻撃を行ったというわけか。それも、自国・友軍を攻撃するという踏み絵をキニアスの奴にさせるために。さらに悪いことに、キニアスの奴はそれを躊躇うような人間ではなかった――。だが、僕らがアンテナの存在を知ってしまったこと、そして僕が生き残ってしまったことが、ベルカたち、そしてその駒でしかなかったロックウェル少将をより積極的な行動に移らせた。ベルカの一人、ドレヴァンツを参謀本部付の調査官に仕立て上げたのは言うまでも無くロックウェルと主戦派の高級士官たち。僕をシグニッジ基地攻撃の犯人として、9103の存在自体を消滅させる。危うく僕らは、オーシアを操るベルカと、彼らに踊らされている祖国の人間によって、この国から抹殺される寸前だったわけだ。そんなことを聞かされて腹を立てない人間がいるだろうか?さらに頭に来ることは、この事実を伝えたところで、参謀本部と上層部は本腰をいれて僕らを潰しに来るだろう、ということだ。

クライスラー大佐はマイカルとグラハム中尉を促して、モニターに別の映像を表示させた。同時に、僕らには何枚かのコピーが配られる。「TAN-F PROJECT」と表紙に書かれたコピーの右上には「持出厳禁」のスタンプが押されていた。3枚目にはCGで描かれた戦闘機の姿が載せられている。今まで見たこともないような異形の姿を持つ戦闘機。
「今渡したコピーは、オーシア空軍が進めていた次世代支援戦闘機開発計画に関するものだが、これでさえ、実態はグランダー・インダストリーがベルカのためにオーシアを使って開発していた代物だ。TAN-F……Tactical Annihilation and neutralization Fighter、戦術殲滅戦用戦闘機と名付けられているこの機体の任務は、敵に単機で壊滅的な損害を与えること。そのための兵器を腹に抱えた、悪魔の兵器と言っても良い。モニターを見てくれ」
モニターに映し出されたのは、3DモデルのCG。マイカルが端末を操作すると、画面に細かいデータがリンクされ表示されていく。
「これはカスター部長の端末から取ってきたデータです。開発コードZOE-XX01及びZOE-XX02とナンバリングされた2タイプの試作機が既にロールアウトしているようです。このうち、シグニッジ基地攻撃に用いられたのは、ZOE-XX02の方と考えられます。さらにもう1タイプ、プロトタイプのプロトタイプと言うべき、ZOE-XX00なる機体もあったそうですが、こちらの所在は不明です」
垂直尾翼を持たないが、機体腹面に可動式の安定翼を抱えた前進翼の戦闘機がモニターに表示される。メインエンジンは3基。うち2基は三次元可動式バーニアになっているだけでなく、サブバーニアを4基持っている。後ろから見ると、まるで前世代のシャトルみたいにも見える。だがこの機体の異形さを際立たせているのは、鳥が嘴を開いたような機首から伸びる大口径の砲身だった。
「マイカルが調べてくれたおかげで、この機体の性能は何となく分かってきた。こいつの主兵装は見てのとおり、機体中央の大口径の砲――レールガンだ。このレールガンから打ち出された弾頭は迎撃不能の早さで目標点に到達、炸裂する。巡航ミサイルとは違い、レーダーで弾頭を捉えること自体が不可能だ。シグニッジ基地に対して行われたのも、こいつから発射された散弾弾頭と見て良いだろう。ただこのサイズから言って、搭載できる弾頭数はそれほど多くはないはず。さらに、レールガン自体の重さの影響で、ZOE-XX01では2基だったエンジンがさらに追加されている。機動性はともかくとして、航続距離は確実に落ちているだろう。こいつは局地戦仕様機と言っても差し支えない」
「カスター部長たちは、"ADLER"とこの機体を呼んでいました。一方のZOE-XX01の主兵装は……アークバードに搭載されているものと同程度の破壊力を持つ戦術レーザー砲だそうです」
おとぎ話を聞いているような気分は皆同じようで、ガイヤ大尉ですら首を振って天を仰いでいた。しかし、こいつらは現実に「敵」として存在するのだ。少なくとも、ZOE-XX02"ADLER"はグランダー、ベルカの手にあり、オーシアに対して牙をむこうとしている。こんなものが量産化された日には、一体どれほどの被害が出るのか。まして、無差別に市街地を攻撃するための手段として使われたら、たった一機で虐殺を実施することすら出来るだろう。ある意味、核兵器と同レベルで危険な兵器。ベルカはそんな物に頼ってまで、この世界を手に入れたいというのか。
「そして運が悪いことに、この化け物の1機は、ネジが一本抜けた副大統領閣下のご子息が操っているというわけか。やれやれ、オーシアの命運、ついに果てたと言うべきか。おまけに、副大統領閣下はそんな化け物を410飛行隊に配属しようとしてわけだろ?揃いも揃って大馬鹿野郎だな」
「同感ですな、ガイヤ大尉。仮にオーシアの量産機になっていたとしても、俺はお断りですわ。こいつは戦闘機ですらない」
グレッグ中尉が吐き捨てるように言う。僕も全く同感だった。この戦闘機は、そもそも作ってはいけなかった部類の代物なのだから。全員が押し黙ってしまい、室内には沈黙の天使が漂う。

「ときに大佐殿。我々は参謀本部から一応は派遣されてきた調査官を拉致監禁し、民間企業から派遣された民間人を拉致監禁し、おまけに軍命に背いて戦闘機を奪い去った凶悪犯となっております。どうされますか?参謀本部に叛逆者として突き出されますか?」
沈黙を破るようにして、冗談めかして言うガイヤ大尉の目は真剣そのものだった。その視線をクライスラー大佐が真正面から受け止める。大尉だけでなく、皆の視線が大佐に向けられる。クライスラー大佐は眼鏡を外して苦笑した。
「それで事が済むならそうしてやりたいところだが、今の参謀本部では告発者諸とも闇に葬りかねない。おまけに、ハーリング大統領に背いて国を動かしているような連中の命令は最早軍命とは言わんよ。……今この場にアルウォール少将がいないのは、この後に備えてのためだ。……9103飛行隊、全搭乗員に命じる。本日ただ今を以って、9103飛行隊は解散、搭乗員にはオーシア空軍パイロットとしての一切の任務を解く。そして同時に、以後君たちには叛逆飛行隊としての活動を命じる。不眠不休の所を迷惑かけるが、0830より作戦を開始する。全搭乗員は出撃準備にかかれ。そして0900まで上空に待機、以後はアルウォール少将の命令に従うこと。……以上だ!」
今日はどうやらとことん呆れる話を聞く日のようだ。一番、この基地でそんなことを言わなそうな人物から飛び出したのが、"叛逆者になれ"という言葉だったのだから、驚くを思い切り通り過ぎて呆れてしまった。だが遅かれ早かれ、僕らは叛逆者としてのレッテルを貼られるに違いない。大佐たちはそれを逆手に取って、僕らを逃がそうと考えているらしい。いや、逃がすだけでなく、"知ってしまった"者たちとしての作戦を行うつもりなのだ。
「ご命令であれば、従います。しかし大佐、"叛逆飛行隊"の目的は何でしょうか?ただ逃げ回るだけなら、機体を持って行く必要はないはずですが」
ウォーレン大尉の問いに、クライスラー大佐は不敵な笑みを浮かべた。この部隊に配属されて以来、彼のこんな顔を見るのは初めてかもしれない。或いは、これが「冷徹」クライスラーの本性だったのか?
「知ってはいけないことを知った以上、やるべきことは一つだ。このZOE-XX02を手にしたベルカ航空隊の撃破と、彼らによる破壊行為の阻止。私は君たちを遊ばせておくつもりは全くないのでね。放っておけば、いずれ彼らはオーシアだけでなくユークにすら破壊を撒き散らすだろう。参謀本部ですらそれを看過するつもりなら、自分たちでやるまでのことだ。……そうだ、ガイヤ大尉、君にはもう一つやってもらいたい任務がある」
「こうなりゃ一蓮托生だ。何なりと」
「私を撃ちたまえ」
「はあ!?」
さすがにその場にいる人間が全員耳を疑った。ガイヤ大尉ですら、冗談だろ、という表情を浮かべている。
「念のために聞いておきますが、大佐、正気ですか?」
「敵を欺くにはまず味方から、と言うだろう。それに、参謀本部に報告するにしても、君たちの叛逆に箔を付けてくれる」
「自分は銃の腕はからきしなんで、頭をぶち抜くかもしれませんぜ」
「それならそれで、私もそれまでの人間だったというだけだ」
クライスラー大佐は立ち上がり、ガイヤ大尉の前に歩いていった。そして自分の銃を引き抜くと、それを大尉に手渡した。銃を受け取った大尉はマガジンを外し、弾丸が一発だけ装填されていることを確認して、再び銃の中に戻した。安全装置を外し、立ち上がった彼は銃を身構えた。
「全く、大した人ですよ、大佐。全部終わったら、一杯おごらせてもらいます」
「そうだな。君が食堂の冷蔵庫にしまっていたライスの酒でももらおうか?Acht Meer Bergだったか?……ガイヤ大尉、皆を頼む」
「大佐も、ご武運を」
ガイヤ大尉は身構えた銃を下にずらし、大佐の足を撃ち抜いた。血煙が飛び、流れ出した血が床を濡らしていく。苦痛を声に出さず身体を起こした大佐を、グレッグ中尉が駆け寄って支える。中尉を制して、大佐は震える足で立ち上がった。急所を完全に外して撃ち抜いたとはいえ、相当な痛みであるだろうに……。ガイヤ大尉が叫ぶ。
「野郎ども!これより叛逆飛行隊は作戦を開始する。叛逆者らしく、派手に暴れていくぞ!!拒否は許さんからな!!」
2010年12月20日未明。エルアノ基地にて、シグニッジ基地消滅の調査を行っていたドレヴァンツ中佐らに対し、9103飛行隊と一部の整備士たちが叛逆。重要参考人のアネカワ少尉を拉致するだけでなく、説得に向かったクライスラー大佐を銃撃して逃亡した。この際、調査官及びグランダー・インダストリーから派遣されていた技官らも拉致され、行方が分かっていない。エルアノ基地に配備されていたF/A-22とYF-23A全機が奪われることとなり、同日、エルアノ基地に入港していた空母カノンシードについては、クライスラー大佐の提案によって叛逆者の追撃任務に就く旨が、海軍司令部より伝達された。なお、エルアノ基地は9103の搭乗員達による攻撃によって滑走路を破損、また調査官の使用したC-130も完全に破壊、航空基地としての機能が失われたため、修復が終わるまでの間前線基地としての任を解かれることとなった。

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