戦うべき理由
エルアノ基地の気温は既に氷点下に下がり、剥き出しの顔はピリピリと痛みを告げる。吐き出した息は真っ白な煙となって風に飛ばされていく中、僕はコクピットの中に滑り込んだ。既に最終点検も終わり、後は空へ舞い上がるのみだった。僕はいつもとおり出撃の最終確認を進めていく。火器管制モード良し、操縦系統良し、HUD異常なし。整備士たちに混じってカカズ班長の姿が見え、部下たちを怒鳴り飛ばしている声が聞こえてきた。
「よっ、いよいよですな、中尉殿」
オズワルド曹長がタラップを上がって来ていた。防寒用の耳当て付きの帽子とグローブ、さらにはゴーグルまでしているとなると、このままスキーに出かけるのではないか、という姿になる。もっとも、制服といったら整備士用のつなぎしか普段は着ないわけで、こんなに気温が下がった夜間作戦ということ自体が珍しいのだ。
「YF-23A、ドラグーン1号機の点検、全て良し。エンジンもルンルン回ってます。機銃、AAMいずれも搭載最大量にしてあります。格納ベイの問題で対地攻撃用の装備は積んでないんで、それはF/A-22の方に任せてくださいな」
「了解、ありがとう、オズワルド曹長」
「整備班一同、ドラグーン隊の帰りを待ってますよ。帰って来たら、食堂で大パーティといきましょうや」
「ああ、約束する」
曹長は親指を立ててゴーサインを伝えた。タラップから彼が離れたのを確認して、キャノピーのロックを解除。レールを滑るようにしてキャノピーがコクピットを包み込み、そして固定された。夜間作戦用に明度が高められたHUDが暗闇に浮かび上がる。僕の左翼からウォーレン大尉たちのF/A-22がゆっくりと動き出し、滑走路を目指していく。整備士たちがこの寒い中帽子を脱いで、それを手に持ち大きく振っていた。中には懐中電灯を点灯して振っている者までいる。ああ、そうか。スマキア伍長も言ってたとおり、皆、僕らと一緒に戦っているんだ。僕は推力を少し上げ、パーキングブレーキを解除。心地良いエンジン音が高まり、機体がゆっくりと滑り出した。並ぶガイヤ大尉がキャノピー越しに親指を立てる。頷き返して、僕らも誘導路を少しずつ速度を上げながら走り出す。整備士たちの「頑張れよぉーっ!」とか「必ず帰ってこいよ!」という叫びが少し聞こえてきた。
「こちらドラクーン3、コントロール、離陸するぞ」
「ドラグーン戦隊、クライスラーだ。今首都で会見が始まっている。今、音声を君たちにも転送しよう。少し待っていたまえ」
どうやらテレビかラジオの音声らしき、雑音混じりの音が耳から聞こえてきた。やがて、その音が静まっていき、代わりに聞こえてきた声を聞いて、僕は耳を疑った。それは、数ヶ月の間国民の前に姿を現すことがなかった、オーシア大統領、ビンセント・ハーリングの声だったのだから。
"戦場にいるユークトバニア、オーシア両国将兵の皆さん。皆さんの持つ銃器を置いて、塹壕を後にしましょう。私の不在を利用してこの国の政府を我が物とし、専断していた者たちから、首都オーレッドは解放されました。自由と正しいことを行う権限を奪われていた私は、今こうして黄金色の太陽の下に復帰し、そして私と同じような立場にあった、ユークトバニアのニカノール首相閣下とともにあります。両国間の不幸な誤解は解け、戦争は終わりました"
"私はユークトバニアの元首にして国家首相であるニカノールです。戦場にいるオーシア、ユークトバニア両国将兵の皆さん、私とハーリング大統領閣下が互いに肩を並べ手を取り合うところをご覧下さい"
もちろん、彼らが手を握り合う光景は僕には見えない。だが、僕にはがっちりと握手を交し合う二人の国家首脳の姿が見えた気がした。ハーリング大統領だけでなく、ニカノール首相もまた、双方の国を好き勝手に動かしていた連中の手によって拘束されていたのかもしれない。その二人が、こうして表舞台に戻ってきたことが何を意味するのか――それはつまり、オーシアとユークトバニアで行われていた戦いが彼らの意志ではなく、双方の覇権主義を唱える者たちと、彼らを背後から操っていた者たちの意思であったということだ。
"ハーリング大統領閣下の言葉は真実です。オーシア、ユークトバニア間で行われてきた哀しい戦争はおわりましたが、我々にはまだなさねばならない戦いが残っています"
"そのとおりです。ニカノール首相閣下の仰るとおり、我々の間に憎悪を駆り立て多くの互いの市民の方々、兵士の方々の命を奪い取った者たちは、ユークトバニア、オーシアの大都市のほとんどを破壊することが出来る兵器を準備しつつあるといいます。残念ながら、彼らがどちらの国を攻撃するのか、それは分かりません"
「おい、アネカワ今の聞いたか。敵さん、俺たちの宿敵なんかよりもごっつい武器を持っているらしいぞ。しかし、両国を破壊するって……」
「やはり、核兵器、でしょうか?」
「ああ、それもとびっきりのMIRVとかな。それなら一発でオーシアの大半を潰せる。ベルカの連中、自分たちの国に落としただけじゃ気が済んでなかったらしいな」
大統領たちの演説が続く。
"だが、それは重要ではない。どちらの国が攻撃を受けたとしても、それは互いにとっての大きな痛手であり、損失なのです"
"両国を破滅に導く企みを阻止するため、今私たちの大切な友人が飛行機を飛ばしています。ユークトバニア、オーシア両国将兵の皆さん。どうか心あらば――あなたがたの持てる道具を使って、彼らの手助けをしてやって欲しい。彼らは、私たちの、そしてユークトバニア、オーシアだけでなく、この世界を救うことが出来る希望の翼なのです。彼らは、私たちを破滅させようとする「敵」を目指し、東へ向かっています"
東――オーレッドの東にあり、この戦争を操り続けた者たちの本拠地がある。南ベルカ、ノース・オーシア・グランダー・インダストリーという名の敵本拠地が!僕の頭の中で、漠然としていた事実の糸がようやくつながった。参謀本部の不可解な命令は、すなわちこの戦いに備えてのことだったのだ。大統領たちの「大切な友人」を支援し、ベルカ残党との決着をつけること。今やオーシアは、アップルルース副大統領たち主戦派から解き放たれ、元の姿に戻りつつあるのだった。大統領の放った言葉が、僕の心に染み渡っていく。オーシアもユークも無く、ベルカの残党勢力が仕掛けようとしている破滅を防ぐため、一人一人の兵士の心に呼びかけたその言葉に。――大統領たちも本当の「敵」との決着を付けるため、舞台裏での苦しい戦いを続けてきたに違いなかった。僕らがグランダーやロックウェルの野郎に葬りさられかけたように。
「さすがは「鬼」のハーリング。舞台裏はお見通しってわけだ。しかも、希望の翼、と来たか。アネカワ、どうやら俺たちはすごいもんを見られるかもしれないぞ」
「希望の翼――まさかとは思いますが、ラーズグリーズ?」
「それ以外に考えられないだろ。畜生、武者震いがしてきやがったぜ。おい、ウォーレン、もう演説は充分聞いただろ。さっさと上がれ!俺たちも行くぞ。こんな大一番、二度と味わえないだろうからな」
「同感だ、ガイヤ大尉。コントロール、もう出るぞ。早くしないと、間に合わなくなる」
「仕方のない連中だ。ドラグーン、グッドラック!!」
ウォーレン大尉たちの3機のF/A-22のノズルから赤い炎が吹き出し、滑走路を照らしながら加速していく。やがて充分な加速を得た機体のノーズが上がっていき、3機の編隊を組んだまま上昇を開始する。模範的と言って良い、綺麗なテイク・オフは相変わらずだ。
「けっ、相も変わらずお上品な奴め。アネカワ、分かっているだろうが、こっちは派手に行こうぜ」
こちらも同様だ。マスクの中で苦笑しつつ、僕はスロットルを最大に叩き込んだ。ごう、と一気に回転を上げたエンジンが、YF-23Aを弾き飛ばすように加速させる。シートに叩き付けられるような衝撃と共に加速を始めた愛機は充分な速度と揚力を得て、飛翔を開始する。高度80、90……120、150。
「ジャスト・ナウ!」
ガイヤ大尉の声に合わせ垂直上昇に移行、高度計がコマ送りに進んでいくのを見つつ、高度7000フィートで水平飛行に移行し、待機していたウォーレン大尉たちと合流する。僕は編隊の先頭に立ち、そしてトライアングル編隊を組む。ドラグーン2とドラグーン3、ガイヤ大尉とウォーレン大尉が横を固め、その後ろにドラグーン4とドラグーン5、ケネスフィード中尉とグレッグ中尉がポジションを取る。向かうは方位120。再びスロットルを最大に叩き込み、一気に加速を開始する。シートに体が沈み込み、心地良い速度で竜騎兵が空を駆ける。エルアノ基地を飛び立った僕らを見送るように、演説の声と歓声が響き渡った。
"なおもまがまがしい兵器の力を使おうとする者たちよ、平和と融和の光の下にひれ伏したまえ!"
"両国将兵の皆さん、両国の戦争を終わらせるため、今一度力を貸して欲しい。この世界に再び平和を共に取り戻すために!!"
「方位080、新手、気をつけろ!」
「まったくベルカの連中、よくもこれだけの戦闘機を集めやがったもんだ!それもオーシアの金でな!!」
キング・オブ・ハート隊がノルト・ベルカ上空で戦闘を開始し、パイロットたちとの間の交信が飛び交っていた。レーダー上でベルカとキング・オブ・ハート隊の光点が目まぐるしく動き回り、一つ、また一つと光点が姿を消していく。友軍の機影はまだ健在で、まるでこれまでの鬱憤を晴らすかのように飛び回っている姿が印象的だ。特に、隊長機はそうだろう。開戦からこの日に至るまで、戦闘機のコクピットから遠ざかっていた彼にとっては、久しぶりの戦いの空――それも、天下分け目の大一番で、彼が興奮しないはずが無い。上官命令をことごとく無視するベテラン士官とばかり思っていた男は、実は誰よりも部下のことを思い、戦いで部下を失ったことに傷付いていた。今なら、自分にもその気持ちは少しは分かる。友人になれたかもしれないパイロットを救うことが出来なかったその痛みと後悔は、確実に自分を変えた。サンダーヘッド機上で、コーウェンはそう思った。だから、今自分はここにいるのだ。隊長機――ジャック・バートレット大尉に尻を蹴飛ばされて、ようやく優柔不断な自分は腹を決めた。もはや、こんな哀しい戦争を続けようとしてきた司令部の命令は受けない、と。そして、戦いを終わらせるために、真の敵との戦端を開いた男たちを助けるのだ、と。サンダーヘッド機内の搭乗員たちは皆コーウェンを支持した。操縦桿を握るパイロットは、本当に火付きが悪いんですから、と言ったものである。彼の言う通りだ。もっと早く、踏ん切りをつけていたら、この戦争をもっと早く別の形で終わらせることが出来たかもしれないのに。
「フェイク2、後背から敵2、回避、回避!!」
「こちらアームズ3、急旋回しろ!」
「こちらサンダーヘッド、敵の数は減りつつある。ここが正念場だ!南側でも戦闘が始まっている。キングの突入まで、何としても守り抜くんだ!!」
「分かってるよ、ストーンヘッド!!それよりも支援を寄越すよう、呼びかけてくれ。世界中に聞こえるように大声でな!!」
数の上では相変わらず敵が優勢。戦いを優勢で進めているのは友軍だが、このまま数の暴力で攻められたら、いつかは弾が切れる。そうなっては、パイロットたちの戦いが無駄になってしまう。コーウェンは共通回線を開いた。今はハーリング大統領たちの呼びかけにも使用されているので、確実に届くかどうかは分からなかったが、今自分が出来る最大限の支援をしたかった。
「こちらサンダーヘッド、現在ノルト・ベルカ、国境上空にて友軍機がベルカ航空隊と戦闘中。付近を飛行中の戦隊機に支援を要請する、繰り返す、支援を要請する!!」
どこまでこれが聞こえたのか不安が残ったが、返信は意外な早さで戻ってきた。
「……サンダーヘッド、聞こえますか?こちらノルト・ベルカ国防空軍203飛行隊です。国防空軍は、ハーリング、ニカノール両首脳を支持し、現在南ベルカへ向けて飛行中です。戦闘区域へ誘導してください。私たちの友軍を支援します!」
「国防空軍だって!?」
レーダー士が驚きの声をあげる。なるほど、確かにノルト・ベルカには国防空軍が存在する。てっきり、ベルカ残党は国内を全て掌握していたのかと思っていたが、実際にはそうではなかったらしい。
光点が六つ、ノルト・ベルカ北側から接近しつつあった。国防空軍が採用していたのはSu-37だった。
「こちら空中管制機サンダーヘッド、203飛行隊、支援に感謝する。戦闘空域は南ベルカ、グランダー・インダストリーから北に250キロの地点だ」
「203飛行隊、ボッシュ1了解。ちょうどベルカの孔の真上とは、因縁を感じますね。よし、全機攻撃態勢、祖国の裏切者たちを今度こそこの地で討つ!」
オーシア、ユークトバニアだけでなく、ノルト・ベルカまでが大統領たちの呼びかけに応えてきた。今、目の前では大変なことが現在進行中であることをコーウェンは悟った。15年前の大戦において、自国に核を投下したベルカを目の当たりにした連合国が、軍備を拡大することの愚かさを悟って世界的な軍縮に乗り出したときのように、ついこの間まで互いに戦い続けてきたオーシアとユークトバニアが、互いに手を取り合って戦いを始めている。さらに、心あるベルカたちまでが加わりつつあった。チョッパー、ダヴェンポート大尉、見ているか?君が待ち望んでいたことが、ようやく実現しようとしているぞ。だから、私たちを、今日ここに集った戦士たちを見守ってくれ!心の中で、コーウェンはそう叫ばずにいられなかった。
「少佐、オーシア北西方向から新たに未確認機接近。機影は5、南ベルカ方面へ向けて飛行中です。」
「IFFはどうなっている?」
「反応ありません、アンノウンです」
――クライスラー大佐か。コーウェンは一つの可能性に思い当たった。主戦派たちによって敵性スパイの容疑を着せられて国を追われたラーズグリーズたちのように、主戦派とグランダーの謀略によって叛逆者の濡れ衣を着せられた航空隊がいる。彼らもまた、この舞台に上がるに相応しいパイロットたちだ。
「私がコンタクトを取る。回線を開いてくれ。彼らは、我々の同志に違いない」
コーウェンは回線を開き発信ボタンを押した。恐らくは、今日は歴史の変わる分岐点になる。今、自分が果たすべき役割は、集いし者たちの案内人となり、全ての戦いを見届けることだ。それが、空中管制機サンダーヘッドとして出来る戦いなのだから――。
闇に包まれた空を飛んでいると、空間の認識がおかしくなってくる。HUDや計器盤を何度も確認して自分の位置と姿勢を把握していないと、気がついたら全然違う場所に到着していました、ということにもなりかねなかった。市街地のない、山脈の上空を通過しているわけだから町の明かりもほとんど見えず、空も闇、陸も闇という中、頼りになるのは高度計とコンピュータという状態だった。既に基地を飛び立ってから15分近くが経過し、相当の距離は稼いだはすだった。が、目印になる物は見えず、本当にこの方向で合っているのか不安になってくる。共通回線では、未だに大統領たちの呼びかけが続いている。もはや戦争は終わったのだ、という彼らの呼びかけは、オーシアとユークトバニア双方の至るところにあらゆる手段を駆使して伝えられているのだった。そんな僕らの進行方向で、何かが光った。少ししてまた光が弾ける。だいぶ距離はあるが、それは自然の為せるものではなかった。
「ドラグーン2より、ドラグーン1。どうやらちと出遅れたみたいだな。もうドンパチは始まっているらしい。俺たちも急がねぇと、パーティの時間に間に合わなくなるぜ」
確かに、それは爆発の光だった。大統領たちの言う「希望の翼」が既にグランダーの懐に到着している。ベルカが彼らの到着を歓迎するはずも無く、対空砲火と戦闘機の手荒い洗礼が浴びせられているに違いなかった。大統領たちの呼びかけに一体どの程度の戦力が応じているのかも分からなかったが、とにかく僕たちは進むしかなかった。突然、無線のコール音。連続して何度も呼ばれていた。
「こちら、空中管制機サンダーヘッド。貴隊の所属と目的地を告げよ」
石頭――いや、エルアノに「点検整備」のため着陸したあの士官の声だった。僕は一瞬回線を開くことをためらった。その代わり、ガイヤ大尉がいち早く応じていた。
「こちら叛逆飛行隊改め、ドラグーン戦隊だ。現在ノース・オーシア・グランダー・インダストリー拠点における友軍部隊支援のため急行中、何か文句あるか?」
「ドラグーン――そうか、やはりクライスラー大佐も立ったのだな。了解した。ドラグーン戦隊、そのままの針路、高度を維持せよ。こちらからも支援する。現在、"ラーズグリーズ"を中核とした混成航空隊と、キング・オブ・ハート率いる部隊がグランダーを南北に挟んで戦闘中だ。速やかに戦線へ向かってくれ。今はまだ、敵のほうが優勢だ。もう1機、ユークトバニアの管制機オーカ・ニェーバが南ベルカ側の指揮を執っている。君たちのことは伝えておこう……ちょっと待ちたまえ。ドラグーン隊、方位120に敵影。君たちの真正面だ!現行の速度を維持すると、接敵まであと3分!」
「こちらのレーダーではまだ捕捉出来ない。敵の数は?」
「敵影は7、いずれもIFFの反応なし、敵機種は不明だ。このままいくとヘッドオンですれ違うぞ!」
「ドラグーン2了解、ドラグーン1、こいつらの狙いは俺たちだ。恐らく、連中だぜ」
ガイヤ大尉の言うとおりだろう。僕らが直進してくることを把握したうえでの待ち伏せだ。ならば、下手な小細工はせずに正面から打ち破るまでだ。僕は全兵装の安全装置を解除した。火器管制はコンバットモード。HUDに機銃のレティクルとミサイルシーカーが表示されていく。
「ドラグーン3、ウォーレン大尉、ドラグーン5と敵上方左翼からお願いします」
「ドラグーン3、了解」
「ドラグーン5、了解。囮はまかせな。しっかりと逃げてやるからよ」
左翼のドラグーン3、5がトライアングルから離脱し、高度を上げていく。翼端灯とアフターバーナーの炎が、闇に覆われた空で光る。
「ドラグーン2より、ドラグーン1、お前の後ろは俺とケネスフィードで守る。お前が隊長だ。存分にやれ!奴らとはいずれ決着をつけなければならなかったしな!!」
「ドラグーン4より、ドラグーン1、行くぞ!」
僕らのレーダーにも、敵の光点が出現する。数は7。大きいトライアングルが高速で僕らに接近してくる。相対距離はみるみる縮まり、嫌でも緊張が高まる。先手は敵のほうが早かった。長射程のAAMか!レーダー上に敵影以外の光点が出現する。反射的に機体をロールさせながら降下させ、さらに加速。ドラグーン2・4も後を追って降下。高度計とは対照的に速度計の数値が跳ね上がり、機体は矢のように夜空を切り裂いていく。ヘッドオンでの攻撃を断念した僕は、そのまま敵の下方をすり抜けた。トライアングルはそれぞれ散開し、まるで僕らを包み込むようにしてループを開始した。間違いない、このやり口は連中の――シュヴェルトライテのものだ!
「来たな、9103。戦う理由すら見出せない叛逆者どもめ、ここがおまえたちの墓場だ!」
その声はローゼズ大尉を撃ち殺した男のもの。だが、この間までと違うのは、理性を弾き飛ばすような怒りが湧き上がるのではなく、冷静にその言葉を受け止められたことだった。この間までの僕は、多分自分のためだけに戦っていたのかもしれない。だけど、今は違う。僕には守りたい人々がいる。帰らねばならない理由もある。何より、世界を破滅させてから再生しよう、そんな妄執を信じて止まない連中を、看過することは出来るはずも無い。そして、今の僕には、それを止める力が与えられている。ループしてくる敵から距離をかせぐためにこちらも大回りでループしつつ、大G旋回で方向転換。ヘッドオンで突入してくる2機に狙いを定める。同時にロックオン開始。程なくミサイルシーカーが敵に重なり、ロックオンを告げる電子音が響き渡る。僕は胸のポケットに入れたネックレスに軽く手を当てた。これを渡してくれた人の手のぬくもりを思い出しつつ、僕は発射トリガーを引いた。戦うのに理由が必要というなら、僕の理由は、僕たちの帰りを待っている人たちの元に必ず返るために戦うことだ!
「ドラグーン1、FOX2!!」