竜騎兵よ、永遠に


〜2011年度 オーシア空軍査問会議における議事録より抜粋〜

第9103飛行隊の解散について
2010年12月20日、搭乗員の叛乱により部隊としての実体を喪失した第9103飛行隊に関しては、2011年2月1日を以って部隊を解散、搭乗員及び整備員、ならびに首脳の全てを解任し、任務から解く。このうち整備員については不足している各航空隊への配置転換を行うものとする。

フランコ・ロックウェル少将
オーシア空軍の将官でありながら主戦派政権と結託、重要機密事項を漏洩する等の叛逆行為を行っていたことは明らかであり、軍事法廷にてその罪を問うものとする。なお、国家反逆罪容疑にて最高裁判所に設置された戦争裁判においても起訴された。

アダムズ・クライスラー大佐
参謀本部の許可なく独断で9103飛行隊を運用した責任は軍規に反するが、ベルカ事変終結のために彼と9103飛行隊が果たした役割は大きく、オーシア政府の「超法規的措置」に基づく判断によりその罪状を不問とする。第9103飛行隊統括の任を解き、参謀本部付とする。

第9103飛行隊搭乗員 ファーレン・ザウケン少尉
第9103飛行隊の叛逆後の作戦行動において、ノース・オーシア・グランダー・インダストリーの開発したZOE-XX02による砲撃を受け殉職。二階級特進として大尉を授与すると同時に、英雄十字章を授与する。

第9103飛行隊搭乗員 グレン・チェン・ガイヤ大尉、ハリー・ウォーレン大尉、ワルター・グレッグ中尉、カイン・ケネスフィード中尉、ハヤト・アネカワ特務中尉
参謀本部の許可なく部隊運用を行ったクライスラー大佐の違法な命令に従い、独断に基づく作戦行動を行った責任は軍規の明確な違反である。が、ベルカ事変終結のために第9103飛行隊が果たした役割は大きく、オーシア政府の「超法規的措置」に基づく判断によりその罪状を不問とするが、3ヶ月の休職を命ずる。復帰を希望する場合は一階級昇進を約束するものとする。

追記
ハヤト・アネカワ特務中尉に関しては、正式に中尉に昇進のうえ参謀本部付とする。1ヶ月の休職後、速やかに参謀本部に出頭されたし。
ガイヤ大尉に言わせれば望外のバカンスは終わり、いくらか鈍った体に久しぶりの軍服を着て首都オーレッドの参謀本部に出頭した僕は、まるで第9103飛行隊に配属されたときのようにすぐさま輸送機に乗せられ、任地へ向かうこととなった。ベルカ事変終結から早2ヶ月が過ぎ去り、オーシアはようやく春を迎えようとしている。可愛い二人のお子さんと可愛らしい細君に囲まれて顔が緩みっぱなしのガイヤ大尉に見送られてきた身、そしてガイヤ大尉とどうやら同じ身の上になりそうな時間を過ごしてきた身は、いきなり実戦部隊に配属されるような気分で一気に引き締められ、正直なところ胃の辺りが痛かった。輸送機に乗ってのフライトの時間はそれほど長いものではなく、首都からそう離れていない基地に運ばれたことは感覚的に知ることが出来た。案内担当の女性士官に促されて地上に降り立った僕は、思わず息を飲んでしまった。地上設備は全く別物に生まれ変わっていたが、その景色はまぎれもないシグニッジ航空基地のもの。レールガンの攻撃で壊滅したはずの航空基地の滑走路は増設され、全ての設備が真新しいものに生まれ変わっていた。そして、部隊に配属された機体なのか、オーシア軍のものではなく、どこかで見た記憶のある漆黒のカラーリングに赤いスポットペイントが施されたF/A-22とSu-37が格納庫の前に並べられ、整備兵たちが点検と整備に走り回っている。呆然と辺りを見回していた僕は、傍らの女性士官が敬礼をしていることにすら気が付かなかった。
「どうした、別に珍しい機体が並んでいるわけではないだろう?」
唐突に声をかけられて振り返ると、フライトジャケットを羽織った大柄の士官――階級章は少佐だった――が人当たりの良さそうな笑いを浮かべて立っていた。慌てて遅ればせながらの敬礼を施すと、少佐殿も敬礼に応じた。
「やれやれ、参謀本部はどうやら何も言わずに君を送り込んだみたいだね。失礼した。レイヴン航空隊へようこそ、ハヤト・アネカワ中尉。私はこの部隊の編隊長の一人を務めるマーカス・スノー少佐だ。「亡霊部隊」での腕前は私も耳にしているよ。これからの活躍に期待している」
マーカス・スノー少佐だって!?何だって、海軍航空隊きってのエースが空軍の指揮官にいるんだ?いや、そもそも僕が配属されたこの基地で、僕は一体何をやるっていうんだ?当惑しきっている僕の顔を見て、スノー少佐は愉快そうな笑みを浮かべる。
「スノー少佐、自分はこの部隊での任務も聞かされていないのですが、海軍航空隊である少佐殿が何故?」
「そういう部隊だからだよ、中尉。この部隊は、オーシアだけじゃなく、ユークトバニアからも隊員を集めている。ハーリング大統領とニカノール首相のトップ会談で決まったんだよ。両軍の指揮系統には直接属さずに、独自の指揮系統を持つ共同軍構想がね。我々はそのプロトタイプというわけだ。もちろん、文化も国籍も違う者同士が同じ部隊に配属されるわけだから、色々面倒なこともあるだろう。だから、私も含めた教導隊による再訓練を全メンバーに受けてもらう。ついていけない奴はすぐに追い出してやるから、もしそうなったら早めに言ってくれ。……なあに、中尉なら充分に耐えられるよ、安心したまえ。お、隊長殿のお出ましだ。隊長ーーっ!新入りが来ているぞ!!」
耳が痛くなるような大声で呼んだ先に、「隊長」がいた。基地に配備されたらしい機体と共にいる。そして僕はその機体から目を離せなくなってしまった。漆黒を基調としたカラーリングは他の機体と同様だが、そのコクピット下には見覚えのあるエンブレムが描かれていた。空への飛翔を待つ、竜騎兵の姿が。エルアノを去るときに別れを告げたはずの愛機が、色は変わっているけれどもそのままの姿で僕の目の前を過ぎていく。誘導路をゆっくりと進んだかつての愛機は格納庫の一つの前で速度を緩め、そして停止した。キャノピーを開けたまま乗っていた「隊長」はタラップを飛ぶように下り、そして僕らの方へと歩いてきた。僕はようやく、この部隊の正体に気が付き始めていた。漆黒のカラーリング。赤いスポットペイント。これは、あの日南ベルカで見た、ラーズグリーズそのものじゃないか!僕が直立不動の敬礼を施すと、「隊長」はスノー少佐よりもスマートに敬礼を返してくれた。その襟元には、やはり少佐の階級章。
「アネカワ中尉だね。君に乗ってもらう機体だ。乗り方は教えなくても大丈夫だろう?これから一緒に飛ぶんだ、よろしく頼むよ。君の腕前は聞いているし、俺もスノー少佐も実際に見ているから良く分かる。俺が教えられることがあるかどうか分からないけど、君は俺の編隊に加わってもらう。そうだね……殿は部隊の中でも特に重要な役割という。とりあえずは4番機でどうかな、ドラグーン1?」
自然に差し出された右手に、僕はつられて手を出していた。そして、「隊長」の正体に何となく気が付いてしまった。いや、これだけ証拠が揃えば、誰だって気が付くに違いない。どうやら、僕の新天地は9103、ドラグーンに劣らない、素晴らしい部隊になったようだ。一時はもう二度と飛ぶことが出来ないんじゃないか、と不安になったりもしたが、僕はこれからも最高の環境で飛び続けることが出来るのだ。ここに来られた幸運に感謝しつつ、僕は僕の編隊長の手を握り返した。
「これからよろしくお願いします、ラーズグリーズ!ドラグーン1、4番機を拝命いたしました!!」

――Fin.

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