あとがき


飛行機の窓の外を、険しい山々が通り過ぎていく。羽田空港へ向かう飛行機は、あと1時間程度で着陸するはずだ。とりあえずそれまでに空港で買ってしまったいくら弁当をたいらげなければならない。いや、やはりここは寝不足の解消のため飯を後回しにして仮眠しておくべきか。それとも折角プログラムが組まれている平井○のアルバムを聞いておくか。ううん、困った。ドリンクサービスまで始まってしまった。仕方ない。ここは観念してコンソメスープを頂くことにしよう……。
書き終えてみたら、ジュネットレポート込みで60話!ここまで長くなるとは正直思いませんでした(笑)。書き始めて、6話か7話書いた辺りで、一度後悔しました。これ、終わるまでに一体どれほどの時間がかかるんだろう?、と。11月辺りから書き始めたわけですから、それからほぼ毎日1話ずつ書き続けて、ほぼ丸2ヶ月間に渡って連載を続けた計算になります。それも、話のイメージを作るためミッションを何度か繰り返しながら。当然睡眠不足になるわけで、連日睡眠時間が4時間半程度と、まるで決算作業中の状態が続いたというわけです(笑)。でも、こんなに楽しく文章が書けたのは恐らく初めてです。なんとなく、締め切りに追われる作家の気持ちが分かるような気もしましたが、このペースで書き続けられたのは、ラーズグリーズ・エイセス戦記を読み続けてくれた読者の皆さんのおかげです。

エースコンバットシリーズ第5作となった本作は、前作AC04に比べさらにストーリー性が強化された作品でしたが、かといって他の作品のように主人公のキャラクター性がガチガチに設定されることも無く、書き手としては書きやすかったように思います。そして主人公を取り巻く名脇役たち。ストーリー後半、ラブラブな会話で話を変な方向に盛り上げてくれるバートレット、「愛」の伝道師(笑)スノー大尉、軍帽姿がとても素敵なアンダーセン艦長、かつての凄腕パイロットだったおやじさん、盛り上がったお腹がとてもキュートなペロー司令官、新米バリバリだったのにいつの間にかエースの一人に育ったグリム、そして、ナガセ、チョッパー。あ、某RPG大作で唯一の人間として苦労を強いられるア○ンのように、急転直下する事態に翻弄され続けるジュネット君もいましたね(笑)。そのそれぞれのキャラクターが、物語の随所で満遍なく活躍しているストーリー構成は見事でした。なので、今回の物語を執筆するに当たっては、いかにオリジナルの展開を損なうことなく、自分の想像部分を追記していくか、という点に苦心しました。ゲーム中に聞いているときは盛り上がるような台詞でも、文章でただ書いただけでは全然雰囲気が伝わらないときも多々あり、そんなときはどうしたら良いのか、書いては消し書いては消し、という作業を繰り返したり……。さらには誤字脱字だらけであることをtagosakuさんや皆さんに指摘されて修正を加えたり……。

ちなみに、ここで断っておきますが、私自身は最近流行の平和至上主義者ではありません。もちろん、折角情勢が落ち着いていた中東にわざわざ攻め入って混乱の種をばら撒き、多くの人々を殺害してそれを「正義の戦い」などと叫ぶ某国の猿とその猿を否定できないあの国のやり方には全く同意しませんし、旅客機をハイジャックしてビルに突っ込ませ、無辜の人々を無差別に虐殺してそれを聖戦と呼ぶ一部の宗教テロ集団にも全く同意する気にもなりません。でも、全ての国、全ての人々が兵器を、武器を捨てれば平和になるのでしょうか?世界にいくつもある宗教はそれぞれの信者たちの平和を保障しているように見えますが、それを信じない人間には全く容赦ありません。兵器を用いなくても、政治的に国家を罠へと陥れていくやり口は今日でもまかり通っています。よくどこぞの知ったかぶりの解説者や芸能人が、これまた知ったかぶりの顔で政府或いは日本なら自衛隊に対してコメントするわけですが、最近はそういったコメントに失望させられ続けているような気がします。私自身は、他人を傷つけたり陥れたり、というのは御免ですし、まして他の国を侵略して我が物にしようなど、考える気にもなりません。でも、これが自分の身、或いは自分の家族たち、そして仲間たちに攻撃の矛先が向いたとき、多分私は率先して対抗するでしょう。それこそ、他人を傷つけ陥れて。自分が守りたいものを守るために。

NAMCOさんの思惑は分かりませんが、私たちの分身たるブレイズは、自分と全く関係の無いところで突然発生した「戦争」という異常事態に叩き落され翻弄されていきます。そして初めての実戦を経験し、戦闘という行為の中で他人の命を奪っていく……。いつしかオーシア軍のエースとなった彼らは、オーシアを勝利に導くため必然的にさらに多くの犠牲の山を築くことを強いられていく。これ、実際にその立場になったら相当苦悩するでしょうね。そしてそうしない限り、自分自身の命が危なくなってしまう。もちろん私は戦争を経験していない世代の人間ですから、実際に経験されている人たちに怒られてしまうかもしれませんが、そういう状況に追い込まれたとき、自分を見失わないためには何が必要なのだろう、と考えた結果、物語中のブレイズは「仲間たちを守り、全員で必ず帰還すること」を支えにしてみました。そんな彼が、彼の最良の相棒たるチョッパーを失ったとき、きっと心を引き裂かれんばかりの苦しみと悲しみにとらわれたのではないでしょうか。でも、物語中盤までは戦争に翻弄されまさに命令に忠実に働く「戦場の犬」であった彼らの戦う目的は、戦争を裏で操っていた真の敵の存在に気が付いたときから大きく変貌します。生き残るため、ただそれだけのために戦うのではなく、オーシアもユークトバニアも無く、この世界に平和と安定を取り戻すため、必要の無い戦いを煽り続ける者たちを葬るため、に。そしてその彼らに、無数の「心」が続いていく。それぞれの思いはあるでしょうが、ただ一つ、戦争を終結させ、平和を自分たちの手に取り戻すために。

平和が戻った後のラーズグリーズたちのことは、物語の中でも敢えて書いていません。いや、頭の中では色々と設定をしていたりするんですが、戦いが終わった後の物語は、プレイヤーの皆さん一人一人が膨らませていけばいい話で、書き手が書くものではありません。本編の家族たちが誰なのかも分かりませんし、アンダーセン艦長の率いるレイヴン隊に配属されたアグレッサーが誰なのかも分かりません(笑)。いや、そもそもハーリングがスキャンダルで失脚している(笑)かもしれないし、戦いの後のエピローグは完全にmasamuneが勝手に想像した絵空事です。なので、皆さんの想像と違っていたとしても「masamuneの書き方はおかしい!」と突っ込まれたら「はい、そのとおりです。私が考えました」と答えるしかありません。

でも、そんなこんなで書き続けてきた物語を応援してくださった皆さんのおかげで、ようやく物語を完結させることが出来ました。掲示板の皆さんの書き込みは本当にいい励ましになりましたし、それを支えに物語を書き続けてきました。この物語を読み終えたとき、もう一度最初からゲームをプレイしてみよう、そんな気分にもし読者の皆さんがなってくれていたら、それはmasamuneにとって最高の喜びです。どうか、安易に中古屋に持っていかずに、この際骨の隋までしゃぶり尽くすつもりでプレイしてみてください。そして、またあの空に飛び立っていってください。新しい物語、新しい伝説を作り出すのは、エースパイロットたる皆さんです。
「コクピットからご挨拶申し上げます。間もなく、本機は羽田空港への着陸ルートに入ります。偏西風の影響を受けまして、予定より20分ほど遅れての到着となることをお詫び申し上げます。それでは着陸まで、いましばらくおくつろぎ下さい。本日もご利用いただきまして、ありがとうございました」
私はいつの間にか眠ってしまっていたらしい。しまった!テーブルの上にはすっかり冷めてしまったコンソメスープが置きっ放しだし、いくら弁当に至っては一口も食べていないのに足元で転がっている。睡眠は取れたが中途半端に寝たせいで余計に頭も痛ければ眠くなってしまった。くそ、こうなったらコクピットをハイジャックしてもう一度札幌に戻って……戻ってどうする(笑)。私は観念して窓の外から眼下に広がる光景を眺めてみた。東京の綺麗な夜景が、冬の風に吹かれながら瞬いている。あの光の下では、無数の人たちが今日も家路を急いでいるのだろう。さて、明日はどんな一日になるのだろう。明日も変わらぬ太陽が昇りつづけることを願って、今日はペンを置くことにしよう。

2010年マイナス6年12月22日
――羽田空港へ向かう機上より、masamune

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