極西の飛行隊
攻略メモ
記念すべき初ミッション。操作に慣れることが前提のミッションなので、特に難しいことは無い。まずはSR-71を捕捉、追尾して一通りの会話が終わるのを待つ。この間編隊から離れていても特に問題はない。一通りの会話が終わると、方位280から敵機が接近してくる。最初は発砲できないので、攻撃に有利なポジションをとるべく、敵機に正面から突っ込むのではなくやや回避しながら回り込んでいく戦法が有効。バートレットから攻撃許可が出次第、攻撃を開始しよう。敵の動きは単調なので、機関砲でも十分に戦える。ミサイル2発で確実に撃墜が可能だ。
登場敵機:Mig-21bis、SR-71(ミッション中に墜落する)、HAWK GIGANTOR
自分の所属する飛行隊が未確認機との戦闘に遭遇し壊滅的な損害を被ったという事実を認識するのは難しい。戦闘機乗りなんていう平和な世界には本来無用なはずの仕事をしていても、実戦の経験を持たない人間がその事実を理解するのは難しい。そんなことを今更ながら思い知らされた。今日の朝飯を同じ食堂で食った連中の大半が、このまま順当に生きていれば当分の間会うことも出来ない世界にいっちまったなんて、そうそう信じられるもんじゃない。ガラガラになったブリーフィングルームで、生き残ったバートレット大尉がいすにそっくり返り、もう一人の生存者ナガセが青ざめた顔で座っていたとしても、ひょっこり連中が戻ってくるような錯覚に捕われる。いつでも陽気なダベンポートが一層陽気にしゃべりまくっているのは、恐らく自分と同じ心境をまぎらわせようとしているのではないか、という気になってくる。
大きく息を吐き出しながら、隊長が姿勢を直した。ここに来てから初めて見る顔だった。新人いびりの得意な鬼教官殿、の顔ではなく15年前の戦争を実際に経験した歴戦の戦闘機乗りの顔だ。
「本当はいっちょまえにしてからにしたかったんだが、如何せん人が足らん。訓練の足りていない新人も明日からスクランブル配置についてもらう。おい、ナガセ」
ブリーフィングルームに集まっている一同の視線が彼女に集中する。
「おまえは2番機だ。俺の目の届くところにおいておかないと何をしでかすか分からん。いいな?」
彼女はやや不服そうな顔をしていた。事実、彼女の腕前は部隊内でもトップクラス。実際に彼女と戦闘訓練で交戦したことは無いが、今日生還したのは他でもない彼女の実力だろう。
「あと2人だが、おいそこの五月蝿いの。お前だチョッパー。それとブレイズ。残念だがおまえらくらいしか戦場には送り込めん。残りの奴らは折を見て鍛えるからそのつもりでいろ。チョッパー、ブレイズ。順番は勝手に決めておけ。その代わり俺の側から離さず必ず生還させてやる。」
まさか自分に白羽の矢が立つとは思わなかった。確かに戦闘訓練は一通り終了しているがこの状況下で戦闘要員入りとは……。
「とりあえず今日は以上だ。明日からまた忙しくなるだろうから、今のうちに休んでおけ。以上、解散!!」
言いたい事を言い終わると、隊長殿は大股で部屋を出て行ってしまった。後に残された面々はそれぞれ不安な表情を浮かべて周りの連中と何か囁き合っている。エッジことナガセは、いつも持ち歩いている手帳に何事か書き込んでいる。そして図らずも相棒となってしまったチョッパーはといえば……。
「ブレイズ、よろしくな。ところで早速だが、くじをつくってみた。さっさと順番を決めてしまおう」
そういう彼の手にはいつのまにかマッチ棒が握られている。
「ちなみに3番はどっちだ、チョッパー。」
「頭のついている方。」
「じゃあ左にしよう。」
彼の手から引いたマッチ棒は……頭なし。つまりは4番機が決定したというわけだ。が気になって彼の手からもう一本のマッチ棒をひったくった。これも頭なし。
「おい、チョッパー!」
「いやいやいや、先に引いたのはお前なんだから、4番はお前で決まり!だって先に取ったんだから仕方ないだろう?まさか二人で4番機も出来ないしさ」
「なら複座型の機体に乗り込むか。そうすればお互いドン尻気分を味わえる。」
「どっちでもいい、チームを組むのに代わりは無いんだから早く決めて」
凛とした冷静な声は、もちろんナガセのものだ。
「というわけで、エッジもブレイズの4番機行きに賛成、と。これだ多数決だ」
「わかったよ。その代わり貸し1、だぞ。必ず返せよチョッパー」
渋々と認めるしかなかったが、これが当分の間尾を引く失敗であろうとは思わなかった。
翌日、俺は既に空にいた。スクランブル任務につくや否やの出撃任務。ユークトバニア軍のものと思われる偵察機が我がオーシア連邦領内を領空侵犯し、幾度かの警告の後発射されたSAMは偵察機、SR-71の片方のエンジンに損害を与えることには成功し、同機は高度を下げつつユーク領へと向かっている。こいつを強制着陸させるべく、ウォードック隊の4番機としてランダース岬の上空を飛ぶ。
「おい、4番、最後尾、どん尻、ブービー聞こえているか?」
「4番、感度良好であります。」
即座に応答してしまったが、ブービーってのは……?
「……ふん、返事だけは一人前のようだな。まぁいい、3番おまえも聞こえているな?」
「イエッサー、感度良好であります。いやぁ、それにしてもくじで3番になっといて良かったぜ」
不名誉なあだ名を回避したチョッパーがはしゃいでいる。本当にどこにいてもうるさい奴だ。
「うるさいぞダベンポート、何だ、おまえも何かあだ名が欲しいのか。だったら付けてやろう」
「いえ、本官は呼ばれるならチョッパーであります。それ以外では応答しないかもしれないであります。」
「ふん、分かった。だが心の中では別の名前でおまえを呼ぶことにする。」
「まじかよ、ひでぇなぁ、もう」
どうもチョッパーがいると緊張感が抜けるというか、緊張しすぎないで良いというか、ムードメーカーとは彼のためにある言葉なのではないかと思えてくる。一方のナガセは必要最低限の事しか声に出さないので余計に際立つ。
レーダーに目を移すと、お客さんの光点が目前に迫っている。SR-71は本来性能の良くない戦闘機で追いつくのも難しい機体であるから、SAMのダメージは結構大きいのかもしれない。やがて肉眼でも確認できる距離に入った。片方のエンジンから薄い煙を引きながら、ユーク領めがけて高度を保とうとしている。
「おい、おしゃべり小僧チョッパー。おまえには漫談の才能がある。ひとつ降伏勧告を披露してみろ」
「隊長殿にお任せするであります。」
「いやぁ、俺は人見知りでシャイなんだ。……いいから、やれ、おしゃべり小僧」
SR-71が旋回する。その動きをトレースしながら俺たちも旋回する。チョッパーは何回か咳払いをすると、回線を開いて偵察機に呼びかけを始めた。
「あーあー、前方の所属不明機に告ぐ。貴官の機体ではユーク領内に入るのも困難である。こちらの誘導に従い着陸することを勧告する。なお、貴官らの安全は保障する。……こんなとこでしょうか?」
「見事だチョッパー、だが「こんなとこでしょうか」は回線を閉じてから言え。減点1だ。」
「……」
だが、朗々としたチョッパーへの呼びかけに応答は無く、SR-71の進路も変わらなかった。
「おいブービー、俺回線開いていたよな?それとも他の言葉使った方が良かったか?……話せないけど」
「回線は開いていたぞ。聞こえていないはずは無いんだが……。」
嫌な予感がした。そう感じたのと管制機のサンダーヘッドからの通信が入るのとどっちが早かったろう?
「ウォードック隊、方位280から敵戦闘機群が接近中だ。許可あるまで発砲は禁ずる。敵を確認せよ。」
「向こうがこの間みたいに撃ってきたらどーするんだよ!」
「何度も言わせるな、許可あるまで発砲は禁止する。」
どうやらAWACSに乗っている奴はかなりの石頭みたいだ。もっとも、だからこそ管制機がお似合いなのだが……。やがてこっちのレーダーにも敵機の光点が出現した。敵は4機。先行しているチョッパーは間もなく敵とすれ違うはずだ。
「まじかよぉぉぉっ!!」
チョッパーの絶叫とバルカン砲の曳光弾が飛んでくるのとはほとんど同時だった。背筋が凍りつき奥歯が震えてがちがちと音を立てる。続けざまにレーダーロックをかけられ警報が鳴り響く。何とか操縦桿を握り締め旋回し、敵の後ろに張り付く。
「ウォードック、発砲を禁止すると言ったはずだ。許可を待て」
「冗談じゃないぞ、この石頭野郎!敵さん本気でぶっ放しているんだぞ!!何考えている!」
事実チョッパーは追いかけまわされているだけに真剣だ。そして敵さんの動きは明らかにチョッパーを撃墜しようとしている機動だ。
「ブレイズよりサンダーヘッド、敵機は本気だ。」
「許可は出ていない!待てといっている。」
「のわぁぁぁぁっ!レーダーロックをかけられた、畜生!!」
言っているそばからチョッパーの絶叫。必死に逃げ回る彼を嘲笑うように敵機が追い回す。畜生畜生畜生!みすみすチョッパーを見殺しにするつもりか!!
「……全機聞こえているか。発砲を許可する。全部撃ち落せ!!」
ハートブレイク1がチョッパーに喰らいついたミグに対してAAMを発射する。突然の攻撃に驚いたミグは急旋回を試みるがその背中をミサイルが直撃する。爆発四散する機体。サンダーバードが何か喚いているがそれどころじゃない。俺もまた目の前のMig-21bisにレーダーロックをかける。ロック。これが命中すれば相手の命は恐らくないだろう。この手で初めて人を殺しに行く瞬間。迷いを振り払うように発射ボタンを押し込む。軽い振動とともにAAMは翼を離れ、獲物目掛けて駆け出す。数秒後、近距離にいたMig-21bisは機体後部を吹き飛ばされ、きりもみ状態に陥りながら落ちていく。一瞬目眩がするくらいの急旋回をかけて、方位030の敵に喰らいつく。さっきまでのお返しだ!バルカン砲の連打に見舞われた敵機は、主翼をへし折られ煙を吐きながら高度を下げていく。
「ブレイズ、7時方向敵機!」
ナガセの警告に体が瞬時に反応した。180°ロールして背面旋回をかけたその目前をバルカン砲が通り過ぎる。ちょうど目の前に、敵のコクピット。すかさがトリガーを引き、反撃を浴びせる。砲弾はキャノピーを突き破り、パイロットの身体を血飛沫に変える。血飛沫?すれ違う瞬間、バルカン砲の直撃を浴びて吹き飛んだパイロットの血で染まったコクピットが嫌になるほど焼き付いた。冷や汗が背中を濡らし、再び奥歯が震えてくる。今更ながら、人を殺したという事実に戦慄する。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
言葉にならない絶叫はチョッパー。きっと奴も俺と同じ心境なんだろう。こうなったらとことん喰らい尽くすまでだ!新手の攻撃に回ったハートブレイク1の右翼に付き、攻撃態勢を取る。すれ違いざまに一機をバルカン砲で屠り、上昇反転して次の獲物に襲い掛かる。AAMの排気煙が2本伸びていき、やがてその先端で爆炎があがる。四散した機体が、慣性の法則に従って散っていく。気がついたとき、俺たちの周りの敵は刈り尽くされ、静けさが海面を覆っていた。
「ドックファイトって、案外きついぜ……。」
饒舌なチョッパーでさえ、相当に疲労している。俺だってそうだ。正直なところ、着陸したらコクピットから下りられないような気さえする。
「おい、ブービー、生きてるか?……生きているようだな。全機、よく生き残った。この良き日を忘れないように、ブービー、おまえがどこのポジションにいても今後ブービーと呼ぶことにする。いいな、ブービー?」
チョッパーのイカサマに引っかかったことを、俺は本気で悔やみ始めていた。
この日の戦闘は公式記録に記されず、部隊には緘口令が敷かれた。バートレット隊長は本部に呼び出され、たっぷりとしぼられているはず……あの隊長がその程度でへこたれるとは到底思えないが。今はとにかく眠りたかった。警報に叩き起こされるのだとしても、今はただ眠らせて欲しい。