間隙の第一波


攻略メモ
ユークトバニア軍の宣戦同時攻撃を受けたセントヒューレット軍港。その支援に赴くミッション。このミッションから隊長機としてエッジ、チョッパーに作戦指示を出すことが可能となる。が、そんな指示を出したり周りの通信をのんびり聞いている暇も無いほど忙しいミッション。何派にも渡って波状攻撃を繰り返すA-6Eの大群が当面の相手。大体の場合2機編隊で突入してくるので、なるべく一機はすれ違いざまのミサイルで仕留め、急反転してもう一機を落とす作戦が有効。少しでも攻撃が遅れると空母ケストレルなどの主力艦隊が攻撃を受けてしまうので注意しよう。
その後一定数の敵を撃破すると、ケストレルに乗艦しているアンダースン提督から脱出作戦の指示を受ける。軍港外に展開している敵封鎖線を強行突破することになる。フリゲート艦やミサイルボートの他、敵戦闘機群も多数登場する。フリゲート艦はF-5Eに搭載されているUGBを使用して沈めるのが有効だ。また敵戦闘機の中でもMir-2000は強敵。ミサイル2発では仕留めることが出来ず、もう一発お見舞いしなければならない。もし背後にぴったりとつけるなら、バルカン砲で落としたほうが良い場合も。
何派にも続く敵の猛攻を凌ぎ、敵封鎖線を壊滅させればミッションクリア。ミッション1・2が嘘のような激しいミッション。息つく間もない敵の猛攻をとにかく耐えるしかない!
登場敵機:A-6E、F-4E、F-5E、Mir-2000、NIMROD、F-14D ZIPANG、ミサイルボート、フリゲート、駆逐艦

バートレット隊長の救助をこの目で確認することもなく、慌しく基地に帰投した俺たちを迎えたのは「ユークトバニア宣戦布告」という驚愕に値する事実だった。宣戦布告と同時に、現在第三艦隊が停泊中のセントヒューレット軍港に対しユーク軍の航空部隊が攻撃を開始し、港は大混乱に陥っているという。俺たちは慌しく再出撃の準備に追われる整備兵たちの姿を、機体から降りることも許されず見守っている。
「ブレイズ、聞こえているか。」
こんなときに聞きたくも無い司令官殿の濁声。バートレット大尉がいない今、その応対は自分に任されてしまっていた。
「ユーク軍は不敵にも我が第三艦隊を狙って執拗な攻撃を続けておる。いいか、奴らを徹底的に叩き空母ケストレルたちを守るんだ。無様に舞い戻ってくることは許さん。部隊の名誉に泥を塗ってくれるなよ。」
……そして前線に行くのは高級士官ではなく、いつも俺たちだ。心の中で彼らを罵りつつも、つとめて平静に「了解」と応え通信を切る。
「ブレイズ、こちらビーグルだ。おまえたちの機体の準備は完了した。出撃体制に入れ。必ず帰ってこいよ。整備班の方で、無事に帰ってきたらコーヒーでも振舞ってやる」
「おやじさん、出来れば俺はココアがいいんだけど。」
「チョッパー、好き嫌いは良くないな」
おやじさんの通信は絶妙のタイミングというか、チョッパーの悪態が絶妙というのか……。司令官殿との不毛な会話が打ち切られたことでいくらか気も楽になった。
「ウォードッグ、ランウェイオールグリーン。無事に帰ってこいよ。」
「ウォードッグ、ブレイズ了解。離陸します。」
今は、生き残ることだけを考えよう。俺自身も、そしてナガセとチョッパーも生き残れるように。これまでの離陸で、一番胃の辺りが痛む離陸だった。

隊長を欠き、3機のトライアングル編隊を組んだ俺たちはセントヒューレット目指して飛行を続けている。軍港は極度の混乱状態にあるらしく、同士打ちまで発生している。自分らも含めて、平和な時代に流された軍隊は、突然の急変に対応する能力を失ってしまっているようだった。
「こちらサンダーヘッド。エッジ、今日からは君が指揮を執れ」
俺自身もそうあるべきだと考えていた。空戦技術、冷静な判断力を持つ彼女こそ隊長に相応しいと。だが、彼女の答えは意外なものだった。
「ネガティブ。指揮はブレイズ、あなたが執って。私はあなたの後ろにつく。」
「エッジ、命令に従え。君が指揮を執るんだ。」
「私はもう1番機を落とされるわけにはいかないの。」
ナガセの決意は頑なであった。自分のミスで隊長をベイルアウトさせたことを彼女は嫌になるほど責めていたのだろう。ならば答えは決まっている。
「サンダーヘッド、間もなく我々は軍港に到着する。本隊の指揮は、自分が取ります。それとも何か不満材料がありますか?」
ストーンヘッドを黙らせるのと、その通信が入ってきたのとはどちらが早かっただろう。俺らの後方から、高速で友軍のF-14Aが接近してきたのだ。
「何をうろうろしているんだ!ここは戦闘区域だぞ。所属を言いたまえ!!こちらは第三艦隊空母ケストレル所属、スノー大尉である」
「うろうろ、って、俺たちも軍港の支援に来たんだぜ。何て言い草だ」
「よせ、チョッパー。こちらはサンド島分遣隊ウォードッグ、自分は現在その指揮を執っているブレイズであります。現況はどのような状態ですか?」
旋回して俺たちの前方にF-14Aはポジションを取っている。ケストレルの航空部隊といえば、年に一度開催される空軍主催のトライアルで幾度もタイトルを取ったことのあるエース部隊だ。その中に、スノー大尉の名前があったことを記憶している。
「現在軍港は極度の混乱状態にある。右も左も敵機だらけという状態だ。とにかく戦力が足らない。支援に感謝する!いくぞ!!」
早くも敵航空機の放つ光点がレーダーに出現する。A-6Eを主力にした航空機部隊が、次々と港から離れられない艦艇に攻撃を加えていた。
「エッジ、チョッパー、散開するぞ。相手は攻撃機だ。とにかく制空権を取り戻すんだ!」
「エッジ了解!」
「チョッパー了解、へいブービー、隊長姿が決まってきたぜ!」
ブレイクして俺もまた前方から接近するA-6Eに狙いを定める。すれ違いざまの攻撃で1機を仕留め、急旋回してもう1機の後背に付く。
「うぉっ何だ!敵の航空兵力は壊滅したんじゃなかったのか!?」
「おい、ねぼけているんじゃないぞ。友軍以外に今誰がいる。七面鳥撃ちとはこのことじゃないか。」
レーダーロック!俺はAAMを放ち、早くも次の獲物を探し始めた。しばらくして、敵の断末魔の悲鳴が混戦した通信に響き渡る。タイミングよく前方にケツをさらした敵機の尾翼をバルカン砲で吹き飛ばし、もう1機には再びAAMを見舞う。爆炎に包まれて墜落する友軍の姿を目の当たりにして、ようやく敵は状況を認識したようだった。
一方の友軍の混乱ぶりは見ていて呆れるほどのものであった。今頃になって軍港のコントロールが本物の奇襲で演習ではないことを告げ、戦闘中の艦艇から「見りゃわかる」と罵声を浴びせられている。爆弾攻撃を受けて炎上した艦船を消火中の船舶が誘爆に巻き込まれ、さらに火災を拡大する。中には友軍の流れ弾に当たって損傷した船舶まで出ている。
「10時方向、敵だ、敵戦闘機だ。撃て撃て撃て!!」
「馬鹿っ、識別信号を見ろ、あれは友軍機だ。目薬さして良く見やがれ!」
「おい、10時方向ってどの艦から見て10時なんだよ。」
「駄目だ、艦を捨てて投降しよう。今ならボートも降ろせる!」
「馬鹿野郎!味方の進路をふさぐつもりか!!何を考えていやがる!!」
味方の混乱は一向に収まる気配が無い。俺たちは敵航空戦力の撃退に奮戦していたが、今の状態では脱出どころの話じゃない。
「このままでは、全部やられてしまうわ」
ナガセの言う通りだ。何か打つ手は……。ふと見下ろした眼下に、巨大な平面。空母だ。混乱している軍港のなかで、その一団だけがまだ整然と航行している。
「上空を飛行中の友軍機、こちらは第三艦隊所属航空母艦「ケストレル」艦長アンダーセンです。本艦隊はこれよりセントヒューレット軍港を脱出すべく突破作戦を試みる。願わくば、本艦の脱出を支援してもらいたい。また軍港内の艦艇に告ぐ。生き残りたければ、本艦に続き航行せよ。」
落ち着いたその声に、味方の混乱が収まろうとしていた。航行可能な艦艇が、敵機の攻撃を回避しつつ、ケストレルの周りに並んでいく。
「さすがは、アドミラル・アンダーセンだぜ。貫禄あるもんな」
「チョッパー、隊長に失礼よ。それにまだ敵が来る!」
艦隊前方からA-6Eの編隊が接近する。奴ら、意地でもこの軍港を艦隊の墓場にしたいらしい。

一体何機の敵を撃墜したのかもう覚えていない。とにかくひたすらケストレル目掛けて突入してくる敵の波状攻撃を迎撃し、気が付いたときには敵の攻撃が止んでいた。だが、敵は海上封鎖線を敷いてケストレルを待ち受けていた。
「ウォードッグ、貴官らの支援に感謝する。が、もう少し協力してもらいたい。前方の封鎖線を我々は強行突破する。もう一度、支援を乞う!」
「ウォードッグ、ブレイズ了解!チョッパー、エッジ、もうひとふん張り行くぞ!」
「アイアイサー。人使いの荒いとこまでバートレット隊長に似てきたぜ。」
機体を降下させ、海面スレスレの高度で敵艦隊に接近する。予想外の奇襲に敵艦隊の陣形が乱れる。
「今だ!!」
転舵して側面を見せた敵艦に、3機の集中攻撃を浴びせる。艦橋付近に直撃を被った敵艦は、漂流して間もなく轟沈しあっという間に海の藻屑と消えた。ケストレルをやらせるわけにはいかない。俺たちは残る弾を全て使い尽くすほどの猛攻を敵艦隊にぶつけた。気が付いたとき、敵艦の姿は洋上になく、オイルと破片と脱出した乗組員達の乗るボートが海面を埋めていた。
「軍港を脱出した全艦艇の諸君、作戦成功おめでとう。それから航空支援に当たってくれた各航空隊の諸君、ありがとう。本艦隊はこれより内陸へ向けて退避行動を取る。本当にありがとう」
歓声が通信にも響き渡る。安堵のため息を付きつつ海面に目を移した俺の目に、別のものが映った。ぴくりとも動かない人間の姿。船の破片に乗りながら、身動きもしない人間だった欠片。今、自分たちが攻撃し奪われた命の残骸もまた海面に、そして海中にも散らばっている。気色悪い冷や汗が、背中を湿らせていく。
「ブレイズ、おまえも同じものを見たのか?あれ……顔だったよな?」
「ああ……。」
「うぉぉ、気分が悪い!畜生、見たか、隊長!!俺たち3機は生き残ったぞ!!なあ、ブレイズ、帰ったら隊長にたっぷりと自慢してやろうぜ。俺たちは無事に飛行機も持って帰りましたよ、ってな!!」
勝利とは裏腹のやりきれなさを振り払うように、チョッパーが叫ぶ。これからは休む間もなくこんな気分に浸されていくのだろうか。それとも間隔が麻痺して何でもなくなるのか。戦争が始まった、という事実の前に、今回の勝利の余韻に浸る余裕はかき消されていくようだった。

軍港から帰還した俺たちを待っていたのは、良い知らせではなかった。救援ヘリが到着したとき、ベイルアウトしたバートレット隊長の姿はどこにもなかったのだ。敵艦も去った状況下ではその生死も確認する術が無かった。司令官殿は、今日から俺がウォードッグ隊の隊長として指揮を執る事を正式に決定し、司令官権限で俺を特務中尉に昇進させた。そんなものはいらなかった。正直なところ、俺は途方に暮れている。俺は隊長を見捨てる判断を下したことを本当に後悔していた。知らせを聞いた後、部屋にこもってしまったナガセの心境が痛いほど分かる。胃だけでなく、頭までがひどく痛む。今晩は眠れない夜になりそうだった。

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