第三艦隊集結
攻略メモ
ユークトバニアに対抗すべく、戦力の再編成を行うため先の戦闘で生き残った空母を内陸まで護衛するミッション。だがここにも敵の攻撃が迫る。ハリアー、そしてF-35Cという垂直離着陸機を主軸とした敵の対艦攻撃部隊による奇襲である。今回の敵はうっかりしていると「ホップアップ」を使われて背後に回りこまれることもあるので、そうなる前にミサイルで撃破してしまう方が良い。ミッション3同様に敵の攻撃が四方八方から行われるので、極力最低限の迂回で敵を叩けるようにレーダーをこまめにチェックした方が良い。
敵戦闘機部隊の攻撃を退けると、敵の弾道ミサイル攻撃が開始される。5,000フィート(1,500メートル)以下では撃墜されてしまうため、管制官の「着弾まであと何秒」という通信を聞いたら速やかに5,000フィート以上まで上昇することが必要。
登場敵機:ハリアー、F-35C
ユークトバニアの先制攻撃によってオーシアの受けた損害は決して少なくなかった。特に、ユークとオーシアは海を挟んでいる以上、戦闘の最前線となるのは俺たち空軍と海軍。空軍の損害もさることながら、海軍は出港も出来ずに沈んだ艦艇は数知れず、何とか航空母艦は温存できた、というような体たらくであった。そうはいっても、航空母艦を温存できたことは我が軍にとって幸いといっても良いだろう。その生き残った空母を内海に移動させ、艦隊を再編成させるという方針は決して誤ったものではなかった。少なくとも、イーグリ海峡通過までは全てが順調だったのだ。
「へいブービー、こうしてエスコートってのも悪くない気分だな。幸いここはうちの国内。久しぶりに肩の力を抜いて空を飛んでいる気がするぜ。」
「ダヴェンポート少尉、作戦遂行中だ。私語を慎むように。」
「折角いい気分なのに、風紀委員だけはいるんだからなぁ。」
「ダヴェンポート少尉、私語は慎めと言っている!」
いつもながらのチョッパーとサンダーヘッドの罵り合いに苦笑しながらも、俺自身久しぶりにリラックスして飛んでいたことは否めない。悪天候の空であることは残念だったが、海上を移動する空母にしてみれば空を覆う雲がバリケードの役目を果たす。考えようによっては良い天気とも言えなくも無い。
俺たちの編隊はダイヤモンドを組みながら時に旋回し、空母部隊護衛に当たっていた。先日俺らを怒鳴り飛ばした空母ケストレルのスノー大尉の乗るF-14A編隊も同様に上空警護についていた。
「ソーズマンより、ウォードッグ。先日のサンド島空襲の時の活躍を聞いたぞ。どうやら、短期間で随分と歴戦の戦士らしくなったようじゃないか。」
「ブレイズよりソーズマン、恐縮ですが、基地を守りきったのは部隊の皆の活躍です。私の戦功ではありません」
「おやおや、すっかり君は将来のエース候補として賭けの対象になっているんだがな」
苦笑しながら海岸線に移した視線に、微かに見えたものがあった。厚い雲の隙間から見えたのは、確かに機影のように思えたのだが……。
「チョッパー、今海岸線の方に機影が見えなかったか?」
「いや、ブービー、こちらからは確認できない。レーダーに反応はないしな」
その直後だった。空母ヴァルチャーの左舷側を航行していたフリゲート艦からいきなり火柱が上がった。
「ASM直撃!!左舷ファランクス撃て撃て撃て!!」
「駄目です!!回避不能!!直撃来ます!!」
さらに2本のASMを食らったフリゲートは大爆発を起こして沈没し始める。あれではほとんどの乗員が助からない。やはりさっきの機影らしきものは敵機だったんだ!空を垂直に上昇していく機影が、今度ははっきりと確認できた。AV-8Bハリアーだ!!
「気をつけろ!敵はVTOLだ。各機、敵の動きが止まったところを狙え!」
上昇し反転中の機体にAAMをお見舞いし撃ち落す。混信した通信に、撃ち落された機のパイロットがあげる断末魔がこびり付く。一体どこから侵入していたんだ、こいつらは!?海峡の狭いルートに悪天候。こうなると天候をうまく活用したのは敵さんということになる。
「いやぁ、反復攻撃の練習みたいで勉強になるなぁ、これ。」
グリムは思った以上に本番度胸がある。妙なところで関心をしていることに苦笑させられる。
「サンダーヘッドよりアーチャー、今は戦闘中だ。不必要な私語は慎みたまえ!」
「あ、はい!申し訳ありません。アーチャー、突貫します!」
「そうだぞグリム、敵さんに感心するくらいならブービー、じゃなかったブレイズの飛び方を学んだ方がマシだぞ!」
「サンダーヘッドよりダヴェンポート少尉、貴官もだ!!」
「……」
ヘッドホンごしにはナガセの盛大なため息が聞こえてくる。もっとも、その間も俺たちはAV-8B隊を徹底的に攻撃し、移動中の空母にカスリ傷すらつけさせていなかった。執拗な攻撃は第8波まで続き、俺たちはその全てを撃破することに成功していた。
「ぷう、敵さん、どうでもいいけどこいつは相当恨みでもねぇとここまではできねぇぞ。」
「彼らの機体では、本土までの飛行は難しいはず。一体どこから飛んできたというの?」
「こちらケストレル。ウォー・ドッグ隊、前方に新たな敵機の機影をキャッチ。どうやらこいつらが本命みたいだ。恐らく遠距離からの攻撃が可能の連中だ。」
「ブレイズ了解。攻撃前に撃破する。行くぞ、エッジ、チョッパー、アーチャー!」
トライアングルを組んで俺たちは艦隊前方に展開する航空機部隊を目指した。だがレーダーの反応は鈍く、光点は微かにしか反応が無い。
「おいブレイズ、俺っちのレーダーには何の反応も無いんだがよ、おまえさんの方で何か見えるか?」
「いや、微かな反応はあるんだがまだ確認できない。レーダーの故障ではなさそうだ。」
反応はあるがはっきりしない?……まさか!
「うわぁぁぁっ!後背に敵機、後背に敵機!!」
グリム機の後ろに、いつの間にか敵機がへばりついている。いや、俺たちの周りにもいつの間にか敵機が!
「隊長、こいつらステルス機!!」
F-35!!最新鋭の垂直離着陸戦闘機まで敵は投入していた。AV-8Bとは比べようの無い機動性を発揮して、俺たちの周りを飛び交う。パイロットの腕もなかなかのようだ。その翼の下には大型のASM。あれが発射されたら、空母といえどもひとたまりも無いだろう。させるものか!!
なかば強引に機体を旋回させ、相手の側面を取る。エンジン付近にバルカン砲の集中砲火を浴びせ、エンジンと機体後部を吹き飛ばす。落ちてくる機体を避けながら宙返りをした先に、まだ追いかけまわされているグリムの機体が目に入った。VTOL独特の動きに彼は完全に翻弄されていた。
「グリム、そのまま加速して振り切れ!旋回勝負ではあっちの方が上だ!!」
上から敵機にかぶり、その主翼めがけて砲撃をぶつける。翼に大穴があき、うち何発かがASMを直撃した。大爆発とともに機体が裏返り、そのまま回転しながら海面めがけて墜落していく。
「グリムよぉ、相手はVTOLだ。どんなに旋回していたって、ホバリングされて構えられてたらかなわねぇぞ!」
「あと少し、みんなもうひと踏ん張りだ!!」
チョッパーはグリムと、俺はエッジと編隊を組み、空母への突撃を開始したF-35の後背にへばりつく。
「くそっ、敵にこんな腕利きが出てきているなんて聞いてないぞ!」
「同感だ。だがこのまま引き下がるか!!」
逃がすものか。最大戦速で迫り、そのケツにAAMをぶち込む。ホバリングを試みたようだが、もともとの速度が付き過ぎていたためにむしろ機体の動きを止めてしまった一機が爆発四散する。もう一機にはエッジが食らいつき、主翼と胴体を切り離され海面に水柱をあげて爆発した。周りに敵影はなく、ようやく海峡は元の静けさを取り戻したのだった。
「サンダーヘッドより、各機、敵潜水艦が弾道ミサイルを発射した模様!間もなく着弾する!!警戒せよ、繰り返す、警戒せよ!」
「弾道ミサイルって……!?」
上方から光が急速に迫ってくるのが見えた。その光は上空で突然数個に分かれさらに大きくなった。反射的に操縦桿を引き、機体を一気に上昇させる。その刹那、激しい衝撃波が機体を揺さぶり、海面が大爆発に包まれた。
「た、隊長、我が艦隊が消えています!」
着弾点にいたはずの護衛艦隊が軒並み轟沈し、海面には激しく泡とオイルが散らばっているのが見えた。空母バザードも甲板から炎をあげながらも何とか航行しているが、あの状態ではそう長くはもたない!
「第2波接近!航空機は5,000フィート以上まで上昇せよ」
「おいサンダーヘッド、5,000フィートってのは確かだろうな。」
「敵のミサイルの性能までいちいち把握していると思うか!第一波の炸裂点が5,000フィート以下なんだ。今はそれにかけるしかないだろう!」
第2波の衝撃波が再び空を揺るがし、そして炸裂した。空母バザードは直撃を食らい、真中からへし折れて爆沈。空母ヴァルチャーは艦橋に直撃を食らい、まだ浮いてはいるが実質的に航行不能。海面には破壊された艦艇のものであろう人間の残骸が無数に浮いている。いつだったかの海面のように。見方の通信は恐怖と悲鳴で埋め尽くされ、聞いているだけでも身の毛がよだつ。
「こちら空母ケストレル艦長アンダーセンだ。まだ諦めるには早い!機関全速前進、残存艦艇も我が艦に続け。敵の着弾点よりも前に進む以外に我々が逃れるすべは無い!」
セントヒューレット脱出作戦の最大の功労者、アンダーセン提督の叱咤激励が今回も功を奏していた。残存艦艇が再び息を吹き返し、ケストレルの周りを固めながら進んでいく。
「ウォードッグ隊、無事だったか!!」
そのケストレル所属のコードネーム「ソーズマン」こと、スノー大尉も健在であった。
「悔しいが私の部隊は全滅だ。運悪くほとんどの者が着弾点付近にいた艦艇の護衛についていたんだ。俺一人だけ、生き残ってしまったよ。」
スノー大尉の声は青ざめていた。それに応えた俺の声も同じようなものだったかもしれない。敵潜水艦は、この海域の艦艇の6割以上を沈めたことで満足したのか、それとも航空兵力が壊滅したことを悟ったのか、その後の攻撃はついに行われなかった。だが、上空で次々と艦艇が沈んでいく有様を見ているしかなかったことは俺たちにとって屈辱であった。
「ブービー、ブレイズ!何とか言ってくれよ。俺たちをボロカスみたいにさぁ!そうでもないと気がおかしくなりそうだ!」
「チョッパー、隊長がいたから今日も私たちは無事帰れる。そうじゃなくて?」
グリムとエッジの声は生還の喜びに満ちていた。だが、俺自身はチョッパーと同じような心境であった。数多くの味方を救うことも出来ず、見殺しにすることしか出来ず、自分たちだけが生き残った。それは許されることなのだろうか?心が一層暗く沈んでいく。蓄積した疲労は抜けることも無く、自分の体をさらに責める。
「ブレイズ?」
そんな俺の様子に気がついたのか、ナガセの声が少し優しいものになっていた。
「海上のみんなを救えなかったこと、私も悔しい。それに後ろめたい。でも、ブレイズは私たちを生還させてくれた。だから自信を持って、ブレイズ。ケストレルだって生き残った。今日生き延びたみんなが、やがてもっと多くの人を救う、私はそう信じている。だから、自信を持って、隊長。」
ナガセの言うとおりだった。生きていなければ、屈辱を晴らすことも出来ないのだから。基地や本土でふんぞり返っている連中には何を言われるか分かったものではないが、今日ここで共に戦った者は少なくとも俺たちのことを理解してくれている。
「すまない、ナガセ。確かに君の言うとおりだ。……ありがとう」
「どういたしまして」
心持ち、彼女の声に感情が宿っていたと思ったのは、俺の邪推ではなかったようだ。
その後の解析で、空母艦隊を攻撃したのは敵潜水母艦「シンファクシ」であることが分かった。我が軍はユークトバニア軍による弾道ミサイルを迎撃し、制空権を確保するため「アークバード」の投入を決定した。いよいよ我が軍はユークトバニアとの全面対決へと進みつつある。
任務終了後、俺たちは予定されていた空中給油を受けることが出来ず、近距離にあったハイエルラーク基地へと着陸した。俺たちもここで訓練を受け、ウォードッグへ派遣された。あれからそんなに日は経っていなかったはずなのに、俺たちは気がつけば恐らくオーシア空軍のパイロットの中でも最も実戦を経験し、そして空軍の人間としては最も多くの敵兵を殺した存在となりつつあった。