白い鳥(part1)
攻略メモ
衛星軌道上に位置するアークバードに、対地攻撃用のレーザーモジュールを搭載させるべく射出されるシャトルを防衛するミッション。第一波はC-130とそこからパラシュートで降下する空挺戦車。空挺戦車を撃墜するのが難しければ、着陸させてからの攻撃でも問題は無い。敵空挺部隊と護衛戦闘機群を退けると、敵はシャトル施設自体の破壊に作戦目標を変更してくる。巡航ミサイルが四方八方から次々と撃ち込まれてくるので、逐一それを迎撃することになる。ミサイル自体はこちらのAAM一発で落せるので、可能であれば正面迎撃で落してしまうのが手っ取り早い。厄介なのは左右や前後それぞれからの攻撃で、この場合は距離の近いほうに極力全速で近づいて撃墜し、もう一方までまたとんぼ返りするしかない。無事マスドライバー施設を死守し、シャトルを射出させることが出来ればミッションクリア。
登場敵機:C-130、F-16C、F-20A、TND-GR1、ミサイル、Mir-2000D ZAHRADA
敵潜水空母シンファクシの脅威を目の当たりにしたオーシア軍は、彼らに対抗すべくアークバードの戦線投入を決定した。そのための攻撃兵器モジュールをアークバードに届けるため、SSTO(単段シャトル)をマスドライバーで打ち上げることとなった。アークバード、そしてマスドライバー。平和主義者であるハーリング大統領と、彼と志を同じくするユークトバニアのニカノール首相との間で進められた共同プロジェクトであるこの宇宙への掛け橋は、本来の目的を果たすことなく、軍事転用という今まで幾多の発明が辿って来た道筋と同じ方向に歩みだそうとしていた。
先の戦闘で空中給油を受けることが出来なかった俺たちは、最寄の航空基地であったハイエルラーク基地へと着陸した。ここは、サンド島へ配属される前訓練を受けていた懐かしい場所。ほんの少し前まで、ここの訓練兵に過ぎなかった俺たちは、気がついてみれば今や我が軍で最も実戦経験の多い現役パイロットとなっていた。この地がかつては南ベルカと呼ばれ、もう少し北に行けば15年前のベルカ人による核破壊の爪痕に至ることを思い出したのか、ナガセの顔はやや曇りがちであることが気がかりではあった。
基地に到着した俺たちを迎えたのは、この基地で今まさに訓練を受けている新米パイロットだった。この基地の唯一のウリとも言っていい談話室に集まった彼らを前に話すのは、言うまでも無くチョッパー。バートレット大尉に「漫談の才能がある」と言われたのは伊達ではなく、これまで俺たちが駆け抜けた戦闘のことを面白おかしく……新米たちに余計なプレッシャーを与えないように大げさな身振りを加えて語る彼の話に、皆夢中になっていた。早くも雪の降りしきるこの地では暖炉が必需品となり、出番がないと思った俺は、暖炉に薪をくべながらまだ続いているチョッパーの話に耳を傾けている。暖炉に照らされたナガセの横顔に笑みが戻っているのを見て、俺は少し安心していた。ひょっとしたら、チョッパーの狙いは新人たちを元気付ける以上に、俺たちの部隊の紅一点であるナガセに元気を、微笑を取り戻すことのほうであったのかもしれない。
まだ空中給油を行う技量も無い彼らを連れて、給油に立ち寄ったマクネアリ空軍基地で俺たちはマスドライバーの危機を知らされた。ミリタリーバランスを覆しかねないオーシアの企みをユーク軍が放っておくはずも無かったのだ。SSTOの発射を目前にしながら、空挺部隊を中心とした攻撃部隊が迫っていたのであった。
愛機に乗り込み、出撃の最終チェックを俺たちは行っていた。すっかり乗りなれた愛機の周りを整備兵たちが駆け回っているが、開戦当初から連日スクランブル発進に見舞われていたサンド島の連中と比べるとその動きが緩慢であることは止むを得なかった。
「ウォードッグリーダー。こちら基地司令官であるアンドリュー大佐だ。当基地の航空隊と共にSSTO発射の支援にあたってもらいたい。それから戦闘訓練の完了していない連中は、出撃を認めない。彼らはまだひよっ子じゃないか!」
「司令官殿、お心使い、感謝します。彼らは将来、私たちの空を支える貴重な人材となるはずです。……彼らのことを頼みます!」
「ブレイズ、それは君たちも同じだ。武運を祈る。必ず帰還せよ」
アンドリュー大佐は空軍の士官の中でも部下思いで知られた珍しい高級士官であった。彼に礼を言い、俺たちは再び戦場の空へと上がった。敵の攻撃が迫るSSTO基地へと急行する。
「SSTO発射まであと10分。秒読みは継続する」
俺たちが上空に到着したとき、マスドライバー基地では既にカウントダウンが始まっていた。攻撃モジュールを背負ったSSTOが発射台の上に座っている。点火されれば航空機の及ぶところでない推力をたたき出すバーニアが、液体窒素の氷片を散らしながらその咆哮をあげるときを待っている。
「良かった!間に合ったみたいね」
「上空にアークバード確認!うわぁ、さすがは宇宙化学の技術の結晶ですねぇ」
俺たちのさらに上空に、アークバードの白い姿がはっきりと見えていた。攻撃モジュール受け取りのため、大気圏スレスレまで降下してきたその姿が、太陽光を反射してまばゆく光る。
「でもよぉ、あんなところじゃ攻撃受けたらまずいんじゃないか?戦闘機じゃないんだから、すぐに方向転換ともいかねぇだろ?」
「確かにそうですねぇ。だから僕らが守り抜かなければ!」
そういっている間に、俺たちのレーダーには敵影が多数映し出されていた。
「こちらマクネアリ基地、ウォードッグ隊、敵は空挺部隊をそちらに差し向けたようだ。輸送機の動きに注意せよ。空挺戦車を落してくるぞ!」
その言葉とおり、貨物搭載口のハッチを全開にしたC-130から、いくつものパラシュート付の戦車が姿を表す。シャトルの周辺施設を狙い、奴らは降下を始めていた。
「チョッパー、エッジ、敵輸送機を逃すな!グリムは俺と一緒に戦車を叩くぞ!」
降下してからでは手間がかかる。ならば、空にいる間に落すのみ。戦車の装甲は破れなくても、パラシュートならば!俺たちは敵戦車隊の降下コースに先回りし、そのパラシュートを狙ってバルカン方を放つ。
「うわぁぁっ!パラシュート切断!誰か助けてくれ!!」
「くそっ、このままじゃ俺たちは標的の的だぞ!護衛部隊、早くハエを叩き落してくれ!」
俺たちの攻撃に混乱を始めた敵空挺部隊の悲鳴を他所に、俺たちは次々とパラシュートの花を散らしていった。本来の自重に従って墜落を始めた戦車は、やがてコンクリートの大地に衝突し、盛大な火球となって爆発四散していく。輸送機をチョッパーとエッジが追い回し、放たれた空挺戦車部隊は俺とグリムが次々と屠っていく。敵は半端な数ではない波状攻撃で空挺部隊を繰り出していたが、既に護衛部隊を壊滅させられている状態では、戦力の逐次投入が完全に裏目に出ていた。
「敵さん、一体いつまでこんな無駄なことを繰り返すつもりだ?俺っちだったら、さっさともっと楽な攻撃に転換しているけどなぁ。」
チョッパーの言うとおりだった。今の敵のやり方は単なる戦力の無駄遣いだ。ましてや、一般の地上兵よりも錬度が高く、人数も少ない空挺部隊をこうまでして浪費するなど、愚の骨頂というべきものだ。最後のC-130を撃破する頃には、マスドライバー施設にはいくつもの墜落した戦車が穿った大穴が開いている始末であった。
「チョッパー、おまえならもっと早くどんな攻撃に切り替える?」
「ブービー?そうだなぁ、最も手っ取り早いのなら核ミサイルでズドーンだが、そうでなければAGMでマスドライバーを破壊するな、俺っちなら」
そう、俺なら空挺師団など使わず最初からそうする。ミサイルだけなら、仮に撃墜されたところで自軍の命は失われず、最大限の効果が挙げられるからだ。そして、ようやく敵の司令官はそれに思い当たったのか、周辺空域の航空機を撤退させていた。
「エッジより、隊長機へ。敵の放ったミサイルが急速接近中。彼ら、この施設を壊滅させる気だわ!」
「ブービー!敵さん、気がつきやがった!」
「各機、接近するミサイルを叩き落せ!マスドライバー基地は、そんなに長くは保たない!」
俺たちは散開し、四方八方から迫るミサイルを片っ端から叩き落としていった。恐らくは遠方にB-1BやB-2辺りがいるのだろう。長距離射程の巡航ミサイルが、次々と打ち込まれてくるが、その元凶を叩くだけの時間が俺たちには無かった。
「マスドライバー発射まであと3分!」
「3分!?あと3分もこれが続くのかよ。そこまでとてもじゃないけど耐え切れないぞ!!」
「マスドライバーのコントロール、退避して!このままでは貴方たちまで巻き添えになってしまう。早く逃げて!!」
「馬鹿言うな、ここまできて俺たちだって引き下がれるか。コントロール班、制御班、カタパルト班、まだ健在か。状況を知らせるんだ」
「コントロール班、制御班、モニターはいくつか死んでいるが、発射自体に問題なし。まだいけるぞ!」
「カタパルト班より、マスドライバーは依然発射可能。空軍の護衛のおかげでピンピンしている!」
「……ということだ。空軍、引き続き本基地の護衛をお願いする!彼らを宇宙に行かせてやってくれ」
彼らは最後まで残るつもりのようだ。ならば俺たちも出来る限りのことをするしかない。
「各機、マスドライバー本体に突入するミサイルを優先して撃破しろ!周辺施設に向けたものは後回しだ。既に避難が済んでいるんだ、施設は大統領が建て直してくれるさ」
「空軍機、あんた気に入ったぜ。こっちもそれならサービスだ。各班、カウントを今から80カットする。発射まであと100秒!やってみせるんだ!」
俺たちもまた、必死になってミサイルを叩き落とす。マスドライバーの周辺をひたすら旋回し、ミサイルを捉えてはAAMを撃ちまくり、AAMがなくなれば今度はバルカン砲でひたすら放たれた矢を撃墜していく。
「発射まであと20秒!発射準備は順調、このままいくぞ!!」
俺は急旋回を続けながらミサイルを次々と撃ち落していた。だが、そろそろバルカン砲も弾切れだ。それはエッジやチョッパーも同様だった。グリムは既に全弾を撃ち尽くしてしまい、後から侵入してきた敵戦闘機を近づけまいと奮闘していた。俺は新手のミサイル4本の背後に回りこみ、バルカン砲を浴びせていく。2本を破壊し、1本をその誘爆で撃墜したが、最後の1本が攻撃をすり抜けマスドライバーへと向かう。必死にトリガーを引くが、既に残弾は0を空しく示していた。カタパルトまで距離は2,000。間に合わないか!?
「3、2、1、発射!」
先ほどまで液体窒素の氷に覆われていたバーニアが咆哮をあげ、猛々しい炎を吹き上げる。空母からの発艦とは比べ物にならない加速でSSTOがカタパルトを滑り始める。そうだ、もっと早く!もっと早く!早く重力から解き放たれ、あるべき宇宙へ!
「いけぇぇぇぇぇぇっ!!」
カタパルト上を完全な離陸速度で加速したSSTOは、マスドライバーの斜面を登り始める。一切減速なし、ますます加速をしていくSSTOは間一髪撃ち漏らしたAGMよりも早くその地点を通過し、さらに加速する。機体後部の炎は既に機体以上に長く伸び、まるで火柱を背負った機体のように見える。やがて、カタパルトの先端に到達したSSTOは太陽光の煌きを受けながら一気に大空を上昇していった。
「くっ……逃したか!」
それを見た敵機が引き返していく。残弾もなく、ひたすら敵戦闘機の侵入を妨害していた俺たちに進路を阻まれた彼らは、空しくユークの地へと踵を返していった。
「コントロールより、各班、それに上空の空軍機、SSTOは今アークバードへの合流ルートに乗った。作戦成功だ!」
マスドライバー施設の打ち上げ班員たちのあげる大歓声が響く。それに負けじとチョッパーが叫んでいたが、これは音割れしていて完璧な騒音だった。ギリギリの戦いであったが、俺たちはSSTOをついに守り抜いたのだった。
「空軍機、礼を言う。もし戦争が終わったら、おまえさん方を宇宙旅行に招待するよ。経費は空軍にツケとくがね。」
「ブレイズよりコントロール、生き残る理由が出来たことに感謝する。」
まさか実現するとは思えなかったが、ナガセはそれに本気で期待したようだった。後に彼女が宇宙にかけた夢を知った時、彼女がこれほどまでに、端から見てしまうと普段のクールさが嘘のように熱っぽく宇宙への夢を語ることを初めて俺は理解したのだった。
この日、ユークトバニア軍が何故この施設を狙ったのか、俺たちは後にその理由を知ることになる。そのときには、既に手遅れだったのだが。マクネアリ基地を出発した俺たちは、新人たちを連れてサンド島へと向かった。まだ空戦など訓練でもこなしていないルーキーを最前線に投入しなければならないほど、我が軍のパイロットは人材不足だったのだろうか?いずれ訪れる実戦で、彼らのうちの何人かが帰らなくなるであろうことを確信している俺の心境は、非常に複雑なものになっていた。