希望という名の積荷


攻略メモ
エイカーソンヒル〜大陸北岸空域の哨戒作戦。この空域はAAシステムと呼ばれる防空システムが展開しており、識別信号を発していない機体がレーダー網内に入った場合直ちに対空攻撃を開始する仕組みになっている。この空域で、極秘任務のため識別装置を持たないC-5輸送機に遭遇する。この輸送機は極秘任務のため中立国であるノースポイント(ユージア大陸北東の島である)に向かうということで、AAシステムに引っかからないルートでの誘導を依頼される。
さて、AAシステムを回避するルートは何本もあるのだが、もっとも安全なのはエリア東方の空域であり、U字を横倒しにしたようなコースをなるべく直線コースになるようクリアすることで突破できる。他にも何本かのルートがあるのだが、これはシステムの哨戒範囲のわずかな隙間を抜けたりするようなルートなので、あまりオススメできない。哨戒圏を抜けると、本命の敵戦闘機が登場する。敵はF-14Aであるため、うっかり見過ごすとあっという間に輸送機が撃墜されてしまう。作戦指示の「攻撃」を活用して、編隊での集中攻撃をかけていこう。
敵戦闘機群を退けると、今度は輸送機の不時着ルート確保がミッションとなる。輸送機のルート上にある風車を片っ端から破壊していくという傍迷惑(笑)な作戦。極力輸送機の側に位置し、目標マークが出た風車を攻撃していこう。何本かの風車を破壊して無事不時着させればミッションクリア。オーシア空軍の8492部隊と交代して基地へ帰還することになる。
登場敵機:F-14A、F-16C、Mig-31

潜水母艦シンファクシを失ったユークトバニア軍は制海権を著しく失い、戦力再編のためか洋上に展開していた兵力を撤退させている。そのおかげで、久しぶりに戦闘の無い日々が続いている。もっとも、俺たちはそのつかの間の平和の中でも任務に駆り出される状態であったが、戦闘自体はなかったおかげで開戦から蓄積していた色々な疲労が少しは解消出来たというものだった。

その日、俺たちはエイカーソンヒル北方の海岸方面の哨戒に出撃していた。チョッパーに言わせれば、「どこまでも俺たちを遊ばせないとは、クソ親父のガマガエル野郎が」というわけだ。この空域は俗にAAシステムと呼ばれる防空システム網によって覆われているため、識別信号を発信していない機体は例え友軍機であっても攻撃される、という物騒な状況になっている。このため、平時であればユークトバニアやユージアを結んでいる民間機の姿も無く、俺たちだけが網のかかった空を飛んでいる。
ヘッドホンごしには、チョッパーの独り言ならぬ独唱が聞こえてくる。まだ歌詞をつぶやいているときはいいのだが、ドラムやシンバルの音まで再現しだすとさすがに騒々しくなってきた。
「お二人さんはどこに?」
いい加減ナガセが呆れ半分に彼らの現在地を問う。チョッパーは相変わらず歌い続けている。
「今、そちらの500マイル南方を飛行中。静かなもんです。まるで訓練飛行の頃の空みたいですよ」
それはこちらも同様だった。地平線まで続いている穀倉地帯の光景はのどかで、今が戦争中の国家の姿とは到底思えなかった。
「綺麗な眺めですね、隊長?」
「確かに。これでAAシステムなんて物騒なものがなかったら、最高の空だと思う。いつか平和になった後、ここを飛んでみたいとそんな気になるよ」
「おお?ブービー、空の上で口説き文句たぁ、少しは成長したみたいじゃねぇか。今度、俺の「とっておき」を教えてやろうかな?」
「チョッパー、ちょっと止めて。もう、隊長も少し気を抜きすぎです」
そういうナガセの口調もいつものクールさがない。が、そんな俺たちの通信が混信した。雑音の向こうで、微かに会話が聞き取れた。「しまった、ミサイルだ」と。
「エッジ、そっちも今の通信が聞こえたろうか?」
「……何とか……避した。くそっ、レー…………障した」
ナガセの返事よりも早く、先ほどの通信の声が再び聞こえてきた。こんな空域に敵機がいるはずはないから、友軍機のはず。それがAAシステムの攻撃を受けるのも腑に落ちない。
「隊長、あれではないですか?前方方位010に輸送機の姿が見えます」
確かに、方位010に友軍の輸送機の姿が見える。AAシステムのレーダー策敵範囲ギリギリのラインを飛行している。
「前方を飛行中の友軍機、こちらウォー・ドッグ隊です。その方向はレーダー哨戒網に突っ込みます。旋回してください」
こちらの通信が聞こえたのか、輸送機がゆっくりと旋回を始めた。
「こちらマザーグース・ワン、極秘任務遂行中のためノースポイントへ向けて飛行中だが、識別コードを発信出来なかったため攻撃を受けレーダーをやられてしまった。安全なルートを誘導してもらえないだろうか?」
「ブレイズ了解しました。こちらもこの空域を突破するのは初めてですが、なんとかやってみましょう。」
「協力に感謝する。こっちは目の開かない雛鳥も同然だ。親鳥の案内に任せたぞ」
俺は輸送機の前方に出て、速度を同調させた。輸送機の速度はそれほど上がらないため、こちらも安全飛行ギリギリの低速度を保つ。少し前、ハイエルラーク基地の新兵を引率したときもそうだが、おやじさんに叩き込まれた航法が本当に役立っている。Uの字を横にしたような哨戒エリアを、極力急旋回しないで済むようにルート取りをして飛行していく。眼下に広がる穀倉地帯は相変わらずのどかだ。
「まさか自分の国の空がこんなに恐ろしいものだとは思わなかったよ、全く。」
「マザーグース・ワン、間もなくレーダー網を抜けます。そうすればノースポイントまでは一直線ですよ。」
「早く着陸して、一服したいものだよ。」
やがて俺たちはAAシステムのレーダー網を抜けた。ここまでくれば後はノースポイントまで障害は何も無い。そのはずだった。
「おいブービー、おまえさんたちの前方に敵影発見。残念ながら戦闘機みたいだ。そっち目掛けて向かっている。」
領空を越えて敵が侵入してきたというわけか!つまり、マザーグース・ワンはそれくらい貴重なものを積んでいるというわけだ。
「おい、こいつだ。ついに見つけたぞ。」
「こいつを撃墜すれば勲章どころか銅像が建つぞ。輸送機だからって油断するなよ。かかれ!」
敵さんの通信が混線する。しかし勲章?銅像?
「敵は一体何を言っているのかしら……?」
「エッジ、輸送機に近寄らせるわけにはいかない。マザーグース・ワン、敵戦闘機が接近中。こちらで迎撃するので、今のルートを保って飛行してくれ。」
「マザーグース・ワン了解、ウォー・ドッグ隊、面倒をかける。武運を!!」
俺たちは輸送機から離れ、一気に敵機に向けて空を駆けた。輸送機から6マイルのところで接敵した俺らは彼らの進路を妨害し、輸送機とは反対方向に無理やりルートを取らせた。
「くそ、護衛機がいるとは聞いてないぞ。しかもこいつら、シンファクシを沈めた連中だ!!」
「戦場の犬にやられてたまるか、畜生!」
俺は急降下する1機の後背に食い付いていた。推力のある機体なら、上昇して突き放すのがセオリーだろうに!俺は再び上昇するであろうポイントに先回りし、トリガーを引いた。さすがに頑丈なF-14Aだが、エンジンへの集中砲火は効果的だった。右側の垂直尾翼と水平尾翼が弾けとんだ敵機は、バランスを失い、上昇することも出来ずそのまま台地に叩きつけられた。金色の穀倉地帯に似合わない爆炎が豪快に上がる。もう一機はエッジの攻撃で四散していた。
「ブービー、もうすぐ到着するぞ。だが新手だ。おまえさんたちの前方、今度は機数4!」
さっきの敵機と全く同じ方位から新手。さらにその後方にも増援がいる。それほどまでして墜としたい重要物資をマザーグース・ワンは積んでいるということか。ならば尚更やらせるわけにはいかなかった。

チョッパーたちと合流した俺たちは、敵の輸送機への接近を阻み続け、その撃退に成功した。最新鋭の機体を投入してきた敵にてこずらされはしたのであったが……。正直なところ、そろそろ新型への乗換えをしないと厳しくなりつつある。
「こちらマザーグース・ワン。君らの姿を確認した。積荷も無事だ。支援に感謝……おい、何をしている!」
輸送機の機長の声がにわかに緊迫したものに変わる。
「コクピット内に勝手に入られては困る。……何だ、何のつもりだ!!」
銃声と、言葉にならない機長の悲鳴。声の途絶えた通信の向こうで、激しい銃撃戦の音だけが聞こえてくる。
「おい、一体何があったんだ!そっちの積荷って、そんなにヤバいものなのか!!」
返答は無い。ただ、銃撃の音がしばらくすると止み、後は沈黙が訪れた。
「敵のスパイが乗り込んでいたってこと?」
ナガセの呟きは独り言であったかもしれない。だが、意外なことに、その呟きに反応があった。
「どうやらその通りみたいだよ、素敵な声のお嬢さん。幸い、何とか凌ぐことには成功したが」
「アンタ一体誰だい?そこで何をしているんだ?」
「私は、君らの言うところの【積荷】というところかな。ところでお願いがあるんだが」
初老の男性の声は非常に落ち着いていた。この状況下、恐らくは機長たちがやられてしまった状況で大したものだ。
「機長たちがやられてしまったわけだが、何とか着陸したい。機体はそう持ちそうに無いのだが、不時着出来るように操縦を教えてもらえないだろうか?何しろこちらは今まで操縦桿など握ったことも無い秘書官のトニー君が操縦しているものでね」
「マジかよ、アンタ正気か?いや、気に入ったぜ。俺はチョッパー。よろしくな」
「ありがとう、チョッパーか。雰囲気に良く合ったコールサインだと思う。そちらのお嬢さんは?」
「私はエッジです。積荷さん、フラップレバーを、操作してください。。スロットルレバーは分かりますよね?その前のコンソールのレバー、そうOKです。これで機体は降下していきます。スロットルは今のまま下ろさないで下さい」
「分かった、トニー君、操縦桿をしっかり握っていたまえよ」
輸送機はふらつきながらも、何とかルートを保ち高度を下げていく。後は進路上の「障害物」を排除するだけだ。
「アーチャー、俺たちはルート上の風車を破壊しよう。放っておくと輸送機と衝突してしまう」
「くそっ、あんなに巨大な風車なのに空から見るとこんなに小さいんですね!」
一応、オーシアの観光名所の一つである穀倉地帯の大風車群。その一角を、俺たちはバルカン砲で突き崩していった。これが戦時中で無ければ、観光省から大変な損害賠償を要求されかねない暴挙とも言える。
「こちら積荷。トニー君、あの崩れた風車が目印だ。よーし、いいぞ、高度は順調に下がっている。操縦桿を離さないでくれたまえよ!」
崩れた風車の合間を潜り抜け、輸送機は高度を下げていく。
「よし、いいぞ、積荷のオッサン、何かにしっかりつかまっててくれよ!結構ガツンといくからな!」
「ありがとう、チョッパー君。シートベルトはしているが、何かにしがみついておくとするよ……そろそろだ!」
うまい具合に穀倉地帯の農道上を派手な土煙を上げながら輸送機が疾走していく。あれならば機体のダメージは少ないはず。やわらかい大地にも助けられ、それほど長い間滑走することなく機体は停止した。
「ブレイズより、マザーグース・ワン。無事ですか?」
「……ああ、なかなか衝撃的な着陸だったが、大丈夫だ」
やや遅れてミスター積荷の返事が返ってくる。しかし、どこかで聞いたことのあるような声だ。思い出せないが、何度も聞いたことのあるような記憶があった。
「積荷さん、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「何だろう?」
「アークバード。あの白い鳥が平和な空を飛ぶ日は来るのでしょうか。この戦争を早く終わらせることは出来るのでしょうか?」
ナガセの問いかけに、しばらくミスター積荷は沈黙を保った。
「もちろんだよ、お嬢さん。私はそのためにノースポイントに行こうとしていたのだから。いや、行かなくてはならないのだから。」
彼は言葉を選ぶように、ゆっくりとそう語った。
「では、では信じてよろしいんですね?」
アークバードの事になると、ナガセの反応はいつになく熱を帯びる。いや、それだけではないだろう。アークバードはもともと宇宙空間の平和利用のシンボルとして生まれた鳥だ。そのシンボルが、戦争の切り札として用いられる矛盾。言わば、「平和」の名のもとに行われる戦闘。オーシアとユークの協力のもとで生み出されたアークバードが軍事転用されてしまったという事実は、ナガセにとっては信じたくもない現実だったのかもしれない。アークバードの有効性を認識した軍上層部の「主戦派」の連中が声高にアークバードの積極的使用によるユーク本土殲滅を叫んでいる、この状況下においては。
「こちら、オーシア空軍8492部隊。上空の友軍機、聞こえるか?」
俺たちの前方、つまりは北西方向から友軍機のコール。どうやら、【積荷】のエスコート部隊が到着したようだ。
「こちらはウォー・ドッグ隊。8492隊、【積荷】は無事です。」
「そうか、君たちの奮闘に感謝する。【積荷】と搭乗員の安全は我々の部隊で確保する。君たちは帰投したまえ」
「ああっ、オイラの機体はもうすぐガス欠だ!今度はこっちが不時着しちまう!」
確かにチョッパーの言う通り、俺たちの機体は長丁場で燃料がなくなりかけている。最寄の基地に立ち寄って給油する必要があった。
「8492隊、それでは【積荷】を頼む。全機、帰投するぞ。」
俺たちは、【積荷】の保護と援護を8492隊に任せ、最寄のパントミール基地に針路を取った。8492隊の機体は驚いたことに、我が軍でもあまり配備されていないF-15の新型F-15S/MTDであった。白く塗装された4機の新型が整然と編隊を組み、上空援護に就く。相当の腕前の部隊とみたので、俺はいくらか安心していた。これならば、【積荷】は無事救出されるであろう、と。もっとも、その期待は実は完全に、しかも最悪の方向に的外れであったのだが。

この日を境に、オーシアの戦争方針は一変する。一つの理由としては、切り札であったアークバードが破壊工作によって使用不能となってしまったこともあるのだが、これまでは唱えられていなかったユークトバニア本土侵攻作戦が現実のものとなりつつある。俺たちがより凄惨な戦いの空に向かう日はそう遠くなかった。

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