憎しみの始まり


攻略メモ
ついに始まるユークトバニア本土への侵攻作戦。陸上部隊の突撃を支援する任務のため、ほとんどの攻撃目標は地上目標となるので、機体選択はA-10Aなどにしておいて1機くらいを戦闘機にして対空支援に当たらせるのが良いだろう。ただこのミッションの難しいのは、自分だけ進撃しても攻撃目標が出現しないこと。陸上部隊が敵の防衛陣地に接近することで初めて目標が出現するため、出来る限り上陸部隊から離れない位置に待機している必要がある。予想以上に攻撃目標が多いため、ミサイル・爆弾等はほぼ空になる可能性が高い。もし残弾0になってしまったら、バルカン砲で陣地を潰していこう。友軍からの通信をよく聞いておくこと、またレーダーに表示される敵防衛陣地の位置をしっかりと確認していけば、無事任務を達成できるはずだ。
もう一つ注意するならば、その地形だ。かなり起伏の激しい地形のため、レーダーロックをかけて攻撃したら目標は山の向こうだったなんてことも。これを防ぐなら、攻撃前はある程度の高度まで上昇し急降下攻撃をかける戦法が有効だろう。
登場敵機:A-10A、AH-64、F-4X、TND-GR1、トーチカ、対空砲、SAM、防衛陣地等

数週間の間続いたつかの間の平和が終わりを告げた。初戦の損害から部隊を再編成したオーシア軍は、ユークトバニア本土に対する上陸侵攻作戦を開始することになったのだ。「フットプリント作戦」と何の味気もない作戦名を付けられたこの作戦は、ユークトバニア東岸のバストーク半島に対して強硬上陸、しかも一昨日から続いている悪天候の中を敢行するというものであった。平和主義で知られたハーリング大統領が、良くこんな敵の正面に突撃するような作戦を了承したものだ、とチョッパーは呆れ顔に話していたが、全く同感だった。これでは、彼がこれまで駆逐してきた「主戦派」と同じではないのか。彼の変節ぶりに、正直驚いていた。

サンド島から飛び立った俺らは空中給油を受けていよいよバストーク半島上空に到達した。低い雲に激しい雨。とてもじゃないがこんな中を突撃するなんて正気の沙汰ではない。煙った空はまともに先も見えず、うっかりしていると山と激突なんてことになりかねない。
「クソッたれな作戦だぜ」
チョッパーは本土侵攻自体が気に食わないらしく、出撃のときから毒づき続けている。
「サンダーヘッドより、チョッパー。何度も言うようだが私語は慎みたまえ」
「はぁぁ。こんな天気で気分までブルーなのに、さらにクソったれな声まで聞こえるんだから、嫌になっちゃうよなぁ。なぁ、ブービー?」
苦笑するしかなかったが、下ではもう砲火が飛び交っている。海岸線沿いに設置されたトーチカ軍が、友軍の上陸艇を攻撃しているのだ。
「ひゅう、今のはヤバかった。おい、テリー、聞いているか。ちょっと伝えなきゃならないことがあるんだけどな。」
「おい、スコット曹長。我々は既に作戦中だ。無用な通信は敵に傍受される恐れがある。慎みたまえ」
「融通の利かない隊長殿だな、仕方無い。おい、テリー、後でまた呼ぶから無事でいろよ。オーバー」
上陸艇の通信には、トーチカからの攻撃であがる水柱の水音まで聞こえてくる。幸い損害はまだ出ていないが、あの大口径の砲撃が直撃したら上陸艇なんてひとたまりもない。
「地上にも自由に発言出来ない同志がいて何よりだ。おい、ブービー、彼らの道を開いてやろうぜ。こんなクソッたれなところは早く片付けるに限る」
「そうだな。全機、海岸線のトーチカ群を片付けるぞ。チョッパーはA隊正面、海岸西方を、エッジはC隊、アーチャーはD隊正面を頼む。少しでも早く片付けて、友軍を支援するんだ」
「了解。エッジ交戦」
「アーチャー交戦。でかいのぶつけてやります!」
このまま固まっていても仕方無いので、俺たちは4方向に別れて支援を開始した。俺の受け持ちは正面の砲台群。恐らくは最も敵の反抗が激しいエリアだ。山腹に設けられた砲塔が火を吹き続けている。どうやらレーダー施設までご丁寧に建設しているようで、砲台の上、山頂付近にはアンテナやレーダードームの姿まで見えた。垂直降下で狙いを定めた俺は、砲台の頭上に爆弾を投下した。そのまま降下を続け、稜線沿いに谷に飛び込んでいく。まだ砲撃を開始していないが、かなり分厚い敵の防衛網が目に入る。恐らくは視認できていない防御陣地もあるに違いない。後方では、俺が投下した爆弾が炸裂し、豪快な火球が山を包んでいた。突撃を開始した部隊から歓声があがる。
「さあ行け行け行け行け!馬鹿者、砂にキスなんて洒落たことをしている暇があったらさっさと進め!貴様らの仕事は何だ?突撃することだ!」
「エンジン故障?だったらオールを出せ!何のためにもってきていると思うんだ。」
地上からは司令官達の挙げる罵声が飛び交う。戦意高揚の目的もあるのだろうが、空から聞いているとあまり気分のいいもんじゃない。俺たちが海岸線の砲台群を殲滅したことで、地上軍はその大半が既に上陸に成功し、防御陣地への攻撃を開始している。
「奴らは正面から突っ込むしかない。それも、敵さんがてぐすねひいて待っているこんな所にな。俺は大統領がこんな野蛮な作戦を承認したことにがっくりきたぜ。俺たちは騙されたんかねぇ。」
チョッパーの機嫌の悪さはさらにひどくなっている。いつもよりも毒舌に拍車がかかっている。
「なぁ、ナガセ。ミスター積荷は大統領だったんだろう?結局は口先だけの約束ってわけかい。仕方無いよな、俺たちは所詮は一兵士なんだから」
「違う。大統領はそんな口先だけの人ではないわ」
「じゃあ、今日のこの状況はなんなんだい。ナガセがかばう必要はないと思うぜ」
「チョッパー、エッジ、いい加減にしろ!今俺たちが内輪揉めを起こしてどうするんだ!」
上陸部隊は敵の第2陣の防御陣地群の猛攻を受けていた。山を覆う木々を盾にしながら友軍も集中砲火を浴びせるが、木々か盾になっているのは敵も同じ。かといって、遮蔽物のない中央の道路に出ては格好の的になるだけだ。ならば、遮蔽物のない上から俺たちが叩くしかなかった。そんな状況で、二人の口喧嘩を放っておいて、彼らの持ち場までカバーする程俺もお人よしではないし、そこまでの腕も実力も持ち合わせていなかった。
「チョッパー、了解。すまなかった。作戦に集中する。いくぜ!」
「隊長、申し訳ありません。集中を欠いていました。友軍の支援に専念します」
だから、俺が内心胸を撫で下ろしたのは言うまでもなかった。

陸軍上陸部隊は第2陣の防御陣地を越え、いよいよ山地帯奥に広がる第3陣、この防衛網の最深部に到達しようとしていた。既にA・B隊とC・D隊が合流し、侵攻を継続している。今のところ損害は軽微ではあるものの、無謀な突撃を指示する士官学校出身の指揮官に対して一般兵らが反抗したりと必ずしも順調な状況とは言い難い戦況であった。
「貴様ら、上官の命令が聞けないのか!突撃しろと言っている!」
「いい加減にしてくれ。そんなに突っ込みたければ自分だけで行けば良いさ。人を盾にするのも大概にしろ!!」
相変わらずやっている。問題のC隊は新任の士官殿であるため、余計に戦功を挙げようと躍起になっているというわけだ。
「地上軍C部隊、こちら上空支援のアーチャーです。突撃開始はこちらの支援と連携してください。地上部隊だけでの突撃では敵の思う壺です」
アーチャー機が低空で陣地に接近し、早くも火を吹き始めた砲台に対して対地ミサイルを叩きつける。爆発と共に砲台が砕け散るが、尚も残った砲台が熾烈な砲撃を友軍に対して浴びせ始める。友軍戦車隊の周辺で砲弾が炸裂し、土煙を盛大に巻き上げる。
「いつになく鋭い指示お見事、グリム。どうした、珍しくアツくなっているじゃないか」
チョッパーはグリムの後方につけ、支援体制に就いている。
「実は、僕の兄がこの作戦に参加しているんですよ。だから馬鹿みたいな内輪もめで無駄な損害を出して欲しくない、と思いまして……」
「馬鹿、そういうことは早く言え!どこにいるのか分かるのか?」
「いえ、残念ながらどの部隊の配属かは分かりません。」
本土侵攻をかけるような大規模作戦ともなれば、当然親兄弟が戦場に派遣されることもある。なるほど、グリムが今回の作戦に限って出撃時点から緊張しているように見えたのはそういうことだったわけだ。
「おい、上空のさっきからおしゃべりな機、聞こえているか?すまんがうちの隊長の頭の上に爆弾を一発お見舞いしてくれないか。飾り物だけ付いていても仕方無いんでなぁ」
先ほどC部隊の指揮官を怒鳴り散らした下士官だ。
「こちらウォー・ドッグ隊、チョッパーだ。どこだその分からず屋は。寸分違わず落としてやるから場所を教えてくれよ」
「OK、話せる奴がいるといいね。今場所をってうわっ!!」
C部隊の展開エリアに集中砲火が浴びせられ、火柱が何本も上がる。その中で一台の戦車が直撃を喰らいながらも砲撃を敢行し、前方に展開していた砲台の一群をなぎ倒す。
「馬鹿野郎!部下をかばって自分を盾にする指揮官がどこにいやがる!!」
「こちらCチームリーダー、本体の車輌では私の車輌が最も装甲が厚いんだ。曹長の言うとおり、部下に突撃ばかりを指示するのが指揮官の役目ではないはずなのに……。さあ、敵の砲火が止んでいるうちに今度こそ突撃してくれ!勝利は目前だ!!」
「何て阿呆だよ、うちの指揮官は。上空の支援機、作戦変更だ。俺たちの鼻っ面目掛けてアツイのをたっぷりぶちかましてくれ!指揮官にかばわれたままじゃ俺たちの立場が無い!」
「アーチャー了解!間違って自分が突っ込まないよう十分に気を付けて下さいよ!!」
アーチャーとチョッパーが防御陣地に対して反復攻撃を仕掛けるのに合わせ、C隊の残存部隊が一見無謀のような突撃を敢行する。D隊も後方から激しい支援攻撃を行いつつ、C隊に続いて陣地内に突入していく。こうなればもう勢いのある方が有利。防御陣地内は大混戦の様相を呈していた。

一方、俺自身が上空支援に付いているA・B隊もC・D隊にやや遅れてもう一方の陣地に到達しようとしていた。
「上空の支援機、こちらB隊。向こうは皆で熱くなって敵の喉笛に喰らい付いてしまったみたいだが、こっちの支援も頼みたい。うちの隊長殿はこの作戦で引退するんだ。せめてその花道を作ってやりたい。」
B隊は、上陸部隊の中でも最年長の士官殿が率いている部隊であったが、15年前の戦争を経験している士官らしい老練な指揮で確実に今回の作戦も戦果を挙げていた。それ故、部下達の信頼の厚いのも頷ける。
「こちらウォー・ドッグ隊、ブレイズだ。上空支援は任せてくれ。引退記念の花束、とはいかないがせめてそちらの道を照らす松明だけでも受け取ってもらいたい」
「ブレイズ、感謝する。よし、俺たちも突撃するぞ。大丈夫だ、上空の支援がある。何も迷わずに突貫しろ!!」
B隊の車輌群が進撃速度を速め、防御陣地に突撃を開始する。突然の戦況の変化に対応できず、敵砲台の攻撃は友軍を捉えることも出来ずに空しく火柱を上げる。彼らをやらせるものか。俺は陣地正面に砲を突き出している砲台群にバルカン砲の連打を浴びせた。集中砲火を浴びた砲台に無数の火花が飛び、そして次々と爆発していく。上空で反転して、もう一方の砲台の頭から爆弾を投下する。友軍から歓声が挙がり、砲塔から連続で攻撃を行いながら、B隊がまず突貫し、A隊も続けて陣地内部へと突撃していく。
「こちらBチームリーダー。爆弾と炎で照らされた花道か。本職の引退に相応しい花道かも知れんな。皆の協力に感謝する。さあ、そうしたら花道の先の舞台に上がりに行くぞ。皆もう少しだ!!」
「ブレイズ、上空にA-10と支援機接近。私はA-10を叩きます。支援機をお願い!」
エッジ機が一足先に上へ上がる。高い機動性を有するA-10は急旋回でエッジの攻撃をやり過ごし、すぐさま反転して友軍へ砲撃を浴びせようとする。俺はその鼻っ面にロックしていないAAMを叩き込んだ。目前に迫ったAAMに驚いたのか、不安定な姿勢で上昇しようとした敵機に、今度は本命のバルカン砲を浴びせる。装甲の分厚いA-10とはいえ、コクピットは別だった。機首を潰されたA-10は、本来は俺たちに浴びせられるはずであった爆弾を抱えたまま陣地に突っ込み、コントロールセンターを根元から吹き飛ばした。支援機の混乱の隙を突いて彼らの上に上昇した俺は、圧倒的有利なポジションから彼らを追い回した。回避しようと高度を下げた一機はそのまま山に激突してクラッシュし、もう一機はAAMで羽根を吹き飛ばし、きりもみ状態で谷へと落ちていった。そして最後の一機をHUDにしっかりと捉え、ロックをかける。ロックオンを告げる電子音が響き、俺は発射ボタンを押した。敵機の後部が爆発で吹き飛んだが、パイロットはベイルアウトして何とか難を逃れたようだ。
「くそっ、うちの空軍は何をやっているんだ。たかが4機の護衛に壊滅だと!?」
「こちら第4砲台、敵の集中砲火を受け全砲門使用不能、もうここは駄目です。退去命令を!!」
既に勝敗は決した。上空支援のないユーク軍は、陣地各所で分断されある者は白旗を挙げ、ある者は降伏を拒み砲火の中に没していた。やがてこの一帯を指揮していたユーク軍の司令本部が陥落し、戦闘停止を告げる命令が伝わると、割れんばかりの歓声が響き渡った。
「すごい……私はもう、ブレイズには及ばないかもしれない」
歓声の中、ナガセがそう呟いたのが聞こえた。
「やっと終わったか。こちらスコット曹長、テリー聞こえるか。」
「何だよスコット、話ってのは。今のこの勝利以上に何か嬉しい知らせでもあるってのかい?」
「ああ、聞いて驚くなよ。【パパ】おめでとう!」
「え?おい、本当か。生まれたのか、男の子か女の子か!?」
「元気な男の子だってよ。早く奥さんに連絡してやれ。出産に立ち会えなかったんだからせめてそれぐらいしておかないと、一生言われ続けるぞ!!」
冷やかしの歓声も加わって、ヘッドホンごしに聞いていても歓声がうるさいくらいだった。
「こちらC隊。チョッパー、アーチャー、貴官たちの支援に本当に感謝する。うちの司令官殿も無事だ。まったく世話の焼ける士官殿だ。おかげで簡単には俺たちも死ぬわけにはいかなくなったぜ。きちんとご指導して差し上げないと。」
「こちらチョッパー、作戦成功おめでとう。士官殿に伝えてくれ。いい部下を持って幸せだぜ、アンタってな」
「ハハハ、そうだな、たっぷり利子を付けて返してもらわないとな!」
初戦での苦しい戦いを強いられたオーシア軍にとってみれば、今回の作戦は久しぶりの大勝利。浮かれるのも無理は無いというものだ。
「ブービー、地上にも仲間がいるってのはいいもんだな。久しぶりにオイラたちは孤独じゃないって思ったよ」
チョッパーとアーチャーが俺たちに合流した。4機とも一切損害なし。
「ウォー・ドッグ隊、帰投するぞ!」
俺たちは歓声を上げる上陸部隊の上でトライアングルを組み、上空をフライパスした。もう一度一際大きな歓声と共に、「ウォー・ドッグ」の連呼が山に木霊となって響き渡っていた。

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