誰が為の出撃


査問が行われていた司令本部から航空基地へと舞い戻った俺たちは、機体の最終準備を待ってスタンバイしていた。これだけ時間があるならば出撃準備が整っていてしかるべきだと思うのだが。サンド島では考えられないような平和な光景に呆れてしまう。
「ま、こんな呑気だから戦争なんてものをやってられるんだと思うぞ、上の連中は」
「そうですねぇ、一人だって偉そうなことを言っている将軍とかが最前線で突撃している光景を見たことがありませんからねぇ。あー、ケストレルのアンダーセン艦長とかは別ですけれども」
「当たり前だグリム、あの爺さんを首都のモグラどもと一緒にするねぇ。」
チョッパーとグリムは査問委員会と首都の高級士官たちを徹底的にこき下ろしあっている。彼らもまた、相当に査問で嫌味を言われたのだろう。チョッパーは予想通り出撃したらまず査問部屋にミサイルを撃ち込んでやるから対地ミサイルを一発だけ積んでくれ、と整備兵に頼み込み、整備兵を困惑させていた。
「ブレイズ、今大丈夫?」
チョッパーとグリムのこき下ろしあいを横目に見ながら、ナガセが話しかけてきた。彼女もまた、査問で散々嫌味を言われ続けたのであろうが、少なくとも表面上はいつも通りのようであった。
「私たち、一体何のために戦っているんだろう?私は、味方の被害を最低限にすること、そして一番機を守り抜くことが自分の仕事だと思ってきた。でも、結局どこの部隊かは分からなかったけれども、そいつらの攻撃で何の罪も無い一般の人たちまでが巻き込まれてしまった。多分これからは、もっとそういうことが起こるんだと思う。ねぇ、ブレイズ、あなたは一体何のために戦っているの?」
俺の目的?戦い抜くことの目的?俺は何のために戦っていたのだろう?少し前なら、俺は明確に答えることが出来なかったかもしれない。だが、査問という不毛な出来事のおかげで、俺は確信したことがあった。それは恐らく、今回のオーレッド行きの最大の収穫だったと行っても良いかもしれない。
「ナガセ、君が一番機を守ろうとしてくれているように、俺は君、そしてチョッパーとグリム、4人揃って必ず帰還するために戦っている。そして自分が参加した作戦では、出来る限りの味方を助けること、それとこんなことを言ったら利敵行為と言われかねないけど、戦闘をさっさと終わらせて敵にも無駄な死人を出さないこと……俺がこんなこと言っても仕方ないけど、それが俺の戦う目的だ。」
「みんなで、一緒に帰還すること……」
「俺は、多分頼りないだろうけど隊長だから。多分、バートレット隊長だって、俺たちを無事に生還させようといつも考えていたんだと思う。だから、俺たちを鍛えてくれていたんだ、とようやく分かるようになってきたんだ。……こんなことを聞かれたら、100年早い!と怒鳴られてしまうだろうけど」
ナガセは首を振っていた。
「そんなことない……!ブレイズは、私たちの隊長よ。開戦から今日まで、私たちが生き残ってきたのもブレイズの的確な指揮があってのことだと思う。だってブレイズは、バートレット隊長のお気に入りだったんだから。きっとバートレット隊長も、今のブレイズの姿見たら手放しで喜んでくれる。だから、これからもよろしく、隊長!」
「いや、俺のほうこそ、2番機を、俺の後ろを頼むよ、ナガセ」
「おいおいお二人さん、いい雰囲気のところ悪いんだけどよぉ、もう出発のお時間だってさ」
「隊長も隅に置けないですねぇ。ちゃっかりナガセさんを口説いているんですから」
俺とナガセは顔を真っ赤にして否定した。チョッパーはま、そういうことにしておこうや、と全然信じていない様子であった。整備兵たちは呆れたように俺たちの様子を見守っている。一方、首都航空隊の連中は白い目で俺たちを睨み付けている。……今更そんな目で見られたところで動じる俺たちではなかったが。

コクピットに滑り込んだ俺は、胸元のポケットに入れたメモをもう一度開いた。俺の軟禁部屋の監視役だった曹長殿が、俺のヘルメットの中に忍び込ませていたメモだ。この首都にも、俺たちを信じている人たちがいる。そんな人たちを守るために戦う。この無意味な戦争の中で生き残るための、俺自身を支えてくれる目的が俺には出来上がっていた。
「ウォー・ドッグ隊、ランウェイオールグリーン。離陸せよ」
「ウォー・ドッグリーダー了解。これより離陸する。グッドラック!」
「こちらコントロール、無事に戻ってこいよ。グッドラック!」
俺たち4機は滑走路を一気に滑り、スクランブルフォーメーションのまま上昇した。高度10,000フィートまで達した俺たちは、最大戦速で移動を開始した。
「行くぞ、みんな!!」
負けるわけにはいかない。かならず皆を連れて帰る。俺の果たすべき最大の目的をこんなところで終わらせるわけにはいかなかった。

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