緑海の火薬庫


攻略メモ
ユーク領内、ダーマ湖北方の密林地帯に地上兵力一個師団を支えるに十分な弾薬を供給出来る秘密施設が発見される。敵戦力を低下させるためにも、この施設を壊滅させる。
このマップで厄介なのは、携帯SAMを持った兵。レーダーでは全く捉えることが出来ず、いわば「打たれっ放し」。よってミサイルアラートが出たら旋回を繰り返して旋回しておくのも手か。攻撃目標のトンネルは正面からでないと攻撃が不可能なので、多少面倒でも正面を取って攻撃するしかない。敢えて弾薬を温存しなくても十分クリア出来るだろう。弾薬庫の誘爆に巻き込まれてしまう敵兵たちの通信が哀しいミッション。
登場敵機:F-15C等、ガンボート、トンネル(弾薬庫)、CH-47、ハリアー、Mig-29A、対空砲、地上施設

査問委員会から解放され首都からサンド島へ戻るや否や、今度は休む暇も与えられず俺たちは戦場の空にあった。自身の譴責だけでなく、部下までが疑惑の目を向けられたことによって、司令官殿の不機嫌は頂点に達していたと言うべきか。「もはや他に語ることが無い」と言い放った彼の顔がそう語っていた。もちろん、俺たちのことを心配してのことではなく、自身の出世に暗雲が立ち込め始めたからではあるが。

「かーっ、くそぉぉっ、戦場にトンボ帰りかよぉ」
飛び始めるや否やチョッパーの絶叫が響き渡る。俺も同感の気分だ。グリムは「時差ぼけで計器盤がぼやけて見えます」と言っていたが、俺も多少は時差ぼけの影響を受けていた。
「ダヴェンポート中尉、私語を慎め。既に作戦中だ」
そして管制機はいつも通りサンダーヘッド。開戦からの付き合いだが、彼の声に感情が感じられたことはほとんどない。チョッパーに言わせると「どこの喉アメなめるとそんなにいい声になるのか」ということらしいが、少なくとも作戦機のパイロットたちの気を引き締めるのには有効だとは俺も思う。
「こいつの声の聞こえないところに行きてぇぇ!なぁ、グリム」
「昨日まではいたんすけどね」
「ほっとけ!」
俺たちが向かった先は、ユーク国内のダーマ湖。この湖の周辺は深い密林に覆われ、様々な種類の生物や植物が生息する貴重な地域として平和な頃は両国のみならず世界中の生物学者が研究のため訪れていた場所でもある。そしてそれが故に、ユークはこの地域の立ち入りを固く禁止し、大規模な弾薬庫をいくつも築くことが出来たというわけだ。
「でも良かったです。報復のそのまた報復で相手の都市に無差別攻撃とかを命じられなくて」
「かーっ、良かったこと探しときたか。おいナガセ、おまえも見ていたんだろう、あの番組さ。グリム坊やに何とか言ってやれよ」
「あ……私、あまりそういうの興味なかった」
「マジかよ!何だか世代って奴を感じるぜ、ホント」
「サンダーヘッドよりウォー・ドッグ、既に作成中だと言っている!ブレイズ、貴官からも何とか言ってくれ。君の部下だろう」
「大丈夫だ、サンダーヘッド。嫌でも集中するお時間の到着だ。方位020、敵機発見。地上にもガンボート視認!」
山と山の間に細い湖が広がり、その湖に沿うようにして様々な施設群が姿を表した。とはいえ、空中の護衛機の数それほど多くなければ、こんなところに滑走路が建設されているはずもなく、比較的楽にいけるかと思ったその矢先だった。コクピット内に鳴り響いたのは自分のロックオンを告げる音ではなく、ミサイルアラート!どこから!?
「隊長!地上からです。発射ポイント特定不能!」
「くっそ、こっちもだ。携帯SAMかこりゃ!?」
俺は急旋回をしながら高度を下げ、そして一気に上昇した。その動きについていけなかったSAMが地上に衝突し、爆発する。何とかかわしたからいいものの、この密林ではどこから撃たれるか分かったものではなかった。なるほど、これまで攻略に向かった航空部隊が壊滅するはずだ。俺は部隊を2つに分け、単独戦闘を避けることにした。単独では気が付かないかもしれないSAMの接近を、少しでも早く察知するためであった。
地上からは慌しい無線が飛び交っている。いずれも弾薬庫を守る兵士たちのものだ。
「ブレイズ、攻撃目標発見。あのトンネルです!」
「おいブービー、こいつ横からじゃ破壊できないぞ。正面からぶち込むしかないから、大変だぞ……ああ、またしくった!」
俺はトンネルから反対方向に飛び、そこで反転した。逆さまになった機体を建て直し、真正面にトンネルを捉える。発射したミサイルは一直線にトンネルの中へ吸い込まれていった。半瞬後、トンネルから炎と煙が噴き出してきた。
「第一坑道被弾!」
「駄目です!消化装置作動不能!!このままでは砲弾に火が……うわぁぁぁぁっ!」
その直後弾薬庫自体の爆発が起こった。既に十分な距離を取っていたつもりの俺の機体まで、その衝撃波で揺さぶられてしまい、姿勢を維持するのがなかなか厳しい。振り返ると、つい先ほどまであったはずのトンネルが消滅しただけでなく、山腹が抉り取られたように吹き飛んで大量の土砂が露出していた。再び、轟音と衝撃波。チョッパーたちが坑道の破壊に成功したのだ。
「すごい衝撃波。一体ユークはどれほどの弾薬をここに詰め込んだんでしょう?」
「知るか!でも、今ので月面みたいなクレーターできたんじゃないのか?そっちから見えるか、グリム?」
「クレーターはともかく山が燃え上がってますよ!すごい光景だ……」
敵の通信は悲鳴と叫びで充満していた。俺たちの攻撃によって失われていく命。この目で見えないだけまだましなのかもしれないが、俺たちが坑道を一つ破壊するたびに、かなりの数の兵士がある者は傷つき、ある者は命を失っていくのだ。
「オイラは空戦とこういうの、どっちが好きなんだろう?いや、どっちがより嫌いかってほうかな。なあブービー、何だかたまんないぜ。お前はどうだ」
「ああ、チョッパーもか。早く目標を片して、作戦を終了させよう。長引けば長引くほど、無駄な犠牲が増えそうな気がする」
「珍しく隊長の本音が出ましたね。さあ、次いきます!」
再び山林から撃ち込まれるSAMをかわしながら、俺たちは弾薬庫を次々と破壊していった。その度に轟音と共に山が吹き飛び、無残なクレーターが口を開けていく。脱出しようとしたCH-47が爆風に煽られてバランスを崩し、そのまま山肌に突っ込んで火の玉と化す。
「第四坑道、直撃です!この温度じゃ火薬が自然発火する!!」
「隔壁を閉鎖して中に逃げ込め!そうでなければ早く外に逃げろ!湖を泳いでも逃げるんだ!!」
敵兵たちが置かれているのは、まさに生と死のサバイバル。一瞬でも脱出が遅れれば、弾薬庫から吹き上がる炎で骨まで消し飛んでしまう。俺が攻撃した坑道からは黒煙が吹き上がり、そのわきから人間がわらわらと飛び出しては湖へ逃げていく。敵にとっては幸いなことに、大爆発は発生しなかったが、いずれにしても弾薬庫としての機能が停止したことには変わりなかった。
「ふぃーっ、と。あと一つ、か。あー……。ブービー、今俺何か軽口叩こうとしていたか?」
「少し黙ってチョッパー、集中出来ない!!」
「冷静な声でいらつかないでくれよ、姉さん。ときにブービー、あの爆発じゃあ、中は相当ひどい状況になっているんだろうなぁ……。そっちも同じこと考えていたりしない?」
「ああ。考えるだけで背筋が寒くなってくる。……早く終わらせよう。」
「そうだな……っておわっ!SAM接近!!」
最後のトンネル付近には対空防衛部隊が多数いたのか、数発のSAMが一斉に打ち上げられてきた。それをやりすごし、発射地点めがけて機銃掃射を行ったが、あれでどれだけの効果があっただろうか……?
「突貫します!隊長、援護を!!」
ナガセの機体が、SAMの発射タイミングの隙を突いてトンネル目掛けて突出する。俺は再び先ほどSAMが上がってきた地点目掛けてバルカン砲を叩き込んだ。何かを破壊したのかどうかは分からなかったが、少なくとも次弾は上がってこなかった。その間にナガセはAGMをトンネルの中に撃ちこむことに成功していた。再び轟音と爆炎と土煙。直撃を被った弾薬庫が、兵士たちに逃げる間もなく吹き飛んだのだ。延焼を始めた木々の煙は、まるで墓標のように山から幾筋も登っていた。

「終わったな……。」
チョッパーの呟きはいつになく疲労の色が感じられた。
「帰りましょう、私たちの基地へ」
ナガセの声も落ち込んでいた。俺だって似たようなものだろう。時差ぼけに超過労働を強いられた身体には、かなりの負担であることは間違いない。
「……ナガセ」
「え?」
「その台詞は、もう少し気合の入った声で言うもんだぜ。……元気出せ」
「チョッパーも」
「へへっ、そうだな。ありがとよ」
サンド島への帰路につく4機。だが、俺たちは限りなく細い綱の上を何とかバランスを取って渡っているだけだ。俺は一体何のために戦っていたのか。そう、俺はみんなを無事に生還させるために戦っているんだ。俺は自分に誓ったはずの目的を改めて思い出そうとしていた。そうでもしていないと、俺は俺でなくなりそうな気分に浸されていた。そう、人の死をなんとも思わず、戦争を無意味に拡大する両国の軍部首脳たちのような人間に堕ちることだけはご免だった。

ラーズグリーズ・エイセス戦記トップページへ戻る

Requiem for unsung ACESインデックスへ戻る

トップページに戻る