零下の檻


攻略メモ
ユーク本土に発見された捕虜収容所。凍土の中に作られた収容所に囚われている捕虜たちを救出すべく、海兵隊部隊が侵入した。これを回収するヘリ部隊を護衛がメインのミッション。この周辺空域に配備された航空部隊を全て排除し、制空権を確保することがミッションクリア条件となる。
敵部隊は接近しないと出現しないため、効率的にマップを回る必要がある。多少面倒くさいかもしれないが、大回りでぐるぐると飛行し、敵を発見し次第攻撃に移るというのがオススメ。戦闘機部隊との戦いはそれほどハードではないので、マップ上の確認漏れがなければなんとかなるはず。戦闘機部隊を排除すると今度は地上の対空防衛網の掃除が待っている。ヘリ部隊が収容所へたどり着けるよう、速攻で倒してしまおう。
敵地上戦力を壊滅させるとミッションクリア。だが、隠蔽されていたSAMの攻撃でナガセ機は撃墜され、彼女は凍土の大地に放り出されてしまう。悪天候のため救助隊の出動も遅れるという事態に。
登場敵機:F-16CB60、TND-F3、Su-27、対空砲、SAM

リムファクシの撃沈により、頭上からの脅威から解放されたオーシア軍は各地で快進撃を続けている。そんな部隊のうち、ユーク北部のツンドラ地帯に侵攻していた部隊が大規模な捕虜収容所を発見した。極寒の地に押し込められていたのは、大戦開始後捕虜となったオーシア兵の中でも、主にパイロットを中心とした兵であった。既に海兵隊が現地に潜入し彼らの保護に当たっている。捕虜はパイロット中心、という報が届いたとき、ナガセの顔が一瞬明るくなったことに俺は気が付いていた。そう、パイロット達が押し込められているなら、ナガセをかばって捕虜となった「あの人」がいるかもしれないのだから。

俺たち4機はツンドラの真っ白な大地、しかも低い雲に覆われたどこまでも続く白い大地の上を駆けている。悪天候によってレーダーの効きが悪く、敵の存在を確かめるには接近するしかなかったが、反対にそれは俺たち自身の隠れ蓑にもなる。救援の輸送ヘリが到着するまで制空権を完全に確保しておくこと。それが俺たちに課せられた任務であった。
「しかし、こんなところに収容所たぁ、完全な人権侵害、サンサルバシオン人権条約の違反じゃねえのか?」
「ここに、隊長が、いえ、前の隊長が捕われているのでしょうか?」
「いるいる。いるに決まっているさ!不平を鳴らしまくり、しかも仕切りまくってな。なぁナガセ?」
「ありがとう、チョッパー。私は大丈夫。さ、早く制空権を確保してしまいましょう!」
ナガセがやや気負いすぎであることが気になったが、俺たちは収容所空域の哨戒を始めた。厚い雲と悪天候では、目視でも遠くの機影を捉えることはほとんど不可能に近かった。
「こちら潜入中のゴブリン1、今コントロールルームに立て篭もっている。今のところは大丈夫そうだが、敵さんも馬鹿じゃない。上空の支援機、頼んだぜぇ」
「ゴブリン1、こちらウォー・ドッグ、ブレイズだ。今上空を哨戒中。敵機を発見し次第攻撃を開始する。」
「お、サンド島の四機かい?こいつは心強いな。こっちも任されたぜ。これ以上捕まってた連中に辛い思いをさせないよう踏ん張らせてもらうぜ」
まだ友軍部隊の侵入に敵は気が付いていないようだが、見回りもあれば定時通信もある。それほど時間が残されていたわけではなかった。
「隊長、敵航空部隊の機影発見。距離080に4機!」
レーダーに微かな機影が映っている。どうやらまだこちらの接近には気が付いていないようだった。俺とチョッパーは長距離AAMのロックを彼らにかけ、そして発射した。厚い雲の上をミサイルの排気煙が伸びていくが、風と悪天候にすぐにまぎれて見えなくなった。しばらくして遠方に爆発が3つ、その光が煌いた。
「何だ!?一体どこから攻撃を受けたんだ!?」
かろうじて生き残った一機をナガセが叩き落す。あれでは通信をする暇も無かったであろう。炎を煙を吐きながら、敵機が雲の中に消えていった。俺たちは空域をくまなく飛行し、撃ち漏らしがないように慎重に飛行していった。
「なんだ、あいつめまた定時連絡忘れているぞ」
「なに、こんな空の中飛んでくる馬鹿なんていないさ」
そんな呑気な会話を交わしている敵戦闘機の背後に襲い掛かり、反撃の暇も与えず撃墜する。止むを得ずコクピットを狙った俺の攻撃は機首を吹き飛ばし、コントロールを失った機が虚空へと上昇していく。やがてエンジンが爆発したのか、高空で爆炎が弾け破片が四散していった。
「これで残りは……4機か。ブービー、早く片してしまおうぜ」
後残るは収容所の西片の空域だけだが……。
「おい、何だかさっきから誰かに見られているような気がするんだが……」
「!今人の姿が見えなかったか!?」
下の通信が急に慌しくなる。そして銃声と何かが倒れるような音が無線の向こうで響いた。
「っくしょう!発見された!!部屋の机や椅子をバリケードにしろ!早く!!」
自動小銃の挙げるけたたましい射撃音が響き、怒号と悲鳴が響き渡る。その音を嗅ぎ付けたのか、それまで姿を隠していた敵戦闘機が反転し肉薄してきた。
「ブレイズ、奴らを近づかせるわけにはいかない!」
「エッジ、チョッパー、アーチャー、ここで片付けるぞ!」
俺たちは真っ向から敵編隊に突っ込んだ。互いに散開し、それぞれの獲物を狙って砲弾とAAMが飛び交う中を俺はくぐり抜けた。どうやらさっきまでの連中とは少し違う、腕利きの連中らしくそうそう簡単にはやられてくれなかった。上空に上がった敵機と俺は、そこから高G旋回を繰り返した。激しいGに視界が揺らぎ、そして黒ずんでいく。ブラックアウト!だがそれは敵も同じはず。いつまで続くか気が遠くなるような感触の中、ふいに敵機の動きが直線的になった。その隙に俺はAAMを叩き込んだ。至近距離からの攻撃を逃れる術は無く、機体後部を貫かれた敵機は大爆発を起こして四散した。煙の中を突破した俺は、後背を取られて回避行動を続けるアーチャーの後ろに付いた敵機に肉薄し、バルカン砲を叩き込む。主翼に命中するが、撃墜までとはいかなかった。不利を悟った敵機は反転すると収容所から撤退を始めた。その側面から、今度はエッジが攻撃にかかる。機首をへし折られ、きりもみに陥りながら敵機は高度を下げ、そして収容所の裏手の山で爆発した。これで制空権は確保した!
「こちらシー・ゴブリン。上空制圧隊、敵戦闘機の全滅を確認した。これより収容所への強行着陸に向かう。援護を頼むぞ!」
「了解、こちらチョッパーだ。今からエスコートに向かう。天気が悪いからって、自爆して墜落だけは勘弁してくれよ」
「馬鹿言うな。こちとら南洋ののどかな島で仕事したくて海兵隊に入ったんだ。こんな寒いところでビバークなんて冗談じゃないぜって……おい、下に何かいるぞ!」
それは対空攻撃メインの地上部隊だった。恐らく、制空権まで待機していたヘリの機影が、防空網に引っかかったのだろう。相当な台数の対空戦車やSAMが動き出し展開を始めた。
「こいつはたまらん!派手な歓迎に感謝したいがこのままじゃやられちまう!制圧隊、何とかしてくれ!」
「高空から低空へと、今回も人使いが荒いったらもう……」
チョッパーはそういいながら高度を下げ、手近な所にいた対空戦車隊に砲撃を浴びせた。戦車の周りにいた兵員達が慌てて逃げ惑い、バルカン砲が着弾する雪煙が戦車へ伸びて行き、直撃を受けた戦車の砲台が爆発の衝撃で台座から吹き飛ぶ。白い大地に黒焦げた地表が姿を表す。砲撃と爆発とで空と大地は奇妙な色で照らされ、閃光がいくつも瞬く。俺たちはそんな空の下で、ヘリの進路を確保するため何度も急降下と急上昇を繰り返しながら地上部隊を叩いていった。
「くそ、こいつら攻撃が当たらないぞ。一体どうなっているんだ!」
「まさか、こいつら、北洋の悪魔か!?やばいぞ、皆殺しにされちまう!!」
味方が次々と破壊されていく光景を目の当たりにしたせいか、一部の部隊が壊走を始める。逃げる敵を追う必要は無かった。俺たちは未だ攻撃を続ける部隊に集中攻撃を浴びせ、その兵力を削ぎ落としていった。その間にシー・ゴブリン隊のCH-47は防空網を突破し、ついに収容所上空にたどり着いた。CH-47からは増援の海兵隊員たちが次々と降下し、基地の防衛隊と激しい銃撃戦を展開する。俺たちもその上空からバルカン砲の攻撃を浴びせていった。もちろん、狙いをつけたものではないが、自分たちの攻撃の及ぶところでない存在からの攻撃、先日まで俺たちに浴びせられていた弾道散弾ミサイルのように、それは戦意を喪失させるには十分だった。ほどなく、収容所の守備隊が降伏の白旗を挙げ、ついに収容所は陥落したのであった。海兵隊たちの歓声が、雪の大地に木霊していた。

地上では収容所から解放された捕虜たちが、ヘリへと集まってきていた。体力を消耗している者も多いのか、海兵隊の肩を借りている者もいる。海兵隊にも怪我人が出ているようで、担架で運ばれる兵士の姿も見える。
「あの中に、きっとバートレット隊長がいるはず……!」
ナガセは機体を降下させ、そしてゆっくりと収容所の上を旋回し始めた。
「ハハハ、ナガセの奴本当に見に行ったぜ。やっぱりずっと気にかけていたんだな、ブービー?」
「そうだな。何だか、あの悪態と罵声が今に飛んでくるんじゃないかと実は思っていたんだ」
「おまえもか。実は俺もさっきから期待しているんだ。」
だが、期待の「悪態」は最後まで聞こえなかった。捕虜たち全員の収容が終了し、ヘリのローターが回りだしてもバートレット大尉の声を聞くことは出来なかった。
「こちらウォー・ドッグ、エッジです。バートレット大尉はいらっしゃいますか?」
たまらずナガセがヘリに呼びかけた。「ちょっと待ってくれ」とシー・ゴブリンの、さっき南洋で働きたかった、と語っていた搭乗員が確認を取ったが、回答はネガティブ。他のヘリにも彼の姿は無かった。
「そんなことって……」
ナガセの絶句した声が聞こえたときだった。俺の機体は、敵のレーダー照射信号を捉えていた。まだ敵が残っている!収容所の上空をまだ低速で飛んでいるナガセのすぐ後方で、SAMの発射される煙が上がった。
「ナガセ、回避しろ!!後方からSAM、至近だ!!早く!!」

ブレイズの声に反射的にナガセはスロットルを最大に叩き込んだ。身体がシートに張り付き、機体はアフターバーナーの炎を噴出して一気に加速を始めるが、速度を落としていた代償は大きかった。ナガセの機体が速度に乗るより早く、SAMはその後ろに噛み付かん、とあっという間に接近してきた。
「私、私、隊長があのときあんなに言ってくれていたのに……!」
操縦桿を引き急上昇を始めるが、その程度では振り切ることは出来なかった。体は激しいGにさいなまれ腕を動かすのでさえ一苦労。……やられる!ナガセは覚悟を決めた。
「ナガセ、馬鹿!!」
「ナガセ先輩っ、逃げてーっ!!」
チョッパーとグリムの叫びと、ミサイルが命中する衝撃とどっちが早かったろう。振動と衝撃で身体が揺すぶられ、一瞬息が止まる。むせ返りながらも振り向いて機体を確認する。コクピットは異常なし、電源も生きている。尾翼が吹き飛んではいたものの、まだ逃げる時間は十分にあった。持っていける最低限の武器と弾丸をパイロットスーツのポケットに押し込んで、脱出の準備を整える。
「ナガセ、機体は消耗品、パイロットが生還すれば大勝利、だ。早くベイルアウトしろ!大丈夫か、怪我は?」
「私は大丈夫。ありがとう、ブレイズ。そうね、機体は消耗品。ベイルアウトします!」
キャノピーが吹き飛び、少しして彼女の身体は空へと打ち上げられた。パラシュートが開き、降下速度がゆっくりしたものに変わっていく。足元に広がるのはどこまでも続く白い雪原。戦闘機で飛べば一瞬の大地も、歩いたらどれだけかかるのか見当もつかなかった。助けが来るまでの間、それに自分は耐えなくてはならない。でも、どんな困難な状況に置かれても自分を助けに来る人たちがいる。その人たちのためにも、簡単に諦めることなど出来はしなかった。彼女は、何事かを呟いた。

「畜生畜生畜生ーっ!おい、ブービー、何とかならないのかよ。何とか言ってくれ!そうでないと俺も墜落して探しに行くぞぉ!」
「落ち着いてください中尉!今僕らが行ってもどうにもならないんです!」
彼女の降下地点を目指したシー・ゴブリン隊の攻撃ヘリは風にあおられてバランスを崩し、逆に墜落してしまった。機体の損害は少ないが、これで今彼らを、そしてナガセを救出できる人間は誰もいなくなってしまったのだ。だが、俺たちとてこんな雪の大地に降りる術はない。
「シー・ゴブリン隊、救出した捕虜を下ろす基地はどこか?」
「こちらシー・ゴブリン、さすがにこれだけの人数を乗せて遠くには行けない。近場に陸軍が落とした野戦飛行場があるんだ。そこが俺たちの帰還基地だ」
「了解。我々もそこへ向かう。天候が回復し次第、遭難した部下を助けたいんだ」
「同感だ!彼女は俺たちの恩人でもある。俺たちからも上に話してみることにする。そっちも頼んだぜ!」
天候がいつ回復するのかが問題だが、ブリーフィングでの情報では何日も続くようなものではなく、一過性の嵐だったはず。だとすれば、うまくすれば数時間で再び向かえる可能性がある。問題は、それまでに敵兵に見つからずにいられるかだが、彼女なら何とかなるだろう。最悪のケースを考えてしまいそうなので何度も首を振り、俺は敢えて楽観的に考えることにした。
「ナガセーっ!オイラが必ず助けに来るから、それまで無事でいろよぉぉっ!」
チョッパーは何度も彼女の名前を連呼していた。俺だって同じだった。必ず助け出す。だから、それまでの間何とか耐えていてくれ、ナガセ。俺は必ず戻ってくるから。俺は今まで感じたことの無いような喪失感と焦燥感とを味わうこととなった。雪の大地の吹雪は、まだ止みそうに無かった。

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