凍土からの救難信号
攻略メモ
先の戦いで凍土に不時着したナガセの救出作戦。前回の戦闘で収容所の捕虜救出に参加したシー・ゴブリン隊の救難ヘリをナガセの位置まで誘導する。このミッションではナガセの発する救難信号を探知するビーコンがHUDに表示される。このビーコンが隙間無く音も最も大きくリズム良く聞こえる方向にナガセがいる。ナガセの位置に近づくと彼女の会話が変化するので、それを頼りにして進んでいくしかない。
戦闘機や地上目標にわき目もふらずに進むと、後で痛い目を見る。可能な限り潰していかないと、ナガセ発見後に進入してくるシー・ゴブリン隊が敵の攻撃を受けてしまうのだ。そうでなくても敵戦闘機群の猛攻を受けるので、繰り返しになるが可能な限り敵戦力を排除しておくことをオススメする。ビーコンを頼りに進んでいくとE-767が出現してジャミングをかけられてしまうが、これこそ彼女に近づいた証。このとき制限時間が1分半程度あれば何とかなる。落ち着いてE-767を処理して、その後ナガセを発見しよう。通信で「ブレイズ!」という嬉しそうな彼女の声を聞くことが出来れば成功。その後はシー・ゴブリンを追撃してくる戦闘機部隊を徹底的に叩いていこう。
ナガセのタフネスに感心させられるミッション。
登場敵機:F/A-18E、CH-47、E-767、Mig-31、X-29A DAREDEVIL、対空砲、SAM
雪はようやく空から舞い降りるのを止めようとしていた。降り積もった新雪は足を飲み込み、前へ進むことを阻もうとする。さらに冷たい感触が余計に体力を奪い、このままここで休んでいけ、とささやきかけるようだった。だがその誘惑に負けたら最後、ここで凍死するか、凍えて身動きが取れなくなったところを敵に急襲されるのがオチだった。既に上空を時々ユーク軍のものらしきヘリの姿が飛び交っている。明らかに、自分たちを探してのことだ。
後ろでは、墜落したシー・ゴブリン隊のヘリの搭乗員がいる。墜落の衝撃で一人が足を痛めているため、ゆっくりとしか進むことが出来ない。彼は自分を置いていくようにと言ったが、そんなことをさせるわけにはいかなかった。一番機を守る、と誓った人間がそうそう簡単に味方を見捨てることは出来なかった。ナガセは、唯一の武器ともいえる拳銃を手にし、辺りの様子をうかがっていた。
必ず、助けが来る。根拠があるわけではなかったが、戦争が始まってから共に飛んできたウォー・ドッグ隊の皆が必ず来てくれる。ブレイズが必ず来てくれる。それまでの間、敵に捕まるわけには行かない。ナガセは、慎重に辺りの様子を伺いながら、ツンドラの大地を進んでいく。彼女の胸元のポケットから発信される救難信号。これがブレイズたちを導く道標になることを願いながら。
俺たちは再び収容所空域に足を踏み入れた。既に雪はやみ、足元のツンドラの大地が良く見える。低速で飛行していると、木々の中を走り抜けていくカモシカの姿まで確認することが出来る。最も、針葉樹の林の中は全く見えなかったが。
捕虜たちを乗せたヘリを護衛しつつ着陸した俺たちは、シー・ゴブリン隊と共にナガセの救出作戦を具申した。あまり見たくない司令官殿の顔に頭を下げて彼女の救出を直訴したわけだが、言わば司令官殿の昇進をもたらす幸運の手駒の一つ、それも部隊の広告塔としてのナガセの存在を失うことは大きな損失だとでも打算が動いたのか、不快な顔一つせず彼は作戦の実行を許可したのだった。
「ナガセーっ!聞こえるかぁぁっ!聞こえるなら返事をしろぉぉぉっ!!」
「中尉、落ち着いてください!ああもう、鼓膜が破れるかと思ったじゃないですか。」
「馬鹿、グリム、おまえに聞かせているんじゃねぇ。ナガセに聞かせているんだ。少しくらい我慢しろ!」
だが彼女か脱出のときに持ち出した小型の無線機では、俺たちの通信内容までは捉えられない。逆に俺たちは周波数を合わせることで、彼女の声を受信することは出来る。それがまた余計に俺たちを焦らせていた。頼りになるのは、彼女が発する救難信号。HUDに表示されるビーコンの強弱が、彼女を発見する唯一の鍵だった。
「こちらシー・ゴブリン。ブレイズ、彼女を発見したらすぐにそのポイントへ急行する。頼んだぜ」
後方で一旦着地して待機しているシー・ゴブリンからの通信が入る。
「ブレイズ了解。だが、その前にお客さんを片付けなければならないみたいだ。」
「ときに、おまえさんたちのお姫さんは美人かい?独身の美人なら口説かせてもらいたいんだけどな」
「こちらチョッパー。シー・ゴブリン、やってみな。ガードも鉄壁の堅さだぜ」
「なに、南洋の暖かい島の綺麗な海でゆっくりとガードの敷居を下げてもらうさ」
俺のレーダーは、早くも接近してくる航空機の機影を映し出していた。あくまで俺たちの邪魔をするつもりということだな。だったら、打ち砕くまでだ。俺は自分でも驚くほどに好戦的になっていた。
雪原を吹き抜ける風に乗って、微かに聞き覚えのあるエンジン音が聞こえた気がした。ナガセは立ち止まり、空を見上げた。だが、待ち続けているその姿は彼女の視界には入らなかった。その代わりに、別の音が近づいてきた。低いローター音。ユークの輸送ヘリだ。
「そこの茂みに隠れて動かないで!」
後ろの搭乗員たちに隠れるよう指示し、彼女は自分自身も針葉樹の陰に身を隠した。こうやって立ち止まると、寒さが身体に染み渡っていく。しゃがみ込んだ足は雪に直に触れ、その冷たさに思わず声をあげそうになる。ヘリのローター音はゆっくりと近づき、そして自分たちの上空に到達した。開いたドアからは敵兵が身を乗り出し、辺りを伺っている。
「この辺にはいないみたいだぞ」
「しかし、敵の戦闘機が飛んでくるくらいだから、オーシアにとっちゃ大事な人間でも落ちたのかも知れんぞ。よく探せ」
ナガセは木々か彼女の姿を覆い尽くしてくれることに感謝していた。そして、彼女の期待通り、戦闘機……ウォー・ドッグが戻ってきたということに彼女は勇気付けられるような気がしていた。
逃げ惑う敵機の翼を吹き飛ばし、俺はレーダーに目を落として次の獲物に狙いを定めた。雪の大地を鈍重に進むSAM車輌に俺はバルカン砲を叩き込んだ。車から火花が上がり、そして爆発する。雪が吹き飛ばされ、その辺りだけ微かに地表が露出した。チョッパーもアーチャーも、空に大地に、次々と攻撃をしかけシー・ゴブリンの突破口を確保しようと奮戦していた。だが、雪が晴れた今この空域はユークの本拠地。付近の基地から一斉にスクランブルがかかったのか、次から次へと戦闘機がやってきて、思うように進めなかった。
だが、そんな中でもビーコンの反応は確実に強まってきていた。方位360、ほぼここから北の地点にナガセがいる。そしてその方向からは、新手の敵編隊が姿を表していた。対地攻撃仕様のF-15Eに、ガンシップまで!どうやら敵部隊はこの地域にオーシア軍の陸上部隊が進撃しているかと勘違いでもしているらしい。実際にいるのは、機を失ったパイロットだけだというのに。
F-15Eの編隊は俺に狙いを定めてきた。ミサイルアラートがけたたましく鳴り響く。前方から、ミサイルの排気煙が幾本も向かってくる。こんなところで、足止めをされるわけにはいかなかった。
「邪魔をするなぁぁぁぁっ!」
ミサイルの雨をくぐり抜けた俺は、すれ違いざまに2機のコクピットを吹き飛ばした。1機はバルカン砲。もう1機はAAMで。散開した一方のケツに食らいつき、AAMを発射する。低空に逃げようとした敵機は針葉樹の頂きに接触して大地に叩きつけられる。そして爆発。白い大地に不似合いな赤い炎が吹き上がる。
「気合入っているじゃねぇか、ブービー。オイラも負けてられないぜ!」
「ああ、早くナガセを探し出すんだ。こんなところで止まっているわけにはいかないからな」
「さっき人影が見えたような気がしたんだが、気のせいだったらしい。あああ、そう考えたら余計に焦ってきやがった。てめぇら、死にたくなければ道を開けやがれ!」
俺とチョッパーは片っ端から付近の敵機に襲い掛かった。空にはいくつもの炎と煙が飛び散り、地上からも黒煙がもうもうとたちこめる。
「すごい……僕も負けてられない!」
上空の敵を狙っていたグリムが急降下し、新たに出現した敵戦闘機編隊に連続攻撃を浴びせる。意外な方向からの攻撃に混乱した隙を逃さず、チョッパーと俺は集中攻撃をかけた。バルカン砲の弾幕を張るガンシップのコクピットを容赦なく撃ち抜き、AC-130の巨体を蜂の巣にして反転。援護に付いていたMig-31の後背からAAMをお見舞いしてその胴体を貫く。爆発の閃光が雪の大地を毒々しい色に染め上げた。
予想以上の損害に戦意を失った航空部隊が攻撃を中断した隙を突いて、俺たちは包囲網を突破した。最大戦速でツンドラの大地を駆ける。ビーコンの反応はこれまで以上に大きくなっている。ナガセの居場所はもうすぐだ。
遠くで爆発音とジェット戦闘機の甲高い咆哮が聞こえてきた。ブレイズたちがもうそこまでやってきている証だった。ナガセは茂みの中でほっと胸をなでおろした。その時だった。
「おい、足跡みたいなのがあるぞ。やっぱりこの辺りに敵がいるんだ」
「本部に連絡しろ!赤外線センサーのある車輌を至急よこせと言ってやれ」
自分の目の前、わずか数メートルのところを敵兵が2人歩いていく。まだこちらには気がついていない。撃ったほうが早いか。だが、この大地で発砲しようものなら、その音で自分の居場所を知らせてしまうようなものだ。永遠に続くようで実はそれほど時間が経っていなかった。ナガセは300まで数えて茂みから少しだけ顔を出した。敵兵は幸い別の方向に向かったようだ。だが、赤外線センサーを積んだ車輌が出てくると状況はさらに悪くなる。少しでも今のうちに距離を稼いでおくしかなかった。
「敵が近くまで来ている。場所を移動する」
誰かが聞いてくれていることに賭けて、彼女は通信機に向かったそう告げた。
ビーコンの反応は音、波ともに最大レベルになってきていた。その音を聞いているだけでも耳が痛くなりそうだ。だが、それはナガセにより近づいたことの証でもある。
「どうやらこの先、俺たちのお姫様がお待ちみたいだな、ブービー」
チョッパーの声が心持ち明るい。かなりの数の敵機を叩き落した俺たちだったが、依然敵の攻撃は止んでいなかった。チョッパー、グリムとトライアングルフォーメーションを組んで俺たちは辺りを見回していた。まだ、ナガセの姿を捉えることは出来なかった。ふとレーダーに目を戻すと、機影が一瞬映ると同時に画像が激しく乱れ、通信機にはガリガリ、という耳障りな音が響き渡る。
「電子戦機!くそ、ナガセ先輩まであと少しだっていうのに!!」
上空にE-767の姿。そしてそれを護衛する敵編隊の姿が目前に迫る。
「……敵が近くに来ている。場所を移動する……」
これまで以上に鮮明なナガセからの通信。これだけはっきり聞こえるということは、やはりこの付近に彼女はいる。
「おい、ブービー、ここはオイラが引き受ける!早くナガセの居場所を特定して、迎えを呼ぶんだ!グリム、おまえはシー・ゴブリンの援護に行け!ここの敵を片付けたら俺たちも行く。急げ!!」
「アーチャー了解。中尉、隊長、ナガセさんを頼みましたよ!」
「くそ、来やがれ、ユークのトンボども!!」
チョッパーが無謀とも見える突撃を開始したのを横目に、俺は一気に高度を下げ辺りを見回した。ビーコンの反応はどの方位を見ても変わらない。後方で奮闘するチョッパーの声が聞こえる。くそ、どこだ。どこにいるんだ。もう俺のエンジン音が聞こえるはずだ。聞こえたなら、俺たちを呼んでくれ、ナガセ!
「甲高い咆哮、聞き慣れたこの音……やっぱり、みんな来てくれたんだ……」
「ああ!迎えにきたぞ、ナガセ!返事をしてくれ、どこだ!」
針葉樹の上をいくつものジェット戦闘機のエキゾーストが駆け抜ける。木々の間からは、ユークトバニア空軍機に混じって、見慣れた白い機体色の戦闘機の姿が見え隠れしている。何機もの敵に囲まれながら、全くひるまず、むしろ敵を翻弄している。仲間が来てくれた、という一瞬の油断。ナガセは雪の上に落ちていた木の枝を踏み割ってしまった。乾いた音が無常にも響いてしまう。しまった!
「いたぞ、こっちだ!!」
激しい射撃音が連続して響き、さっきまで自分のいた辺りを灼熱の弾丸が撃ち抜いていく。自動小銃相手で拳銃で何が出来るだろう。ナガセは針葉樹の木々を盾にしながら、一気に駆け出した。怪我を負ったヘリのパイロットたちの方向に敵の意志を向けさせないためにも。後方から放たれた銃弾が自分の周りの木々に当たり、あるものは自分の顔の側を駆け抜けていく。このままではもうやられる!その頭上を轟音が駆け抜けた。ナガセが一番聞き慣れたエンジン音。コクピット脇に描かれた、炎のエンブレム。そして垂直尾翼の、自分のパイロットスーツにも付いているワッペンと同じウォー・ドッグのエンブレムがナガセの視界を通り過ぎた。
「ブレイズ!!」
ナガセは力を振り絞ってそう叫んだ。
森から走り出てくるナガセの姿を見つけた俺は、その後ろにいるであろう敵めがけてバルカン砲を撃ち込んだ。雪煙が舞い上がり、森を包み込む。急旋回して森の外側に止まっている車輌群をバルカン砲で狙い撃ちにする。身動きすることも出来ず、車輌は吹き飛び、砲撃を浴びせられた敵兵が慌てて森から逃げていく。ナガセには指一本触れさせるものか!俺はその後姿へと攻撃を叩き込んだ。爆発で吹き飛ばされた敵兵が雪の大地の上で激しくバウンドして転がる。
「シー・ゴブリン!ナガセを発見した。急いでくれ、敵の地上部隊も展開しているようだ!」
「こちらシー・ゴブリン。こっちもビーコンを捉えた。待っていてくれ、今そっちの腕利き2機にしっかりと守られて進撃中!」
「ブービー、こっちは任せろ。おまえはナガセの周辺に敵を近づけるんじゃないぞ、いいな!!」
俺は上空で旋回を繰り返しながら、敵部隊の接近を牽制する。だが森の中までは敵の動きは分からない。ヘリの到着まであと数分はかかる。安堵と焦燥が入れ替わり俺の心をいたぶり続ける。
「動かないで!!銃を捨てて両腕を上げなさい!」
戦闘機の攻撃に慌てて飛び込んできた敵兵の小銃を弾き飛ばし、ナガセは拳銃を敵兵に突きつけた。目だし帽にゴーグルをかけた兵士の表情は分からないが、ヒッと息を飲む声が聞こえた。ゆっくりと両手を上げ、観念したように彼は立ちすくんだ。その足がぶるぶると震えている。
「お願いだ、撃たないでくれ!俺だって死にたくないんだ」
敵兵の答えは意外なものだった。だがその答えを鵜呑みにすることは出来ない。隙を見せれば、撃たれるのは自分だ。険しい表情で睨み付けながら、銃を持つ腕をさらに上げる。
「冗談じゃない、何でこんなところにまで「ラーズグリーズの悪魔」がやって来るんだ!悪魔相手で俺たちがかなう訳が無かったんだ」
「ラーズグリーズ?何を言っているの?」
「知らないのか?最近うちの兵力に甚大な損害を与えている4機の戦闘機部隊のことさ。まるで攻撃をすり抜けるように近づいて死を運ぶ、北から来た悪魔が俺たちの上を飛んでやがる。俺たちだって、こんな戦争はこりごりなんだ!」
ナガセはそれでも銃を構えた腕を下ろさない。口から吐き出される白い息が、風に乗って伸びていく。彼女のショートカットの髪が風にあおられてなびいた。明らかに自然のものとは違う風が、上から降りてくる。ロープが数本降りてきて、自分の周りにフル武装の兵士が続いて降り立ちあたりを警戒する。そのうちの一人が銃を構えつつこう言った。
「お姫さんの騎士さんたちに先駆けて口説かせてもらいに来た。……早くお仲間さんに連絡してやりな」
自分が捕らえた敵兵士が友軍の兵士に連れられていくのを確認して、ようやく彼女は銃を仕舞った。張り詰めていた神経が解き放たれ、同時にどっと疲労が押し寄せる。それでも彼女は踏ん張り、自分の足でヘリへと上がった。ここまでつれて来たヘリのパイロットたちも無事保護され、担架でヘリに運び込まれてきた。用意された毛布にくるまったとき、ナガセは生還した喜びを噛み締めたのだった。
やがてヘリが上昇を始める。搭乗員の一人が、無線のヘッドセットを持ってきてくれた。お仲間さんからラブコールだ、と言い彼はウインクをした。
「こちらナガセ、みんな聞こえる。私は大丈夫。パイロットが帰れば大勝利、よね?ただいま……そして、ありがとう、グリム、チョッパー、ブレイズ」
無線の向こうで、チョッパーが音程はずれのロックンロールを歌いだした。ヘリの搭乗員たちが笑い出す。ヘッドセットを搭乗員に返し、ナガセは膝を抱えて座り込んだ。今更ながらに疲労が身体を包み込み、寒さがぶり返したのか足が震える。
(ブレイズを守る……?守られているのは自分のほうだ。こうして今日も、ブレイズにこの命を拾い上げてもらったようもの。だから、私は今まで以上に1番機を、部隊のみんなを守らなくては。決して、1番機を墜とさせはしない。)
顔を上げたナガセの視界を、雪山が通り過ぎていく。数時間の間歩き続けた雪の大地から離れ、再び空にあることを再確認したナガセは、ようやく全身の緊張を解いたのだった。
近場の航空基地に着陸した俺たち。ナガセはすぐに軍医の診察を受けたが、特に怪我もなく、軽い凍傷と疲労による発熱、それだけで済んだ。大事を取って入院したものの、すぐに退院できるということで、俺は胸を撫で下ろした。医務室脇の4人掛けのベンチを俺とチョッパーは占領し、ナガセの無事を改めて喜んでいた。
「逃げるだけでなく、敵兵まで捕まえていたっていうんだから、感心する以上に呆れたぜ。ありゃ、ナガセの旦那になる奴は一生尻に敷かれてこき使われるぞ、きっと」
「ハハハ、確かに。チョッパーなんかお似合いじゃないのかい?」
「よせやい、早死にしちまうだろうさ。ブービー、おまえさんこそどうだい?」
「俺もこき使われるのはごめんだよ。」
チョッパーは天を仰いでそして笑い出した。俺もまたつられて笑い出した。
「ま、何にしても人使いの荒いお姫さんにこき使われる召使3名の地位は安泰ということだな。めでたしめでたし、と。お、そうそう面白いことを聞いたぜ。俺たちのこと、敵さんは「ラーズグリーズの悪魔」と呼んでいるんだそうだ。どう思う?ブービー」
ラーズグリーズ北方から来て死を運ぶ悪魔。その力を以って死をもたらす翼。ある意味、俺たちには相応しい呼び名なのかもしれない。急に黙り込んだ俺を不思議そうにチョッパーが眺めていたが、ナガセの病室から看護婦が顔を出し、面会が可能であることを告げると奴は俺の襟首を引っつかんで病室へと歩き出した。
笑いながら、改めてナガセが無事であったことに、俺は胸を撫で下ろしたのであった。