Journey Home
攻略メモ
平和式典での展示飛行をすることになったウォードック隊。アップルルース副大統領の要望もあり、警護も兼ねた出撃となる。ミッションは大きく分けると4パートに分けることが可能である。
第一幕 展示飛行
4機編隊をいかにくずさずに飛行するかがポイント。とはいえ、多少ばらけたところで問題は無い。ビューを機体後方からの視点に切り替えて、全体を把握しながら飛行するとやりやすい。特に戦闘は発生しないので操縦に専念するのが吉。
第二幕 敵第一波到来
副大統領の空疎な演説に対し、スタジアムに集まった市民たちは「Journey Home」という歌を合唱し始める。そう、これは反戦歌だ。それとほぼ同時にユーク軍の航空機部隊が出現するのでこれを迎撃することに。出現数が結構多いので作戦指示を使い分けながら確実に攻撃していくと良い。
第三幕 ステルス攻撃隊到来
第一波を退けると、スタジアム攻撃の本命部隊、F-117Aで構成された攻撃隊が出現する。この頃になると護衛の戦闘機部隊も半端でない数出現するため、F-117Aを優先的に攻撃していこう。SAAMなどの長射程AAMで叩いていくのも有効な作戦だ。マップで確認する場合には、自分たちから離れた位置からほぼ直線で向かってくる編隊を探しておくことが早期撃退の鍵となるだろう。
第四幕 慟哭
電気系統をやられ、脱出もままならないまま、市民に一人も犠牲を出さずに散ったチョッパー。ウォードック隊のメンバーの怒りは頂点に達する。敵戦闘機はなお多数出現するが、ここまでくるとほとんどミサイルの残弾はないはず。無理に敵を落さなくても一定時間の経過でミッションクリアとなる。
チョッパーの死に、涙するミッション。このミッションを境に物語は急転する。
登場敵機:Su-27、TYPHOON、Mig-31、F-117A、FB-22 PROTEUS
ノーベンバーシティ。オーシア南岸に位置するこの都市はオーシアの大都市の一つであり、最大7万人を収容可能なスタジアムを持つ。そして、今日、そのスタジアムにはオーシア各地から多く人々が集まり、その晴れ舞台でアップルルース副大統領が平和に向けた演説を行うことになっていた。
サンド島を出発した俺たちは、展示飛行に向けて久しぶりに敵のいない空を飛んでいる。夕暮れ時の空から見る夕焼けはいつ見てもきれいなもので、こうして国内を飛んでいると今が戦時中であることを忘れてしまいそうになる。
「なあ、ブービー、ちょっとおかしいと思わないか?何で演説するのがハーリング大統領じゃないんだ?」
「大統領はきっと和平に向けて色々動いていらっしゃるのよ。私はそう思う」
「そりゃそうだけどよぉ、アップルルースといえば退役軍人たちとも親交深いタカ派の議員だったんだぜ。今の地位だって、ハーリング大統領にボロ負けした結果おこぼれでもらっただけじゃねーか。そんな男が、突然平和に目覚めるもんかねぇ。何かひっかかっているんだよ」
「つまり、今日の式典じゃ何かやらかす、ってことに期待しているんですね、大尉?」
「ほっとけ!」
「……そろそろ展示飛行空域に入る。ダヴェンポート大尉、いい加減そろそろいつも通りに言わせないでくれないかね、私語は慎め、と。」
「おいサンダーヘッド、今のはオイラだけじゃないだろう!」
領空内であるせいか、俺たち自身もリラックスしていた。行き先が戦場でないこともあるだろう。チョッパーの冗談に応えるナガセの言葉もいつもほど厳しくはない。グリムの声もどこか楽しげであるし、チョッパーは……いや、チョッパーの軽いノリとどんな時でも感情を感じることが出来ないサンダーヘッドの声はいつも通りだったが。俺たちはダイヤモンドに編隊を組み直した。俺たちが話し合ったパターンは数種。アクロバットチームではないから、基本的にはダイヤモンドでのフライパスと上昇散開、編隊組み直し後もう一度フライパス、それをベースに数分程度の飛行をして1730時作戦終了、という手筈になっていた。先頭はナガセ。サイドをチョッパーとグリム、そして俺は最後尾。またもくじ引きの結果であった。
「じゃあみんないい?そろそろ始めるわよ。ブレイズ、最後尾は任せます」
「よかったなぁブービー、定位置になってよぉ」
俺たちは編隊を崩さないようにスタジアムを目指してゆっくりと降下を始めた。
「……それでは会場の皆様、南の空をご覧下さい。ユークトバニアとの戦いで、幾度となく友軍の危機を救い続けてきた、オーシア空軍第108戦術戦闘航空団、ウォー・ドッグ隊です!」
「かー、俺たちも随分と持ち上げられたもんだなぁ。基地じゃ司令官殿にこき下ろされっぱなしだってのによ」
「大尉、集中しなきゃダメですよ。早速編隊崩れてますよ」
やがて市民で埋まり、サーチライトの光が空を照らすスタジアムが迫ってきた。無線からは彼らのあげる歓声までが聞こえてくる。スタジアムの上に到達した俺たちは一度その上をフライパスして通過した。そのままスプリットSを決めて反転し、スタジアム上空で急上昇をかける。4機並んで姿勢を保ち、一機ずつ降下旋回に移行する。俺は高度15000まで上昇し、大きなループを描いて再びスタジアム上空でダイヤモンドに戻る。4機の呼吸はばっちり。高度2500で再びきれいなダイヤモンドが形作られ、スタジアムからは拍手と共に歓声があがった。これで副大統領殿の面目も保たれるというものだろう。
「さすがはこのメンツだぜ。見事に決まったな、ブービー?」
「ああ、こうきれいにまとめられると気持ちいいよ。さあ、後は哨戒飛行だ。編隊を組み直すぞ」
俺たちはいつものトライアングルフォーメーションを組んだ。そしてノーベンバーシティ空域をゆっくりと飛ぶ。夕日は海平線の向こうに沈もうとし、空を赤く照らしている。光を乱反射した雲が白く輝きながらその空を流れていく光景は、時間が経つのを忘れてずっと眺めていたい気にさせられる。
「今日ここに集った市民の皆さん、そしてオーシア全土の国民の皆さん、前線で戦い続ける勇敢な兵士の諸君、今日この日、このような舞台に立つことが出来ることに、私ベルナルド・アップルルースは感謝いたします。」
ショータイムが始まったらしく、アップルルース副大統領の演説が始まった。
「今我が国はユークトバニア軍事政権との熾烈な戦いにあります。こうしている今も、最前線では多くの兵士たち、そう、家庭では皆さんの良き伴侶であり、良き父親であり、或いは自慢の子供たちである彼らは、その幸せを守るため、その命を危険にさらして戦地に立っています。こんな哀しいことはありません。それは全てユークトバニアという憎き国家が不当にも始めた戦争に原因があるのです。だが、私たちはここで立ち止まることは出来ません。それは、オーシアという一つの国家の大義を否定することに他ならないからです」
俺はもうここまで聞いただけで反吐を吐きたい気持ちにかられた。後方の安全地帯でのうのうと高級士官がふんぞり返って、最前線にある兵士たちを見ようともしないこの戦争。本当に副大統領の言うように、兵員一人一人を大事と思うなら、戦争など出来やしないのだ。
「私たちは、敢えて武器を取り戦う、という愚かな手段を取らざるを得ませんでした。ですが、我々はついにユークトバニアを追い詰めることに成功しました。我が軍の掲げる正義は、ついに彼らを退かせることに成功したのです。あと一息です。この戦争が終わった暁には、我々オーシアは世界を守り、そして世界を一つにした英雄として、この世界で称えられることになるでしょう」
「ああいやだいやだ。結局これだよ。中身の無い戦争賛美演説なんて聞きたくもねぇ。なあブービー、馬鹿馬鹿しくなってきたから帰っていいかい?」
「ダヴェンポート大尉、それは問題発言になるぞ。任務に集中せよ」
「知ったことか。何だったらもっと悪口を言ってやろうか?」
チョッパーは明らかにこの副大統領を嫌っていた。俺もまたかなり不愉快な気分だった。こんな人間がいるから、必要もない憎悪を両国に生み出し、必要のない戦いを繰り返してしまうのだ。そして絶対にその責任を取ることが無い。国家という宿木に寄生する輩。現代国家においては、こんな連中ばかりのさばるのはどういうことなのだろう?
「さあ、市民の皆さん、そしてテレビをご覧のみなさん。どうぞお聞きください、この市民たちの歓声を。ユークへの怒りに燃える人々の声を!」
演説はクライマックスを迎えていた。副大統領の演説が熱を帯び、声が震える。扇動政治家の良く使う手段とも言える。そして、その声に応えるかのように、市民たちの声があがり始めた。
「やれやれ、こんな安っぽい演説に乗せられるようじゃ、うちの国民もまだまだだねぇ」
「いや、チョッパー、違うぞ。これは……歌だ!」
副大統領の演説に応えたかに見えた市民たち。だが、彼らの応えは歌だった。それもただの歌ではない。15年前の戦争中、兵士たちの間で大ヒットし、次いでオーシア、ユークトバニア、そしてベルカの人々にも愛された反戦歌。その歌をスタジアムを埋めた市民たちが歌っている。俺もこの歌は子供時代によく聞いた。家のリビングで父親が休みになると年代物のレコードプレイヤーでこのLPをかけていたのだ。静かに語りかけるような旋律とハーモニー。
「み、皆さん。どうか、どうか静粛に。」
副大統領は明らかにうろたえていた。それはそうだろう。自分では満点をつけたかったであろう演説への答えが、この歌なのだから。そう、ここに集まった市民たちだけでなく、多くの人々がこの戦争にはもううんざりしているのだ。音程外れのシャウトが聞こえてくるのは、これはチョッパーが大声でこの曲を歌っているのだ。
「大尉、それロックンロールじゃないですよ?」
「いいんだよ、グリム。へっ、国民の皆さんを少し見直したぜ。あの扇動家に手向けた答えがこの歌だもんな。」
俺は笑いながら計器番を何気なく見渡して、そしてレーダーで目が止まった。空域北方に、友軍機でない反応。まさか、この領空内に敵が侵入してきたのか?
「ウォー・ドッグよりサンダーヘッド、レーダーに敵影!そちらはどうか!」
「こちらサンダーヘッド、すごいぞこれは。一体どこからやって来たんだ、こいつら!ウォー・ドッグ、スタジアムを守れ。今支援要請を各隊に発令する」
「エッジ交戦。正面、敵編隊インサイト!」
「くそったれ、新型だ!!」
俺たちはすれ違うや否や急旋回し、その背後を取る。だが敵もさるもの、見事な戦闘機動でレーダーロックを回避していく。ならばその上を行くまでだ。俺は高速での急旋回を繰り返し、その後ろを奪った。バルカン砲の直撃を受けた敵機は命中のたびに部品と破片をばら撒き、そして爆発した。次!右旋回をしてナガセのバックを取ろうとしていた1機に狙いを定めAAMを発射。急旋回で交わそうとしたその機体のど真ん中にAAMが命中し、真っ二つにへし折れた機体がそれぞれ別方向で爆発する。俺たちは次から次へと敵戦闘機を叩き落としていたが、どうやら動員された敵部隊の数は相当の規模のようだ。
「くそっ、アップルルースの馬鹿野郎に対するユークの返答がこれかよ!」
「まさか、あの演説を待っていたと言うの!?」
「こんな数の敵相手に4機じゃ無理ですよ。うわっと、危なかった!」
「サンダーヘッドより、ウォー・ドッグ。最寄のマクネアリ空軍基地で離陸事故が発生した。1番早い味方が到達するまで、あと5分かかる。何とか凌いでくれ!」
こんなときに何をやっていやがる!息をつく暇も無い戦闘機動の中で、俺は無線から聞こえてくる音に気が付いていた。既にスタジアム上空は俺たちとユーク空軍機の戦いが見えているはずだった。
「おいブービー。スタジアムの連中、まだ歌い続けているぞ!避難はどうしたんだ!?」
「ほとんど満員だったんだ。そんなにすぐには出られない!」
「何てこったい!」
完全に敵戦闘機群に包囲される中、俺たちは孤軍奮闘していた。襲い掛かる敵をひたすら叩き、連続して行われる攻撃を回避し、報復の打撃を与えて敵を葬る。夕焼けの空をミサイルの排気煙と黒い煙、そして時々機体が爆発する閃光が極彩色に彩った。300秒という時間がいつまで経っても過ぎ去らず、焦燥感が募る。まだか。援軍はまだか!繰り返される急制動で体がきしみ、視界がGに振り回される。上昇、下降、急旋回、AAM発射、また急旋回。一体それを何度繰り返したのだろうか、だが一向に敵機の数が減ったようには思えない。そろそろ時間のはずなのだが……。
「おいストーンヘッド、友軍はどうした!」
「間もなく到着する。もう少し踏ん張ってくれ、チョッパー!君らだけが頼りなんだ!」
「お、初めてオイラのコールサインを呼んでくれたな」
その直後だった。俺たちのレーダーにノイズが走った。これはECCM!?
「……何だ、俺たちまで引っかかっちまった。ノーベンバーシティに急行中の各部隊、こいつは良く出来た演習だ。各隊、救援の必要は無いぞ。帰投しよう」
救援は来なかった。俺たち4機は、圧倒的な敵航空部隊にたった4機で立ち向かわなければならなかった。
「帰投中の各部隊、何をしている!ノーベンバーシティが、ウォー・ドッグ隊が敵の航空部隊の攻撃にさらされているんだぞ!何?演習じゃないのかだって?馬鹿なことを言っているんじゃない、早く戻れ!!」
サンダーヘッドが怒る声を俺は初めて聞いたように思う。頭の硬いだけの男と思っていたが、それは俺の大きな誤解であったようだ。彼は常に職務に忠実であっただけなのだ。惜しむらくはユーモアのセンスが徹底的に欠けている点であるが……。
「何だか、私たち生贄にされたような気がするわ!」
「生贄だって?どこの野郎か知らないが、帰還したらタダじゃおかねぇぞ!よりもよってオイラたちをこんな所で見捨てやがって!」
「アーチャーより隊長機、敵のステルス攻撃機らしき編隊が接近しています。まさかと思いますが、スタジアム攻撃の本隊ではないでしょうか?」
レーダーには新たな敵影が出現している。整然と編隊を組み接近している奴らがそうなのだろう。スタジアムはまだ避難が完了しているような状況ではなく、上から見てもかなり多くの人々が残されているのが分かる。ここに対地ミサイルが打ち込まれた日には、冗談を抜きにして数万人の死者が出ることになるだろう。
「ブービー、ここはおまえさんが行け!オイラたちが戦闘機はまとめて引き受ける!!」
「すぐ戻る!頼む!!」
俺は敵機の包囲網を強行突破し、接近しつつある攻撃機部隊に襲い掛かった。敵はF-117。なるほど、近くにくるまでレーダーに映らないはずだ。隠密性重視のため動きの鈍いF-117に俺は容赦なく攻撃を浴びせた。エイのような機体をバルカン砲で撃ち抜き、1機はAAMで腹から串刺しにして撃墜する。逃げ出した2機にはさらにミサイルをお見舞いして、夕焼け空を飾る爆炎と変える。だがこれで終わりのはずは無い。俺は敵機で飽和状態のレーダーから攻撃機の位置を割り出し、攻撃態勢に入る前にその射線上に姿をさらした。編隊のど真ん中に飛び込んで攻撃コースを外し、その隙に敵機を屠る。もう一体何機を撃墜したのかさえ覚えていない。
「サンダーヘッドより、各隊、いい加減にしろ!!ノーベンバーシティスタジアムの市民が狙われているんだぞ!!貴様ら、それでも首都防空隊か!?これは演習ではない、繰り返す!これは演習ではないっ!!緊急事態だ!!」
援軍の到着までまだ時間はかかりそうだった。敵から放たれたバルカン砲が機体のすぐ側を通過し、衝撃と轟音が通り過ぎる。機体はまだ大丈夫。逆に俺はその相手のコクピットにバルカン砲を撃ち込んだ。キャノピーに豪快な穴が開き、内側から透明だったキャノピーが血飛沫に曇る。コントロールを失った機が突っ込んでくるのを何とか交わし、次の攻撃機部隊を探し求める。くそ、一体どれだけの部隊を動員したっていうんだ!
数波の攻撃機隊の接近を全て退けることには成功したが、尚も敵戦闘機の数は減るどころか増え続けているような感触であった。既にAAMの残弾はなく、バルカン砲の残弾すら残り少なくなった俺たちは、スタジアムへの道をひたすら妨害するくらいしか出来なくなっていた。敵もそれを見透かしているから、攻撃はどんどん激しくなる。
「おっと。ああ、やられちまった」
チョッパーのいつも通りのノリの言葉が聞こえたので冗談かと横を見ると、ヤツの機体は機銃の直撃を喰らい、煙を吹き出していた。なおもその後背を敵機が狙っている。やらせるものか!俺は横から接近し、目の前の獲物しか見えていない敵機のコクピットを撃ち抜いた。チョッパーは旋回をきれいに決めて俺の横についた。機体からはなおも煙が吹き出している。
「おい、ラーズグリーズが煙を吐いているぞ!」
「よし、奴らは悪魔なんかじゃないぞ、全機血祭りにあげてやれ!」
敵機はここぞとばかりに襲いかかって来た。俺たちはチョッパーをかばいつつ、迫り来る敵機を落とし続けた。チョッパーは何とか姿勢を保っているが、エンジン系統に異常をきたしたのは明らかで、次第に高度を下げていく。
「なあ、ブービー、この辺りどこ見ても市街地なんだよなぁ。どこかに落とす場所はないか?」
チョッパーの言うとおり、ノーベンバーシティは大都市。郊外にもマンションが立ち並んでいる。戦闘機を不時着させるようなスペースはどこにも見当たらなかった。仮に墜落させるにしても、それだけの広さを持つような場所はスタジアムくらいしかなかった。スタジアム?そうか、その手があったか!
「チョッパー、聞こえるか?スタジアムだ。スタジアムに機体を持っていくんだ!」
「何だって?正気かブービー?」
「アンタは垂直に機体を落として、ベイルアウトするの!それならば何とかなるかもしれない」
「ブービーといい、ナガセといい、やっぱりこの部隊は楽しい奴らだぜ。分かった、スタジアムだな!」
煙を吐きながらも、チョッパーはスタジアムへとルートを取っていく。俺たちはチョッパーを狙ってくる敵機を容赦なく叩き落した。俺も、ナガセも、グリムも、まさに死力を尽くしての奮戦だった。気迫負けでもしたのか、敵機が俺たちの周りから次第に離れていく。その間に、チョッパーはスタジアム上空までたどり着き、スタジアム中央への降下ルートを取り始めた。既に機体のコントロールは失われつつあるが、動くフラップなどを使いながら巧みにルートに乗せていくのはさすがだ。
「チョッパー、そろそろベイルアウトしても大丈夫よ。機体はコースに乗ったわ」
だが、チョッパー機のキャノピーは跳ね上がらなかった。
「チョッパー、おい、聞こえるか?もうベイルアウトしても大丈夫だ。そのコースなら後はコントロールもいらない。早く脱出しろ!」
「……駄目だな」
チョッパーの声はひどく落ち着いていた。それが俺の不安を確実なものにした。
「電気系統がやられちまっている。キャノピーも飛ばなければ、シートも射出されない。……どうやら、オイラはここまでみたいだ」
「馬鹿、諦めるな。機体を起こせ!まだその機ならしばらくは飛行できる!」
「何言ってるんだブービー、さっきおまえさんが自分で言ったじゃないか。ここしか「落とす」場所はないってな」
チョッパーの機体はまっすぐ、ルートに乗って高度を下げていく。既にエンジンは死んでしまっているようだが、相応の加速が付いている。そろそろ機首を起こさなければ間に合わない。
「やめてチョッパー、諦めないで!!」
「そうだチョッパー、諦めるんじゃない、チョッパー!!頑張るんだ、チョッパー!!」
「へへ、サンダーヘッド、相変わらずいい声じゃねえか。聞いてて思わず惚れる声だぜ、ホントに」
ノーベンバースタジアムのトラック中央。チョッパー機の吐き出した煙は綺麗にその中心部に伸びていった。そして、土煙が巻き上がり、まさに垂直に墜落したチョッパー機はその衝撃でへし折れ、翼は砕けグランドに転がる。片方のエンジンがもげて転がりだす。だが、市民がまだ多数残ったスタンドには、砂煙以外何も飛ぶことは無かった。
「大尉ーっ!!」
「チョッパー!いやぁぁぁぁっ!!」
「チョッパー、嘘だろ、チョッパー!応答しろ!!いつもの私語はどうした、チョッパー、チョッパーっ!!」
俺の目は何も映していなかった。身体は勝手に反応して敵の攻撃を避けてはいた。何も聞こえなかった。俺の頭の中で、チョッパーの機体が地上に突き刺さる光景が何度も何度も繰り返されていた。俺は皆を守ると誓ったのではなかったか?皆でいつも必ず生還するのだと。だが現実はどうだ。共に戦い、共に支えあってきた相棒の命すら守ることが出来なかった。何が英雄だ。何が「ラーズグリーズの悪魔」だ。そんなものは、チョッパーを守ることに何の役にも立たなかった。
無線の向こうからは、ナガセと、そしてグリムの慟哭が聞こえてくる。不思議なことに涙は出てこない。その代わりに、腹の底から焼けるような、熱いものがこみあげてくる。
「やったぞ!悪魔が落ちた!残りの連中も落とすぞ!!」
「これで帰ったら勲章と報奨金をゲットだ!」
俺のやり場のない怒りは、具現化して敵機に向けられた。チョッパーを落とした奴らへの怒り。チョッパーを守れなかった不甲斐ない自分への怒り、この戦争そのものへの怒り。すべてが混ぜ合わされ、俺の感情のヒューズは音を立てて飛んだ。
それからのことを俺はあまり覚えていない。ただ感情の欲するまま、激情の欲するまま俺は機体を操り続けた。限界を超えた機動に俺の身体だけでなく機体すら悲鳴をあげる。それでも俺は止まらなかった。いや止められなかった。
「何だ、一体なんだ、こいつら。こんな機動人間業じゃないぞ!!」
「悪魔だ、やっぱりこいつらは悪魔なんだ!!」
俺たちの死神の鎌は辺りの敵機を容赦なく撃ち落していった。その機動についていける者はおらず、ついには逃げ出す者も現れた。
「ウォー・ドッグ、聞こえるか、こちら第308航空隊、遅れてしまった!くそっ、どこのどいつだ。何が演習だ!基地のもぐらどもは、そんな嘘すら見抜けなかったのか!!」
「こちら第294戦闘航空団、ウォー・ドッグ、もういい!敵はもうこの空域から離脱を始めている。追撃は俺たちが行う。もういいんだ、止めろ!!」
友軍の呼びかけに現実に戻ったとき、俺たちの周りに敵の姿は一機もなかった。日が沈み、暗くなり始めた空に、友軍機の機体と、アーチャー機、後ろにはナガセ。だが、左にいるはずの機がいない。いや、いるはずもなかった。
「ウォー・ドッグ。こちらサンダーヘッド。スタジアムから連絡があった。チョッパー機は大破、彼は残念ながら死亡が確認された。だがな、脱出の混乱での怪我人は出なかったが、墜落で傷ついた人間は一人もいない!彼は……アルヴィン・H・ダヴェンポート大尉は、最後の最後まで模範的な、素晴らしいパイロットだった。全機、チョッパーに敬礼!」
傷だらけの俺たちの編隊。3機だけになってしまったトライアングル。いつもなら聞こえてくるはずの軽口はもう聞こえない。グリムも、ナガセも、そして俺も言葉を失ったかのように沈黙していた。お願いだ。ここで話し出すのはおまえしかいないだろう、チョッパー。どうしたんだよ、早くいつもの軽口を聞かせてくれよ。俺はまだ、チョッパーが死んだという事実を受け入れられなかった。
誰もいない、暗い部屋のドアを開ける。主のいない部屋はがらんとしていて、余計に寂しさがつのる。俺はドア脇のスイッチを入れた。むきだしの蛍光灯が何度か点滅してようやく点灯し、部屋が淡い白い光に包まれる。驚いたことに、チョッパーの部屋は整然と整理されていた。膨大な量のCDやレコードはアルファベット順に棚に整然と並べられ、俺の部屋のように足元に物が置かれていることもない。唯一、デスクの上だけがついさっきまで主がいたようにそのままになっている。積まれたCDと、開いたままのカバー。デスク上に置かれたコンポは電源がつけっぱなしになっていた。
俺はポケットから、チョッパー・チャンネルのMDディスクを取り出した。MDを差し込むスリットにそれをあてがうと、コンポはするりとそれを飲み込んだ。液晶ディスプレイには曲番が記されていく。俺は、まだ聞き終わっていない一番最後の曲を選び、再生ボタンを押した。流れてきたのは、聞きなれたあのメロディー。子供の頃、家で聞き、そして今日、スタジアムに集まった大勢の市民たちがアップルルースへのアンチ・テーゼとして合唱したあの反戦歌。
「よう、ブービー。何だよ、もう最後の曲かい?まあいいさ。そう、最後はロックンロールでなく静かにしめるのもいいだろ?なあブービー、戦争が終わって平和になったらよぅ、皆でこの曲を聞きながら空を飛ぼうぜ。さあ、ラストはしんみりと聞いてくれ、曲名は−」
Journey Home。戦地で疲れ果てた兵士たちを励まし、そして平和に導いた歌。国を超えて、世界中の人間がこの曲を聞いたという。そう、チョッパーが本当に望んでいたもの。俺は、ようやくそれが分かった。膝が砕け、俺はデスクに掴まるようにして座り込んだ。馬鹿野郎、俺たちのために新しい編集をするって言ってたじゃないか。今日も帰ったらそうするつもりだったんだろう、チョッパー。ほら、ステレオの電源は付けたぞ。新しいCDを入れてくれよ。
「――――――っ!!」
慟哭。俺は声にならない叫びをあげていた。そう、もうチョッパーは俺たちの元に戻らない。