8492
攻略メモ
クルイーク要塞での支援を終えたウォードッグ隊は、友軍の誘導に従い空中給油を受けて帰投することに。誘導には8492部隊機がついてくれるのだが……。
いきなりミサイル警報とともに正面からAAMが接近する。そして、10機近くの敵戦闘機部隊が襲い掛かる。ファーストプレイでは彼らを相手にするのはまず不可能。よって、逃げるが勝ち、なのであるが速度・性能ともに相手のほうが上であるため、まっすぐ逃げることは至難の業となる。ミサイルアラートは常になりっ放し、バルカン砲の攻撃が何本も身を掠める、さらには増援が次々と現れるという、心臓に悪いミッション。
ここを切り抜けるコツは、山岳の地形を利用し、地面スレスレで旋回を繰り返しながら飛行することくらいだろう。それもスピードを落さず、最大戦速で、だ。こればかりは、ここまで培った操縦技術を信じるしかない。とにかく逃げまくること!
登場敵機:Su-47、F-15S/MTD、YF-23A、E-767、TND-ECR TWICEDEAD
要塞攻略を成し遂げた俺たちは、サンド島へ帰還すべくユークトバニア東部の山岳帯上空を東へ向かっていた。既にオーシア軍の制空権下にあるこの空域には敵の姿は見えない。何となく、ほっとした雰囲気。俺は胸ポケットから、「チョッパー・チャンネル」のMDディスクを取り出した。しばらく無言で、俺はそれを眺めていた。
「今日戦ったユーク軍のパイロット……素晴らしい腕でしたね」
ナガセの声に現実に引き戻される。そう、今日戦ったパイロットたちの技量は見事であったし、生き残ることを最優先にしている彼らの姿勢は模範的と言えるものだ。そう、パイロットが生還すれば大勝利なのだから。
「彼らと共に平和な空を飛ぶことが出来たら……そう思わない、ブレイズ?」
「ああ、そんな日が早く来てくれないものかな。いや、早く来るようにしないと、な」
「こちらサンダーヘッド、ウォー・ドッグ、聞こえるか?」
俺たちの会話が終わるのを待っていたかのように通信が入る。チョッパーの死後も無表情な声はあまり変わらないが、俺たちに対する対応は随分柔らかくなった、と感じるのは俺だけだろうか。
「君たちの前方に給油に向かう友軍機がいる。彼らに誘導してもらえ。本当にご苦労だった。……君たちがいれば、この戦争にも勝利できるような気がしてきたぞ。こんなときはロックンロール、だったかな?」
「サンダーヘッド、私語はいいのかい?」
「はは、勘弁してくれ、ブレイズ。ではまた」
サンダーヘッドもまた、俺の友の死を悼んでくれていたのだ。チョッパーの最期のとき、必死で呼びかけていたサンダーヘッドのことを俺ははっきり覚えている。
「……ウォー・ドッグ、聞こえるか、こちら8492航空隊だ。英雄たちを誘導させてもらえて光栄だよ」
俺たちの前に、東へと向かうF-15S/MTDの編隊が姿を現した。
「こちらウォー・ドッグ、8492航空隊、誘導に感謝する。」
彼らの後ろに俺たち3機はつき、雪の山を越えていく。晴れ渡った空の青と雪の白のコントラストがとてもまぶしい。風が少し強いのだろうか、山頂付近では雪煙が舞い、幻想的な景色を作り出している。
「ブレイズ、ちょっといい?」
ナガセが呼びかけたきたのは、俺たちだけの通信バンド。一体どうしたのだろう?
「今わたしたちの前にいる部隊、8492と名乗ったわよね?8492って言ったら……」
待てよ、8492?8492だって!?8492は、俺たちがそもそも査問委員会にかけられる羽目になった原因を作り出した、あの部隊。それが今俺たちの目の前にいる。突然、レーダーの画像が乱れた。こいつは……ECM!?続いてミサイルアラートが響き渡った。どこから!?混乱する俺たちを嘲笑うかのように4機のF-15S/MTDは加速していき、その代わりに前方からAAMの洗礼が突っ込んできた。ロールしてそれを交わした俺たちの正面には、無数の敵影!
「8492は実在しない部隊番号……!」
「くっ、何だって友軍の僕たちを罠にはめるんだ!」
「友軍?友軍だと……?」
背筋が凍るような薄気味悪い笑いが返ってくる。それも一人のものではない。何人もの「敵」が笑っている。
再びけたたましいミサイルアラート。正面から接近する敵機が一斉にAAMを発射したのだ。くそ、奴ら俺たちを抹殺するつもりだ!
「ナガセ、グリム、こんな数の連中相手にしていても勝ち目は無い。逃げるぞ!後をついて来てくれ!!」
俺は一気に機体を降下させた。目の前に迫る山肌ギリギリで機首を引き上げ、すれすれの高度で飛び抜ける。旋回しきれなかったAAMが山肌に激突し、後方で何本もの火柱が上がる。俺たちは山の稜線沿いをギリギリの高度で駆け抜けていく。一歩間違えれば山肌に衝突してあの世行きだ!
「コクピットを狙え。確実に抹殺しろ」
「腕前は情報とおりだ。決して油断するなよ。」
敵は二手に分かれる。一方は俺たちの後方。もう一方は大回りで前方に回りこむつもりだ。こいつら、正真正銘の戦争のプロだ。しかもあの機動性。
「8492は味方ですらない!?一体それじゃあ、彼らの目的は何?」
「待てよ、8492、8492、何度も聞いたような記憶があるぞ……。そうだ、最初は、ハーリング大統領の乗った輸送機が不時着したとき、僕らと交代したのが8492」
「そう、そしてユークトバニアの工科大学を攻撃し、私たちを査問委員会に送り込んでくれたのも8492!」
俺たちは必死に彼らを振り切ろうと回避行動を繰り返す。だが、性能はあちらの方が上なのか。確実に距離を詰められ、後方からはバルカン砲やロックをしていないミサイルが飛んできては俺たちを悩ませる。まるで罠に獲物を追い込もうとしている狩人のようだ。このままではいずれやられる。ならばイチかバチかだ!
「ナガセ、グリム、このまま直進してくれ。すぐ戻る!」
「無茶しないでブレイズ!!」
もちろん死ぬ気なんてさらさらなかった。俺は機体を180°ロールさせ、一気に反転した。後ろに食らい付いていた敵は3機。そのうち2機にAAMを発射し、正面の1機にバルカン砲を浴びせる。油断大敵。突然の攻撃に対処しきれなかった奴らは、あるものはミサイルの直撃を受け、1機はミサイルをかわそうとして山肌に激突し、正面の奴はコクピットを潰され漂流を始める。だが敵は冷静だった。3機の犠牲など気にも止めないように包囲を強めてくる。
ナガセたちと合流した後も、俺たちは急旋回を繰り返し、正面に立ちふさがった敵機を蹴散らし、また急旋回。急上昇。急降下。要塞戦で弾薬をかなり消費している俺たちの残弾は残り少なくなっていた。一方で、敵機の数はさらに膨れ上がっていた。もうこの空域は敵の戦闘機で満ち満ちていた。しかし、オーシアでもなく、ユークトバニアでもないとしたら、一体こいつらは何者なんだ!?
「この戦争に英雄などいらない。戦争を終わらせるなどもっての他だ。まだまだオーシアとユークには殺しあってもらわなければならないのだ」
「きさまたちがここで死ねば、オーシアの士気は挫ける。ユークへの憎しみは募る!」
「くそ、こいつら好き勝手言いたい放題並べやがって。誰がこんなところで死ぬもんか!」
「ブレイズ、今は敵に背を向けてでも逃げるべきとき!形振りなんか構っていられない!!」
「ああ!オーシア本土の領空まであと僅かだ。何とかして、この包囲網を突破するんだ!!」
一つ、俺は気になっていたことがある。それは、8492を名乗った男の声だ。俺はあの声を知っている。あの声を聞いている。敵の攻撃をひたすら回避すべく、激しいGに身体がきしむ中、俺は冷静に記憶の底からその声を聞いた時を思い出そうとしていた。今や俺たち3機はばらばらに分かれひたすら敵の攻撃から逃げ惑っていた。ナガセもグリムも、持てる操縦技術の全てをフル動員して戦っている。もちろん真っ直ぐ東になんて飛べやしないが、それでも俺たちは敵の接近を振り払いながら東を目指す。
「……ブレイズ君、君もなかなか諦めが悪い男のようだね。そろそろ楽になったらどうだ?」
それは、8492と名乗った男の声。静かな声の向こうに、俺たちを嘲り笑う顔が浮かぶ。不快、不愉快以外の何者でもない。そして俺はこの不愉快な声をはっきり聞いた。そうだ!ノーベンバーシティ上空で、俺たちがユークトバニア軍の航空部隊と激戦を繰り広げていたとき、俺たちの戦いを「演習」と語り、援軍の到着を大幅に遅らせて、そしてチョッパーの命を奪う原因を作りだした男の声。間違いない。こいつこそ、チョッパーの仇!!
「おまえだったのか、8492!おまえたちが、俺たちをノーベンバーシティで罠にはめた!!」
「今ごろ気がついたのかね?その通りだよ。我らの予定を超えて活躍を続ける君らが目障りだったのさ。だが、一人しか殺せなかった。予想外だったよ。まさか君らがそこまで出来るようになっていたとはね。だから、今ここで君らを葬り、狂ってしまった予定を元に戻す!」
俺の後ろにF-15S/MTDが迫る。加速・旋回能力、何をとっても俺の機体はかなわないかもしれない。だが、その嘲りきったおまえの心が命取りだ。敵の放つバルカン砲が機体を掠めて飛んでいく。俺は急減速と同時に機体を反転させた。激しいGに視界が黒く染まる。かろうじて見える照準レティクルに入る影目掛け、トリガーを引く。失速に入りかけた機体を立て直し、再び加速。ようやく戻る視界。敵の姿を求め左右を見回すと、機体から煙を噴いているF-15S/MTDの姿が目に入った。
「くそ、忌々しい奴だ。この私の機体に傷をつけるとはな……許さん、許さんぞ!!」
「黙れ!おまえが何者かどうかなど関係ない!!おまえのせいで一体いくつの命が奪われたと思っているんだ!!」
「吠えるな小僧!!貴様こそ、我らの同朋の屍の上に成立した偽りの平和に居座る、愚劣な者どもの尖兵だろうに!!」
「やめてブレイズ!あなたここで死ぬつもり!?私たちの任務は生きて帰ることよ。生きて帰れば、こいつらの罪を日の目にさらすことも出来る!!しっかりしてブレイズ、あなた隊長でしょう!!」
復讐心に猛っていた俺の意識は、クールなナガセの叫びに一気に冷やされた。そうだよな、チョッパー。俺がここで死のうものなら、おまえに何て言われるか……。
8492の機が損害を受けたことに動揺したのか、包囲網の一角が崩れた。俺はその隙を逃さず、一気に加速した。アフターバーナーの炎が機体から噴き出し、振動が操縦桿を激しく揺らす。グリム、ナガセも無事だ。もちろん皆無傷ではないが。オーシア本土の領空はもう少し。あと1000……750……。ミサイルアラートが再び鳴る。まだ大丈夫。俺たちはトライアングル編隊のままさらに加速した。領空はあと僅か。200……超えた!!
敵の追撃はそこまでだった。あれほどまで執拗に俺たちを追い回していた敵機が反転していく。ほっと息を吐き出した瞬間、あの男の声。
「覚えておけ、ブレイズ。貴様たちは決して逃げられないのだ。我らの……我らベルカの敵に逃げ場があると思うな!!次に会うときが貴様の最期だ!!」
「ベルカですって……!」
何だって?ベルカ?8492はベルカ?まさか、オーシアとユークの戦争は、彼らが仕組んだ戦いだというのか。そして両国は彼らに踊らされ、彼らの手のひらの上で弄ばれている。互いが疲れ果て、倒れるその日まで。暗躍していた本当の敵は、ベルカだったというのか!
「隊長、皆に伝えなきゃ!こんな戦争を続ける必要は無い、本当の敵は、ベルカ軍の残党だったって!」
「ブレイズ、とにかく基地に戻りましょう。ジュネットにも相談して、一刻も早くこの真実を伝えなければ!」
真の敵ベルカ。そしてチョッパーの仇もベルカ。俺たちのこの何ヶ月間かの戦いを仕組んだのもベルカ。基地司令官殿がどこまでこの話を信じるかは分からない。だが彼を動かさないことには話にならない。まずは何としても基地に戻らなければならなかった。
だが、俺たちは知らなかった。俺たちの帰るべき巣が、既に敵の巣窟になっていたことに。そして、敵の罠がぽっかりと口を開けて俺たちを待ち構えていたということに。