決路・前編


攻略メモ
ベルカ残党の一味であったハミルトン少佐の謀略により今や敵地となってしまったサンド島。主人公たちはおやじさんたちと共に、練習機で脱出を図る。
ミッション開始後すぐに、サンダーヘッドの通信から追っ手に8492部隊が現れたことが分かる。もちろん武装は搭載されていないので、おやじさん……かつての15年前戦争で「凶鳥フッケパイン」と呼ばれた凄腕のエースパイロットの後ろについてひたすら逃げることに。おやじさんから離れないようにするため、機体後方からの視点に切り替えると良い。島の地形をたくみに利用し、ときには渓谷や洞窟内を突破していくことになるので、とにかく操縦に専念していくと良い。加減速はあまり必要ないので、おやじさんから遅れ気味と思ったら使うようにしよう。
8492を振り切ると、空母ケストレル所属のソーズマン、スノー大尉のF-14が現れる。「信じろ」という彼の言葉に賭けてベイルアウトし、撃墜を偽装することに。これで表向き主人公たちは死んだことになったわけである。
登場敵機:8492部隊所属F-15S/MTD等

ベルカ残党の追撃を振り払った俺たちは、残燃料も僅かという状態で何とかサンド島に着陸した。あまり意識はしていなかったが数発被弾していたようで整備兵が驚いていた。それはグリムやナガセの機も同様で、それほどまで要塞の抵抗が激しかったのか、と整備兵たちが騒いでいる。本当はその後が問題だったのだが、今はとにかく時間が惜しかった。整備兵たちの問いかけを適当に切り上げて俺たちは走り出した。石頭の司令官殿に話しても黙殺されるか怒鳴り飛ばされるのがオチ。ならば、ということでナガセはハミルトン大尉に事情を説明することを提案した。俺も同意見だった。グリムには、ジュネットの元へ行ってもらうことにして、俺とナガセは格納庫から本部棟へ走り出した。何事かと驚く司令部付の人間を押しのけるようにして俺たちは階段を上がり、士官たちの執務室フロアへと到着した。そのうちの一つ、「アレン・C・ハミルトン」とプレートがかけられた一室のドアの前で俺は一度深呼吸してノックをした。
「どうぞ、鍵は開いている」
「失礼します」
執務室の中はきれいに整理されていた。窓を背にしたデスクからハミルトンが立ち上がり、俺たちを出迎えた。俺は彼の階級章を何気なく見て驚いた。ついこの間まで彼の胸元には今俺たちの付けている大尉のものがついていたはずだが、そこには真新しい少佐の階級章が光を放っていた。司令官殿はともかく、彼の緻密な作戦計画が評価された結果であろうか?
「ハミルトン大尉……いえ、少佐殿。至急上層部に掛け合って頂きたい情報を私たちは掴みました。ことは急を要します。オーシアだけでなく、ユークトバニアの存亡に関る事態と私は認識しています」
「ちょっと待ってくれ。一体何があったのかね?状況をまず説明してもらえないか。いきなり存亡の危機と言われても、ピンとこないじゃないか」
「それは私が説明します。ブレイズ、いい?」
俺は頷いた。ナガセは、俺たちが要塞戦を終え帰還するまでに遭遇した異常事態に関して、要点を絞って説明をしていった。オーシア空軍8492航空隊を名乗る部隊が、実はベルカ残党と深い繋がりを持つこと、その部隊がユークとの戦争の中で、度々出現し、そしてチョッパーを失う原因を作りだしたことを俺は補足した。その間ハミルトン少佐は考え込むようにして聞いていた。
説明が終わった後もしばらく、彼は考え込むような表情で、そして指先でデスクを叩いている。無意識の癖なのだろう。何回目かのステップが終わった後、彼はデスクに腰をおろした。そしてふう、と息を吐き出した。彼はデスクの引き出しを開け、何を取り出すと立ち上がった。俺は自分の目を疑った。ちらと隣のナガセを見ると、信じられない、という表情が浮かび、そして眼光が険しくなった。ハミルトンが取り出し、その手に持っていたのは拳銃。銃口は言うまでも無く俺たちの方を向いている。
「全くもって、残念だよ。まさか君たちがあの包囲を突破して帰還するとは思ってもいなかった。ブレイズ、君たちの腕と運の強さにはつくづく感心させられる。」
黒光りする銃口はピタリと俺に向けられている。帰還したつもりが実は罠に飛び込んでいたというわけか。こいつがここまで乱暴な手段に出てくる以上、既に司令官殿にも何らかの根回しがされている可能性が高い。地上にありながら、俺の思考回路は戦場を飛び交っているときのように働いていた。滲み出した冷や汗が背中を湿らしていく。
「だが、その幸運もここまでだ。我々の崇高な目的を邪魔する以上、これ以上好き勝手させるわけにはいかない。」
俺はちらりと視線を後ろに移した。部屋のドアは閉めてしまった。開けるまでの間に撃たれるのがオチだ。
「崇高な目的?オーシアとユークを戦わせ疲弊させ、無数の命を奪いつづけることが崇高な目的?一体あの戦争で少佐、あなたは何を学んだんですか!」
「黙れ!オーシアもユークも大国の大義名分でベルカを踏みにじったのだ。本当の平和は、口先だけの平和で作り出されるものではない。真に平和を理解できる崇高な人間によって率いられることこそが「平和」なのだよ。私はそのことを教わったのだ。国を失ってなお戦い続けるベルカの戦士たちにな!」
今まで見たことも無いような、激しい言葉がハミルトンの口から発される。それも、今まで見たこともない、歪んだ表情で。憎悪が彼の顔面神経を全て支配したかのように。だが、俺は彼の発言を認めることは出来なかった。
「なら教えてもらえませんか。どんな大義名分とどんな正義があれば、自国の人間を数十万人、しかも自らの手によって奪うことが出来るのですか?あのとき、ベルカに残された道は和平への門を開くことだったはず。それを自ら閉ざし、あまつさえ物理的に門を閉ざすために自国の同胞まで犠牲にする、おまえはそんな独り善がりの思い上がりまで正義だと言うのか、ハミルトン!!」
「黙れ!!」
パン、と乾いた音がして俺の顔のすぐ脇を熱い弾丸がかすめ、後ろの壁に当たって弾ける。俺からすればくだらない大義名分をことごとく否定したことが、彼を憤怒させていた。反射的に下に潜りながら俺は足を前へ蹴り出した。ゴツ、という鈍い音が響き拳銃を持ったハミルトンの右手が跳ね上がる。衝撃で拳銃が手から離れる。そのまま奴の横っ面に足の甲を打ち付ける。吹っ飛んだハミルトンは転がりながらも起き上がろうとして、動くことが出来なかった。その額にナガセが銃口をつき付けたのだ。俺は転がった奴の拳銃を拾い上げ、ハミルトンに狙いを定めた。
「あなたたちのせいで、チョッパーは……何も知らない無数の人たちが死んでいった。動かないで!!動けば撃つ」
「なあ、その物騒なモノをどけてくれないか。ブレイズ、取引といこう。我らに協力しろ。そして我らのためにその力を使え。我らは国籍など問わない。我らに協力する者こそ、我が同胞だ。この基地は既に私の手中にある。装備も、出世も思うままだ。どうだ、悪い条件ではなかろう?」
こんな愚劣な男を信用していたなんて。俺は自らの不覚を嘆いた。そして、こんな者どもに好きなように振り回されるオーシア軍の不甲斐なさを嘆いた。
「ふざけないで!!」
ナガセの膝がまともにハミルトンの顔面に入る。無様な悲鳴をあげた奴はそのまま倒れ伏してしまった。完全にのびていた。うつ伏せに倒れた彼を俺はつま先で蹴飛ばして仰向けにした。鼻血を流しながら、彼は完全に意識を失っている。ハミルトンの机から基地内の立ち入り証をぶら下げるストラップを引きずり出し、それを使ってハミルトンの腕を縛り上げる。ついでに俺は自分のポケットに入れていたタオルを奴の口にかませ、即席の猿轡にした。さっきの銃声を聞いた人間は他にもいるはず。俺たちはハミルトンを転がすと走り出した。もうここにいることは出来なかった。

逃げる途中、本部棟のブレーカーの配線を切断した俺たちは格納庫を目指して走ったが、どうやらハミルトンの口車に司令官殿は完全に乗せられたようで、フル武装の兵士たちが展開を始めていた。サーチライトが滑走路を照らし始め、闇に紛れようとした俺たちの計画は頓挫させられた。まだ兵士たちの関心が向いていないハンガー目指して走り出した俺たちを、ハンガーの合間から出た手が手招きしていた。ハミルトンから奪った拳銃を手に、警戒しながら俺は中へ入り込んで銃を構える。
「おいおい、お願いだから撃たないでくれよ」
そこにいたのは、ジュネットとおやじさん、そしてカークだった。カークは賢明にも声一つあげず座り込んでいる。グリムの姿が見えないのは、俺たちの機体が格納されたハンガーに入れるかどうか確かめに行ったのであった。ほぼ間違いなく駄目だろうな、と俺は考えていた。航空部隊たる俺たちを捕らえるためには、俺たちの足たる機体を押さえてしまうのが最も効率的だ。
「どうしておやじさんやジュネットまでここにいるの?グリムだけならともかく……」
「ああ、司令官殿はどうやら骨の髄までハミルトンに言いくるめられてしまったらしい。おやじさんのことをスパイと呼んで、私たちを捕らえようとしたんだよ。ああ、危なかった。」
「君たちの様子を見ると、そっちも散々だったようだね?」
「あいつ、少佐の階級なんてつけていやがった。ぶっとばしてやったわ」
「ええ。ハミルトンこそが、ベルカの送り込んだスパイだったんです。自分たちの出撃情報は、常に彼から漏洩していた。ユークにも、ベルカにも。いえ、それだけじゃない。この戦争自体が、彼らの手で仕組まれたものだったことに気が付いたんです。」
おやじさんは感心したように何度も頷いていた。
「君たちも真実を知ってしまったんだね。我々も同様さ。今、オーシアにはハーリング大統領がいない。そう、君たちがノースポイントに向かう大統領を助け出したあの日、まさに8492の手によって大統領は捕われてしまったんだよ。この戦争は、彼の意志じゃない。」
サーチライトの光がハンガーに当たり始め、俺たちは息を殺して黙り込んだ。ナガセが外を警戒して銃を身構える。光はゆっくりと移動し、一瞬この通路の中にまで差し込んだが、そのまま過ぎ去っていった。だが、このままここで隠れていても見つかるのは時間の問題だった。
足音が聞こえ、俺とナガセはその方向に銃を身構えた。息を切らせて姿を現したのはグリム。
「駄目です!僕らの機体は完全に押さえられています!」
やはり。司令官殿はこういうことには意外に才能があったらしい。そう、獲物を追い詰める狩人としての才能だけは。自分たちの戦闘機を使えないとなると、万事休すだ。ここから脱出する術を少なくとも俺は思い付かない。
おやじさんがしばらく考え込むようにしていた。そして彼は、グリムが現れたのと反対方向にあるハンガーに視線を移した。
「となると、今安全なのは裏のC格納庫。あそこにはまだ敵の手が届いていないな」
「はい。でも、あそこにあるのは……」
おやじさんがにやりと笑う。
「物持ちのいいことは良いことだね。そう、練習機さ。このままここで座して死を待つのも芸が無い。ひとつやってみようじゃないか。」
C格納庫に収められているのは、ホーク練習機。武装は一切持たないが、性能だけ取れば立派な戦闘機だ。燃料さえ入っていればここからの脱出にこれ以上の選択肢は無い。サーチライトの光と兵士の足音に警戒しながら、俺たちは一気に格納庫まで走った。格納庫までの距離はわずか200メートル程度だったはずだが、その距離と時間さえもどかしいほどだった。

サンド島基地は真夜中であるにもかかわらず照明がフルで点灯され、その明かりの下をフル武装の兵士たちが蠢いている。格納庫に滑り込んだ俺たちは練習機のコクピットに潜り込んだ。それぞれ計器をチェックしていく。ジュネットはおやじさんの後席に。カークは俺の後ろに座らせてベルトで席に縛り付けた。苦しいから解いてくれ、とカークが哀願するのを「駄目!」と目で黙らせて、俺は機体の確認を進めていく。それほど量は無いとはいえ、充分に燃料が搭載されていた。予想とおり武装は何もついていなかったが、こればかりは仕方無い。訓練生用のヘルメットを被り、俺はキャノピーを閉めた。おやじさんが、自分の席で懐中電灯を2、3回点滅させた。俺たちはそれを合図にエンジンをスタートさせた。これで、敵……いや基地の兵士たちには自分らの居場所がはっきりと分かってしまっただろう。開きだした格納庫の扉を抜け、俺たちはそのまま滑走路へと向かっていく。
「いたぞ、脱走者だ!スパイを逃がすな!!」
どうやら俺たちは全員敵性スパイということにされてしまったらしい。追いつくはずも無いのに、兵士たちが全力疾走で駆けながら自動小銃を放つ。もちろん当たるはずも無い。滑走路に進入すると、俺たちは一気に加速した。軽戦闘機ならではの加速が身体を座席に押し付ける。カークが後ろで悲鳴をあげる。おやじさんを先頭に俺たちは一気に高度を上げた。上空でダイヤモンド編隊を組み、サンド島を離れるコースで飛び始める。だが一体どこへ逃げれば良いのか?
「オーシア領内の各部隊、サンド島から敵性スパイが脱走した!機数は4機だ!全機急行しこれを撃墜しろ!!」
「ハミルトンだ……隊長、奴は意外とタフみたいですよ」
「ああ、こうなるなら腕と足をへし折っておけば良かった」
「隊長、意外と過激ですね。」
「さて、と。諸君。とりあえず追っ手がかかる前にサンド島を離れるとしよう。とりあえず身を隠すアテがないわけでもない。ついてきたまえ!」
これが輸送機のパイロットの腕前だろうか。それとも、ベテランの腕が為せる技なのか。俺たちは、おやじさんに率いられ……そう、まだ平和だった頃、バートレット隊長に率いられて飛んでいた頃のように、セレス海を駆ける。

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