孤空からの眼差し


攻略メモ
ラーズグリーズ隊としての初ミッション。旧ベルガ公国領内の鉱山において、8492隊等のベルガ残党が何かを運び出そうとしている。同空域は幾重にも張り巡らされたレーダー網に覆われているため、単機で低空から侵入し、目標ポイントを撮影することが任務となる。なお、偵察任務のため一切の武装なし。撮影装置のみをぶら下げての作戦となる。
レーダー網をすり抜けるのは「希望という名の積荷」で体験済みであるが、今回はさらにルートが限られるうえにぎりぎりの旋回を強いられる。高度を下げればその分レーダーの策敵範囲が狭まるので、ある程度の危険は覚悟の上で低空飛行を行った方が良い。エリア南から流れる川があり、川の上にはさすがにレーダー設備を置けなかったせいか、この川筋に沿っていくのが最も高度を下げやすくかつレーダー網を回避しやすいルートとなる。高度の目安は、高くても400フィート以下が望ましいだろう。
レーダー網を抜けると無線封鎖が解かれ、おやじさんから偵察の撮影対象を指示される。撮影する写真は2カット。鉱山と2機の輸送機がワンフレームで収まっている写真と、2機の輸送機がワンフレームに収まっている写真だ。後者の方は輸送機が離陸態勢に入っているので撮影のチャンスは少ない。2機がフレーム内に収まりかつ距離が離れていないポジションを取って、早めに撮影するのがオススメだ。
撮影終了後はレーダー網を気にせずマップ西端目指して逃走することになる。武装は一切ついていないので、逃げまくること。間違っても迎撃しようなんて考えない方がいいだろう。マップ西端に近づくと、エッジやアーチャーが救援に来てくれる。
登場敵機:C-5B、F-15S/MTD(8492)、Su-35(オヴニル)

大統領救出から一夜明けた。大統領は多少の衰弱はあったものの、自分の足で空母ケストレルに降り立ち、そして艦橋では俺たちを出迎えてくれた。その大統領から集合命令が下された。場所はいつものブリーフィングルームではなく、空母の格納庫。どうしてそんなところで?疑問に思いながら、俺は相変わらず迷いがちな空母の通路を歩いていった。
格納庫には既にナガセとスノー大尉が到着していた。グリムはどうやら俺と同じような状態であるらしく、まだ格納庫に到着していない。スノー大尉が「仕方の無い奴め」とグリムを探しに行き、後には俺とナガセが残された。ナガセが格納庫に並んでいる機体を指差すので何かと思って視線を移し、そして俺は驚いた。そこに並んでいたのは昨日まで見慣れていたオーシア軍のカラーリングではなかった。いや、色だけではない。いつの間に入れ替えられたのか、そこに佇んでいたのは、オーシア・ユーク両軍を通じて最新鋭とされる戦闘機たちであり、しかも一部の機体は試作段階のものだった。
「グランダー・インダストリーは、こんな機体をどうするつもりだったのかしら……?」
ナガセが呟く。使い道はともかくとして、こいつらがそのままユークに送られていたとしたら、恐らくはユーク本土の前線に展開するオーシア軍を攻撃していたに違いない。そして俺たちがウォー・ドッグのまま戦い続けていたら、いつかはこいつらと敵として出会っていたはずだ。その戦闘機たちは本来の依頼主の元には届かず、俺たちの手中にある。それも、オーシアでもユークでもない、独自のカラーリング――黒を基調とし、赤いスポットペイントの入った強烈なイメージの戦闘機となって。
予想とおり迷子になっていたグリムをスノー大尉が探し出して戻ってくる頃には、大統領とおやじさんも到着していた。大統領はグリムの遅刻を笑いながら出迎えた。実は私も迷うんだ、と大統領は言ったものの、グリムは余計に恐縮してしまったのだが。
「さて、急に集まってもらってすまない。君たちに伝えることがあって、わざわざ出向いてもらった。もう、後ろの機体は見てもらえただろうか?」
俺は頷いた。大統領もそれに頷き、話を進める。
「君たちは、本日0000時を以ってオーシア空軍第108戦術戦闘航空団の任を解かれることとなった。また、スノー大尉については同様に第206航空隊の任を解かれた。もっとも、ウォー・ドッグの3人は既に撃墜されてことになっているから、本国ではとっくに除隊扱いだとは思うが。……その代わり、君たち4人は今日より新しい任務に就いてもらうことになる。」
おやじさんが話を引き継いだ。彼は、並んでいる戦闘機たちの一機の尾翼を指差した。
「あれが、今日からの君たちのエンブレムだ。今更もう説明は必要ないだろうが、君たちの部隊は今日から「ラーズグリーズ隊」と呼ばれることになった。そして、我々は大統領の直属部隊として以後、真の敵との戦端を開くことになる」
尾翼に描かれたエンブレムは、これまでのウォー・ドッグではなかった。羽飾りのついた鉄兜を被り、微笑を浮かべた女性の横顔。戦乙女ラーズグリーズの姿がそこにはあった。
「早速、君たちには出撃をしてもらう。……とはいっても、偵察なので単独出撃だがね。ブレイズ、君の乗機は今日からあの機体だ。試運転というわけではないが、写真撮影用ポッドを抱えての隠密任務となる。武装を一切持たずに行くから、操縦に慣れるには丁度いいかもしれんな。」
そこにあったのは、これまで見たことも無いような形状の戦闘機。大きなカナードに前へ突き出すような前進翼。恐らくは推力偏向による高機動を実現したバーニア。何より、キャノピーの存在しない機首。
「おやじさん、この機体は一体?」
「どうやらユーク軍がベルカと協力して製作していた試作機みたいなのだがね。前の大戦のとき、ベルカ空軍では戦闘機の最大の弱点であるコクピットを装甲の中に取り込んだ戦闘機開発計画が存在していた。恐らくは、その計画をベルカがユークに漏らして作らせたものじゃないかと思う。名前がないのも可哀想なのでね、整備班の連中と相談した結果、「FALKEN」――と名づけた。」
「ウォー・ドッグ隊長として、これまで部隊を率いてきた君へのささやかなプレゼントというところだろうか。こんなものしか今の私には贈ることが出来ないが、ブレイズ君、どうか君のその力を、私たちに貸して欲しい。私は、この戦いを早く集結させ、そして真の敵の野望を阻みたい。そのためには、君の、いや君たちの力が必要なのだ。ラーズグリーズ、よろしく頼む!」
セレスの海でベイルアウトした日で、俺の戦争は終わったように考えていた。だが、それは現実逃避に過ぎなかった。大統領同様、俺もまた戦争を陰で操る人間を野放しにしておくことは出来なかった。何より、彼らはチョッパーの仇、そして無数のオーシア・ユークの人間にとっての仇だ。まだ俺たちの戦争は終わっていない。新しい俺の翼とともに、まだまだ為すべきことが俺たちには残されているのだ。ようやく訪れた真の敵の計画を潰す好機。これを逃す手はなかった。
俺が飛ぶのは、いつだったか、大統領の乗った輸送機を誘導したときと同じように、防空網で覆われた狭い空。その防空網を回避するため、俺は低空を単機で飛行している。荒れた大地の上を動くものはなく、低くたれこめた雲は視界を遮る。新型のコクピットは、コフィンシステムという名のとおり棺桶のようで、実際には完全に装甲に覆われている。が、コクピット内部は半球の視界を確保した画期的なものだった。つまり、俺は完全に覆われた棺桶の中にありながら、自分の周囲の状況を確認することが出来るというわけだ。こんな機体が開発されていたことに寒気がする。戦争という行為に勝利する為に、科学技術はこんなにも進化するものなのか、と。オーシアでも似たような開発が進められているのではなかろうか?しかも今日は搭載していないが、この機体には戦術レーザーシステムが標準装備となっていた。機関砲でもミサイルでもない、新兵器。そして抜群のステルス性。今日のようなミッションでは非常に頼もしい。
「ブレイズ、どうかね、単独飛行の気分は?寂しくは無いかね?」
おやじさんからの通信だ。ちなみに、待機の3人は万一の事態に備えていつでも出撃できるよう空母でスタンバイしている。
「独りで飛ぶのは本当に久しぶりですから、やはり寂しいです。きっとチョッパーだったら耐えられなかったかもしれませんね」
「確かにそのとおりだ。だがブレイズ、本来「飛ぶ」ということはそういうことなのだ。しっかりしてくれたまえよ、と。さて、そろそろ作戦の話をしよう」
コクピットのコンソールにおやじさんからの情報がアップデートされていく。これ一つ取っても画期的なシステムというべきか。コンソール画面に表示されたのは、俺が今飛行している地域のデータ。その北西部に、今回の偵察ポイントが記される。
「このポイント。ここに、旧ベルカ時代の鉱山が存在する。この手前が飛行場になっているのだが、どうもこの鉱山から何かが運び出されているようなのだ。君の任務は、この鉱山の偵察ということになる。撮影目標については、作戦ポイント到達予定時刻に改めて伝える。それでは無線を一時封止する。頼んだよ」
おやじさんからの通信が止まり、機体の発する音以外は何も聞こえなくなった。考えてみたら、開戦からずっと、俺は仲間たちと飛び続けていたことに気がついた。サンド島に配属されてからしばらくは教官と同期の男たちと。あの日、ユークとの初めての実戦を経験したときはバートレット隊長とチョッパー、ナガセと。そしてノーベンバーシティの日までは、チョッパー、グリム、ナガセと共に、俺はこの空を飛んできた。少なくとも独りで飛行することはなかったのだ。それにしても、この数ヶ月で俺の置かれている境遇は激変した。オーシア空軍の駆け出しパイロットでしかなかった俺が、最前線に派遣される戦闘機部隊の隊長として指揮を執り、そして記録上死亡した後は、大統領の直属部隊として、新型機と共に今飛んでいる。俺がこの間に奪った命を考えるのも怖い。俺たちが挙げてきた戦果は、俺たちが葬った敵兵の屍の上に刻まれたものに過ぎないのだから。
コクピットの外を流れていくのは、相変わらず動くものの無い大地。俺はレーダーを回避する唯一のルートとも言える河の上を低空で飛んでいく。飛行高度は地表から50メートル程度か。だがこの高度でも機体は安定している。今まで乗っていた旧式の機体では考えられないような高性能だ。……まぁ、考えようによっては旧式の機体でこれまで戦ってきたからこそ、今の腕があるということでもあったが。蛇のように左右にうねった川の上を、ヨーと旋回で慎重にレーダー網を回避しながら進んでいく。

やがて俺の行く先が開けてきた。レーダー網の哨戒圏が遠ざかり、飛行場の姿が目視でも確認できる。再び雑音が走り、おやじさんとの通信が復活した。
「無事到着したみたいだな。君の機体のガンカメラと、こちらのシステムをリンクさせた。ほぼリアルタイムで確認が出来る。今君の正面に鉱山の入り口が見えるはずだが、その手前に駐機している輸送機がいるだろう?国籍が確認できないか?」
「了解。上をフライパスします」
俺は低空飛行のまま滑走路上空で旋回した。正面に、駐機中の輸送機と戦闘機の姿を捉え、俺は少し驚いた。そこに駐機していたのは、片方はユーク軍のものだが、もう一方はオーシアのものだった。いや、オーシアというべきではないか。クルイーク要塞攻略後、俺たちを危地へと追いやったあのF-15S/MTDの姿があった。つまり、8492ことグラーバクの連中がここにいるということだ。
「やはりグラーバクがいたか。ブレイズ、そうしたら鉱山の入り口と双方の輸送機をワンフレームで収めてくれるか?こいつは貴重な証拠写真になるからな」
俺は滑走路から離れて旋回し、もう一度鉱山正面から侵入した。双方の輸送機がちょうどフレームの両端に接するかしないかという距離でシャッターを切る。そのまま飛行場上空をフライパスし、鉱山を一枚、そして滑走路に駐機中の輸送機たちを何枚か撮影した。未確認機の飛来に反応して、地上からは空襲警報の音が鳴り響き、基地の内部からパイロットたちが走っていくのが見える。すぐにも、スクランブル発進をしてくるに違いない。
「ブレイズより、HDQ。撮影旅行はこの程度で良いか?」
「ああ、だいぶいい写真が撮れているよ。長居は無用だ。もうレーダー網を気にする必要はないから、西へ脱出してくれたまえ。くれぐれも、ドッグファイトしようなんて考えないでくれよ?」
「ブレイズ了解。……逃走します」
驚いたことに、滑走路から早くもF-15S/MTDが離陸しようとしていた。俺は上昇しながら旋回し、一気に加速した。これまでの機体ではあり得なかった加速がつき、身体はシートに沈み込む。FALKENの機体自体はかなり大型なのだが、その大きさを感じさせないほどの機動性がある。後方から接近するグラーバクとの距離がみるみる間に開いていく。
「くそっ、何だあの敵機は。見た事も無いカラーリングだ。ユークの連中か?」
「それ以上に、あの機体自体が問題だ。あれはまだどこにも採用されていないはずの機体だぞ。」
聞こえてきたのは、あの男の声だ。8492を率いる、ベルカの残党。決着を着けたいところではあるが、今日は丸腰。俺はため息を吐き出すと、機体をさらに加速された。バーニアから吹き出したアフターバーナーが機体を前方に弾き飛ばし、速度計のカウントが一気に上がっていく。
「ちっ、敵に戦う意志はないらしい。どのみち我らの機体では追いつけん。基地に戻るぞ!」
既に彼我距離は6000を超えている。このまま鬼ごっこをしたところで、向こうの足では追いつけない。諦めた彼らの編隊が、綺麗に旋回して後方へと遠ざかっていく。前方に光点。すわ敵か、と一瞬緊張するが、それが味方のものと気がつき、俺は胸を撫で下ろした。ナガセたちだった。
「隊長、迎えに来ました。」
「なんだ、うっかりレーダー網に引っかかって慌てて逃げ帰ってきやしないかとひやひやしていたのにな。さすがだよ、ブレイズ」
「出迎えありがとうございます、ソーズマン。こっちは大丈夫です。乗り心地を満喫してきましたよ」
出迎えにきた彼らの機体も、もちろん今回から乗り換えた新型機たちだ。これでオーシアにもユークにも、そして真の敵たるベルカにも俺たちの機体が性能で劣ることは無いはずだ。たった今、FALKENがその性能を実証したように。
「さて、それじゃ俺たちも少しは新型の乗り心地を満喫していこうじゃないか」
ソーズマンたちが俺の後ろに続く。そしていつも通りの編隊飛行。独りで飛ぶ空はやはり寂しい。仲間たちと共に飛ぶ空、それこそ俺が望んで止まないものだった。4機の黒い翼は荒れた大地を飛び越え、帰る家の待つ海へと姿を消していった。

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