ラーズグリーズの亡霊


攻略メモ
「アンドロメダ」にまた新たな暗号通信が入った。それはユーク領内の緯度経度と無線チャンネルを伝える内容だった。その位置は上空を防空レーダー網に覆われた峡谷であり、侵入には低空で飛行するしかないエリアであった。主人公たちは暗号通信の発信主達の確認も兼ねて、敢えて敵地に乗り込んでいく。
ミッションがスタートし、峡谷内に侵入するとレジスタンスからの通信が入る。彼らは、ユークトバニアの学生や知識人で構成されたレジスタンス部隊で、先日ユークに運び込まれた核爆弾を奪取し解体作業を進めている最中だという。その彼らに対しユーク軍から部隊が派遣されているため、解体を成功させるためにも脅威を排除することになる。このミッションでは峡谷から出てしまうとたちまちミサイルの餌食になるので、基本的な移動は峡谷内のみとなり、どうしようもないときだけ無理矢理強行突破を図ることになる。とはいえ、ミッション前半戦は多少時間はかかるものの峡谷内のヘリと艦船が相手なので、それほど苦しまずに倒せる。むしろ、操縦により注意を払った方が良いだろう。
ヘリ・艦船を全滅させると、ユークトバニア軍所属のベルガ人アグレッサー部隊「オブニル」が登場する。Su-35で構成されたこの部隊は、2機ずつの編隊に分かれ峡谷内を高速で飛行していくので、生半可なことでは落とすことが出来ない。よって対応方法としては待ち伏せか追撃かどちらかに専念することがオススメだ。
待ち伏せをするなら、ある程度行動の自由が確保できるマップ中央エリアが最適。高速機動追尾ミサイルや遠距離射程を持つミサイルを積極的に使って攻撃し、エリアから敵が離れたら彼らが戻ってくるまで旋回をして待機し、再び現れたら叩く、という戦法を繰り返すことで多少時間はかかるが撃墜は可能であろう。
追撃をする場合には、操縦にある程度の自信があることが条件。自分がそうであるように、峡谷の狭い直進路においてはオブニルといえども回避行動が制限されるので、オブニルの後背にかじりついて追撃し、狭いルートに入ったところで集中攻撃をかけると意外と簡単に彼らを葬ることが出来る。
オブニル隊を全機撃墜すると、ミッションクリア。その後の通信で、「あの人」からのメッセージを聞くことが出来る。やはり、彼は生きていたのだ。
登場敵機:AH-64、CH-47、TYPHOON、Mig-21-93 SWORDKILL、ガンボート、ユークトバニア空軍「オブニル」隊所属Su-35

ユークの航空管制にまた別の暗号文が送られてきた。今回の暗号文には、緯度経度、そして特定の無線チャンネルが記されていた。分析の結果、その緯度経度はユーク領内の渓谷を指定してきていた。先日の暗号はベルカの核の在処を示している以上、俺たちの敵でない誰かがこの暗号を送っているのは明らかだった。だが、敵で無い者が味方とは限らない。或いは暗号の存在に気が付いた敵が罠を仕掛けている可能性だってある。おやじさんやアンダーセン艦長、新たに俺たちの協力者となったアンドリュー大佐、そしてハーリング大統領も交えての議論は数時間に及んだ。が、最後は大統領の鶴の一声が方針を決定した。賭けではあるが、この通信を送ってきた「誰か」の存在を確認するためにも、敢えて虎口に飛び込んでみよう、と。だが、ユーク領内はオーシア同様強固な防空システムに守られている。俺たちはその防空網をかいくぐり、潜入しなければならなかった。

防空システムがカバーしている高度以下でユーク領内に侵入した俺たちは、ようやく峡谷に到達した。ここから流れ出た川はやがて大河となりセレス海に到達する。その大河が数万年という時を経て掘り下げたこの峡谷は、戦闘機4機が並んで飛べるだけの空間を持っていた。だが、ここを戦闘機動で飛ぶとなると、かなりのリスクを伴うことは間違いない。俺は、暗号が指定してきた無線チャンネルを指定し、空線信号を発した。もし、誰かがこれを聞いていれば答えが返ってくるはずだが……。
「……ああ、戦闘機だ。本当に来てくれたんだ!こちらの声が聞こえますか?」
聞こえてきたのは若い男の声だった。彼は自らをアリョーシャと名乗った。
「あなたたちは一体何をしているの?」
「今、ユークトバニアでは軍事政権と化した政府に対し、学生や有識者を中心に大規模なレジスタンス活動が行われているんです。私も、その一員なんですよ。そして僕たちはユーク国内に運び込まれたある「モノ」の奪取に成功しました」
「お邪魔させてもらうよ、アリョーシャ。私は彼らの指揮を執っている……まぁ、おやじさんと呼んでくれ。君らの奪取した「モノ」とは、戦術核ではないのかな?それもユーク空軍のアグレッサー部隊が運び込んだ」
「そのとおりです、おやじさん。やっぱりあの人の言った通りだ。そう、私たちは空軍の基地に運び込まれた核兵器を奪取し、今起爆装置を解体しています」
ユークトバニア国内では、オーシア以上に戦争を続ける政府に対する疑念が広がっていたのだ。それ以上に、空軍基地にまで潜り込んで核兵器を奪取するほどの力を持つレジスタンスが存在していたことには驚いた。しかも、彼らはその核を解体するつもりなのだ。
「ブレイズ、ユークも馬鹿ではないようだ。その渓谷に敵性戦闘機が接近している。輸送ヘリやその護衛ヘリ、おまけにガンボートの類まで出張ってきている。ユーク軍は意地でも核を取り戻すつもりらしい。ブレイズ、敵を全て撃破せよ。アリョーシャたちを守り抜くんだ。アリョーシャ、核の解体は任せるよ?」
「ありがとうございます!どうか、私たちが解体に成功し、脱出に成功するまで護衛をお願いします」
「この狭いところをまとまっていても危険だ。二手に分かれよう。スノー大尉、グリムと一緒に左のルートへ。ナガセと俺は右のルートに入ります」
「了解!隊長、崖とキスしないようお互い気をつけようや」
俺たちは二手に散開し、それぞれのルートを進んでいく。レーダーには早くも戦闘ヘリの姿が映し出されている。アリョーシャたちがどこの誰であれ、俺たちと志を共にする人々の奮闘をここで台無しにするわけにはいかなかった。ホバリングをして洞穴に狙いを定めている戦闘ヘリの側面に機関砲の攻撃をお見舞いし、その胴体を撃ち抜く。ナガセが着陸していた輸送ヘリにミサイルを発射。川沿いの狭い平地に下りていたヘリは回避することも出来ず、直撃を受けて爆発する。吹き飛ばされた兵員たちが川に落ちて水柱をあげる。
「展開中の各機!敵だ!見たことも無い、不気味な黒いカラーリング!あんなのがオーシアにいたのか!?」
渓谷の幅はそれなりにあるとはいえ、上空は防空システムに抑えられている以上、俺たちは基本的に横方向の動きしか出来ない。迫り来る崖を先読みしてスペースを確保し、戦闘速度で駆け抜けていく。上空にはユーク空軍の戦闘機が展開するが、彼らはこの渓谷を飛行する自信が無いのか、上空に展開しているだけだった。その間に俺たちはレジスタンス攻撃に展開する部隊を次々と撃ち落していった。
「あの人……私たちのことを知っているあの人……?」
ナガセはアリョーシャの台詞が気になっているらしい。彼らの言う「あの人」は、公式的には死亡したこととなっている、俺たち4機のことを知っている。恐らくは、俺たちに暗号通信を送っているのも「あの人」の仕業なのだろう。
突然無線から聞こえてきたのは耳障りな警告音。戦闘機の発するものではない。
「うわっ!起爆装置が起動した!何でだ、早く、早く止めろ!!」
「ちょ、ちょっと!それって……ああ、勘弁してよ!!」
グリムが素っ頓狂な悲鳴をあげる。俺とナガセのその間も渓谷の崖スレスレを旋回し、逃げようとする戦闘ヘリを葬っていく。
「ああ……何とか止めました。危なかった……。」
「おいおい、本当に大丈夫か。勘弁してくれよ」
ソーズマンのぼやきが聞こえてくる。実のところ、俺たちとてそれほど余裕があるわけではない。土地勘のない渓谷をこの速度で飛び抜けているんだから。彼らを守り、そして俺たち自身の安全を確保するためにも、今は目前の敵を壊滅させる以外に道は無かった。

数波に渡って渓谷に侵入したユーク軍部隊を俺たちはその度に撃退していった。上空からの攻撃に何度かヒヤリとさせられたが、レジスタンスたちも各所で奮闘し、追撃するユーク軍部隊を翻弄していた。ほとんどが民間人で占められているはずのレジスタンスとしては、見事というべきか。恐らくはゲリラ戦等の知識と経験を持った人間が、彼らを訓練したことは間違いなかった。
「いよいよ起爆装置の配線をカットします……コードは32本。少し時間かかりそうです」
「アリョーシャ、あなたたち核解体の経験があるの?」
「ハハハ、勘弁してください。火炎瓶を作るのが関の山の僕らですよ。工具もこれしかないけど……ま、やるだけやってみます。」
「ちょっと待て。アリョーシャ、君たち放射能防護はしているのか?起爆していないとはいえ、それなりの放射能が発されているんじゃないのか?」
「ブレイズさん、それも覚悟のうえですよ。さっきからセンサーの針は振り切れっぱなしです。でも、ここでやらなければまたこの兵器を使う連中が出てきてしまう。何とかやってみます。どうかそれまで、ここを守り抜いてください」
当然そういうことになる。核兵器の解体は、国家レベルでも様々な施設を必要とするのだ。それをわずかな工具しかもたない人間が解体となれば、被爆覚悟で直接爆弾の蓋を開けるしかない。そこまでの覚悟をして彼らは戦っていた。俺たちはレジスタンスたちが潜伏している坑道の空域を旋回しながら飛行している。FALKENのレーダーが反応し、北西方向から接近する敵戦闘機の姿を捉えディスプレイ上に拡大する。4機の編隊を組んだSu-35が、高速で接近しつつあった。トライアングルを組んでいた彼らのうち2機が旋回しつつ減速し、前後2機ずつに分かれて渓谷に侵入してきた。無線が混信し、彼らの会話が聞こえてくる。
「こちらオブニル・ツー、あの戦闘機たちのようだ」
「この渓谷をあれほどの機動で抜ける連中だ。落とされたヘリの連中が、ラーズグリーズの亡霊が現れたと言っている」
「ラーズグリーズ!?奴らはグラーバクの手で葬られたのじゃなかったのか?」
「ならば、確かめてみようじゃないか。彼らが亡霊なのか、それとも生きた存在なのかを!」
俺たち同様二手に分かれた敵――8492同様、ユーク軍に潜り込んでいたベルカ人アグレッサー!奴らは渓谷の中を猛スピードで駆け抜けていく。土地勘もあるのだろうが、なんて機動だ。しかも、それだけの機動をしておきながら編隊が崩れない。俺とナガセも旋回し、彼らに攻撃を放つが、ひらりと彼らはそれを交わし、逆にAAMを撃ち込んできた。敢えて機体をストールさせて回避し、旋回して相手のケツを取る。レーダーロックのレティクルが敵影を追っていくが、狭い渓谷を右へ左へ飛んでいく機影を追い切れない。谷と谷を結ぶ鉄橋の下を潜り抜け、渓谷の中を自在に飛んでいく彼らの姿は美しくもあった。
「すごい、これだけの機動で編隊を崩さないなんて。これがベルカのエースの腕前……!」
「ソーズマンよりエッジ、情けないこと言うな。うちの隊長の飛びざまもなかなかのもんだぞ」
渓谷の中で、俺たちは正面から突っ込んでくるグリムたちとすれ違った。その後ろにはオブニルのもう一方が。機関砲の雨を浴びせられ、俺は何回転もロールしながらそれを交わし、スプリットSを決めそのケツに喰らいつく。俺たちが追っていた一隊はそのまま直進し、渓谷の先へと姿を消していく。相変わらず見事な機動で逃げるSu-35。だが、少なくとも奴らとて渓谷が狭まる空間までは旋回出来ない。俺は奴らがそのエリアに到達するのを虎視眈々と狙っていた。やがて機動が直線的なものに変わる。その瞬間を狙って俺は急接近した。照準レティクルがSu-35の特徴あるエンジンを捉える。俺は迷わずトリガーを引いた。機体後部のカバーが弾け飛び、穴が開いていく。小爆発を起こし、急減速した一機のキャノピーが跳ね上がり、パイロットが脱出する。コントロールを失ったその機は、陰に接触してばらばらになって渓谷の川へと落ちていった。
「おい、今の見たか?オブニルが落とされたぞ!」
「オブニルが落とされるような腕前の敵といったら……いや、彼らは死んだのだろう?」
「俺も考えていたよ……やつら、ラーズグリーズだ。間違いない。ラーズグリーズが戻ってきたんだ!!」
僚機を失った一機を、今度は俺とナガセが狙い撃ちにする。ナガセのフェイントを避けて俺の正面に飛び出した奴にレーダーロックをかけ、そしてAAMを放つ。回避できるほどの距離も無いSu-35の翼にミサイルが命中し、翼をもぎ取った。
「オブニル・スリー、脱出する。気をつけろ、こいつら本物のラーズグリーズだ」
バートレット隊長の台詞ではないが、パイロットが生還すれば大勝利、を彼らは実践していた。無理に機体を立て直すことも無く、安全地帯を確認するとベイルアウトしていく。15年前の戦争を生き抜いた猛者たちの本能なのだろうか。とにかく、2機を落とした俺は彼らの前方に先回りすべく渓谷の上部スレスレに飛び上がった。防空システムの作動する高度は2000。今1600。頭の下を渓谷の地面が猛スピードで通り過ぎ、俺は反対側の谷に侵入した。先のカーブを曲がって、奴らが現れるまであと数秒!俺は特に照準を定めず機関砲のトリガーを引いた。曳光弾の筋がまっすぐ伸びていき、渓谷の崖に火柱をあげていく。が、そのフェイクに急制動をかけた一機がバランスを崩した。その好機を逃さず、スノー大尉の機体が襲い掛かる。旋回しかけたSu-35の尾翼が弾け飛び、主翼の端が崖を削っていく。が、そのまま機体を立て直して安定させるとパイロットはベイルアウトした。残るは一機。俺も反転してその後背にくらいついていく。
「後ろの隊長機。聞こえるか?見事な腕前だな。だが、貴様さえ落とせばラーズグリーズの亡霊など取るに足らん。やらせてもらうぞ!」
Su-35の機種がいきなり跳ね上がり、90°跳ね上がったまま機体が滑る。ガクンと機種が落ち俺の正面を向いた敵から、機関砲弾の嵐が襲い掛かった。機体をローリングさせて降下し、再び反転をかけるがそれよりも早くSu-35は遠ざかり、再び距離を取ってAAMを放つ。排気煙を頭上に見ながら回避し、こちらもAAMを叩き込む。回避されたAAMがそのまま崖に命中し火柱を上げる。ナガセも、グリムも、そしてスノー大尉も俺たちの戦いを見守ることしか出来ない。
「オブニル!いや、ベルカ航空隊の生き残りと言った方がいいか?貴様らの狙いは何だ?核兵器を使ってまで何をしようとしているんだ!?」
「知れたことを。ハーリングを助け出したおまえたちならもう知っているだろう。我らベルカを統一し、ベルカの誇りを取り戻すためだ!そのために、あの核が必要なのだよ」
正面から向き合った俺たちは互いに機関砲弾を浴びせあうが、命中弾もなく高速ですれ違う。そのまま渓谷を直進し、より有利なポジションを取るべく谷を猛スピードで駆け抜ける。
「ラーズグリーズ、ブレイズ君と言ったかね?貴様らにラーズグリーズの名は相応しくない。かつて、大国のエゴによって国を滅ぼされ、その愛する故郷を分断された我らは、正義の鉄槌を以ってオーシアとユークを滅ぼし、そして大ベルカを実現させる!世界を平和に導く術を知った人間に統治される、理想郷がそのとき生まれるのだ!」
「詭弁を語るな!自分たちの同胞まで盾に使っておいて、何が正義だ!!」
渓谷の低い部分を越えて隣のルートにある少し広めの空間に飛び込んだ俺たちは、再び互いを正面に捉えた。一足早くSu-35がAAMを発射する。俺もすかさずその鼻っ面目掛けてAAMを発射する。正面から衝突したAAMが空中に火の玉を出現させる。逃がすものか!!俺は機体を急制動させると同時に操縦桿を思い切り引いた。機体が軋む音が聞こえてくるような急旋回。ほとんど見えなくなった視界の中で俺はスロットルを最大に叩き込んだ。シートに叩き付けられるような衝撃で視界が戻る。ほとんどその場で反転した俺は、照準レティクルの中に収まったSu-35目掛けてトリガーを引いた。破片と部品が弾き飛ばされ、そして機体が弾ける。開いた穴から黒煙が吹き出し、渓谷にまっすぐ直線の煙を引いていく。
「ふほぅ……見事だ。さすがだよ、ブレイズ君。だが、次はこうはいかないぞ。首を洗って待っていたまえ。パイロットが生還する限り、戦いに終わりは無いのだからね。」
「何回来ても結果は同じだ。今日ここでおまえを生き残らせてしまったことが残念だ。……首を洗って待っていろ、はこっちの台詞だ」
「若造め、吠え面かくなよ」
速度を落としたSu-35のキャノピーが飛び、ベイルアウトしたパイロットがゆっくりと下りてゆく。俺はこのまま機関砲のトリガーを引きたい衝動に駆られた。そうすれば、ここで終わりに出来る。……だがそんなことをすれば、俺たちは脱出したパイロットまで殺戮する非情な部隊となる。俺はため息を吐き、それを諦めた。だが、次は必ず終わらせる。それが、相手の死を意味するとしても。

「やれやれ、結局ブレイズにおいしいところは持っていかれてしまったな」
合流した俺たちは、ようやく敵の去った渓谷を安全な速度で飛行していた。多少キズはついたが、損傷なし。オブニルを相手にした結果としては上々だろう。
「こちらアリョーシャ。解体が完了しました。これでもう核兵器は使用出来ない。これから僕たちは海に出てこの危険なゴミを処分します。」
「でも、海に出るとしても洋上を襲われるかもしれないが……」
「ふふ、驚かないで下さいね。我々の船は潜水艦なんですよ!だから、僕らの場所はそう簡単には特定できない。そう、僕らが手に入れることの出来ないものはないんです。武器だって、そして数多くの仲間達だって……!」
渓谷の坑道から出てきたのは、まぎれもなくユーク海軍の潜水艦。レジスタンスはあんなものまで手に入れていたのか!
「こちら、ラーズグリーズ、エッジです。アリョーシャ、あなたたちの言う「あの人」の名前は分からないのかしら?」
「……残念ながら、名前は知りません。ただ、私たちは彼を「ミスターB」と呼んでいました。ああ、そうでした。そちらの隊長さん宛にメッセージを預っていたんだ。読みます。ええと……」
”へいブービー、いい隊長ぶりだっていうじゃねぇか。卒業試験を用意しておいてやるから、首洗っておけよ。”俺には、アリョーシャの声にあの懐かしい怒鳴り声がかぶって聞こえてきた。「あの人」――ウォー・ドッグ隊前隊長、ジャック・バートレット大尉はやはり生き残っていた!それどころか、ユーク国内のレジスタンスたちに手を貸していた。戦闘経験のない若者たちを即席の兵士に鍛え上げたのも、彼の仕業だろう。恐らくは、ユーク国内でも文句言いまくり、仕切りまくりで。
「今のメッセージで分かりましたか?」
「ええ、もうこれ以上も無く!!」
ナガセの声が、心なしか涙声に聞こえた。それも当然かもしれない。開戦からこの数ヶ月、彼女は自分のミスでバートレット大尉を墜落させてしまった、とずっと自分を責め続けてきたのだ。ようやく、彼女はその負い目から解放されることが出来る。……あいつがいたら何と言うだろうか。なんだよ、折角静かになったのにまた文句を言われまくられるのか、勘弁してくれよ。そう言った後で、笑いながら言うに違いない。ナガセ、良かったな、と。俺たちの元から去った二人のうち、一人にはもう当分の間会うことは出来ない。だが、もう一人は、俺たちが戦い続けている限りいつの日かまた出会うことが出来るのだ。
4機の黒い翼が去り行くのを眺め、その男は舌打ちをした。傍らには、崖に衝突して黒焦げになった機体が転がっている。
「オブニル・ワンより、各員、無事か?」
「ああ、今川の縁を歩いている。どうやら4人とも無事だったみたいだな」
「ラーズグリーズめ、次は必ず仕留めてやる」
男もまた歩き出した。とりあえずは救援のヘリが降りられる場所までは移動しなければならない。
「とにかく、戻ったらグラーバクに連絡だ。ラーズグリーズは亡霊にあらず、我らの脅威となって蘇ったとな」
あの男――ブレイズだったか。ベルカの理想を阻み続けるエースパイロット。奴の存在が、ベルカの計画を狂わせている。黒い翼が去った空を睨みつけて、その男は心に誓った。次に会うときには、八つ裂きにしてやる、と。

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