ハートブレイク・ワン・前編
攻略メモ
アークバード撃墜後、ケストレルへ帰還した主人公達。その彼らに、懐かしき男からの通信が入る。そう、バートレットは、空から地上に降りても活躍していたのだ。ハーリング大統領同様、ベルガ残党に囚われていたユークトバニア首相、ニカノールを救出した彼の脱出を支援するのが任務。
ミッションには制限時間があり、バートレットが時間内に空港へたどり着けないとミッション失敗。ミッション中、敵の攻撃の激しい近道と迂回路を選択する機会が3回あり、地上支援に自信があるなら迷わず全部近道を選択したいところなのだが、一度ぐらい迂回路にしても問題は無い。攻撃対象はバートレットたちが進んでいくと出現するので、極力彼から離れず速やかに敵戦力を削っていく方が良い。特にAH-64などは真っ先に倒した方が良いだろう。野戦飛行場まで制限時間内にバートレットを誘導し、最後に展開している地上部隊を壊滅させれば目標達成。空の男があるべき場所に帰る瞬間がやってくる。
バートレット機離陸後、ヤバイ連中……グラーバグ戦闘隊こと8492部隊がやってくる。F-15S/MTDは高機動の強敵だが、移動範囲が制限されていたオブニル隊との戦闘時よりは余程まし。今までの恨みをまとめて彼らにぶつけてやろう。8492部隊機を全て撃墜すればミッションクリア。地上目標は極力バルカン砲を使用して破壊し、8492との戦いに備えてミサイルを温存しておくのも良いだろう。
登場敵機:AH-64、AC-130、YA-10B DISTANTTHUNDER、戦車、地上施設、Su-32、オーシア空軍8492部隊所属F-15S/MTD
何ヶ月ぶりに耳にしたあの怒鳴り声。その主はベルカとユーク政府から強奪した、ユークトバニア首相ニカノールと共にあった。だが、彼らが脱出するには、ユークトバニア軍が敷いた防衛網を突破しなければならない。さらに悪いことに、現地の部隊はレジスタンスたちが連れている人間の正体を知らされていなかった。一つ間違えば、ニカノール首相はバートレット隊長と共に一網打尽にされてもおかしくないというわけだ。俺たちは、隊長が指定したランデブーポイント目指してまだ闇の残る明け方の空を駆ける。バートレット隊長は、今俺たちが飛ぶこの空の下にいる。隊長たちは、別働隊のレジスタンスらとともに、ユークトバニア軍の飛行場を強襲し、飛行機で脱出する手筈になっていた。が、それは分レベルでのタイムリミットがかかる、ギリギリのタイミングとも言えた。だが、困難であろうと何であろうと、俺たちは必ずバートレット隊長を無事に帰還させるつもりだった。
「おい、ブービー聞こえるか?今おまえたちが上を通過するのを確認した。レジスタンスの連中もその辺に潜んでいるはずだが、どうもこの先待ち伏せがあるような気がするんだ。援護任せたぜ、ベイビー?」
まだ上空から彼らの姿は確認できないが、まぎれもない隊長の声が聞こえた。俺たちは散開して警戒態勢を敷く。俺はFALKENのモニターを操作して、暗視映像を映し出した。そのモニターに、車のエンジンが放つ熱源とオフロードカーらしき姿が見える。山の茂みに潜り込んでいるので、何の装置も使わずに探している分にはまず気がつかないはずだ。俺は高度を下げ、その姿の上をフライパスした。
「バートレット隊長、ラーズグリーズ隊、お迎えにあがりました」
「ふん、相変わらず口は一人前だな、ブービー?さて、と。それじゃあこっちもおっぱじめますか!行くぞ、しっかりついてこいよ!」
イヤッホー、という奇声とともに、バートレットは車をスタートさせた。ヘッドライトが暗い山道を照らし出し、土煙をあげながら速度を上げていく。その後ろに、レジスタンスのものらしき車輌が続いた。彼らが進むのはこの先にあるユークトバニア軍の航空基地に至る連絡道路。この闇の中ではヘッドライトで照らされる視界などたかが知れているはずだが、まるで昼間のハイウェイを突っ走るようにバートレット隊長の車は疾走する。
「ミスターB、ミスターB、待ってください!後続が追いつけません!」
「ああ?スピードが出ないんならアクセルを踏めばいいんだ。余計なことを考えずに俺のテールランプだけ見て付いて来い!……おい、ブービー、どうやら料金所みたいだ。全部踏み倒してやるから、支援しろ」
「ブレイズ、隊長たちの前方に検問所。装甲車も配備されている。」
既にユーク軍は連絡通路沿いに検問所を設置して、「敵」の到着に備えていた。ナガセ機が先行して降下し、砲塔を道路に向けて構えている装甲車に機関砲弾を浴びせた。予想外の方向から攻撃を受けた装甲車は逃げることも出来ず、その場で爆発した。燃え上がる炎が検問所を明るく照らし出し、逃げ惑う兵員たちの影が伸びる。これでユーク軍には敵の襲撃を完全につかまれてしまう事になるが、強行突破以外の術が無いのも事実だった。俺もナガセに続いて機体を降下させ、検問所から道路にキャノン砲を突き出しているトーチカにミサイルを撃ち込んだ。新たな爆発が起こり、検問所はさらに明るく照らし出される。監視塔はグリムが根元を吹き飛ばし、中の監視員もろとも地面に崩れ落ちていく。パニックに陥った検問所に、ついにバートレットたちが到着する。彼は減速もせずに検問所前の橋に乗り上げ、そのままダイブして検問所のバリケードを突き破った。
「よーし、いいぞブービー。その調子で次も行ってくれ。」
「あなたの運転、相変わらずねぇ。でもなかなかスリルがあって、こういうドライブもたまには楽しいわね」
俺は思わず耳を疑った。聞こえてきたのは、聞き覚えの無い女性の声だったからだ。落ち着いたその声の主は、まさかバートレット隊長と共にあの車に乗っているのだろうか?
「上空の支援機、援護は頼んだわよ?」
「い、イエス、マダム!!」
「あら、私はまだ残念だけど独身よ」
「失礼しました!ええっと……」
「フフ、私は謎の女1号よ。よろしくね、ラーズグリーズのみんな。彼からよく聞かされたわ。俺の目に入れても痛くないひよっ子たちが必ず来る、って。ブービー、チョッパー、グリムにええと……」
「ナガセ、ケイ・ナガセです」
「そう、ナガセ。顔に似合わず危険な飛び方をするおてんば娘、と彼は言っているわよ?」
「おいおい、俺はシャイなんだ。そんな照れるような話は止めてくれ」
その間もバートレットは全くスピードも落とさずに疾走している。俺たちは上空を旋回しながら警戒し、彼らを守りながら進んでいく。ユーク軍の防衛部隊は航空兵力まで動員したらしく、AH-64の機影がレーダーに映る。遠方にはSu-32も接近していた。もちろん、隊長たちが彼らと戦うことは出来ない。俺たちの手で食い止めるしかなかった。
「バートレット隊長、敵航空兵力が接近しています。そのまま最短経路で突破してください。ハエを落としたらすぐに戻ります!」
「あいよ、任せたぜ、ブービー」
俺は機体を加速させ、一気に高度を上げた。薄暗い空の向こうに、AH-64の姿が迫る。
「おい、何だあの真っ黒な戦闘機は?」
「オーシアのものじゃないぞ?一体どこの連中だ!?」
答の代わりに俺たちは機関砲弾の雨を浴びせた。バルカン砲で蜂の巣にされたヘリはひとたまりもなく、爆発を起こして四散する。グリムとスノー大尉が反転して隊長たちの支援に戻り、俺たちはそのまま直進した。狙うはSu-32。
「ナガセ、このまま突っ込むぞ。」
「了解、ブレイズ、貴方の後ろに付く」
照準レティクルに敵機のごま粒のような姿を捉え、俺はトリガーを引いた。ナガセ機かせも同時にバルカン砲の筋が延びていく。夜空で火花が弾け、そして炸裂した。真正面からの攻撃でコクピットを潰された2機が空中で衝突し爆発する。俺たちはすれ違いざまそれを回避し、残りの2機の後ろを取った。急上昇しようとした1機の胴体を正面に捉え、AAM発射。2本のAAMに串刺しにされた機体は真中でへし折れて砕け散った。ナガセもまた残りの1機の主翼を吹き飛ばし、山肌に墜落させていた。次だ!俺たちは機体を反転させ、再びバートレット隊長たちの上空に戻った。隊長の操るオフロードカーは既に分岐を過ぎ、最短経路を真っ直ぐ走り続けていた。
ユーク軍の「料金所」は予想以上に数多く、またAH-64からのロケット攻撃はときに隊長たちの車の近くで炸裂し、俺はその度に肝を冷やしていた。数波に渡る航空兵力の攻撃を退け、地上に展開する砲台群を片っ端から潰し、俺たちは隊長の血路を切り開いていた。
「随分と料金所の多い道だなぁ。そんな上等なものには思えないがな。それにしても、ナガセ。おまえ、相変わらず危なっかしい飛び方していて、全然死なねぇ。大したヤツだ!」
「は、はい!ありがとうございます、隊長!」
バートレット隊長の車が急カーブを減速せずに突っ走っていく。リアが派手に滑り出し、横を向いたままオフロードカーはカーブを抜けていく。上から見ていても惚れ惚れする腕前だ。戦闘機以外に隊長がこんな特技を持っていたとは驚きだった。
「それから、グリムか?おまえは次の戦闘訓練から上にあげるつもりだったんだ。いい飛びっぷりだ。おら、あそこの砲台を潰せ!」
「ありがとうございます、バートレット隊長!!」
グリム機が降下し、砲台に爆弾を投下する。誘導型の爆弾はそのまま砲台の真上で炸裂し、砲台を押しつぶし、そして吹き飛ばした。燃え上がる残骸の横を、猛スピードの車列が通り過ぎていく。
「バートレット大尉、お噂はかねがね聞いております。第206航空隊でした、スノー大尉です」
「スノー大尉?海軍航空隊のか?悪いな、俺は人見知りをする性格なんだ。挨拶はまた後でさせてもらうが、支援は頼んだぜ」
「了解です、大尉。」
破壊された陣地に飛び込んだバートレット隊長の車の先には、軍用ジープで作られた検問所が待ち構えている。そこには対戦車ライフルを構えた兵士たちの姿が見えた。バートレット隊長は突然ハンドルを切り、検問所手前の橋の脇の土手に突っ込んだ。そして土手を駆け上がった車は、そのまま反動でジープを飛び越す。その後を後続のレジスタンスたちも飛び越え、最後の一台が手榴弾のみやげ物を置いていく。炸裂した手榴弾がジープを吹き飛ばし、夜空を照らし出すキャンプファイアーとなった。
「ちょっとジャック、車で宙返りだけは御免よ?」
「大丈夫だってぇの。アイヨー!、シルバー!!ああくそ、早く音速で飛び上がりてぇ」
隊長たちの車列は、いよいよ航空基地の端に到達しようとしていた。既に航空基地にはレジスタンスたちが潜り込み、脱出の機会を伺っている筈だ。
「さすがは、ジャックの秘蔵っ子ね。ブービー、聞こえる?もう少しで私たちも空に上がれるわ。それまで、あと少し、私たちを守り抜いてね。ジャックのお墨付きの腕前に期待しているわ」
「ああ、ブービーの腕前は言わずもがな、だ。おお、最後の料金所は随分と派手じゃねぇか」
航空基地の入り口では、戦車隊が主砲を並べて待ち構えていた。それにしても、戦車大隊の襲撃でもあるまいし、敵は一体どれほどの部隊を用意したというのか。散開した俺たちは、それぞれの方向から機関砲弾を撃ち込んだ。そしてミサイルに爆弾が地上の敵に襲い掛かる。何本もの火柱が上がり、そして直撃を受けた戦車が大爆発を起こして残骸と化す。それでも生き残った戦車が主砲を発射するが、猛スピードで走り続けるバートレットに照準は合わない。彼らの後方で戦車砲弾が炸裂し火柱を上げる。地上と空と、激しい銃撃が飛び交い、爆発の炎が地上を照らし出す。ようやく明るくなり始めた空。その地上は、真っ赤な炎の光で毒々しく染められていた。俺たちは何度も上空で反転し、展開するユーク地上軍を徹底的に攻撃していった。
「くそっ、空は明るくなってきているというのに、奴らの機体にだけ闇が残っている。」
「あの機動……あれはまるで死んだはずのラーズグリーズじゃないか!」
戦力を次々と失っていく敵。破壊された砲台や戦車のあげる炎を避けるように、兵員たちが逃げ惑う姿が照らし出されている。こっちの機影を見て慌てて方向を変えて逃げ出す者もいた。
「おい、その魅力的な足をニョッキリ突き出さないでくれ。神経が他のところに集中しちまう!」
「あら、私はさっきから楽しいドライブをしている誰かさんの顔ばかり見ているんだけど?」
「いいぞ、あれでこそ男だ!さすがは噂に聞こえた古強者だ。ブレイズ、おまえさんはいい教官を持ったな!!」
スノー大尉の感心するポイントが微妙にズレているような気もしなくもなかったが、バートレット隊長が俺にとって最高の恩師であることは事実だ。もっとも、ナガセが咳払いをしているのを聞いてスノー大尉は黙り込んでしまったのだが。しかし、聞いているとバートレット隊長と「謎の女1号」殿の会話は、恋人のそれでしかなかった。まさかとは思うが、彼女はバートレット隊長が15年前にハートブレイクした張本人なのではなかろうか?
航空基地に展開していた地上部隊はついに沈黙した。遮るものの無くなった滑走路には、レジスタンスたちが引っ張り出した旧式の輸送機が既にエンジンをスタートさせて待機していた。最後の最後までアクセルを踏み切っていたバートレット隊長は、カウンターを当てながら車を横向きに急停止させてタラップに即席のバリケードを作ると、素早く降車した。そして車の中からレジスタンスと共に、まだ眠りから覚めていないニカノール首相を引きずり出し、タラップを駆け上がる。
「おい、何だよ。随分と懐かしい機体じゃないか」
「何だか埃っぽいわ」
「なあに、これでも性能は保証するさ。レジスタンスの連中も随分目が利くじゃないか。」
輸送機は誘導路を加速し始め、滑走路の端に到達し、向きを変えた。もはや、彼の行く先を遮るものは無い。
「さあて、と。準備は万端、いよいよ俺の愛する大空へお帰りだ!離陸するぞ、イヤッホー!!」
「今度は空中戦ね。楽しみだわ、ジャック!」
「ああ、特等席で最高のドッグファイトを見せてやる。おい、聞こえたな、ブービー。俺たちの見えるところでドックファイトするんだぞ?」
思わず苦笑するしかない、彼の懐かしい悪態。そう、今、大空に愛された古強者が、俺たちの元に帰って来たのだ。