混迷の海・前編


攻略メモ
今や大統領直属艦隊となった空母ケストレル隊。その進路上にユークトバニア海軍艦隊が展開する。ニカノール首相の呼びかけも空しく、ケストレルを撃滅せよ、という指令に反発した艦艇が艦隊から離脱する。勇気ある行動に出た彼らを援護し、ケストレル隊に合流させることが目的となる。
ミッション開始後直進するとすぐに離脱艦艇が見える。彼らの背後にはそれを追撃するユーク艦艇が接近し、砲撃とASMを発射しているので、まずは付近の艦艇を速やかに排除する必要がある。LSAMなどを活用して、積極的に破壊していく必要がある。離脱艦艇が艦隊に合流してしまえば、後はユーク艦隊を叩くのみ。味方を砲撃するように命じるような戦闘狂に鉄槌を与えてやろう。
一方、このときの通信を傍受したオーシア艦隊は、ケストレル隊を反乱勢力と認め攻撃に移る。ケストレル隊の進路上に展開したオーシア艦隊を今度は攻撃することに。基本的に耐久度などはユーク艦隊と同じなので、確実に仕留めていくと良い。ユーク艦隊・オーシア艦隊を全滅させればミッションクリア。
序盤の離脱艦艇支援さえ切り抜ければ、それほど難しくないミッション。このミッション後、物語はいよいよクライマックスを迎える。オーシア・ユークトバニア両国を憎しみの連鎖に陥れたベルカ残党と両国の覇権主義者たちを撃退する日は、もう遠くない。
登場敵機:Su-27、F-2A、Su-32、TYPHOON、F/A-22A、F-35C、RAFALE B DECODER、フリゲート艦、イージス巡洋艦、空母等

ケストレルの甲板上に並べられた艦載機。俺の愛機となったFALKENは残念ながら着艦機能を持たないため、この空母での運用は難しく格納庫入りとなっている。だが、アンダーセン艦長が拿捕したノース・オーシア・グランダー・インダストリーの輸送船には、艦載機として運用できる最新鋭機も載せられていて、結果として俺たちの戦力として役立っていた。もし万一洋上作戦が発動された場合には、俺たちはその機体に乗ることになる。
バートレット隊長から呼び出された俺だったが、当の隊長が甲板上に現れない。ジュネットによれば、昨晩のミーティングが長時間に渡っただけでなく、出撃のないことをいいことに毎晩半ダース以上のビールを空けてしまうので朝は壊滅的な状況なのだそうだが……。俺は手持ち無沙汰で甲板上をぶらぶらと歩いている。すっかり顔なじみになった甲板要員たちが、カタパルトの点検を進めている。搭乗要員が激減してしまったケストレルでは、俺たちがラーズグリーズ隊として出撃するようになるまでの間ほとんど出撃がなくなってしまったので、細かいところが錆びついているのだという。もっとも、本来の仕事を得た彼らの表情はいきいきとしていたのであるが。
「悪い、すっかり遅くなっちまったな!」
この寒い時期だというのに、バートレット隊長はランニングにジャケットを羽織っただけの格好で姿を現した。俺は敬礼で彼を迎えたが、もう今は同格だろうが、と彼は手を振った。そう、考えてみると、あくまで記録上の死亡以前の話ではあるが、俺たちは隊長に階級の上では追い付いてしまったのだ。だが、それはあくまで階級だけの話だ。俺には、まだバートレット隊長から教えてもらわなければならないことが山ほどあるのだから。
「さて、と。ブービー、わざわざ来てもらったのは他でもない。今後の部隊運用に関してのことなんだが……」
バートレット隊長が復帰した以上、俺は隊長職を返上するつもりでいた。この数ヶ月、皆を率いてきたとはいえ、俺は実質的には新兵と変わらないのだから。だが、隊長の答えは意外なものだった。
「俺はもう、おまえたちの指揮は執らん。ブービー、ラーズグリーズ隊の指揮は引き続きおまえが執るんだ」
「いやしかし、隊長。私は、隊長が不在となったウォー・ドッグの指揮権を代行していただけです。この隊を指揮するのは、バートレット隊長、あなたしかいないはずです」
「ブービー、おまえ分かっていないぞ。」
バートレット隊長は両手を広げて首を振った。だが、嬉しそうに笑いながら。
「ラーズグリーズ隊の隊長は、おまえだよ、ブービー。俺じゃねぇ。スノー大尉やグリム、そしてナガセの顔を良く見てみろ。あいつらの隊長は、今ではおまえなのさ。もうおまえもナガセも、そしてグリムも、俺のひよっ子からはとっくに卒業だ。年齢は関係ねぇ。この戦いで、おまえたちが生き抜いてきたことは、まぎれもない事実なんだ。自分の実力を信じろよ、ブービー」
バートレット隊長は、そのごつい手で俺の肩を叩いた。彼にしてみれば軽く叩いたのかもしれないが、それは俺にとっては充分に痛かった。隊長は並んでいる艦載機たちに視線を移した。
「……15年前よ、俺がいた部隊はベルカのエース部隊との戦闘に巻き込まれて、気が付いたときは俺だけになっていた。おまけに、出撃したはずの基地司令部は壊滅し、まさに孤立無援だった。そんな俺のことを支援してくれたのが、ビーグル……いや、フッケパインだったのさ。「ブービー」ってのは、15年前、俺を鍛え上げた部隊長から貰ったあだ名さ。その隊長も、戦闘の中でとっくに命を失っちまっていた」
俺は黙って彼の話を聞いている。
「いいか、ブレイズ。元隊長として一つだけ命令してやる。必ず生き残れ。そして必ず全員で帰還しろ。俺としては、俺の名誉あるあだ名を引き継いだ男を簡単に失いたくないのでな。……頼んだぜ、隊長殿!」
「でも、バートレット隊長は?」
「俺か?無粋なことを聞くんじゃねぇよ。俺は、俺が守ってやらなくちゃならない奴と一緒に行くさ。だから、隊長として飛ぶことは出来ねぇ、ということだよ」
隊長は、少佐殿と共に行くつもりらしかった。ということは、ニカノール首相とともに、いよいよハーリング大統領の元へ向かう日が近いということになる。俺は、改めて隊長に敬礼した。俺たちを鍛え上げ、生き抜く力を与えてくれた恩人に対して。今度は、バートレット隊長もそれに応えて敬礼した。にやり、と笑いながら。
突然、緊急事態を告げるサイレンが鳴り響いた。続けて各員に戦闘態勢へ移行するようアナウンスが流れる。甲板要員たちが工具箱をぶら下げながら慌しく走り出す。
「どうやら、またドンパチ始まるみたいだな。ブービー、行くぞ!!」
「了解です、バートレット隊長!」
「おい、隊長はおまえだと言っただろう。全く、しょうがねぇ野郎だ」
俺と隊長は甲板に飛び出してくる乗組員達を突き飛ばすように走り出した。そう、空母ケストレルの鼻先数キロ先では、既に異変が起こっていたのだった。
「前方にユーク艦隊展開中、数は18隻。我が艦隊の進路を阻むように展開しています。このままの速度ですと、接触まで10分程度!!」
「どうやら、ニカノール首相をお迎えにきた、というわけではなさそうですな」
空母ケストレル艦橋は慌しい雰囲気に包まれていた。コントロールルームのレーダー、そして拡大映像には、前方に展開するユーク艦隊の姿が映し出されている。その中には空母の姿も見え、丸々一個艦隊が展開していることは明らかだった。それに引き換えケストレル側はケストレル本体以外に僚艦が数隻。まともに戦って勝てるような相手ではなかった。もっとも、ケストレルが擁するラーズグリーズ隊の戦力を計算に入れるとなると自ずと戦力比は変化するであろうが。
「いずれにしても、黙っているわけにもいかん。艦長、この艦はマイクを使用出来るか?」
「はい、マイクと共に、いくつかの周波数で通信も直接傍受できるようにしてあります」
「わかった。ではマイクを借りるよ」
ニカノールは艦長からマイクを受け取り、数回咳払いをすると本来なら彼を守らねばならないであろう艦艇たちに声をかけ始めた。
「前方に展開するユークトバニア艦隊の諸君。私は君たちの国家元首ニカノールだ。私は、我らが祖国を貶め、必要の無い戦いを続けようとする者たちから解放され、今はこの……」
ニカノールはマイクを口元から離し、アンダーセンに振り返った。
「ケストレルだったか、艦長?」
「イエス、ケストレル」
「今はこのオーシア航空母艦ケストレルの艦上にある。私は、オーシアとユークトバニアの間に生まれてしまった不要な争いを除き、オーシアとの宥和とこの世界の平和のため、ハーリング大統領と共にこの戦争を終結させるつもりだ。ユークトバニア艦隊の諸君……」
艦外マイクに雑音が走り、通信が途絶する。代わりに聞こえてきたのは、野太い男の声。
「ユークトバニアとオーシアの間には憎しみしか存在しない。元首ニカノールは我が祖国の誇りを投げ捨て、敵についた。彼は敵だ。我らがユークトバニアの裏切り者として、この海に没セシメヨ!」
「敵艦、両翼に陣形を展開始めました。我が艦隊を包囲するつもりでしょうか?」
「各艦戦闘態勢のまま待機。搭乗員はすぐに発進できるよう、兵装を完了している艦載機に搭乗せよ」
アンダーセンの表情が厳しいものに変わり、いつもならのんびりとした口調の言葉が鋭いものへと変貌する。「昼行灯」の見せる歴戦の古強者の顔だった。
「ピトムニクより艦隊司令。仮にも国家元首のお言葉です。これに対して通信妨害を行うとは何事でしょうか。我々とて無駄な争いはお断りなのです。ニカノール首相をお迎えに上がり、真意を確認することが我らユークトバニア海軍としての責務と考えます。司令、進撃をお止めください!」
ユーク艦隊の一隻が進路を変え、まっすぐケストレル艦隊に進撃中の友軍の前に右舷をさらす。進撃中の艦艇の速度が緩まり、そして停船した。
「ピトムニクは我が命に背き、秩序ある艦隊行動を阻害した。彼らは祖国を裏切ったニカノールに与する叛徒である。我に続く艦はピトムニクを攻撃せよ。各艦、砲門開け!!」
「ユーク艦隊、友軍艦に向け攻撃態勢を取りました!」
アンダーセン艦長の表情がより険しいものに変わる。眉間の皺が一段と深くなった。
「やめろ!味方同士で殺しあうなど、最もやってはならないことではないのか!!国家元首として命ずる、直ちに戦闘を停止、全ての動力を停止せよ!!」
ニカノールは必死にマイクを握り締め叫ぶ。が、ケストレルの叫びは彼らには届かない。
「オープンファイア!!」
洋上にいくつもの炎が煌いた。攻撃を回避すべく動き出したピトムニクは、何隻もの艦艇からの同時攻撃をまともに右舷から喰らってしまう。艦橋が吹き飛ばされ、集中砲火は船体を突き破る。弾薬庫が大爆発を起こし、ピトムニクは燃え上がる炎に包まれた。突き破られた舷側からは大量に浸水し、徐々に船体が沈んでいく。爆発と爆炎をあげながら、ピトムニクは海面から姿を消していく。沈黙が海域を支配しようとしていた。同士を自らの手で葬った司令官さえ、言葉が無い。が、その沈黙を破るように一隻のミサイル駆逐艦が加速を開始した。
「我が艦は栄えあるユークトバニア海軍ミサイル駆逐艦「グムラク」!同士を沈めるような命令を出す司令官になど最早従っていられない。我が艦はニカノール首相を守る。同意する艦は我に従え!!」
「こちら駆逐艦チゥーダ。グムラク、我が艦も貴艦に続くぞ。そのうえで艦隊司令の罪を軍事法廷で暴いてやる!」
数隻の艦艇が艦隊から離脱し、急加速で海面を走り出した。ピトムニクのあげる黒煙が視界を遮っている隙を突いて、離脱艦艇は一気にケストレル隊に加わるべく航行する。
「離脱艦隊は全て敵だ!全艦砲門開け!裏切り者どもを海の藻屑にしてやるのだ!!」
ユーク艦隊からの砲撃が始まる。水柱が上がり、迫り来る対艦ミサイルをファランクスが叩き落とす。砲火と煙で充満した海域を、離脱艦艇は必死になって逃走する。
「空母ケストレル、聞こえるか!?こちらグムラク、我が艦隊はニカノール首相と共に進む!これより貴隊に加わるぞ。命令違反、軍規違反なぞクソくらえだ!!」
「味方を攻撃して沈めるだと……!海の男の風上にもおけないクソ野郎がいたもんだな。隊長、ここからASM撃ってもいいか!?」
カタパルトで待機中のスノー大尉が毒づく。俺もまた、味方からの砲撃で沈んでいくピトムニクの姿を嫌と言うほど目に焼き付けていた。あの艦隊司令のような奴がいるから、いつまでたっても戦争が発生する。いつまでたっても罪の無い人々がその命を失う。なのに、あの連中はのうのうと生き延びて天寿を全うするのだ。
「待機中のラーズグリーズ隊に告ぐ。全機緊急発進!我が艦隊に向かっている艦艇を守り抜け!!全責任は私が負う。ラーズグリーズ隊、出撃せよ!!」
いつになく厳しいアンダーセン艦長の命令が飛ぶ。慌しく甲板要員たちが動き始め、持ち場に付く。ここしばらく乗っていた機ではないが、最新鋭の戦闘機の一つであるF-35に乗り込んで俺は出撃の時を待つ。その間にも、目の前の海域では砲火が飛び交い、着弾の水柱が無数に上がっていく。まだ幸いにも離脱艦艇に被害は出ていないが、それもこのままでは時間の問題だった。ならば、俺たちがいくしかない。
「大尉、発進準備完了!いつでもどうぞ!!」
甲板要員からの通信。俺はスロットルをMAXに叩き込んだ。甲板のバリアが立ち上がり、機体から吹き出るアフターバーナを弾き返す。
「ケストレル、ラーズグリーズ、ブレイズ出るぞ!!」
「了解、ブレイズ、あのクソ野郎どもに全弾ばらまいてやれ!」
ドン、という衝撃と共に圧縮空気が放たれ、鎖に繋がれていた翼は猛然と加速する。数秒で機体は拘束から解き放たれ、空への飛翔を開始する。さあ、ここからが反撃の時だ。後方では、ナガセの機体がテイクオフし、俺の後尾へとコースを取る。
「ナガセ、離脱艦艇に一番近い先頭艦に攻撃をかけるぞ!ASM発射用意!!」
「了解ブレイズ、全兵装安全装置解除!いつでもどうぞ!!」
低空で編隊を組んだ俺とナガセは、HUDに捉えたフリゲート艦にロックオンを開始した。
「おいおい隊長、俺たちの分も取っておいてくれよ。」
「アーチャーより隊長機へ。左翼のフリゲート艦をこちらもロックオン。いつでもいけます!!」
後方ではケストレル隊が前進を開始した。数少ない護衛艦が空母の前方に立ち、進撃を開始する。
「攻撃開始!!全機、ユーク艦隊を壊滅させるぞ!!」
「了解、オープンファイア!!」
俺たちの機体から放たれたASMの排気煙が何本もまっすぐ伸びていく。この一戦、決して負けるわけにはいかないのだ。
アンダーセン艦長は、前方で始まった戦いを凝視しているニカノールの後姿をしばらく無言で眺めていた。ニカノールの背中からは、痛々しいほどの後悔が滲み出している。
「元首、本艦が戦闘区域に入る前に、この艦をお発ちください」
驚いた顔でニカノールは振り返った。
「いやしかし……」
アンダーセンは顔を寄せ、そして声を潜めるようにして話し出した。
「既にオーレッド入りしたハーリング大統領の元へお急ぎ下さい。そして、元首と大統領が手を取り合う姿を、あらゆるメディアを通じて世界中に流すのです。それ以外に、この戦争の裏に潜むベルカの亡霊たちを孤立させ、表舞台に引きずり出す方法はありません。少佐とバートレット大尉、それからうちの海兵を何人か付けましょう。さあ、時間がありません、早く!!」
「わかった。艦長、この戦いの責任は、君ではなく私が全て負う。友軍を攻撃するような同士……いや、幻想に過ぎない覇権に溺れた彼らに、鉄槌を下してやってくれ。最早、それ以外に彼らの目を覚まさせる術はないだろうから……頼んだよ、艦長!」
アンダーセンは敬礼で応えた。その背後には、「少佐」が既に待機している。今、世界中で続いている愚かな戦いを終わらせるためには、茶番劇と言われようが、両国を代表する二人がデタントを演じることが必要なのだ。そしてその背後で暗躍するベルカ残党を表舞台に引きずり出し、戦争を終結させるための両国共通の「敵」とするためにも。
「さあて、元首、ちょっぴりスリリングなフライトと行きましょうか?」
バートレットの問いに、ニカノールは笑顔で応えた。
「どうせなら、とことんスリリングにしてくれ。毒食わば皿まで、皿も食べたら今度はテーブルだ。とことんいこうじゃないかね?」

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