The Unsung War・前編
攻略メモ
中枢を破壊されたSOLGは、落下コースを取った。どうやら、中枢が破壊された場合にはオーシア首都オーレッドに落下するようプログラムされていたらしい。オーレッド壊滅を阻止するため、SOLGを完全に分解させることが任務。
ミッション開始から5分間はSOLGが出現しないが、その代わりに8492とオブニルがセットで襲撃してくる。これまでの屈辱と恨みを全てぶつけてやろう。いずれの機体も高機動・高性能かつ凄腕の猛者たちだが、撃墜できないわけではない。特殊兵装の高機動ミサイルなどがあればそれほど苦労せずに倒せるはずである。
5分が経過すると、いよいよSOLG本隊が出現する。SOLGに攻撃能力はないが、破壊目標が回転する加速器によって遮られてしまうため、タイミングを図りながらの攻撃となる。また目標を破壊するとSOLGの太陽発電ミラーやパーツが吹き飛んでくるので、それも回避しなければならない。ただ攻撃を受けるわけではないので、それほど難しいミッションではない。落ち着いて目標を破壊し、全ての攻撃ポイントを壊滅させればミッションクリア。SOLGはバラバラのパーツにばらけ、爆発、四散する。ラーズグリーズの英雄達の手により、ついにベルガの野望は潰えたのである。
登場敵機:ユークトバニア空軍アグレッサー部隊「オブニル」所属S-32、オーシア空軍アグレッサー部隊「8492」(或いはグラーバグ)所属S-32、Mig-1.44 REPLICATOR、衛星軌道上プラットホームSOLG
紅蓮の炎が身を焼いていく。大気圏突入に耐えられないパーツや外板が、高熱にさらされ発火して離れる。だが、それはその巨体のまま、徐々に濃くなる大気を炎と質量で切り裂きながら、重力に引かれて降下を続ける。大気の抵抗はささやかなものに過ぎず、巨大な質量が彼を地に落とさんとした者たちの怨念に引きずられるように高度を下げていく。SOLGという名の星が。
日の出が近づき、空は漆黒から次第に青みを取り戻し、光が大地を照らし始めている。まだ太陽は地平線の下だが、夜明けが迫っていた。俺たちは夜明け空を切り裂くように、最大戦速でSOLGを目指していた。
「こちらオーカ・ニェーバ、ラーズグリーズの諸君、SOLGへの攻撃開始が可能となるのは5分後だ。オーレッドから80マイル程度の付近から、君たちが到達できる高度に達する。急いでくれ。1秒遅れればその分迎撃のチャンスが減る!!」
「急がなくては……SOLGへ!!」
「ああ、このまま最大戦速で進めば、もう少し時間が稼げるはずだ。何としてもSOLGを止めなければならない!」
「隊長、今日は幸いにもうるさいハエもいない。一気に行こうじゃないか」
俺はスノー大尉の言葉に頷きながら、少し気になることがあった。先日の南ベルカでの戦いのとき、俺たちは数多くのベルカ人パイロットたちと戦闘を繰り広げた。だが、その中には「彼ら」がいなかったのだ。グラーバク、そしてオブニルが。本来なら、いち早く駆けつけて、彼らの野望を止めんとする者たちを葬りに来るはずの強敵が。
俺たちの眼下を、夜明けの光に照らされた大地が通り過ぎていく。既に首都オーレッドの大半の市民は近郊地への避難を開始しているが、如何せん何十万人という数に及ぶ市民を脱出させるのは至難の業だ。だからこそ、俺たちは可能な限り早いポイントで、可能な限り早くSOLGを破壊しなければならないのだ。果たして、うまくいくのか。俺たちは、奇跡を起こすことを義務付けられたようなものだ。だが、俺たちしかいない。何十機もの戦闘機で攻撃する手もあるだろうが、確実な攻撃が入らなければ結果は同じだ。
「SOLGの高度、次第に低下。畜生、ベルカの連中、大気圏との摩擦で生じる軌道のずれまで計算ずくってことか。理論上の降下コースなら、オーレッドを飛び越して海へボチャンなんだけどな。逆にぴったりと狙いが付き始めたぞ。本当に、最後の最後まで厄介な奴らだ。」
オーカ・ニェーバから送られているSOLGの落下コースに関するデータを見ると、彼の言うとおり確実にSOLGはオーレッドの中心部――つまり、ハーリング大統領のいるブライト・ヒルに落着するコースを取っている。
「隊長、今レーダーに機影が映らなかったか?」
「こちらエッジ、ソーズマン、こちらでは確認できない」
「僕のレーダーにも反応はありません。ノイズでしょうか?」
俺もレーダーに視線を移す。レーダーの作敵範囲を切り替え、反応を確かめていく。モードを切り替えて再索敵。微かだが、俺のレーダーにも機影らしきものが反応した。
「ラーズグリーズの亡霊、どうやら誤作動ではないみたいだ。機影8、君たちに向かって接近中。友軍機がこの辺にいるはずはないから……敵ということになるね」
8機。どうやら、奴らが現れたらしい。オーシアを破滅に導く星を守るために。当然、彼らの目標は、その最大の障害となる俺たちだ。
「ブレイズ、恐らく相手はグラーバクとオブニル?」
「間違いないだろうな。それにあいつらは俺たちに一度撃墜されている。雪辱戦にやって来たというところか。こいつは手強いな」
「オーカ・ニェーバより、ラーズグリーズ。君たちの予想が的中したようだ。接近しているのはグラーバクとオブニルがタッグを組んでいる。機体はよく分からないが、ベルカの使っているSu-47の試作型のようだ。包囲310から急速接近中!」
俺たちのレーダーにも、彼らの機影がはっきりと映し出された。8機の大きなトライアングルが、俺たちの真正面から突っ込んでくる。
「……間違いない、発見した。ラーズグリーズの亡霊どもだ」
それはグラーバクのリーダー、アシュレイの声。忘れようの無い、あの陰湿な声だ!
「隊長!俺たちはこんなところで立ち止まっている暇は無いんだ。彼らが立ちふさがるなら、丁重に退場してもらおうじゃないか。奴らをこのまま残しておくのは、この世界のためにならない!」
スノー大尉。かつて、初陣同然だった俺たちを叱咤激励し、そして俺たちがラーズグリーズ部隊となってからは、数少ないベテランパイロットとして俺たちと共に戦い、俺たちの戦いを支えてきてくれた功労者。彼のコールサインのとおり、その尾翼の「剣」が夜明けの光を浴びて煌く。
「そうです。彼らこそ、オーシアとユークトバニアを泥沼の戦争に陥れた張本人。そして、チョッパー大尉の仇!僕は決して彼らを許さない。今度こそ、ここで決着をつける!!」
グリム。俺たちと同様、開戦によって初めて実戦を経験し、なし崩し的に俺たちの部隊の一角となった彼も、もう今ではエースの一人。俺たちが続けてきた困難な作戦を無事生き延びてきたのは、他ならぬ彼の実力と技量の賜物だ。彼の尾翼に描かれた、「弓」が獲物に狙いを定める。
「憎しみに染まった彼らを、これから始まる歴史に残しておくことは出来ない!大統領が、ニカノール首相が、そしてみんなが守ろうとしている平和の芽を、彼らに摘み取らせるわけにはいかない!ブレイズ!!」
ナガセ。抜群の空戦技量と冷静な判断力は、隊長としての技量も経験もない俺を何度救ってくれたことか。そして、彼女は俺の2番機として、戦いの間ずっと俺を守り続けてきてくれた。俺が皆とともに今日まで生き延びてこられたのは、彼女の支えがあったからだ。俺は、彼女にどうしたら応えることが出来るのだろう。「エッジ」のコールサインのとおり、怜悧な刃が俺たちの最後の敵を切り裂こうとしている。
「ラーズグリーズ全機、目標はベルカのアグレッサー部隊、グラーバク、オブニルだ。攻撃開始!!今度こそ、彼らと決着をつけるぞ。そして、SOLGを止める!」
「了解、ラーズグリーズ2、エッジ交戦!」
「ラーズグリーズ5、ソーズマン、交戦!行くぞ、散っていった俺の部下たちの仇!!」
「ラーズグリーズ4、アーチャー了解!交戦!!全兵装安全装置解除!!」
俺たちとグラーバク・オブニルの相対距離は急速に縮まる。黒い翼は破滅の権化から未来を守り抜くため、白い翼は未来を屠り全てを破滅させるため。今、世界は新しい一歩を踏み出そうとしている。彼らに、希望と未来を渡すわけにはいかないのだ!
「ラーズグリーズ1、ブレイズ交戦!これが、最後の戦いだ!!」
夜明けの薄明かりの中、俺たちとグラーバク・オブニルはついに激突した。Su-47に酷似しながらも、部分的に形状の異なる戦闘機が8機、減速することなくそのまま突入してくる。
「我々は15年前の栄光を取り戻す。ラーズグリーズよ、貴様たちもここまでだ!」
「行くぞ、ラーズグリーズの凶鳥どもめ!!」
俺たちはほとんど同時にトリガーを引いた。互いの放つ機関砲弾が交錯し、曳光弾の光の帯が幾筋も空を引き裂く。8機とすれ違った俺たちは、編隊を解き散開した。オブニルたちは渓谷での戦闘と同じように、2機ずつのペアに分かれて散開する。
「単独での戦闘は禁止する。2機ずつ編隊を組んで1機を狙え!」
「はっ、二人がかりなら俺たちを仕留められるとでも思ったか!目に物見せてやるぞ、グリム、行くぞ!」
「はい!強敵が8機、心が震えている……こんなに!!」
スノー大尉とグリムがオブニルと交戦状態に入る。銃火の交錯する空域を、二人は縦横無尽に駆け抜け、オブニルたちの攻撃を巧みにかわしていく。そして俺とナガセは、編隊を解かず反転したグラーバクと戦闘を開始した。
「ブレイズ君、君も諦めの悪い男だ。たかが4機でSOLGを止めるつもりだったのかね?」
「残念だったな、おまえたちは1機もSOLGに辿り着けず、ここで無様に死んでいくのだ。我々の正義の刃によってな!」
真正面からの2機が俺たちに機関砲を浴びせる。機体をロールさせて回避し、接触スレスレの距離ですれ違い、俺は急反転した。視界が真っ暗になりそうなGに耐えながら、俺の前を通り過ぎた敵機の後背を狙う。レーダーロック!AAM発射!!敵機は急上昇して旋回し、俺の攻撃を難なくかわす。なるほど、そう簡単には決着をつけさせてはもらえないということだな!
「裏切り者さえいなければ、とうに実現できていた理想を今こそ我々が実現するのだ」
「そうだ。偉大なる大ベルカによる世界の統治!これこそ、世界を平和にする道。オーシア、ユークトバニアの融和なぞ、まやかしに等しい!」
「戯言を言うな!15年前の戦いで戦争と破壊の愚かさを自ら知りながら、何も学ぶことが出来ないような石頭野郎が、知ったような口を叩くな!!俺は貴様たちの腐った理想などに興味はない!俺たちは前に進む。なぜなら、理由は明白だからだ!おまえたちをここで葬るためにな!!」
スノー大尉が無謀とも見える突撃を敢行する。強引にオブニルの編隊に割り込み、ペアの一角がばらけたその瞬間を狙い、グリムが機関砲を叩きつけた。コクピットからエンジンまで、無数の機関砲弾に撃ち抜かれた機体は痙攣するように振動し、小爆発を起こしていく。断末魔の絶叫が俺たちの聞いている無線に響き、オブニルの1機が四散した。そしてもう1機にはスノー大尉が食らいつき、そして発射されたAAMが敵機の後部を吹き飛ばした。爆炎に包まれながら、オブニルが落ちていく。
「何度でも……何度でも我々は現れてやる。この程度で、この程度で我々が落ちるはずが無いのだ!!何度でも現れてやるぞ、お前たちの前になぁ!ぐわぁぁぁぁっ!!」
これで4対6。彼我戦力差は1.5倍!
「ブレイズ!後方から同時に追撃する敵機が2機!!回避してください!!」
後方から機関砲弾の雨が襲い掛かる。機体を大きくバンクさせながら旋回し、敵の狙いを外す。ナガセ機は、俺の後背を取ったつもりだったグラーバクのさらに後方にポジションを取る。罠にはまったことを悟った敵が回避を始めるが、既に時遅しだ。ナガセ機から発射されたAAMは旋回して避けようとした敵機のコクピットをまともに捕らえ炸裂した。機体が真っ二つにへし折れ、爆発の反動で吹き飛んだ破片を避けようともう1機が上昇した隙を俺は見逃さなかった。スロットルを最小限に絞り、エアブレーキを最大に効かす。機体は急減速し、一時的にホバリングしたように空中で静止した。俺の機体を追い抜き、敵機の無防備な後背が俺の前にさらされる。既に、俺は狙いを定めていた。トリガーを引き、機関砲弾の雨を復讐とばかりに撃ち出す。敵機の後方で無数の火花が飛び、破片が飛び散っていく。そして黒煙が吹き出し、コントロールを失った機体は海面目指して落ちていく。やがて海面に叩きつけられ、水柱を吹き上げて機体が四散する。
「これで数は互角!」
「なめるなよ、女。貴様は私の獲物だ!!」
「やれるものならやってみなさい!あなたたちには、決して負けない!!」
オブニル・リーダー機がナガセ機に狙いを定める。放たれた機関砲をかわし、ナガセはAAMを発射するが、オブニル・リーダーもまたそれを難なくかわした。2機は互いに急旋回を繰り返しポジションの奪い合いを始める。
「海軍航空隊のスノーとか言ったな?たかだかオーシアごときの競技会でトップを取ったような下手クソが我々を落とすだと?侮辱されたものだな、私たちも」
「笑わせるな。15年前はエースだったかもしれんが、今ではロートルに成り下がり精進することを忘れたようなクソッタレが吠えるな!!」
「仕込まれた技術、この戦いで得た経験、その全てを今ここに!チョッパー大尉、いるなら、僕たちを見守っていてください!」
「おまえたちを救う神はいない。SOLGの先触れとなって、地獄へ落ちろ!!」
「地獄へおちるのは僕たちじゃない、核兵器を使うことが平和と勘違いした、おまえたちの方だ!!」
俺たちは、俺たちの獲物を捉え、襲い掛かる。そして、俺の前に立ちはだかるのは、言うまでもなく奴だ。
「我々は15年前の遺物ではない。今尚生き続ける、まっさらな憎悪なのだ!!」
アシュレイの言葉を、オブニル・リーダーが引き継ぐ。
「そう、貴様たちが滅んだ後、我らは南へのトンネルを開く。そして二国を貶め、復讐を果たし、我々は南の地を手に入れるのだ!」
既に一度刃を交えた者同士。俺とアシュレイは小細工を弄することもなく、互いの後背を取るべく旋回を始めた。徐々にその速度は早まり、俺たちは体力と機体の限界線上での機動を繰り返す。俺の持てる操縦技術の全てを、今ここで!!空と海面が交互に現れ、水平線を垂直に見ながら操縦桿を引き、一体自分が今どんな姿勢にあるのも分からなくなり、しかし俺は奴を追うことを止めはしなかった。
「グラーバク、おまえは何も分かっていない!核は恐怖と破滅しか生み出さない。そんなもので、どうやって平和をもたらす!」
「知れたことを!我らに逆らう者は漏れなく核の炎で焼き尽くす!そうして抗うものが消えたとき、世界は平和になるのだ!!」
「ふざけるな!そうやって、この星の全ての人間が消滅するまで、核を使い続けるというのか!?」
「ブレイズ、人は脆いものだ。核の恐怖を知ったとき、人は初めて理解するのだよ。より強大な力を持ち続けるものこそが正義だ、とな!」
機体を急反転させ、アシュレイはAAMを連続で放ってきた。排気煙の帯を潜り抜け、俺は機関砲弾を浴びせるが、それよりも早く奴は機体を横へ滑らせ、攻撃を回避して俺の背後に回り込もうとする。俺はスロットルをMAXに叩き込み、機体を一気に加速させた。高度計のカウンターが桁を飛ばすように上がっていく。12000に達したところで機体を垂直降下させ、俺を追ってきた奴の正面に、集中砲火を浴びせた。数発が機体をかすめるが致命傷にはならず、ループを描くようにして俺から離れていく。だが、俺はその後背を逃すつもりはなかった。低空では、スノー大尉がグラーバクの1機を完全に捕捉していた。
「これで分かったか、ロートル野郎!過去の栄光に溺れて、日々の精進を怠った結果がこれだ!あの世でたっぷりと後悔するんだな!!」
スノー大尉の機体から放たれた機関砲弾は、グラーバクの機体を蜂の巣に変えた。パーツが弾け飛び、そして大爆発を起こして跡形もなく四散する。ナガセもついにオブニル・リーダーを捉え、攻撃ポジションを取っている。
「くそっ!この私が小娘一人振り切れないだと!?」
「グラーバク、オブニル、怨みがあなたたちを鈍らせる!人の心を失った者の語る平和なんて、誰も望みはしない!!」
一気に敵機に肉薄したナガセは、そのまま機関砲をオブニル・リーダーに浴びせ、その機体を追い抜いた。全身を撃ち抜かれた機体は、黒煙を吐きながらなおも飛行を続けていた。そのコクピットから聞こえてきたのは、暗い笑いだった。
「クククク……。まさか、この私が落とされるとはな。だが、勝負はまだ付いていないぞ、勝ったなどと思うな!!」
オブニル・リーダーの笑い声が唐突に途絶え、機体は爆炎に包まれ四散した。飛び散った破片が海面に落ち、無数の水柱をあげていく。低空での戦闘を制したナガセ機が上昇を始める。
「どこだ!ええい、忌々しいラーズグリーズの若造め!どこに消えた!!」
「そんな単純な戦法で、僕を倒せると思う、その慢心が敗北を招くんだ!!」
グリムたちは俺のさらに上空にいた。テールスライドからの反転攻撃をオブニル・ツーは企図したのだが、それを察知したグリムは敵機の死角で同様にテールスライドをかけていたのだ。オブニル・ツーが気が付いたとき、グリムはその後背にへばり付いていた。だがオブニル・ツーも先の大戦を生き延びてきた古強者。そこから機体を逆ループさせていった。マイナスGのかかる危険な機動。一歩間違えればレッドアウトしてしまう。グリムはその機動を見抜いていた。ループ途中で機体を旋回させたオブニル・ツーが上を見上げたとき、既にグリム機は攻撃ポジションを取っていたのだ。放たれた機関砲はオブニルのコクピットを撃ち砕いた。悲鳴をあげることすら出来ず、オブニル・ツーは海へと真っ逆さまに突っ込んでいく。
そして残るは1機。そして、その戦いをナガセたちは眺めているしかない。急旋回、急上昇、反転攻撃、俺たちは持てる空線技術の限りを尽くして戦い続けていた。
「時間稼ぎも出来ないとは、全くもって役立たず揃いで嬉しいよ。初めから、私一人でやっていればよかったというわけだな」
「何だと!?」
「ブレイズ、貴様さえ殺せば残りの3人など取るに足らない。15年前、フッケパインとバートレットを落としたのはこの私だ。ましてやその弟子たるおまえたちなど!!大ベルカの理想は私が実現する。そして、私こそがベルカの民の救世主となり、平和を導くのだ。邪魔立てするな、ラーズグリーズ!!」
救世主?平和を導く?もうたくさんだ。こいつの虚言と戯言を聞いているのは。口を開けば出てくるのは紡がれた憎悪。未来と希望を見ることの無い、過去の幻影を求めて止まないその心。恐怖こそが人々の心を掴み、平和をもたらすと信じてやまない、その馬鹿馬鹿しい妄執。こんな奴らがいるから、世界は何度も過ちを繰り返す。そしてこいつをここで逃せば、また闇にまぎれて暗躍するのだろう。そう、そして、奴は、平和の再来を心待ちにし、自らの手でそんな人々を傷つけることないよう散った、俺の大切な相棒の命を奪い去ったのだ!
「自分たちの町を消滅させたことも正義。この戦争で無数のオーシア、ユークトバニアの人々の命を奪ったことも正義。オーレッドを消滅させることも正義。要するに、アシュレイ、おまえは自分のやりたいことが正義になっているというわけか」
「何?」
「早い話が、自分のワガママを聞いてもらえないと泣き喚くヒステリックな子供だということさ!!」
俺は戦術レーザーに兵装を切り替えた。コクピットがガクンと上に上がり、レーザー砲が姿を表す。俺たちは互いに旋回から機体を立て直し、お互いの姿を正面に捉えた。
「消えろ!ベルカによる理想郷の実現のために!!」
「これで決まりだ!誰も望みもしない理想郷など、実現させてなるものか!!平和は、俺たちの手で掴み取る!!」
グラーバクはAAMを放ち、機関砲弾の雨を降らせた。俺はレーザーのトリガーを引いた。赤い光の柱はFALKENの正面にあるものを消し去り、そしてグラーバクの機体を捉えた。高エネルギーの塊が機体に炸裂する。鋼板が膨れ上がり、エンジンが炎をあげる。その刹那、奴の機体は縦に断ち切られ、真っ二つになった。
「馬鹿な、この私が、こんなことで……まさか、君たちがこれほど出来るようになっていたとは思わなかったよ」
きりもみ状態に陥りながら落ちていく残骸の中で、まだ奴は意識を保っていた。
「さて、君たちが我々の怨念を止められるのかどうか、地獄の底から見ているとするよ。くっくっくっく……はーはっはっ……!」
通信が途絶え、泣き別れていた残骸が炎に包まれた。炎の塊となったそれは、そのまま海面に叩きつけられ、そして四散した。
「おまえたちの思うとおりには決してさせない。俺は必ずSOLGを止める。」
「全戦闘機の撃墜を確認。SOLG、攻撃ポイント到達まであと2分!」
水平線の向こうから不意に光が差し込んできた。真っ白な、それでいて暖かい光が水平線から上がってくる。
「東の空が明るくなってきた。夜が明ける」
ナガセがぽつりと呟いた。
「ええ、僕らの夜間飛行が終わる。僕は見たいなぁ、最高の朝焼け、そして夜明けを!」
「太陽はこれからも俺たちの上に昇り続けるのさ。変らぬ朝、変らぬ夜明けがこれからも、な」
そして日の光に照らされるように、高空から黒く禍々しいものが降りて来る。オブニル・グラーバクを倒した今、残るはあのSOLGのみ。