初陣
ズシン、という腹に響くような轟音が、格納庫の中にまで響き渡る。グレースメリアに襲い掛かった敵部隊の攻撃は、確実にこの街全体に広がりつつある。そして俺は、目の前に立つ大柄な男を前にして、彫像のように立ち尽くしていた。これまでの訓練の日々を共にしてきた前席が恐らくはこの世の人ではなくなったという事実を反芻するのに、俺に与えられた時間はたった10秒。両方の拳をぐっと握り締めたまま、俺は目前の相手を睨みつけるように見据えた。パイロットスーツを着ていてもはっきりと分かる、俺よりも大柄の鍛え上げられた筋肉質な身体。いかつい形相に無精ひげ、短く刈り上げられた頭髪にサングラスは、別の職業だと言っても充分に通用する迫力……というよりも、パイロットであること自体が信じがたい。そして、エメリアでは比較的珍しい褐色の肌と来れば、嫌でも目立つというものだ。そのサングラスの下では、鋭い視線が俺の双眸を捉えている。正直なところ、自分が勝手に作り上げていたイメージが、音を立ててど派手に崩れ落ちていったような気分だ。なぜなら、今俺の前に立つこの男こそ、かつての訓練で俺たちを「ミンチ」にしてくれたあの凄腕の教官――「タリズマン」のコールサインで呼ばれるパイロットだったからだ。そして、ある意味憧れの対象でもあった男の口から告げられた受け入れがたい事実。それを認めたくない一心が、俺の心を動揺させていた。

「どうした、青二才。戦場じゃ、怖気づいた奴から狩られちまう。今なら、誰もお前を咎めたりはしない。あと5秒だ」

既に10秒は経過していたが、「タリズマン」はそう言って俺にもう一度猶予を与えた。……スパンクラー中尉。良き信頼関係を築くことが出来たであろう「相棒」は、どうやら当分再会することは出来なくなってしまった。昨日――もしかしたら、ついさっきまで顔を合わせていたはずの人間が、骸となって転がる世界。それは平和なエメリアにおいては遥かこの世の果てのようなものだったはずなのに。今頃になって足が震えだした。情けない、しっかりしろよ、と心の中で呟いても止まるようなものではない。提案通り、足手まといになるであろう人間はさっさと逃げた方がいいんじゃないか。そんな甘い囁きが耳朶を打つ。きっと、スパンクラー中尉だって分かって……くれるはずがないことに気が付く。エメリアを、グレースメリアを守れ。最期の最期までそんな言葉を残していった中尉が健在なら、こんな弱気な俺を殴り飛ばしていたに違いない。気を抜けばストンと力が抜けてしまいそうな膝を手で叩いて、俺は一歩を踏み出すことに決めた。

「――俺には、ウルフガング・マクフェイルという名前があります。兵装システム士官の搭乗はあなたにも必要でしょう?……行きましょう」
「ほう、ブルって終わるかと思ったら、やっぱり見かけによらず肝が据わっている――そうか、お前の神経の図太さは確認済みだったな。オーケー、俺はアーサー・K・エルフィンストーン大尉だ。機上ではちゃんと命令に従えよ、少尉殿?」
「……サー・イエッサー!」

もう引き返すことは出来ない。少し震える手で敬礼を施すと、エルフィンストーン大尉殿はニヤリと笑って、ラフに敬礼。そして、今度こそ出撃するべく、タラップを勢い良く駆け上がっていく。こちらも遅れるわけには行かず、ヘルメットと装備品を慌てて担いで、後部座席へと乗り込む。相手は歴戦のベテランだ。出撃準備を遅らせるわけにはいかない、と急いでヘルメットを被り、最終確認を進めていく。すっかりと座り慣れたF-15Eの後席。だが、兵装システム士官として実戦に出るのは、勿論初めてのこと。嫌でも生唾が喉の奥から湧き上がってくる。それを無理矢理飲み干しながら、ディスプレイやコンソールのチェックを進める。いつもやってきたことはずなのに、今日に限って自分の動作が遅いような気がする。焦ったところで何も変わらないのだが、気持ちばかりが先走っているのが分かる。ちらりと前席を見れば、緊張感の欠片も感じられないような素振りで操縦席周りを確認している。あの余裕が、今は羨ましい。こちらの視線に気が付いたのか、肩越しに大尉の視線がこちらを覗く。

「おい、準備はいいか?」
「もう少しで終わります。少しだけ待ってください!」
「ここで強制的にベイルアウトさせられたくなかったら俺の話を聞け、若造が」

その風体に相応しい、ドスの効いた声と鋭い視線が俺を射る。不思議なもので、あれほど震えていた足がピタリと止まってしまった。蛇に睨まれた蛙のような俺の姿を眺めながら、再び大尉が口を開く。

「いいか、離陸までの間操縦桿動かしたりスロットル動かす俺と違って、お前はその間の時間も活用できるんだぜ?今から焦って釈迦力になっているんじゃねぇよ。兵装と計器のチェックだけ済ませて、後は状況の確認でもしてろ。それすら出来ないんだったら、今すぐ降りろ。この機体は一人でも動かせるんだからな、若造」

悔しいが、非常に悔しいが、大尉殿の言う通りではあった。いつもなら、確かにそうしていたはずなのに、それすらも忘れてしまうほどに俺は平常心を失っていたようだ。そう、言っていることは正しいのだ。だが、「若造」という言葉を何度も使われるのが妙に釈然としない。というか、納得がいかない。ぐっと奥歯を噛み締めてから、俺はようやく口を開いた。

タリズマン 「……自分には「ベイオウルフ」というTACネームもあります。作戦中はそれで呼んで下さい」
「ベイオウルフ!?おいおい、ブルって真っ青になっているような奴に、そんな大層な呼び名が合うと思ってんのか?俺の見立てじゃ十年早いぜ。そうだな、俺がお前に相応しいTACネームを付けてやる。今日今からお前は「エッグヘッド」だ」
「な……!?」

エッグヘッド!?カチンと来ていた頭はその一言で怒り心頭モードに切り替わる。いくらなんでもそれは酷すぎるというものだ。よりにもよって、頭でっかちだって!?アンタこそ、脳の片隅まで筋肉で出来てそうな筋肉ダルマのくせに!!まさか、そんなことをそのまま口に出すことも出来ず、何とか声を抑制してせめてもの反撃を試みる。

「……嫌です。大体、何で「エッグヘッド」なんです!?」
「模擬戦の最中に上官の命令に従わずに勝手な作戦を立てたり、ブルってるくせに一端の言葉を口にしてみたり……そうだな、経験も足りてないわな。エトセトラエトセトラ。そんなお前さんに、これ以上無いくらいに似合ってる呼び名だろーが」
「その理屈なら、エメリアの多くのパイロットがそうなるんじゃないですか!?」
「ああもう、面倒くせぇな、この野郎!上官命令だ!!拒否は許さん!!分かったな、エッグヘッド、頭でっかち野郎!!」

命令の言葉を出されてしまうと如何ともし難い。グッと詰まってしまった俺は、せめてもの抵抗に上官殿をじっと睨み付けてみた。怒鳴りつけられるかと思いきや、大尉殿は不意に口元に笑みを浮かべて見せた。

「少しは肩の力も抜けて、落ち着いたみたいじゃねぇか。貸し1だ」

その笑い顔は、どちらかと言えば悪戯を決めて喜ぶ少年のようなイメージがしっくりと来る。すっかりと向こうのペースに乗せられてしまったが、そのおかげかだいぶ気分も心も落ち着いてきた。カチンとは来ていたし、この上官殿とは上手くやっていけるのか甚だ怪しかったけれども、足の震えも止まってきたし、何より頭はいい感じにクールダウンしつつあった。エッグヘッド……ああそうかい、頭でっかちですよ、俺は。実戦経験も無いし、そのくせ役目柄相手が上官でも色々と作戦情報を口に出さなきゃいけないし。的確と言えば的確ではあるけれども、この呼び名で呼ばれ続けていくのは非常に不服だった。いつの日か、本来のTACネームで呼ばせてやる、と腹を決めて、不承不承、それ以上文句は言わずに俺はディスプレイに視線を動かした。こっちの気分を落ち着かせるために敢えて癪に障る言葉を並べたのだと信じたかったが、その逆で楽しんでいたんじゃないかという気分になってきた。今に見てろよ、と呟いた俺に、遊びの時間は終わりだとばかりに大尉殿は宣告した。

「パーティのお誘いが来たようだぜ。行くぞ!!」

エンジンに火が点り、空への飛翔を待ちわびるかのように咆哮が背中越しに聞こえてくる。足元の整備兵たちが機体から離れていく。エルフィンストーン大尉がサムアップしながら整備兵たちの歓声に応えている。前席の上官殿に言ってやりたい文句は山ほどあったが、今はそれをぐっと堪える。フシュン、という音と共にキャノピークローズ。これで俺は戦いが終わるときまで出ることが出来なくなった。ゴトゴトゴト、という音と振動が足元から伝わり、格納庫の眺めがゆっくりと動き出す。開け放たれた格納庫の扉の外には、眩しい夏の光。こんなことがなければ、海岸でのんびり夏を謳歌しているのが相応しい天気。なのに、俺たちが向かうのはその全てが台無しになった街の空だ。そう、全てが台無しになってしまった、俺たちの愛する首都。そう考えると、腹の底から怒りが湧いてくる。同時に、押さえ込んだはずの不安までも。不安を紛らわすために、俺はレーダーディスプレイをワイドレンジに切り替えて映し出した。青い光点は友軍のIFF反応。そして……街を埋め尽くすかのように展開する赤い光点は敵性反応。俺が直面しているのは、かつてのベルカ戦争において攻め込まれたウスティオや、エルジア軍による大規模侵攻によって極地にまで追い込まれたISAFの兵士たちと同じ状態なのかもしれない。これは領空侵犯なんて話ではない。本格的、全面的な侵攻作戦によるものだ。エメリアの大地が、今まさに蹂躙されようとしているのだ。――俺に出来るのだろうか?……考えるまでも無い。やらねば、自分の命が奪われるだけ。やられる前にやれ。引き金を引くことをためらうな。陸軍の兵士や海兵隊の兵士たちに繰り返しそう教え込むのは、「その時」が来たとしても兵士としての役目をまっとうするためだろう。自分の役目を果たせ。敵をだれよりも早く察知し、判断しろ――心の中で俺は何度もそう呟きながら、離陸に備えて回線をオープンした。途端に、これまで聞いたことも無いような鬼気迫る会話の応酬が飛び込んできた。

『王様橋が落とされたぞ!!』
『状況が混乱している。どんどん上がれ!敵部隊の数が多過ぎて対応出来ない!!』
『何がどうなっているんだ!情報を寄こせ!』
『市街地を中心に爆撃が行われている!民間人にも多数の死傷者が出ている模様!!』
『ふざけやがって……!』

飛び交う交信の嵐が、事態の深刻さを物語っている。爆撃、ということは敵さん、爆撃機まで動員してきたということか。航空部隊の襲来は、その後に続く陸軍部隊による占領作戦の露払いに違いない。その事実を再三にわたって突きつけられて、俺は生唾をごくりと飲み込んだ。戦闘機に乗り込んで幾度も空に駆け上がってきたはずなのに、今日のように身体が震えるのは初めてだった。記録に残る歴戦のエースたちは、こんな緊張感を平然と受け流して、連日戦いの空に飛び立っていったのだろうか?かの有名な「円卓の鬼神」や「片羽の妖精」、環太平洋事変の「ラーズグリーズ」たち……。ふと視線を感じた俺は、ディスプレイを凝視していた視線を少し上に持ち上げた。ようやく気が付いたか、とでも言いたげに、エルフィンストーン大尉が苦笑いを浮かべながらこちらを眺めていた。

「今からそんな辛気臭せぇ面を見せるんじゃない。どうしても覚悟が決まらないなら、今日だけは許してやる。小便たれるなり、ゲロるなり、早いうちにやっとくことだ。そうすりゃ怖いものが無くなって腹も決まる。……毎回は勘弁して欲しいがな」
「どっちも嫌ですよ。そりゃ滅茶苦茶怖いに決まってるじゃないですか!?でも、自分は大尉の腕を信じるしかない。俺の腕前じゃ、この空で空しく四散するのが関の山って奴です。だけど、逃げるのはもっと嫌なんです」
「怖くない奴なんかいないさ。誰だって、死ぬのはご免だと思っている。それを否定するな。受け入れろ。そのうえで、"俺が死ぬものか"、と思っていれば、神様は駄目でも気まぐれな天使か小悪魔が助けてくれる」
「……操縦と攻撃はお任せします、エルフィンストーン大尉。自分は、自分に出来る限りのことを尽くします。――生き残るために」
「おい、その大層な呼び方はやめてくれ。"タリズマン"でいい」

コクピットに乗り込む時と同様にニヤと笑ったエルフィンストーン大尉改め「タリズマン」は、こちらにサムアップして正面を向く。格納庫前で待機する俺たちの前を、グレースメリア基地所属のF/A-18Cの編隊が飛び立っていく。こちら同様の、対空兵装のフル装備。滑走路を見渡せば、待機している機影は見えない。どうやら、俺たちのターンがやって来たらしい。

『グレースメリア・コントロールよりタリズマンへ。ランウェイ・クリア」
「了解した。カートン、アン・ジョン、準備はいいな!?」
『カートン了解』
『アン・ジョン、いつでも行けます』

両翼を固めるのは、教導隊所属のベテランパイロットたちだ。バイザーを下ろしたタリズマンが彼らの姿を見渡し、そしてスロットルをゆっくりと押し込む。再び景色が流れ始め、滑走路へと愛機が進んでいく。ラインにぴたりと揃えたところで、ブレーキON。スロットルを絞る。タリズマンがペダルと操縦桿を動かして、感触を確かめる。振り返った俺は、尾翼の動きに異常が無いかどうかを確認する。こんな状況でも、整備兵たちがいい仕事をしてくれていたらしい。愛機の全ての準備に、問題なし。後は発進許可が下るのを待つのみ。どうせなら、一生聞かずに済ませたかったその一言を。

『こちらコントロール。気負いすぎるなよ。いつも通りにやればいい』
「あいよ。そっちも危なくなったらさっさと逃げろよ」
『そうならないで済むことを祈ってる。グッドラック!」

エンジンが甲高い咆哮をあげ、身体の上に強烈な加速Gが圧し掛かった。2発のエンジンがF-15Eの胴体をあっという間に離陸速度にまで加速させる。猛然と滑走路をダッシュした機体は、やがて空へと舞い上がる力を得る。スパンクラー中尉と比べても格段に滑らかに、ソフトに、タリズマンは機首を持ち上げていく。大地の束縛から解放された愛機。俺の目前には、夏の真っ青な空が広がった。エンジンの咆哮と地上との反響音が遠ざかり、グレースメリアの空へと愛機は舞い上がっていった。
エメリア軍航空部隊 『空中管制機ゴースト・アイより、各機へ。状況が著しく混乱している。これより臨時に部隊編成を実施する。各機は指示に従って敵性戦力の排除に向かえ。こいつは演習ではない。臆するなよ』

空へと上がった俺たちを待っていたのは、俺とスパンクラー中尉が自滅した模擬戦の時の審判役。あの時同様に、渋い声が聞こえてくる。ここからその姿を見ることは出来ないが、空中管制機に搭乗する士官の声が各機へと伝えられる。それにしても、コクピットからこれほどの戦闘機の姿を眺められるとは。これはこれで、なかなか壮観な眺めであるに違いない。グレースメリア基地から飛び立った戦闘機は、この街だけでなく他の方面へも向かっていた。驚いたことに、襲撃を受けたのはグレースメリアだけではなかったのだ。

『第35航空隊と第48航空隊の各機、第18航空隊と第405航空隊の各機は、市街東の空域へ。第213航空大隊は王様橋上空領域へ……』

素早く、適格に、必要な情報を伝達する。その点に関して、「ゴースト・アイ」の指揮ぶりは見事である。淀みなく上空に上がっている各隊へと指示を飛ばし、担当空域を振り分けていく。それに応じた戦闘機が編隊を組み直し、戦闘体制を整えていく。このF-15Eに搭載されているレーダーも高性能なものではあるが、AWACSには到底かなわない。そして、俺が見ているよりも遥かに多くの敵味方を識別し、適切な指揮を執る事が、彼らには求められる。戦闘機パイロットとはまた違った意味でハード・ワークを強いられる世界。幸いなことに、俺たちの上に乗っかってくれる指揮官は、かなり優秀な部類に入ることは間違いなさそうだった。

『カートン、アン・ジョン、君たちは教導隊だったな?カートン、君は第85航空隊を、アン・ジョンは第52航空隊の指揮を執れ』
『了解。タリズマン、また後でな!』

翼を振った2機が、俺たちから離れていく。ふと見回すと、F-15Eの姿は辺りには見当たらなかった。おいおい、これって孤立してるってことじゃないのか?

『――タリズマン。貴君は僚機を欠いているようだが……プルトーン隊の各機はどうした?』
「残念だが、既にパイロットが戦死した可能性がある。とりあえずイキのいい後席を連れて上がらせてもらった」
『そうか、了解した。おや……シャムロック、君も迷子のようだな』
「聞いたかエッグヘッド、俺たちゃ迷子だとさ」
「連れられてきて迷子ってのは、辛いですね」
「同感だ。迷子同士で道に迷った挙句、エストバキアに侵攻しちまうか」
『何をブツブツ言っている?よし、シャムロック、君がタリズマンの僚機につけ』
『了解した』

首を巡らせて振り返ると、戦闘機の群れの中をF-16Cが一機、こちらに向かってくるところだった。あれが俺たち同様に「迷子」扱いになった「シャムロック」の機体らしい。やがて臨時編成の僚機が、パイロットの姿が見える距離にまで近付いて水平飛行へ。その姿をタリズマンも確認して何か頷いている。

「一応、俺の隊には「ガルーダ」という名前が付いているんだ。こっちが「タリズマン」。後ろのヒヨッコは「エッグヘッド」だ。めんどくさければ「若造」でいい」
『ハッハッハ、ひどい機長についたものだな、エッグヘッド。じゃあ、僕がガルーダ2だ。よろしく頼むよ。どうにも方向音痴でね……君たちについていかせてもらう」

戦闘機乗りが方向音痴で務まるのだろうか、と疑問を差し挟みたくもなったが、どうやら陽気な人柄らしい。「方向音痴」が実際のものなのか、生き様のことなのか、無事生き残ることが出来たら聞いてみよう、と俺は決めた。"ガルーダ"隊の2機が話をしている間に、ほぼ臨時編成は完了したらしい。そして、俺たちにAWACSがあるように、敵にもAWACSが付いている。グレースメリアの中心――金色の王の鎮座する王城はもうすぐ俺たちの足元に到達する。そんな俺たちの針路を塞ぐかのように、敵の赤い光点が展開しつつあった。呆れるくらいの数。だがありがたい事に、敵部隊の主力機に近代型の新鋭機はほとんど見られない。戦闘機の性能だけで帰趨が決まるわけではないが、戦い方次第では圧倒的な差を作ることが出来る。まだ、付け入る隙は残されているらしい。

いざ、戦場へ 『ガルーダ隊、交戦を許可する』

ついにその一言が下された。即座にタリズマンが反応し、大きく機体をロールさせる。シャムロックも追随。スロットルが押し込まれ、愛機は地上目指して轟然と加速を開始。黒煙が幾筋も空にたなびくグレースメリアの街へと、鋼鉄の天使たちが舞い降りていく。ジジジ、という耳障りなノイズが早くも機内に響く。こちらの接近を察知した敵航空機が、戦闘体制を取りつつあった。それはこちらも同様。レーダーをワイドからショートへ切替。前方に接近する敵部隊の針路と数を素早く確認。敵第一陣の向こう側に、B-52の編隊を視認。俺たちの前方を横切るように飛ぶ爆撃機の航跡の後には、爆炎と黒煙とが膨れ上がる。畜生、好き勝手やりやがって!

「派手にいくぜ!!ガルーダ1、エンゲージ!!」
『金色の王の微笑が共にあらんことを!ガルーダ2、エンゲージ!!』

勢い良く流れていく空。2基の強力なエンジンが、F-15Eの身体を弾き飛ばすように加速させていく。敵航空部隊の頭を取った有利なポジション。既に全兵装のロックは解除されている。もう一度、「ためらうな」と自分に檄を入れて、俺は獲物の姿を捉えることに全神経を集中させる。迫り来る敵の赤い光点に、喩えようの無い息苦しさとプレッシャーを感じながら。そして、コクピットの中に、けたたましい警告音が鳴り響いた。


「天使舞う空、駆け抜ける鉄騎」ノベルトップページへ戻る

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