ミッション12

エルジアより亡命してきた技術者たちの情報により、ストーンヘンジの全容が明らかになりつつある。ISAF司令部は、今後の大規模な侵攻作戦を行うにはこれの排除は必要不可欠と判断。ついにあの巨大兵器ストーンヘンジの攻略作戦を発動した。しかし、データを見た俺らは、予想以上の防衛システムに舌を巻いた。砲台自体がとんでもない脅威だってのに、ジャミングシステムにSAM陣地、対空砲もてんこ盛り。司令部は「40%の損失を覚悟している」と簡単に言ってくれたが、死ぬのはこっちだからな、笑っていられねェ。

伝説的となっているあの巨大兵器を叩くということで、部隊の連中もいつになく気合が入っている。今までに幾人のパイロットたちがあの砲撃で散って行ったことか……。航空戦力が確実に削がれてきている今、エルジア軍の制空権を維持しているのはあの砲台の存在以外にない。きっと、黄色中隊も出てくることだろう……負けはしないけれどもな!
俺はすっかり馴染んだ愛機のコクピットに潜り込んだ。今回の作戦では破壊力を重視して、装備班が突貫作業で完成させた気化爆弾を持っていく事にした。正直、これでも足らないような気分だ。
「よう、メビウス1。いよいよだな。」
離陸を待つ俺たちの前にいるレイピア09の声は、どこか感慨深げだった。
「俺が前いた部隊は、あの化け物の攻撃で俺を残して全滅したんだ……。ようやく、ようやくその仇が討てるぜ。」
奴の過去の話を聞いたのはこれが初めてだったから、少し驚いた。
「焦りは禁物だぜ。でも今回のメンバーなら、うまくいくさ。」
「へっ。おまえに優しい言葉かけられるとは、俺も落ちたもんだぜ。……先に上がっているぜ。」
それぞれの思いを胸に、攻略作戦が発動する。

敵の哨戒圏を避け、山岳帯を抜けるルートを取った俺らは、空中給油を受けいよいよストーンヘンジへと空を駆ける。ヤツの直撃を食らわないよう2000フィート以下の高度で平原をかけ抜ける。
「すげぇ。なんてでかさだ。おい、スカイアイ、距離に間違いはないんだろうな!」
「あれがストーンヘンジ……。」
俺も同感だった。まだまだ射程距離外だってのに、ストーンヘンジはその巨大な姿をさらしていた。そして、その巨大な砲台が全門、こちらを向くのも!
「スカイアイより、各機、ストーンヘンジ発砲!!低空を維持せよ!!」
俺たちはいくつかの編隊に分かれて1000フィートまで降下する。砲撃の衝撃波が空を激しく揺るがす。おまけに、ジャミングシステムのおかげでレーダーロックもかけられない。そこにSAMは見えるってのにな。しかも向こうはこっちを狙えるみたいで、ワンサカとSAMが上がってくる。
「俺が行く!」
俺は地表スレスレの高度まで降下した。SAMのお出迎えをロールシザースでかわし、砲台群の中央に位置するジャミングシステムに接近する。機体を水平に戻し、トリガーを引く。バルカン砲に引き裂かれ、システムは粉々に砕け散った。瞬間、レーダーが正常に戻る。ついでとばかり近場にいた砲台に気化爆弾を投弾して急上昇する。火球が砲台を包み込み、次いで砲台が大爆発を起こした。
「いいぞ、メビウス1!全部やっちまえ!!」
「全機、メビウス1をサポートするぞ!対空陣地をつぶすんだ!!」
回避行動を取っていた部隊の全機が攻撃を開始する。対地ミサイルと対空ミサイルが交錯し、機関砲の曳航弾が走る。爆発、飛び散る破片、逃げ惑う基地の兵員たち。対空ミサイルの直撃を受け、主翼をもがれた1機が、砲台へ特攻する。台座から跡形もなく吹き飛ぶ砲台。散った隊員のコールサインを呼ぶヤツ。戦いは熾烈を極め、乱戦となっていた。防空部隊もやってきて、これにはレイピア09の部隊が当っている。さすがに巨人兵器とだけあって、なかなかしぶとい。直撃を与えてもぴんぴんしていやがる。なら壊れるまで叩くまでだ!発砲の衝撃波を避け、発射口めがけて気化爆弾を投下する。さすがに効いたらしい。大爆発。吹き飛んだ破片は、辺りの対空陣地も巻き添えにしていた。俺は旋回しながらSAMを叩き、また別の砲台に狙いをつけて爆撃を行った。砲台の数が減るに従って、ストーンヘンジの防空機能は確実に削がれつつあった。俺たちの部隊は徹底的にストーンヘンジの施設群を攻撃した。あと一台!だが爆弾が尽きちまった。
「メビウス1、そいつだけは俺にやらせてくれ!!」
レイピア09が上空から急降下する。だが、その後ろには敵の防空部隊が食いついていやがる。やらせるかよ!!スロットルを全開に叩きこみ、一気に高度を上げる。
「リ、リボン付!?」
敵さんの驚愕する声が聞こえてくるが、容赦している暇はない。機関砲をお見舞いして、そのコクピットを吹き飛ばす。
「部下たちの分、たっぷり味わいやがれ!!」
レイピア09の放った爆弾は、砲台を直撃。……ストーンヘンジは、その機能を停止した。パイロットたちの歓声が通信を駆け巡る。

「スカイアイよりメビウス1!黄色中隊が接近中!」
スカイアイからの通信はお祭りムードを吹き飛ばした。やっぱり来やがったか!元々砲台を護衛する為に作られた部隊だもんな。
「レイピア09、エンゼル01、フェイロー07、それにオメガ1はついて来い。一戦交えるぞ!」
「スカイアイより各機、うちのエースは向こうより強い!交戦を許可する!!」
やがてSu−37がその姿を現した。俺たちは、それぞれの相手を決めて襲いかかった。俺の相手は、4番機。さすがに大した腕だぜ。F−15Eでもついていくのがきついくらいだ。と、一瞬4番機の速度が落ちたように見えた。プガチョフコブラか!!接近しすぎていた俺はエアブレーキをかけつつ下へ逃げようとした。その時だった。4番機の右エンジンが突如爆発したのは。衝撃で機体は引き裂かれ、そして俺は4番機のパイロットが放り出される光景を見てしまった。長い黒髪が広がるのが、一瞬目に入った。
「4番、脱出しろ」
黄色中隊はあっさりと交戦を中止し、撤退行動を取っていた。
「誰か4番の脱出を見た者はいるか?」
どうやら隊長機……13番のようだ。冷静だが、その声は明らかに震えているようだった。機体の整備不良だったのだろうか?俺はしばらく、4番の最期を忘れられそうになかった。

無人の部屋ってのはこんなに寂しいものだったろうか?主のいなくなった部屋の中で、13番はそう思った。そして、ジャンバーのポケットから一枚のハンカチを取り出す。かすかに香水の香りがする、4番のハンカチ。何もしてやれなかった自分に、無性に腹が立つ。「必ず隊長をお守りします。」その言葉通り、彼女は逝ってしまった。だが不思議と「リボン付」への怒りは湧いてこない。ヤツは攻撃をしなかった。呆然としてしまったのは向こうも同じだったのだろう。
13番はしばらくしてから、ようやく部隊に居候している少年がこっちを見ていることに気が付いた。今は誰でもいいから、話し相手が欲しかった。今までで、最高の僚機であった、女性のことを話せる相手、が。

本ミッションにおける撃墜スコア
地上目標19・黄色中隊Su−37・4番機、機材故障により墜落

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