ミッション18

少年は、空の異変に気がつき家の外へ走り出していた。どんよりと曇った空に流れ星がいくつも流れていく。そして炎の塊も!街中に警報が鳴り響いた。街頭ニュースは、旧エルジア軍の若手将校たちによるクーデターが勃発したことを告げていた。

エルジア軍の若手将校たちによってクーデターが勃発した。結構な数の兵員がその部隊に参加し、大陸南西部の群島にたてこもっているらしい。さらに悪いことに、そこは諜報部が以前からつかんでいたエルジア軍の最終兵器「メガリス」の存在する場所であることも判明した。その正体は、人為的に「隕石落とし」を発生させるロケット基地。彼らは旧エルジア軍の首脳陣の釈放と連合国現政権の退陣を要求し、政府がそれを断った途端メガリスを発動させた。まだ大規模な影響は出ていないが、このままいけばまたあの「大破壊」が繰り返されることになってしまう。そこで、今一度俺たちの出番がやってきた、というわけだ。

久しぶりに降り立つサンサルバシオンベース。俺は自分の率いる第13特別飛行隊、通称「メビウス小隊」を引き連れて着陸した。今回の作戦には、それ以外にもかつての戦いで共に戦った戦友たちが各地から続々と集められている。つまり、それだけ事態が深刻だってことだ。クーデター派は、6時間以内に政府の回答が無い場合には直ちに全面攻撃を開始すると言ってきているらしい。……イカれていやがる。さらに俺の神経を逆なでしているのは、「黄色中隊の子供たち」と呼ばれる、「黄色の13番」の指導を受けたパイロットたちが多数クーデターに参加していることだった。
滑走路では、出撃を待つ戦闘機の最終整備が着々と進んでいる。馴染みのメカニックたち、そしておやっさんも大声を張り上げて滑走路を走り回っていた。こっちの姿を見つけると、若いメカニックにパーツ類をまとめて手渡し、近寄ってきた。
「メビウス1、頼みがあるんじゃ。」
おやっさんは空を仰いだ。流れ星が幾筋も昼間の空を流れていく。
「奴らを止めてくれ。もう、あんなに辛い思いをするのはわしらの世代だけで十分なんじゃ。頼む!」
俺はおやっさんの肩に手を置いて、必ず止めてみせると告げた。元気を取り戻したおやっさんはまた大声を張り上げ、メカニックたちをどやしつけ始めた。
「絶対に、負けられませんわね。」
エンゼル01……いや、メビウス2がそう傍らで呟いた。
「ああ、必ず生きて帰ろう。みんなで、な。」

「メビウス1より、各機。状況を報告せよ。」
「メビウス2、オールグリーン。」
「メビウス3よりメビウス8、異常無し。」
「メビウス9からメビウス12、オールグリーン。」
メビウス小隊が、空を駆ける。レイピア09の声がしないのはちょっと寂しい反面静かでいい。ブラフの為に打ち上げられたロケットのせいで、空は地獄絵図のような状態だ。流れ星と炎の塊が止むことなく空を引き裂き、燃え残った小さな隕石が地上に墜落して小爆発を起こす。その光景に俺は腹の底から怒りが湧いていた。
「スカイアイより、メビウス1、久しぶりだな。今回はこっちのレーダーもあんまり役に立たない。隕石のおかげでぐちゃぐちゃだ。……頼んだぜ。」
「敵戦闘機部隊発見!正面です!」
前方から15〜20機ほどの戦闘機がこっちに突っ込んでくるのが見えた。いずれも黄色のカラーリングのSu−37。「黄色中隊の子供たち」だ!
「全機、交戦開始!黄色の13番への手向けだ!道を誤った子供たちの目を覚まさせてやれ!!」
「了解!!」
全機が復唱し、それぞれの獲物を狙って飛び掛かる。俺もまたF−15ACTIVEを駆り、容赦無く敵に襲い掛かる。すれ違いの一閃で1機を叩き落し、味方のケツについた1機をAAMで粉砕する。……だが、かつてのような強敵はいなくなっていた。1機、また1機と俺たちの部隊の前に撃ち落されていく。13番は、こんな馬鹿げたことをさせるためにおまえらに空戦技術を叩きこんだわけじゃないだろうに!!……数分後、この戦域にいる戦闘機は俺たちの部隊だけになった。いよいよ、「メガリス」だ。メビウス2は最後の最後まで今回の作戦に反対だった。なぜなら、今地球の衛星軌道上に位置する最大級の隕石「4=ルナ」を墜落させるためのロケットはメガリス本体に格納されているため、これを破壊するには戦闘機が施設内に侵入するしかないのだが、脱出口が空くかどうか、それは陸軍特殊部隊が施設のコントロールルームを占拠できるかどうかにかかっているのだ。つまり、成功の確率は限りなく低い。さらに言えば、上下30メートル、幅50メートルしかないメンテナンス口に飛行機で侵入すること事態がそもそも無茶な作戦なのだ。

「メガリス」は、その巨大な姿を表した。既に陸軍の特殊部隊が突入を開始していたが、予想以上の抵抗になかなか進めないようだ。さらに悪いことに、やつらはロケットの発射を早めやがった。俺たちの目の前で、ロケットが宇宙へと飛び立とうととしていた。させるか!俺はその弾頭部分にミサイルをぶつけた。派手な爆発を起こし、発射サイロへと破片が落ちていく。だがこの程度では止められない!おれたちは、ロケットの発射を止めるべく、ジェネレーターを狙って狭いメンテナンス口に飛び込んだ。冷や汗で背中が不快だぜ!俺は接近したジェネレータにバルカン砲をお見舞いした。ちっ、逃したか。もう一度ループをかまして侵入し、今度はミサイルを打ち込む。大音響と共にジェネレーターが吹き飛ぶ。部下たちも無事ほかのジェネレーターの破壊に成功したようだ。上空で合流し、俺は突入の機会をうかがう。だが、特殊部隊からのゴーサインはまだ出ない。そうしているうちに、俺はメガリスに集まってくる多数の光点に気がついた。
「スカイアイよりメビウス1!緊急事態だ!敵の大戦闘機部隊がそっちに向かっている!数は40機以上!!」
馬鹿な!?それほどの航空戦力を温存していたっていうのか!?腕はこっちのほうが上とはいえ、数の暴力はたまらねぇ。攻撃を回避しつつも突入の機会を伺うが、なかなかチャンスが無い。このままではやられる!
「待たせたな!」
聞き覚えのある、そしてここにはいるはずのない男の声。はっと上を見上げると、高高度から戦闘機が降下してくるのが目に入った。
「レイピア隊、加勢するぜ!野郎ども、道を開くんだ!!」
レイピア隊だけじゃない。他の部隊の連中まで連れてきやがった。突然の新手の登場に敵部隊は明らかにひるんでいる。
「ここは食い止める!早くおまえはテトリスだかクラリスだか知らねぇが、あのデカブツを何とかしろ!」
「そうです、隊長。行って下さい!」
レイピア09やメビウス2だけじゃない。他の奴らまで死に物狂いで俺のルートを無理やりこじ開けようと戦っている。……そうだ、こんなところで終わってたまるか!!俺はスロットルを全開に叩きこみ、激戦の繰り広げられる戦域を突破した。行く手を阻む敵機を叩き落し、一気にメンテナンス口の入り口へと向かう。やがて、巨大な要塞の入り口が目の前に迫ってきた。
「潜入部隊より空軍機!コントロールルームは占拠したが、早くしてくれ。こっちがもたない!急げ!!」
チャンスは1回きり。深呼吸して俺は機体を滑り込ませた。一瞬、メビウス2が呼ぶ声が耳に残った。ミサイルの搬入に使われたらしいトンネルを低速で飛ぶ。脱出ハッチは……まだ開かない。ここまでか。メビウス2の泣き顔が思い浮かんだ。いや、ここまできてあきらめてたまるか。無理やりハッチを吹き飛ばしてでも脱出してやる。俺はレーダーロックをかけ、残っていたミサイルを全弾目標にたたきつけた。ミサイルが命中するのと、ハッチがその口を空けたのはほとんど同時だった。

大爆発がメガリス全体を包み込んだ。陸軍の特殊部隊は辛くも爆発から逃れ脱出に成功し、戦闘ヘリからぶら下げたロープにつかまって炎に包まれた要塞から離脱した。クーデターに参加した多くの将兵が、要塞と運命を共にしてしまったようだ。
「おい、スカイアイ、メビウス1は、メビウス1はまだ出てこないのか!」
「ネガティブ・コンタクト。まだだ!」
要塞中央が突然大爆発を起こした。爆炎が上空まで上がる。
「そんな……。」
「レーダーに感!」
スカイアイのレーダーに光点が出現した。爆発の起こっている中心部から。
「スカイアイより全機、メビウス1を確認。繰り返す、メビウス1を確認!!」

大歓声。陸軍の連中まで歓声をあげてやがる。……危なかったぜ、ほんとに。上空まで上昇し、俺を待つ仲間たちの元へと向かう。煤だらけになった機体を見てレイピア09は笑い飛ばしやがった。メビウス2が、いつものように俺の傍のポジションにつく。
「よし、全機帰投する!今日は朝までパーティだ!!」
ヘッドホンに再び歓声が響き渡る。もう何を言ってるのだか聞き取るのも大変だ。俺たちは、もう一度燃え上がるメガリスの上空をパスすると、サンサルバシオンへの帰路に着いたのだった。

同日、拠点を失ったクーデター派は各地で投降、後に「エルジアの火遊び」と呼ばれることになるこのクーデター事件は終結し、そして大戦を生き抜き、クーデター派の野望を打ち砕いたパイロットたちの名前と共に、歴史に刻まれることになる。

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