ミッション7

エイギル艦隊を失ったエルジア軍の動きが止まった。ここ何回かの戦闘で失われた航空兵力も少なくない為、その再編成が行われているとの情報もある。このスキをついて、我が軍は新たな作戦を遂行することになった。大陸内陸部のフェイスバークにある、太陽光発電施設。エルジア軍の主要軍事施設への電力供給の大半を生産しているこの施設が目標だ。敵の懐に潜り込むわけで、ストーンヘンジからの対空砲火を食らう恐れはあるが、それは何とかするさ。またこの作戦には近くに迫った上陸作戦の目くらましという意味もあるようだ。

ブリーフィングを終えてハンガーに向かった俺は、ようやく届いたその機体にほれほれとしていた。F−14Aトムキャット。まさか手に入るとは思っていなかったが、旧ISAF機動艦隊の在庫品を回してくれたらしい。余剰パイロットがいないんで、とりあえず俺一人でも飛ばせるようにおやっさんたちが改造してくれたようだ。……まさかレイピア09なんかと一緒に乗ったらうるさくて仕方ないしな……。
「おう、メビウス1。整備は全て終っているぜ。今すぐ飛べるようにしておいてやったぜ。」
俺の機体専属になっているメカニックたちがこっちに気がつき話しかけてきた。こんなごっつい奴を整備させてくれてありがとよ、とも彼は言った。俺は礼を言って、コクピットに滑り込んだ。真新しいシートの匂いが鼻をくすぐる。キャノピーを下げ、ランウェイへと機体を回すと、最近じゃすっかり護衛ポジションが定位置になってしまったエンゼル01が待機していた。
「メビウス1!今日もデートたぁお熱いなぁ。ペアルックでいいことだ。」
ペアルック?レイピア09め、何を言ってやがる、と思ったら、エンゼル01の尾翼には何時の間にかリボンマーク。参ったぜこりゃ。

F−14の爽快な加速を楽しみながら、俺たちは発電施設へ至る山岳帯を飛行している。シェズナの雪山とは違って荒々しい岩山の続く山脈帯に、大隕石ユリシーズの連れてきた隕石群の衝突した跡のクレーターが痛々しい。やがて、俺たちの侵入に気がついたインターセプターが上がってくるのが見えた。F−15C!敵さんもいい機体を揃えて来ていやがる。そろそろうちの部隊も本腰入れて新型を入れないと厳しいかもしれないな……。俺はレイピア09に爆撃隊の護衛をまかせ、インターセプターに機首を向けた。高速で敵3機とすれ違い、そのうちの1機に食らいつく。機関砲が火を吹き、主翼を吹っ飛ばされたF−15Cはきりもみに陥って落ちて行く。
「メビウス1、上です!!」
エンゼル01の悲鳴に近い声に上を見上げると、ループしてこっちを狙ってきたF−15Cが目に入る。させるかよ。俺は強引に機首を引き上げ、あとはF−14のエンジンを信じてスロットルを最大にたたきこむ。シートに叩きつけられるようなGがかかり、機体は急上昇した。狙いを定めトリガーを引く。向こうからも機関砲弾が飛んできて、機体をかすめていく。すれ違う両機。一瞬の後、コントロールを失いF−15Cが落ちていく。僚機がやられたのを見て残った1機が逃走を始めた。逃がすものか。俺はレーダーロックをかけ、AAMを発射した。白い排気煙を吐きながら飛んでいったAAMは、敵の機体をたちまち火の玉に変えた。
「とろい機体にのってた割には腕は鈍っていないみたいだな。引き続き施設の破壊を続行せよ」
「そっちの機体ほどとろくはないさ。」
憎まれ口をたたきながら、俺たちは発電施設へと向かった。既にミラーの反射光と施設から上がる対空砲火の花火が弾ける光景が、地平線上に見えた。

今回はレイピア09たちもだいぶスコアを稼いだようだ。さすがに元は民間施設だけあって、あまり防衛設備も整っていない発電所は俺たちにしてみれば絶好のカモだった。ミラーも一つ残らず破壊された施設からは煙がもうもうと上がり、発電機能を完全に失ったことを示していた。
「スカイアイより全機!ストーンヘンジからの砲撃を確認した。至急退避せよ!!」
スカイアイにしては珍しく緊迫した通信だ。くそっ、敵さん自分の部隊が壊滅するのを待ってストーンヘンジの大砲を使ったっていうのか?
「逃げるったってどこに逃げればいいんだ!?」
「おい、敵の増援も来ているみたいだぞ。」
ルーキーを中心に部隊に動揺が走る。
「谷だ!全機、谷に逃げ込むんだ!」
俺は咄嗟に叫んでいた。
「正気か……って、それしか道はないか!!」
俺たちは全速で山と山の間を走る谷に逃げ込んだ。まるで綱渡りをしているような細いラインを、急旋回を繰り返して潜り抜ける。スカイアイのカウントダウンが始まった。着弾。衝撃波が機体を揺るがし、舞い上がった小石や砂が機体を打つ。何て威力だ。今の一撃で、高度を上げてしまっていた味方が2機、悲鳴をあげる間もなく四散していた。ストーンヘンジの砲撃は止むことなく、立て続けに谷が震える。旋回を誤った1機が、岩肌に激突し爆発する。断末魔の悲鳴が一瞬、耳に残った。

この日の作戦により、敵の軍事施設は重要な電力供給源を失った。大陸中央部への奇襲を恐れたエルジア軍は、各地に散らばした陸軍の主力を首都近郊に集結させる命令を出した。陽動作戦は、まんまと成功したと言えよう。同時に、ストーンヘンジを破壊しない限り大陸での航空戦力運用には常に危険が伴うこともまた、実証されてしまった。

本ミッションにおける撃墜スコア
地上施設50・戦闘機11

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