エピローグ
ユージア大陸全土を巻き込んだ戦争から数年が経ち……エルジアは新政権の下民主化の動きが一気に進みつつあった。また、今回の戦争の反省から、国家間紛争調停機関の設立が提唱され、現在その枠組みが検討されている。それでも戦争の火種は完全には消し去れないのかもしれないけれど、あの戦争の頃と比べたら大違いだ。
「ここか?」
久しぶりに訪れるファーバンティ。俺と妻は、その町並みが見下ろせる小高い丘の上に立っていた。そこには、石をいくつか積み上げた小さな墓標が静かに佇んでいた。妻は持ってきた花束をその前に供え、そして祈りを捧げた。俺もまた、折りたたんだ「メビウス小隊」の小隊旗を花束の隣に添え、黙祷した。
しばらくの時間が過ぎ、俺は胸元のポケットから1枚の写真を取り出した。黄色いカラーリングのSu−37をバックに、4人の男女が写っている。ギターを抱え、照れ笑いを浮かべながらポーズを取っている男、そしてその傍らで微笑んでいる褐色の肌の女性。負けじとその傍で精一杯の大人びた笑顔を浮かべようとしている少女、そしてハーモニカを手にしている少年。1週間前、俺の家に届いた手紙の中に同封されていた写真がそれだった。差出人は、当時身寄りを亡くして黄色中隊に居候していたという少年。つまり、この写真の少年だった。黄色の13番、そして4番の顔を知ったのはその写真を見たときが最初だったけれども、不思議とまるで以前からの知り合いのような、そんな感覚に未だにとらわれている。あの長い戦争の中で出会った好敵手たち。出来れば、もっと違う形で会えたら良かったのに。もう、この世の人ではなくなってしまった4人のうち2人に、俺はそう心の中で話し掛けていた。
「そろそろ、行きましょうか?風も冷えてきましたし……。」
大きくなったお腹を気遣いながら、妻がそう言った。確かに、秋の夕暮れ時の風は次第に冷えてきていた。俺は手に抱えていたジャケットを妻にかけ、そしてもう一度この大空に散った好敵手たちに祈りを捧げた。
「行こうか。」
今はもう敬礼はしないけれど、妻はにっこり笑って俺の腕を取った。明日は、サンサルバシオンに向かい、「生き残った」二人に会うつもりだ。手紙で少年が書ききれなかったこと、少女が記憶にとどめた黄色の13番のこと、そして4番のこと、それ以外にも色々聞くつもりだ。俺に取っても最高の好敵手であった、エースパイロットのことをもっと知るために……。