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星がこの地球を襲った夜のことを、今でも覚えている。閃光と衝撃、いくつかの都市が一瞬のうちに蒸発し、そこに生活していた人々もまた同時に消滅していった。子供の頃読んだ小説のように我々人類は滅亡こそしなかったものの、世界中を混乱が襲った。そんな状況下で、軍事大国として存在していた我が祖国、エルジアが侵攻を開始したのは、もしかしたら歴史上何度も繰り返されてきた出来事なのかもしれない。それが指導者たちのいう「歴史の必然」とは、俺には思えないが。

「隕石迎撃砲ストーンヘンジを我が軍のものとする。」上官が告げた司令に、俺は正直耳を疑った。この地球を襲った巨大隕石の残していったいくつもの残骸を迎撃するべく作られた巨大対空砲、現在この大陸に存在する国家の共同管理となっているストーンヘンジを奪うということ、「つまり、我々は戦争を始める。そういうことですな、司令殿?」。直接的な切り返しに、司令官の口元が歪む。
「その通りだ、黄色の13番。我々は戦争を始める。しかしこれは、この大陸に生活する人類のためになることなのだ。……貴君らに与えられるミッションは決して甘いものではない。だが、私は君達の活躍に期待する。エルジアNO.1と言われる、君らの戦闘技術を見せてもらおうか。」
これで話は終わりだとばかり、彼は資料を部下にまとめさせると、形だけは立派な敬礼をした。こちらも隊員全員で敬礼し、それを見送る。
「指示する方は楽なもんだ、たまにはそっちが飛んでみろ。そう顔に出ていますわよ。」
「俺はそんなにポーカーフェィスが下手か?4番。」
苦笑いしながら、副官であり、俺の僚機を努める4番に応える。彼女は司令たちから手渡された作戦資料を素早く整理し、「必要最低限のもの」を俺に手渡した。今回の俺らの役目は、大陸中央に位置するサンサルバシオン侵攻において、陸軍侵攻の障害となる敵航空兵力を徹底的に叩くことであった。

ファーバンティのベースを離陸した俺たちは、空中給油を受けてまもなくサンサルバシオン領空に到達しようとしていた。いつも通り、俺も含めて5機のトライアングルを組んで空を駆ける。俺たちの部隊に回された新型機、Su−37は恐らく現時点ではISAFの保有する空軍機のいずれよりも優れた性能を持っていることは間違い無い。だが、敵さんにもやり手のパイロットはいるだろう。好敵手を求める焦燥感が、俺の心を焼く。
「隊長、前方上空光りました。レーダーにも感!敵、インターセプター隊と思われます。」
4番が落ち着いた声で状況を報告する。彼女の言う通り、レーダーには数多くの敵機の影が出現していた。
「よし、黄色中隊全機、攻撃を開始せよ。いいか、いつも通りにやるんだ。そうすれば、基地でうまい酒が飲める。よし、行け!」
「ラジャー!!」
燃料タンクを切り離し、5つの機体は編隊からブレイクした。俺は前方から突っ込んでくる機体を最初の獲物に決めた。F−15Cか。すれちがいざま、機関砲のトリガーを引き、急旋回する。後ろを振り向くと、コクピットを吹き飛ばされた獲物が煙をはきながら落ちていくところだった。……残念ながら、今回の獲物の中にも、自分を満足させるような好敵手はいないようだった。
部下たちも次々とISAF軍機を葬っていく。俺もまた、1機のF−15Cの後ろにくらいつき、追いまわす。急降下、急上昇、なかなかの腕前だが、まだ動きが甘い。パターンを先読みした俺は、急降下したヤツの後を追いかけようとして、目前の道路に子供が立っていることに気がついた。予定よりも高い高度をキープして、獲物にねらいを定める。子供がいるってのに急降下するパイロットがいるか!心の中で毒づきながら、機関砲のトリガーを引く。激しく振動した敵機はエンジンから火を吹き、そして空にパラシュートの花が咲いた。
「馬鹿野郎!」
通信が入っているってのに、俺は叫んでいた。ヤツの機体はそのまま高度を下げ、岬の傍にあった民家に突っ込み、そしてその周辺を火の海に変えた。あれでは中にいた人間は助からない……。俺は中にいたであろう犠牲者に心の中で冥福を祈りつつ、次の獲物を探した。より早くここの獲物を狩り尽くすこと、それが不必要に犠牲者を出さないための手段だと、俺には思えた。

作戦終了を部下たちに告げたとき、この空域にいるのは俺の部隊、5機だけとなっていた。予想外の損害を出したISAFの連中は総崩れとなって撤退していった。もっとも、タダで帰してやるほど俺たちも甘くは無かったが。今回は、5機以上撃墜のエースを部隊全員が達成していた。
「隊長、こんな場合は、全員でおごり合いですか?」
陽気な声で18番が話しかけてくる。
「どうやら、陸軍も進撃に成功したようですわ。サンサルバシオンはつい先刻、我が国の降伏勧告を受け入れたそうです。」
弱いものいじめみたいなもんだからな。それは俺たちの共通認識だったから、正直あまり喜ぶ気にはなれなかった。これを契機に、軍の上層部は大陸全土に戦線を拡大していくつもりだろう。ストーンヘンジを手に入れた今、軍事力では他国を凌駕するエルジアに抵抗できるだけの戦力は、連合軍には存在しない。気乗りのしないミッションが今後しばらくは続きそうだが、とにかく生き残ること。俺はそれを改めて部下たちに伝えることにした。

かくして、戦争が始まった。

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