ファイル8

俺たちは、他のエリアからかき集められたコモナ攻撃隊と共にコモナへ至るルートを飛行している。ここまで大規模な航空隊が編成されるのは久しぶりで、それぞれの部隊が編隊を組んで飛行する姿は、コクピットから見てもなかなか壮観だ。きっと地上から見ても迫力があるに違いない。攻撃機・戦闘機含め数十機に及ぶ大部隊が、コモナに迫る。当然、ISAFもここが正念場であることは十分理解しているだろうから、出撃可能である航空隊の大半が出張ってくるだろう。もしかしたら、リボン付とも戦えるかもしれない。隊員たちも久しぶりの本格的な空中戦に気合が入っているようだ。やがて、レーダーに敵戦闘機部隊の姿が見え始める。敵もかなりの数。既にコモナベースの上を通過し、俺たちを出迎えるべく布陣している。

俺は、昔見た映画のことを思い出していた。世界初のロケットを奪取せんと侵攻を開始する軍事国家、そしてロケットを守るべく戦う兵士たち、さらにロケット打ち上げをなんとか成功させようとする宇宙軍のスタッフたち。激しい戦闘の末、ロケットは予定時刻を大幅に早めて、打ち上げられる……。
「隊長、前方にロケット基地見えてきたぜ。敵さん、おいでなすった!!」
太陽光の反射を撒き散らしつつ、ISAFの戦闘機軍が突っ込んでくる。
「全機、戦闘開始!!グッドラック!!」
俺たちはトライアングルから散開し、それぞれの獲物に襲い掛かった。他の友軍機もISAFと交戦に入る。コモナベースの狭い空域は、たちまち無数の戦闘機群で飽和状態となった。排気煙が複雑なループを記し、炎と煙が時々空を彩る。攻撃機が急降下爆撃を試みようとして敵機の攻撃を食らい、コントロールを失って海へと落ちる。交錯する機関砲弾・曳光弾、そしてミサイル。コクピット内に響き渡るレーダーロック警戒音と、敵機をロックしたことを知らせるブザー音が絶え間無く響く。俺もまた、乱戦の中で目前に現れる奴、そして友軍を狙う敵機を片っ端から叩き落していた。敵の中には炎を吹き上げながら敵を道連れにするパイロットも出始め、先頭は次第に混戦の様相を呈してきた。一体どっちが優勢なのかも判然としなかった。
「くっそう!ISAFのくせしてしつっこいぜ!!」
18番が毒づく声が聞こえてきた。辺りを見ると、18番の機体が敵のF−14Aに追い回されている。あのエンブレムは……リボン付か!やはり出てきていたか。そうこうしているうちに、18番はリボン付の射程内に捉えられてしまった。白い排気煙を上げ、ミサイルが発射される。
「18番、ミサイルだ!ダイブしろ!!」
「まじかい!畜生めがっ!!」
18番の機体は急旋回をしてミサイルを回避する。が、かわしきれず至近距離でミサイルが炸裂する。無数の破片が左エンジンを直撃し、18番の機体は煙を噴出した。
「くそぅ、誰か、俺のケツにミサイルを当てた奴を探してくれ!どんな奴だ!!」
「18番、状況を報告しろ。離脱できるか?」
「へっ。こんなもん大したことありませんぜ、と言いたいところですが、ドジりました。飛ばせますが、戦闘続行は無理です!」
とりあえず18番はピンピンしているようだ。
「7番、18番の護衛につけ。安全空域までしっかり案内しろ。」
「ラジャー、7番、護衛に入ります。」
「どうせなら、4番の護衛がうれしいんだけどな。」
「4番より18番、後ろから撃たれたいのなら構わないわよ。」
およそ戦闘中とは思えない会話が飛び交う。他の部隊の連中は呆れているかもな。
「後で基地で会おう!行け!」
離脱を妨害しようとする敵機を叩き、俺は18番の脱出路を確保した。リボン付と一戦交えようと思ったが、乱戦の中でついに今回は機会が訪れなかった。

戦闘は一進一退の状態が続いている中で、時間だけが過ぎていく。コモナにトドメを刺すはずの本命、爆撃隊の姿はまだ見えない。
「AWACS、爆撃隊は遅刻か!?」
上空で待機しているAWACSに向かって叫ぶ。いい加減、もう打ち上げ最終時刻のはずだ。
「AWACSより、黄13番、爆撃隊は敵戦闘機の攻撃を受け全滅した。ヤツだ。あのリボン付の悪魔の仕業だ!」
またもしてやられたか。それにしても、ステルスを見つけ出すとはいい勘していやがる。こっちの攻撃機は……ダメだ、かなりの数撃墜されちまっている。まぁ、失敗するときはこんなもんか。そう思った瞬間、打ち上げ台が煙に包まれた。少し遅れてロケットが、そして炎が姿を現し、徐々にスピードを上げながら上昇していく。戦闘空域を抜け出した友軍がAAMを発射するが、追いつくはずも無く、ミサイルが虚空に白い直線を残す。ヘッドホン越しに、敵の上げる歓声が聞こえてきた。
「司令本部より、コモナ攻撃隊全機、戦闘を中止し撤退せよ。繰り返す、戦闘を中止し、撤退せよ。」
作戦失敗、か。さて、今回はどのお偉いさんの首が切られるやら。俺は友軍の撤退を支援しながら、コモナ戦域から離脱した。幸い部隊の損害は18番機中破、5番機小破に留まったが、他の航空隊の損害は甚大で、都合37機が撃墜されたのであった。

どこかで梟の鳴く声が聞こえる。深夜の闇の中を、黄色中隊のベースの方向へ蠢く人影があった。もともと高速道路になる予定だった道路を滑走路に使っているので、普通の基地に比べれば警備が甘い。トンネル近くの茂みから忍び込んだ人影は、背中のバックパックから四角い物体を取り出し、弾薬保管庫や、エンジン備品などにそれらをくっつけていく。夜回りの兵士の光が近づいてきたのに気が付いた人影は、足音も立てず素早く茂みの中に飛び込んだ。兵士が通りすぎるのを確認して、人影は茂みから飛び出すと、基地から離れていった。しばらく離れたところで、待機していた車両に静かに乗りこむ。
「うまくいったか?」
酒場の主人がそう問う。顔を覆っていたフードを外し、後部座席に放り投げ、酒場の娘は言った。
「うん、明日の朝には花火が上がるわ」
「そうか。」
酒場の主人にとっては、作戦の成功より娘が無事に戻ったことの方が、はるかに嬉しいのだった。

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