ファイル9

コモナでの戦闘で軍事衛星打ち上げに成功した連合国軍は、軍事衛星による本格的な偵察活動を開始した。軍司令部は成層圏から発射する衛星破壊兵器の使用も検討しているようだ。開発途中の宇宙空間用ビーム兵器を搭載したシャトル打ち上げの話まで出ているようだ。それ以外にも、ISAFの偵察機や戦闘機が大陸に出没するようになり、俺らもだいぶ忙しくなってきたのが実際の所だった。そして、今日も5番と11番が偵察飛行のため離陸し、平時の夏には山と海の両方を楽しむことが出来るクラウンビーチ方面へ向かっていた。俺たちもまた別方面に偵察に出る準備を進めていた、そのときだった。

大音響が響き渡り、俺のいるプレハブも振動で揺さぶられる。すわ空爆か、と飛び出してみると、航空機の資材を収納していたテントやらが吹き飛び、数ヶ所から火と煙が上がっていた。整備班員たちが消火器を持ち出して消化作業を行う一方で、怪我人を煙の中から担ぎ出している。機体が気になったので、俺もまだ煙がたちこめる中に走り出した。幸い、俺の機体は問題無さそうだった……煤まみれになりつつあったが。俺は愛機の車輪の所で、ぶるぶる震えている子犬を見つけた。爆発で怯えてしまったのか、身動きも出来ずにいる。俺が抱き上げるとじたばた暴れて逃れようとしたが、しばらく抱いていると落ち着いたのかクンクン鳴きながら人のジャケットを前足でぺたぺた触り出した。
「隊長、ご無事ですか!?」
煙の中から、4番が駆け寄ってきた。彼女は、自分の機体を点検している間にこの爆発に蒔きこまれたようだった。
「俺は大丈夫だ。時限爆弾だな、これは。」
ようやく煙が晴れてきた辺りを見回す。滑走路の一部は穴が開いているし、航空部品を積めといた倉庫が結構やられている。あそこにはエンジンパーツなんかもあったはずだ。弾薬庫がやられなかったのは不幸中の幸いというところだろうが……。
「レジスタンスの仕業、でしょうか?」
俺はようやくそのときになって4番の顔色が悪いことに気が付いた。爆発のとき、破片を食ったものか、パイロットスーツの腕の部分の生地が裂け血が滲み出している。俺は彼女の腕をつかみ、傷口を見る。痛みで、4番の小さい悲鳴が一瞬聞こえた。
「骨には異常がないみたいだし、破片が食い込んでいるわけでもなさそうだ。ちょっと待ってろ」
俺はジャケットのポケットに入っていた包帯を取り出し、とりあえず応急措置をしてやった。
「これでいい。後は早く医務室で傷を見てもらえ。後で傷が痛くて飛べませんでした、とは言わせないからな。」
「はい、隊長。」
少し照れ気味に、4番は笑った。

この日は厄日だったようで、さらに事件は続いた。偵察飛行に出た5番と11番は、クラウンビーチ方面で大陸への上陸作戦を開始した連合国軍を発見、そのまま戦闘に巻き込まれてしまった。彼らも善戦したのだが、連合国軍の侵攻には勢いがあり、支援に向かった攻撃機部隊は敵の戦闘機部隊の攻撃で壊滅、という有り様であった。そして帰還した彼らは、爆弾によって損害を受けたベースを見て、さらに衝撃を受けたようだった。
「こんなこと……自分は許せません!MPに依頼してレジスタンスを徹底的に取り締まるべきです!」
5番は若者らしく顔を真っ赤にして怒っている。
「んなことしたって無駄だ。俺たちは所詮占領軍。おまえまさか、町の住民全員呼び出して捜査しようとでもおもっているんじゃないだろうな?」
「それくらいにしておけ、18番。空に上がってからのことじゃ恨みっこなしだが、こうやられると正直腹が立つ。だが、とりあえずは基地のパトロールの強化、それだけでいい。無用に圧力をかければ、その分反発も大きくなるだけだ。」
「了解!自分も少し夜の運動替わりにパトロールの手伝いでもすることにしますわ。」
18番は早速基地の周りを歩き始める。隊員たちにも不審物・不審者のチェックは徹底するように伝え、俺たちは解散した。

少年は、酒場にいつものように黄色中隊の面々がいないことに気が付いた。何かあったのだろうか。表に出た彼は、店の外に出されたテーブルで、珍しく酒場の娘がワインを開けているのに気が付いた。
「何……しているの?」
少年はおそるおそる彼女に話しかけてみた。テーブルに突っ伏すようにしている彼女は、顔だけ彼の方を向いた。
「祝杯をあげているの。祝杯!今日は記念すべき日なんだから。」
どうやら、連合国軍が再びこの大陸に戻ってきたらしい。きっと酒場のおやじさんの情報なんだろうけど、大陸東部の海岸線に対し連合国軍が攻撃を開始し、上陸に成功したらしい。
「もうすぐよ。もうすぐこの街は解放されるのよ。」
少年は複雑な思いであった。また、自分の居場所が無くなってしまうのではないか、という恐怖が彼の心を絞め付ける。
「あの人たちも追い出すの?」
「当たり前よ!彼らは私たちの街を侵略した敵の手先よ!必ずこの街から追い出してやるわ!!」
強気に彼女は吐き捨てる。だが、少年にはそれが本心でないことが分かっていた。酒場の娘が13番に淡い恋心を抱いていることは、4番を睨み付ける彼女の視線で分かっていたからだ。
「だから、爆弾を仕掛けたの?」
少年は、夜中荷物を背負って店を出るところを目撃していた。半分、賭けみたいなものだったが、少年の勘は的中したようだ。酒場の娘は一度深呼吸をすると、少年の頭に手を置いた。
「これは私の戦いよ。心配してくれるのは嬉しいけど、大丈夫。私は捕まらないわ。これまでだって、うまくやってきたんだから。」
少年が納得していないのは明らかだったが、それをなだめる様に彼女は少年の頭をなでたのだった。

この夜から、市内のパトロールが強化された。レジスタンスの活動は、より慎重にならざるを得なくなったのだった。

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