ジュネット・レポート
偽りの大義名分 〜仕組まれた私戦、踊らされた二国〜
国家という巨大な組織を運営するには、莫大な資金の存在が不可欠である。税金等の手段によって確保される運営資金により、国家を構成するメカニズムは初めて機能する。経済的に発展した国家が高い福利厚生サービスを運営し、安定した国民生活を提供出来るのは、基盤を整備出来る潤沢な資金が存在するからに他ならない。政治形態を問わず、国家としての安定した収入を確保した国家は古来より繁栄を享受してきた。では、最も大量の資金と大量の浪費を伴う国家の活動とは何だろう?それは、「戦争」である。しかしながら、オーレリアとレサスの間で繰り広げられた一連の紛争は、この理屈では説明しきれない側面を抱えている。紛争のきっかけともなったレサスによるオーレリア侵攻では、最新鋭の技術によって作り上げられた空中要塞や新式の兵器群が投入されていた。それだけでなく、現代において一線級以上の性能を誇る大量の近代兵器の投入により、僅かな期間の間にレサス軍はオーレリア軍を圧倒し、国土の大半を掌握することに成功したのである。オーレリアの平和の象徴、ガイアスタワー占領後に行われた演説の場で、ディエゴ・ギャスパー・ナバロ将軍は次のように述べた。「不当なるオーレリアの搾取を糾す日がやってきたのだ」――と。レサスの侵攻を支える大義名分はまさにその一言に集約されている。国際会議の場においても数々の証拠とされる資料を明示しながらレサスの正当性を主張することにより、オーレリアによる抗議がまとまるよりも早く国際社会の一部を味方につけることに成功したレサスの勝利は、ほぼ約束されたと各国の首脳たちは考えていたに違いない。事実、戦況は勝利を裏付ける立派な証拠であった。しかし、レサスはどのような方法で、他国に侵攻を行う体制を整えるための資金を確保したのであろうか?
レサスにおいては2005年に発生したレインナース・カラヤン大統領の暗殺事件をきっかけに、軍内部での対立が先鋭化、ついにいくつかの軍閥の対立が戦闘行為に発展し、大規模な内戦へと突入する。同国人同士が殺しあう凄惨な戦いはいくつかの軍閥が互いに設定した国境線周辺で激しく行われ、連日のように大量の死傷者を量産した。人的被害は兵士だけでなく民間人にまで及び、国際人権調査委員会が2008年に実施した調査では、同一民族間における「浄化」問題が報告されている。戦闘から逃れるべく、大量の難民が半島北と南に移動を開始し、オーレリアにおいてもレサスから逃れてきた難民向けのキャンプが急遽造成され、人道支援が本格化した。当初は国内に留まっていた支援は、やがて2012年より人権調査委員会の手を介し、レサス本土の民間人向け支援へと拡大していく。対立状態にあるいくつかの軍閥においても、疲弊の一途を辿り続ける民需を活性化させる一手段として支援の受け入れが広がり、ここにオーレリアを中心とした対レサス人道支援が本格化する。戦闘によって破壊された橋の再生、生活基盤を失った人々への衣食住の提供、インフラ整備――戦闘によって失われた国民生活を支えるための基盤整備目的で、オーレリアは隣国に対して充実した支援計画を実行したのである。その年間財政規模は、小規模国家の国家予算を超過する。オーレリアは安全保障の観点からも、隣国の内戦を早期に終結させ、安定した国家体制を再生させる必要があったのである。事実、オーレリアと国境を接する軍閥の一部は、資金確保の目的でオーレリア領内へと進出し、国境警備隊との間で小規模戦闘を引き起こしていたのである。この時点において、オーレリアはその軍事力を以って軍閥による不正行為を正す権利を有してもいた。その権利を行使せず、敢えて平和的手段でレサスを再生しようとしたのは、過去幾度も繰り広げられてきた両国の戦争を繰り返してはならない、という当時の首脳たちの意志があったからである。
レサス現地での人道支援は、国際人権調査委員会が現地での運営を委託されたNGOや民間企業によって実施された。それでも全国民に行き渡るような支援など望むべくも無く、その活動は都市部を中心とした支援にならざるを得なかった。これが、地方を拠点とする軍閥勢力の大義名分の一つとして批判を浴びる要因ともなったのだが、その大規模な支援にもかかわらず、レサスの貧困はなかなか解決されなかった。戦闘拡大による食糧生産能力の低下は回復の兆しすら見せず、基盤整備のための資金が「支援」という名目で入ってくることに気を良くした勢力は戦闘を拡大してしまう。オーレリアによる支援が人道的見地からその使用方法と収支の報告を義務付けていなかったこもとあり、一部の支援が軍事転用される事態を招き、レサス復興に向けた支援プロジェクトは大きな転換期を迎える。ここで登場したのが、当時は旧政権寄り軍閥の「国軍改憲派」に所属していたディエゴ・ギャスパー・ナバロ将軍である。もともと前線部隊の出身ではなく、後方の畑を渡り歩くことが多かった彼は、裏を返せば政治の舞台へのパイプを数多く握る数少ない軍人の一人であった。ナバロ将軍はそのパイプを最大限に活用し、軍閥勢力の自主的な受け入れに任されていた支援物資の取り扱いに関して、軍閥間での協定を締結させることに成功する。この協定は「国民保護」の観点から支援を有効活用することを誓約させるだけでなく、軍事転換などを行った場合は一切の支援を打ち切るという罰則が盛り込まれた画期的なものである。この協定受け入れを拒否した地方軍閥「サーディン戦線」と「ラゴス派」は、事実支援停止によって基盤が弱体化し、他勢力に取り込まれる結果となった。協定締結は、レサス国民にも良い結果をもたらした。都市部に限定されていた支援が、地方部でも行われるようになったのである。
これにはからくりがある。各勢力に支援受け入れを受諾させる手段として、ナバロ将軍はレサス国内で運送業の大手の一つである、ガレオン・エクスプレス社に支援物資の全土配送を委託したのだ。国内企業による配送なら文句は無いだろう、というナバロ将軍の提案が功を奏した結果でもある。一時は頓挫しかけた支援は、2014年の協定締結後も、レサスによるオーレリア侵攻の直前まで継続されることとなる。だが、当初から指摘されていた問題点がある。実際の投資額に対し、実施されている支援の規模が小さいのではないか、と最初に指摘したのは、他ならぬオーレリアの会計検査院であった。この指摘は一時はオーレリア議会の野党派が取り上げたこともあったのだが、すぐに議論は立ち消えとなる。次に全く同じ内容を指摘したのは国際人権調査委員会の派遣官たちだったが、これに対してはレサス側から猛抗議を受けて指摘を撤回するという事態が発生した。指摘を行った派遣官の一人、ベルナード・クインシー委員は撤回を不服として本部での再調査を求めたが、複数国の協調の下行われている支援自体を疑問視する許し難い行為、と主張するレサス等の圧力により、調査委員会から罷免されている。レサスの言い分はもっともであったろう。だが、小規模国家の国家予算を超過するほどの規模の支援が行われているにもかかわらず、レサス国民の生活水準は内戦開始直後から劇的な変化を遂げたわけではないのも事実である。現在ですら、レサスの国内総生産はオーシアの水準の実に1/25に過ぎないのである。ナバロ将軍により全土統一が為されてからはスラムと化した激戦区の都市なども復興が本格化してはいる。それでも、一般市民の生活はまだまだ貧困状態にある。一体、支援のために提供された莫大な資金はどこに消えていったのだろうか?
――その答えは、現在のレサスを支える軍事力と最新の科学技術にある。オーレリアは、名実共にレサスに対する最大の人道支援国であり、そして同時にディエゴ・ギャスパー・ナバロ将軍に対する最大の支援国でもあった。ナバロ将軍の謀略は極めて周到に、そして徹底的に行われている。対レサス支援の中核は国際人権調査委員会が担っているが、その担当官の一部に対してレサスは有形無形の資金提供を行っており、その金額は一人当たり年間300万オーシア・ドルにも達している。即ち、レサスによる買収工作が根付いていたのである。さらに問題となるのが、調査委員会から支援への協力を受託した団体である。国際的に名を知られているNGO群は別として、レサス国内から募った団体・NGOのうち、半分以上が実際には政府関係団体が資金を供出していた。中でも問題となるのが、、ガレオン・エクスプレスと同じグループに属する商社、ガレオン・ソサエティ社である。同社は支援に必要な物資調達その他全般を取り仕切る役割を担っていたが、株主構成はシエル・ホールディングス社が5割、海外企業を含む25社で3割、残りの2割を投資家が保有するという状態にあった。最大株主シエル・ホールディング社は、ディエゴ・ギャスパー・ナバロ将軍が代表を務める大規模投資を専門とする投資会社である。さらに、3割を保有する企業群の存在も看過出来ない。国籍や規模はバラバラながら、その25社全てが、何らかの形でゼネラル・リソース・グループに属する関連会社で占められているのである。買収された人権調査委員会、実際にはナバロ将軍の指摘企業であった商社、そして、昨今頻発する小規模紛争において必ずと言って良いほど関与が疑われているゼネラル・リソース・グループの関与、この三点から導き出される結論は一つしかない。オーレリアを中心とした大規模支援は、レサス国民のためではなく、ディエゴ・ギャスパー・ナバロ将軍への大規模支援へと姿を変えていたのである。
オーレリアから行われた数年に渡る支援のうち、マネー・ロンダリングを経てナバロ将軍の手元へと渡った資金は、総額の6割にも達している。内戦当時は戦力的にも劣性であった「国軍改憲派」が従来の方針を転換して本格的に全土統一に乗り出した時期と、ナバロ将軍の台頭とはほぼ時を同じくしていることも、積極的な活動を支える環境変化があったことを証明してくれる。「海洋都市同盟」派を退けて軍港と商用港を確保したことを皮切りに、長年の戦いで戦闘を維持することもままならなくなっていた抵抗勢力を巧みに取り込んで勢力と支配権の拡大に成功した「国軍改憲派」は、最大抵抗勢力「ローグ派」にヘラクレン・シティでの決戦で圧勝し、崩壊へと追い込むことに成功する。かくしてディエゴ・ギャスパー・ナバロ将軍を頂点とする現在のレサスの国家運営体制が確立される。そして、その時には既に、内戦で疲弊しきっているはずの国家が保有しているはずもない最新鋭の兵器群が大量に確保されていた。ナバロ将軍に対する資金供給窓口と化した国際支援体制は、潤沢で豊富な資金を安定して供出し続けた。内戦による兵器の奪い合いが日常化していたレサスでは、安定した兵器生産ラインがほとんど残っていなかったが、他勢力との戦闘を極力開始し、古くからの軍需工業地域を確保・死守していた「国軍改憲派」の工場はフル稼働状態で軍需物資を生産した。さらに、海洋都市を制圧したことにより、ナバロ将軍は海外からの物資提供を大規模に受ける窓口を得た。国内での自己拠点での高水準の生産ラインと技術提供、海外から輸入する最新鋭の兵器・軍需物資、これらのルートを提供したのが、ゼネラル・リソース・グループ傘下の複数の軍需企業体である。ジェーン年鑑の資料によれば、内戦勃発直前のレサス空軍に配備されていた戦闘機は、2000年代としてはかなり旧式となるMig-23やF-5Eであった。しかし、オーレリア侵攻後、ナバロ将軍によるプロパガンダ政策の一環として公表されたレサス軍の最新のデータによれば、主力部隊にはSu-47、Su-37といった高性能機が名を連ね、航空部隊の規模も大幅に拡大されている。もっとも維持コスト・投資コストがかさむ空軍戦力が、である。そして、忘れてはならないのが、オーレリア侵攻時、世界中の目を引いて見せた超兵器群の数々である。
レサス軍がオーレリア侵攻において披露した数々の新兵器群の中でも、空中要塞「グレイプニル」はその圧倒的な破壊力と光学迷彩によって姿を完全に隠しおおせる点で、世界中の注目を集めた兵器であった。だが軍事関係の専門家の一部は、莫大なコストと高い技術力を必要とする「グレイプニル」のような空中要塞構想は、もともとレサスでは育っていなかった、と指摘している。その指摘は正鵠を得ていた。2014年から2017年にかけて、レサスらから技術将校を中心に、エストバキアへの士官派遣が行われていた。エストバキアは、2015年に勃発したアネア大陸での紛争において隣国エメリアを1年近くに渡って占領した軍事国家である。現在は民主化が本格的に進められ、エメリアとの関係回復も進みつつあるが、そのエストバキアでは非常にユニークな戦略構想が練られていた。それは、より機動的に航空戦力を運用し、かつ敵対勢力への圧倒的な制圧力を確保することも目的とした、「空中艦隊構想」であった。そして2015年から始まる紛争において、重巡航管制機「アイガイオン」はエメリア軍戦力を大いに苦しめた。「アイガイオン」をベースとするエースパイロット部隊「シュトリゴン」の活躍も加わり、エメリアは開戦当初連戦連敗を喫し、ケセド島の南端にまで追い詰められるという散々な苦境を味わっている。この「アイガイオン」こそ、エストバキアの切り札であった。全幅900メートル以上、全長400メートル超、全高100メートルを超える巨大な物体が空に浮かぶこと自体が奇跡でもあろうが、レサスが技術将校らを派遣した目的はまさに「アイガイオン」であった。記録によれば、対エメリア作戦において幾度も同行しているだけでなく、エメリアのエース部隊「ガルダ」隊との激闘の末、「アイガイオン」が撃破された際には、派遣将校の一人が戦死しているのである。2017年になって帰国した彼らは、ナバロ将軍の提案によって発足したプロジェクトにすぐさま参画し、「グレイプニル」建造に深く関っていくこととなる。言わば、「グレイプニル」は「アイガイオン」が生み出した遺児でもあった。
ところが、エストバキアの「空中艦隊構想」も、エストバキアにおいて独自に概念が研究されたものではない。1995年3月に勃発したベルカ戦争。世界を巻き込んだこの戦いについては、当初語られていた表向きの事実と、各国の手によって隠蔽されていた本当の事実の違いが、2005年にOBCで放映されたドキュメンタリー番組で明らかにされた。当時キャスターの一人であったブレッド・トンプソンの手によるドキュメンタリーを記憶している人は少なくないだろう。この戦争時、いや、ベルカが連合国に敗北を喫した後、「国境無き世界」を名乗るクーデター組織がもう一つの巨大空中要塞を運用していた。「フレスベルク」と名付けられた重巡航管制機こそ、「アイガイオン」の原型となったプロトタイプである。「フレスベルク」は、ベルカが研究と開発を行った管制機であり、圧倒的な搭載量による攻撃力、飛行部隊の格納庫を保有する移動要塞でもあった。古くからベルカとの間に友好関係を結んでいたエストバキアは新生ベルカに反発して亡命した旧ベルカ軍人らの最大の受け入れ先でもあり、ベルカ軍のコンセプトや運用計画について最も効率的に継承する地盤が整っていたとも言えよう。さらに付記するならば、「フレスベルク」の開発に最も深く関っていたベルカの軍事部門は、南ベルカ国営兵器産業廠――後に、環太平洋事変を引き起こすきっかけともなった、ノース・オーシア・グランダー・インダストリーである。グランダー・インダストリーは、後に他国の軍需産業企業との大規模合併を繰り返し、現在では世界でも最も強力な資本力を誇るゼネラル・リソース・グループの最有力企業の一つとなっている。話を現代に戻すが、「グレイプニル」建造時には、ゼネラル・リソースから技術協力のため多くの技術者と科学者が派遣されていたが、その多くはベルカからの亡命者や超大型機の設計・運用に長けた技術者たちである。そう、レサスはゼネラル・リソース傘下にある企業に対して莫大な資金を投資し、その見返りとしてレサスが持ち得なかった極めて高度な技術力と戦略構想、そして高性能の兵器群を手に入れたのである。装備さえ揃えば、戦争はいつでも開始することが出来た。長年の内戦は、国内に優秀な兵士たちを大量に生み出していたからである。
「オーレリアの長年に渡る搾取を糾弾し、解放されることが大義」とナバロ将軍は語った。だが、隠されていた事実と資料からは、戦争の原因と言われたオーレリアによる不正行為は全く読み取れない。それどころか、この戦争自体が仕組まれたものであったという、国際社会としても看過出来ない真実を突き付けてくれる。この紛争の目的は、ナバロ将軍の掲げたような大義名分の実現でもなければ、オーレリアの征服にも無い。制圧自体は、真の目的の副次的な生産物でしかないのである。ナバロ将軍とそのスポンサーたるゼネラル・リソースの一部門にとっては、オーレリア軍との間に繰り広げられた戦闘行為自体が重要だったのだ。折角開発された新兵器も、その活躍の場が与えられない限りはカタログ・スペックでしか語られない。その性能を確認したければ、戦争に投入するのが最も早いのである。ナバロ将軍のメディアを最大限に活用したプロパガンダ作戦は、軍事市場に対しても絶大な効果を発揮した。戦争勃発以後、軍需企業の株式については激しい値動きを見せているが、その動き同様に、レサスへの兵器買付注文や技術供与要請等の動きも活発化しているのである。その後、オーレリア解放軍による反攻作戦によってレサスはオーレリアから追い出されるという敗北を喫することとなるが、それ自体もナバロ将軍にとっては痛手ですらない。既に「ショー・タイム・ウォー」の出番は終わっている。ナバロ将軍にとっても、彼の背後にあるスポンサーにとっても、十分な戦果を手にしているからだ。それは数々の兵器群が実証したカタログスペックだけでない性能、新兵器群の威力と効果、弱点、さらには新兵器を投入することによる新たな戦略・戦術構想とその運用戦略、全てが「商品」となり、新たな富を為す絶好の手段となるのである。ディエゴ・ギャスパー・ナバロは傑出した政治家である。但し、扇動政治家という、最も忌避されるべき政治家の一人であろう。彼により救われた人間は数多い。だが、大義名分も無く、万民の納得するような理由も無く、結局は私利私欲のために戦争という行為を選択した結果、奪われた人命は遥かに多い。現代の死の商人の一人となろうとしている稀代の扇動政治家をこのまま座視することは、新たな紛争の危機を放置することと同義である。
一方で、オーレリア政府の責任も追及しておこう。オーレリアは長年の間平和体制を唱え、経済基盤の充実と国民生活の安定に重きを置き、結果として発展を遂げた国家のひとつとなった。しかし、安定するが故に、時として人は「平和」の意味を忘れてしまう。殊に、政争に明け暮れることを望む者たちにその傾向は顕著に現れるものである。――かつてのオーシアやユークトバニアのように、だ。オーレリア与党・野党を問わず、レサスに繋がる団体から資金援助を受けていた政治家たちの処遇について、臨時政府の首班に就いたガウディ議長は迅速かつ徹底した対処を取るべく、まさに一網打尽と言うべき拘束作戦を敷いた。拘束された者たちの中には、ナバロ将軍の走狗となって占領政府の重職を担っていた者もいる。レサスの思惑にも気が付かず、政争の勝利のために毒を飲むような政治家たちにどのような末路が待ち受けるのか、断固とした処分に期待するところである。そして同時に、これは民主制を取る国家全般に言えることとなるが、およそ国民の利益とかけ離れた言動しか出来ない無能な政治家を国政の場に送らないためにも、国民自体が意識を変えなければならない。そのために、選挙というツールがある。昔ながらの得票固めといった手法にまどわされることなく、国民一人一人が自分なりに考えて投票を行うことが、政治屋たちの予想を覆す結果を生むこともあるのだ。再び平和を自らの手で取り戻したオーレリアの人々には、是非「平和」の意味と意義を改めて噛み締めてもらうと共に、国民の期待を背負う政治家をシビアに観察する視点を持ってもらいたい。それだけで、かつての環太平洋事変の際、オーシアを我が物にしようとしたアップルルース元副大統領――現在は政治犯収容所で服役中――のような勢力を退けることが出来るのだから。
戦争という忌避すべき事態が仕組まれ、当事者たちに取り返しの無い亀裂と傷を残す現代型の紛争。その影には、国家とそこに生きる人々ですら商品とみなすような者たちの暗躍がある。ディエゴ・ギャスパー・ナバロという扇動政治家の背後で、軍事支援の見返りに莫大な利益と、商品の貴重なデータ――実戦データという得がたい代物を手にしようとしたゼネラル・リソース・グループの重大な犯罪行為は、国際社会が連携して断罪する必要がある。ここ数年頻発するようになった小規模紛争に共通するのは、「戦争に至る具体的な動機」が存在しないにもかかわらず戦闘が勃発するという点である。そして、大抵の場合、当事者の双方がゼネラル・リソース・グループに連なる民間軍需企業から軍需物資を調達している。合法的な合併政策で世界的にも勢力を拡大しつつある同グループの真意がどこにあるのか見定めるのは難しい。だが、民間企業の利益のために戦争を起こすなどという道理は、決して認めてはならないものだ。レサス=オーレリア紛争で明るみに出た同グループの関与について徹底した追及と捜査が行われるのは勿論のこと、こういった国籍を超えて活動する大企業による犯罪行為に対し国家がどのように対処していくべきなのか、本格的に議論すべき時代が幕を開けたことを、この紛争は我々に伝えてくれたのかもしれない。この警鐘を他山の石とすることなく、各国が連携して対処することに希望を託したいものである。
<アルベール・ジュネット>
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